二話以降の構想は有りますが、色々大変なので更新は暫くないです。
──────それじゃぁ、あなたの名前はローズ。ローズ=アクアマリン。そう名乗りなさい。
──────いい名前ですね。この子の瞳にそっくりです。
ああ、なんて奇跡。
──────ちょ、ちょっと。どうしたのだわさ!?
──────なにかトラウマに触れたりでも……。
いいえ、いいえ……ありがとう。ただ、嬉しいのです。
名前をくれた事だけではなく、名前で呼ばれることがこんなに嬉しい事だなんて知らなかったんです。
泣きながらで、大半は言葉にならず。
そんな自分を、ぼろきれを纏った浮浪児を二人は抱きしめてくれた。
ああ。本当に、なんという奇跡なのだろうか。
──────目が覚める。
──────随分と懐かしい夢を見たものだ。
「──────良い夢は見れましたか?」
柔らかな声が聞く。
聞き慣れた──────恩人の声。
「ええ、随分と懐かしい夢を見ましたよ。兄さん」
闘技場の観客席。
本来ならば、立ち入りが出来ない時間のところを無理に頼み込んで入場し、特等席を占拠───したは良いものの、待ちくたびれて熟睡し、至る現在───という訳だ。
「まったく。いくら弟子の初試合とは言え関心はしませんよ」
「申し訳ないです」
「まぁ、分かりますけどね」
自分の右隣に座った黒の癖っ毛に丸眼鏡の洋服に関心の無さそうな青年。彼はそう言って、少し困ったような笑みを浮かべる。
その向こうには胴着に坊主頭の少年が同じような苦笑いを浮かべている。よく似た師弟だ。自分と彼女も似たようなモノかもしれないが。
「──────弟子の成長ってこんなにも楽しみで、嬉しいものなのですね」
「おや、あなたの口からそのような言葉が出るとは」
何処か面白そうに笑う、兄弟子。
彼を見る弟子は、少し不満げに頬を膨らませていた。
そして、恐らく自分も見たような顔をしているのだろう。
†
──────まず、絶で200階までたどり着く事。そして、ここでの初試合の結果を見て判断します。
えー!
えー、じゃありません。師匠として、修行が終わらない内に受験は認められません。
まあ、仕方ないか。
そんな風に受け入れてから一月。
やってきました200階。そして、初試合。
対戦相手はカストロ。
武道家としての実力が抜きん出ており、念能力者としても本人が強化系なのに、具現化系・操作系の能力を使うという並外れた素質を持つ。
そして、宿敵ヒソカと戦い──────念の奥の深さと間違った修行の結果を主人公二人に死を以て伝えることになる悲運の選手である。
今の自分の戦闘力は正直に言って低い。
特質系故に自身の強化の効率が悪いというのもあるが、念能力者との一対一での戦闘の経験が圧倒的に不足している。
師匠であるローズはそれを見越しての事なのだろうが、それでも超えるべき壁が余りにも高すぎる。今の自分が勝つためには『だからありったけを』くらいの覚醒が必要となる。
おっと、自己紹介自己紹介。
私、サクラ。アマギ=サクラ。年齢的に恋する女子高生やってます。
あと、俗に言う転生者です。
──────自分の前世に気がついたのは、日常が終わってしまった時だった。
そして、前世の私がどの様にして死んでしまったのかは分からない。もしかしたら、壮大な夢という可能性もある。
前世の私は、何と言うか…………そうとう
理系女子兼オタク、腐女子、夢女子……まぁ、そんな感じだった。
それ故に、この世界が『HUNTER×HUNTER』の世界だと気がついた。
そして、私が使っている能力についても心当たりがあった。
何時の間にか発現していた能力。
平穏な日常を壊した者に向けて、その力を無慈悲に行使していた。
あの日が何の変哲もない、良く晴れた日だったことを覚えている。
何の疑いもなく、変わり映えのしない明日がやってくるのだ、と疑う事なくそう思っていた。
その夜の事だった──────。
星降る夜に雨に降られた少女。
星を眺めて世界を旅する少年。
私にとっての破壊と創造の日。
それは、そんな二人の出会いだった。
──────少し落ち着いたほうが良い。
全身が返り血で染まっていた私に、彼はそんな風に声を掛けた。
滲む目で睨みつける。なぜ、と問う。
──────そうでないと、君の両親の死を純粋に悲しむことすら出来なくなる。
怒りに染まっていた思考が止まった。
──────君の両親の死を悲しむと同時に、激しい殺意と復讐心に囚われるようになる。
強張っていた全身からナニカが抜けていく。
氷のナイフを持っていたはずの両手から力が抜ける。
──────先ずは、自分が泣いている事に気がつきなさい。
え、頬に手を当てる。
熱くて冷たい液体が流れている。一瞬、目を切られたのかと思った。
そして、不意に気付く。
う、あ…。私は。
声が、考えが纏まらない──────流れ出す。
私は、わたし、は……あ、あああああああああぁぁぁぁぁ────────────
彼は、泣きじゃくる血まみれの自分を無言で抱きしめてくれた。
それから色々な事が目まぐるしくあったが、それらの記憶は曖昧なものである。
私が鮮明に覚えているのは、黎明を迎え風が凪いだ後の目を焼く朝日と心の澱の全てを吹き飛ばすかの朝風。そして、それを隣で眩しそうに見る青年の姿だった。
今から思えば、その時から私は彼に──────ローズ・アクアマリンに恋をしていたのだろう。
さて、閑話休題。
私は転生者である。それ故に、主要な登場人物や出来事は頭に入っている。
そして、その中にローズの名はない。対して、兄弟子のウィングは主要な人物である。
つまり、私の運命の人(断言)は『原作』には登場しないのである。
考えられるのは二通り。
一つは、『原作』では語られる事のなかった人物。
そしてもう一つは、
自分にはどちらが真実なのかは分からない。
だが、後者であって欲しいと思う。
──────自分と同じ境遇の存在がいて欲しい。
制限はあれど、基本的に念能力に不可能は無い。
例えば、過去に転生する、なんて念能力があるのかもしれない。
仮にその能力が存在し得るのならば、私は未来の断片を知っているだけの人間になる。
つまり、私も
この事実に思い至った時は全てが恐ろしく思えて仕方がなかった。
仮にこの仮説が正しいとする。そうなると、私の性格や名前、容姿といった自身を構成する要素に基となるキャラクターが思い浮かぶのは、『転生』前の自分の事を客観的に捉えているのではないのか?そう考えると、一切の矛盾が存在しないのである。
──────自分がどの様なルーツなのかが分からない。
──────自分がどの様な将来を進むかが分からない。
それは、自分が特殊な存在だからこそ到達しうる恐怖──────。
──────いや、みんな怖いよ。
私だけが味わう恐怖だ、と。そう思い込んでいた。
真夜中。余りの恐怖に我を失い、隣のベットの青年に泣きついた。
要領を得ないであろう私の訴えを聞いた彼はそう言ったのだった。
この時、私は自身が『転生者』なのかもしてない、という事も話してしまっている。
──────そういう事もあるのか。たまたま、記憶を持ったまま産まれてしまったんだね。
そんな、ごく当たり前であるかのように、受け入れてくれた。
その上で、「よく頑張ったね」と一言。何時かのように、私を抱き留め、頭を撫でてくれた。
今でも、その恐怖は消えないが、そういう時は夜明けを待つことにしている。
朝日の美しさと朝風の力強さが、これからも付き合わなくてはならない私の不安をほんの少しだけ和らげてくれる。そんな気がするのだ。
さて、(何時もの)回想はここで終わり。
やる気のチャージも終わり、後は全力を出し切るだけだ。
細身だが筋肉質な体つきをした長身の青年。
アクアマリンのように透き通るような水色の瞳とアイスブルーの長髪。
全身を青系のロングコートやブーツ、手袋にマフラーなどの防寒具に包んでいる。
そんな二次元にしかいない様な──────同時に極限まで現実な、性格含めて性癖ドストライクな思い人に今の自分を知ってもらうのだ。
例え私が誰であろうと、この思いは変わらないのだろう。
……所で、試合が始まる前に激励してもらおうとしたたんだけど、ローズは何処に行ったのだろうか?
†
「さて、試合開始か。待ちくたびれたな」
「そりゃそうでしょう。何時間待ったのですか?」
「んーと……朝食は食べてないな」
「朝食も、ですよね」
「あと自分達は昼食を食べてきました」
「マジですかい……」
「お久しぶり、サクラさん」
「久しぶりだな、カストロ」
「言いたいことは多くあるが……そうだな、貴女とローズさんには随分と世話になった。その恩を少しでも返させてもらうよ」
「そうか……正直、何と言っていいのか分からなかったから助かる──────では」
「ああ──────始めよう」
──────戦闘起動、開始。
──────ディレクトリ『
空間が捻じ曲がる。
私の掌に、剣の柄が触れる。
──────
空間を捻じ曲げることで距離を誤魔化したり、相手を閉じ込めたりすることが主な使い道。前者を使って、後方に立てかけておいた長剣を引き寄せた。腰のサバイバルナイフはブラフ兼予備である。
現れた長剣は美しい宝玉を思わせる結晶体が柄にはめ込まれており、刀身には精緻な電子回路を思わせる”神字”が刻み込まれている。
長剣を手にしたこちらに対し、カストロは無手──────いや、拳を構えている。
深呼吸。
──────短期未来予測デーモン「ラプラス」運動係数制御デーモン「ラグランジュ」起動。
──────容量不足「アインシュタイン」強制終了。
「──────行くぞ」
「ああ──────」
──────騎士剣「雪花」接続。
世界の明度が落ち、全ての物は10分の1の速度で動いているように認識できる。
自身の運動速度が、念能力で強化した場合の5倍の速度に跳ね上がる──────しかし、空気が普段の2倍重く感じる。
同時に、
そして──────カストロの右足でオーラの爆発が起こり、未来予測が一瞬だが破られる。
それに対応して、書き換わる未来予測。そして、それを越えた瞬発力を見せるカストロ。
†
「良い試合だったよ」
「こちらこそ、ありがとうございました」
差し出された手を掴んで立ち上がる。
決着が着くのに、さほど時間は掛からなかった。
†
天空闘技場242階。
試合終了から30分ほど後──────
「おつかれさま」
「うう……」
試合終了後、しばらくは取り繕えていたが、二人きりになった途端、悔しさがあふれ出た。
拗ねる子どものように椅子の上で膝を抱えて、行儀悪く体育座り。
正直、手も足も出なかった。
敗因は数えきれない。
『流』によるオーラの移動の素早さと滑らかさ、肉体そのものの強靭さと技の練度。
そして、油断。
明らかに格上であることは明かなのに、ローズと共に研究した事、一時的に弟弟子だった事、そして『原作』から体術や『発』を知っている事から、どこか軽く見ていたのかもしれない。
「そんなに落ち込むことは無い。
強化系をあそこまで極めた達人相手に10-6なら十分だと思うぞ」
「──────そうじゃない!」
そう、それだけではない。
「カストロさんがヒソカに殺されてしまう。それだけを取って、彼を侮っていた。それが私の敗因に違いない」
準最強キャラにやられる強キャラに対して噛ませ犬扱い。
それ以外に、カストロがローズと組手などをやっているのを見て、ローズより弱いと判断していた。
確かに、カストロは念能力者としてはまだまだ成長途中なのだろう。十分に鍛え上げられた念能力者と戦えば負けることも多いだろう。
だからと言って、私が強くなったわけではないのだ。
私は、一体どれ程思い上がっていたのだ──────!
「はいはい、落ち込まないのー」
頬を引っ張られる。
「うにゅ───っ。にゃ、にゃにをすりゅー」
「師匠に良いとこ見せたくて張りきって空回りして、そんでもって落ち込んでイジイジしてる可愛らしい弟子を玩んでまーす」
「む、むーー」
「むすっとしても可愛らしいだけだよっと」
頬を引っ張っていた手が離れる。
代わりに、椅子の後ろから抱きしめられ、ついでに頭の上に顎を乗せられる。
「初めから飛ばしてて不安になったけど、相手の行動にきちんと対応してた。
剣だけじゃなく体術も向上してたし、ナイフの投擲は恐ろしい威力だった
それに、カストロを侮っていたなら、あんなに遅くまで試合のビデオ見たり、体調を万全に整えたり、なんてことはしないだろ。そもそも、カストロは君の知っている『原作のカストロ』とは全然違うのだろう。たまに面倒を見るくらいの一時的な仮の弟子とはいえ、姉弟子だった君なら良く分かっているだろう。
君はあの試合で全力を出した。その上で負けた。
負けた事を悔しがるのは良いけど、それ以外のことで悔しがるのを止めなさい。それこそ、虎咬拳なしだから全霊ではないとは言え、全力で戦ってくれた彼に対して失礼だよ」
言葉が胸に響く。心に染み渡る。
あの頃から変わらない、教え導く声。
「はい……。単純に自分の実力不足だった」
「その通り。よく素直になれました」
「そうだ、次は───次は負けない」
「そうだね。じゃぁ、修行しないとね」
「はい───!」
「それじゃあ、ハンター試験受けておいで」
「はい!──────はい!?」
「だから、修行の一環として、ハンター試験を受けておいで」
「え?200階の初試合の結果を見て判断するって」
「そうだよ。これだけ出来れば十分かな、って」
「え。でも……え?」
「だから、試合で1階から200階までの修行の結果を見て判断したよ」
茫然としていた私は「まぁ、意味を取り違えるように言ったんだけどねー」というからかうような声で我に返った。
「あ、貴方という人はいつも私をからかって──」
「ごめんね。反応が可愛くてつい」
解けてきた混乱と、馴れているとは言え沸き上がる憤り。そして、気恥ずかしさが声にならない呻き声を作り上げる。
そういう意味ではないと分かっていても、ローズに可愛いと連呼されるのは……なんと言うかむず痒い。
「──────という訳で、馴染みの空港員に金を積んで飛行挺を確保してあるから、明日の朝に此処を出れば余裕をもって到着できると思うよ」
「いきなり!?」
現在時刻──────18:34。
「はぁ……なぜ何時も突然なのだ貴方は」
「いや……今回は申し訳ない。君の天空闘技場のペースを読み間違えた。
本当は『今年のに間に合わなかったから、ハンター試験は来年にしようね』と言うつもりだったんだよ」
僕の想定より一月ほど早いから驚いたよ。よく頑張りました、と頭を撫でられる。
困ったときは頭を撫でれば何とかなる、と勘違いをしているのではないだろうか?
……大抵の場合は勘違いではないけれど。
「いつ出かけてもいいような準備は揃っているから、手早く済ませて今日は早めに寝ることにする」
「そのほうが良いだろうね。お休み、サクラ」
「ああ、お休みだ」
──────ガチャリ。
†
「──────さて、と」
準備は数分で完了した。
既に寝巻に着替え、後は寝るだけである。
準備、と言っても《論理回路》──────じゃなかった『神字』を刻み込んだショルダーバックに
1ヶ月前後の予定なので、洋服や食料が多くなってしまった。
「1ヶ月、か」
1ヶ月。
思えば、1ヶ月を一人で、ないし初対面の人と過ごすのは初めてかも知れない。
始めは両親と三人暮らし。
ローズと出会った8年前からは主に二人で、たまにローズの知人と一緒に活動する程度。
ふと、もうそろそろローズと出会ってからの方が長くなるのかと気付く。
本来は他人であるのに、無条件で安心するのも当然だろう。
──────少し補給しておくべきだろうか?
──────何を補給するかは自分にも分からないがローズ成分とかだろう。
そんな風に思いながら、自然にドアを開け、
──────いや、これって17歳の女と23歳の男がやったらマズい事なんじゃないか?
一瞬だけドアを開けて、閉める。
気付く。
これはマズい。
小さな頃とは勝手が違うのだ。
こういう事は気軽にやっていい事ではない。
そんな風に自分に言い聞かせて、自分のベッドに戻り腰掛ける。
冷静になれ。
自分は17歳。転生前を考えたら、精神面では少なくとも40歳を超えているであろう。……鬱だ。いや、落ち込んでいる場合ではない。こういう事には順序がある。17歳の思春期の体に振り回されているだけだ。いくら自分がローズの事が家族や相棒としてだけではなく、少女として好きだとしても──────
──────彼は私の好意に気付いているのだろうか?
そんな事に気付いた。
例え私が好意を伝えても、ローズは相棒や家族として好意を持っているのだ、としか思わないだろう。
……………………。
そのまま私はドアを開き、再び閉める。
今度は自分の下着を確認するために。
†
左手の掌の上で氷の塊が具現化する。
具現化した氷塊にオーラでもって特殊な文様──────神字を書き込んでいく。
そんな作業を無意識化で繰り返しながら、右の手帳で今後の予定を確認する。
この一月は大変だった。
快く受けてくれたとはいえカストロに無理を言ってサクラと戦ってもらう事を頼み、念の指導をしている老夫妻が取り敢えずの目標まで到達したり、忙しい事を伝えてあるのに、見計らったかのように協会から無理に依頼されたり……。
思い出したら苛立ちが募って来た。
マズいな、自分は変化系なので操作系に属するこの手の作業は本来不得手である。精神的に不安定になると失敗しやすい。
この手の作業はサクラの方が、というよりサクラは神字を書く天才である。彼女はコンピュータで制御したかのように正確かつ微細に書く。
「──────ローズ。少し、良いだろうか?」
ちょうど思い受けベていたところに本人からの声。「大丈夫だよ」と返す。
「失礼する」
「どうかした?」
「その、だな──────」
可愛らしいパジャマに身を包み、顔を真っ赤にして。
「こ、今夜は、私と床を同じくしてはくれないだろうか」
そんな事をのたまいやがった。
†
不安だから一緒に寝て欲しい。
それだけの事を伝えるのに時間が掛かってしまった。
半ば建て前とはいえ、嘘ではない。──────嘘ではないのだ。
何時もの完全防御の防寒具ではなく、柔らかめな紺のスウェットと適当な灰色のシャツに着古したワイシャツ。
そんな、私にしか見せない姿のローズ。
その事に少しの喜びと大きな不安が沸き起こる。
やはり、ローズは私の事を家族や相棒。あるいは妹のような存在、としか思ってないだろうか。
失敗できない以上、当然だが直接確かめることは出来ない。
ここは遠回しに聞くべきなのだろうか?
「──────安心感のある格好だな」
「そうかい?」
私は何を言っているのだろうか?
「そうだな。貴方の事を霧の魔術師とか氷の貴公子などと呼んでいる女性に見られたら、普段の姿とのギャップに驚くだろうな」
「その名で呼ばないで……。
でも、まぁ確かにね。まぁ、サクラにしか見せないから見逃して欲しいな」
先ほどと同じく、湧き上がる喜びと不安。
「まぁ、見ているし、今夜は逃すつもりはないのだが」
「一本取られたね」
「それに、気の抜けた格好をしているのは私の同じだからな」
「可愛いよね」
「……。子供っぽい、と正直に言っても構わないのだが」
「まぁ、パジャマはね」
「いや、体つきもだ。身長はともかく、もう少し胸が大きい方が良い……。貴方もそう思うだろう」
「スレンダーなモデル体型で良いと思うけどな」
「……巨乳好きなローズに言われても信じられん」
「あー……虚ろな乳って書いて虚乳、ってことでどうかな?」
「どうかな、じゃない。挑発だとしても、反応する気力すら湧かん……」
「まぁ、需要はあると思うよ。
それに、念能力者には外見の年齢と実年齢の間に差異が大きい。まだ、諦めるのは早いと思うよ」
「そんな無責任な……。貴方はどう思うのだ?」
「僕?胸限定かい?」
「いや、胸だけではなく全身……むしろ、私そのものが魅力的かどうか答えてもらおうか」
まて、勢いだけで話過ぎた。
先ほどから何を口走っているのだ私は──────!
整った鼻梁と口元に
白魚のような、という形容詞が相応しい筋肉の付きにくい手足は、普段の服装や腰まである闇色の髪と真逆で、そのコントラストが互いの美しさを強調している。
普段の恰好をしていると童話に出て来るお姫様を思わせるような少女。
本人は知らない──────というか、興味がないだろうが、男性からだけではなく女性からの人気も高い。
影でファングループに襲撃をくらい、こっそりと処理したこともある。一番恐ろしかったの女性10人ほどの集団に教われた時だった。彼女達は、二人を一緒に捕まえて、全裸で同じ檻に入れてその様子を撮影したいと口走っていた。狂気である。
その少女──────サクラが、自分にしか見せない様な可愛らしいパジャマを身に纏い、上目遣いで顔を赤らめながら自分の事をどう思っているのか、と遠回し(と恐らく本人は思い込んでいる)に訪ねて来た。
さて、どうすべきか。
長考すると怪しまれるであろうことは言うまでも無い。
正直に言ってしまうべきなのだろうか?それとも、最小限の一言で誤魔化すべきだろうか?
「とても魅力的だよ。独占欲を感じるくらいには」
3秒の時点で思考を放棄。誠実さに欠ける、という謎のフェア精神で思っている事を吐き出す。
「そうか、やはり貴方は私の事を妹のようにしか──────独占欲?」
途中までの威勢は何処へやら。
吐き捨てるかのようだった体をぎこちない動作でこちらを振り向く。
「どく、せんよく?」
「そう。独占欲」
独占、独占欲、と何度も反芻するサクラ。
その行程を繰り返すごとに顔を赤くしていく。
「そうか、独占欲か──────それでは失礼するっ」
「逃がさん」
ドアは先んじて具現化した氷の薄板で物理的に封鎖してある。
「暴れてもいいけど、調度品を壊さないようにね」
「まて、待ってくれ。こういう事には順序があるだろう」
「はて、こういう事ってどういう事かな?」
「いや……その、だな」
「じゃぁ、どういう事がしたいのかな?」
「た、頼むから待ってくれ!こういう展開になるかもしれないからと、下着の確認は済ませてあるが心の準備がまだ──────」
「問答無用」
普通に摑まりました。
俗に言うお姫様抱っこをされて「捕まえた。それじゃ、ベッドに行こうか」などと耳元で囁かれてしまった事が原因─────ではない。無駄に高級感のある調度品を傷付けたくなくて、ろくな抵抗が出来なかったことが原因である。別に期待してしまった事が原因ではない。断じてないのである。
「──────で、これはどういう状況なのだ?」
「抱き枕の刑」
お腹に手を回される。接触は厚い洋服越し。
……ちくしょうめ。
何となくだが、初めから分かってはいたさ。明日から暫く会えないとは言え、ハンター試験に挑むのだから、直前に体に負担を強いるような事はしないという事は分かってはいた。
「罪状は上手にオネダリ出来なかった事かな」
耳元で囁くな──────!
少女漫画。少女漫画か何かなのか?
「興奮と緊張で眠れないのは分かるけど、明日に響くから早めに寝るんだよ」
先ほどより、体の距離を縮められる。
どの口で言うか。
こんなシチュエーションで寝れるはずあるまいに。
後頭部に安定した心拍を感じ、普段から慣れ親しんでいる匂いに包まれて安心感が──────。
……あれ?
「僕と違って、サクラは温かいね」
──────違う。
体温はそうかもしれないが、精神的な温もりならばの方が温かいのだ。
今まで私は、その温もりに何度救われたことか。
私はそんな貴方の事が──────
…………くぅ。
「何時もありがとう。サクラ」
両腕の中で意識を手放した、小さな温もりに感謝を告げる。
君は僕に救われたと言うけれど、本当に救われたのはこちらの方だ。
初めて出会った時だってそうだ。
涙に暮れながら、自らを省みずに敵を屠る。
その姿に、同じ施設で育った同胞を殺すことを強要され、失意に暮れていた自分が重なった。
不自然に身寄りのなかったサクラに自分を更に重ね、彼女が笑顔を取り戻して行く度に、薄汚れたこの身でも真っ当に生きてもいいんだと思えた。
「僕の全ては君が救ってくれたんだ」
無意識に頭を撫でようとして、顔が同じ向きでは少し難が有ることに気付く。
えいっと。サクラの体をひっくり返し、抱きしめる。
「これからもよろしく、サクラ」
そう言って、意識を手放した。
†
1998年12月23日04:54。
気がついたら、目の前に愛しく見慣れた顔があった。
切れ長の目を長い髪と同じ色のアイスブルーの睫毛が飾る。
鼻は高く整っており、薄く開いた唇と一緒に、静かな呼吸と連動して微かに動く。
ローズ=アクアマリン。
恩人にして思い人。
ここが何処かは分からないが彼の香りに包まれた場所。その事実だけで、心が躍る。
少し体をずらせば彼が必要としている空気の供給を独占し、一手に握ることが出来る。ふと思い浮かんだ、そんな思い付き。何故かは分からないが、独占、という一説に強い魅力を感じた。
……えいっ。
後頭部に手を回し、唇を奪う。
我ながら、今までこのような事をしなかった自分に溜め言いが出る。
キスすらしたことがないのに下着の心配をするなど、段階を飛ばすにも程がある。
そこまで思考が働き──────急速に、今の自分を取り戻す。
初心で臆病な、そんな何時もの自分。
昨晩の空回りして眠りについた自分。
そして、今の状況と──────先ほどの行動。
「──────ん……?」
至近距離で、目が、合う。
夜明け前の部屋で、私の悲鳴は寝起きの唇に奪われた。
「気の早いクリスマスプレゼントかと思ったよ。ハンター試験の許可と交換かな?」
「そういうつもりではないのだ……」
「今の表情だけでも十分なプレゼントだよ。お礼代わりにコーヒーでも飲むかい?」
「……いただきます」
「兄さんが見送ってくれるらしいね」
「そうか。暫く会えないから、素直に嬉しいな」
「ほっぺにジャム付いてるよ」
「ん?ああ、本当だ。すまな──────」
「えいっ」
「流れるように指を咥えるな──────!」
朝霧に眠る街。
上る息は白に。
もうじき、この街は活気にあふれ、喧騒に満ちるだろう。
「うん。いい天気だ」
「夜が明けるまで、あと十数分。私はこの時間帯が一番好きだ」
「分かるよ。その気持ち」
「偶然とはいえ、この時間に間に合ってよかった」
「そりゃぁ、目が覚めるよね」
「……そうだな」
天空闘技場を背景に。
白み始めた空の下で。
氷霧と夜闇の師弟は、目的地に向け足を急がせる。
「──────おや、おはようございます」
「おはようございます、兄さん」
「おはようございます。ズシ君は?」
目的地には先客あり。
自分たちが好む場所を知らない筈がない。
「彼はまだ寝ていますよ。昨日は試合を見た興奮で、寝るのが遅かったのですよ」
背負われている少年に対して「起きたら、軽くお説教ですね」とため息。「まぁ、お手柔らかに」苦笑い混じりに返す。
私が見慣れた、兄妹弟子の二人のやり取り。
二人とも私を形作る恩人である。
──────凪いでいた風が、微かに流れ出す。
「──────ローズ」
「うん。そろそろだね」
「ですね。ズシ、起きてください」
「──────ハッ」
連なる山の間から黄金の光が溢れる。
吹き下ろす山風が朝霧を掃い始める。
魂を洗う黄金の清流と心を濯ぐ白銀の伊吹。
──────やはり、この場所が一番美しく見える。
「──────さて、そろそろ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
この光景を前に、余計な言葉は不要。
此処にいるのは、そんな似た者同士。
心配事は尽きぬども、湿っぽい見送りになることはご免だった。
†
──────朝日の方角に消えていく、風に流れる黒。
「言ってしまいましたね」
「そうですね。でも、サクラさんなら無事に帰ってくるでしょう」
「…………」
霧の向こうに消えていった後ろ姿。
出会ったのは8年前。
どうしても兄さんに預けざるを得なかった5年前。
1年が経ち、一連の処理を終えサクラを迎えに行き、厄介ごとを整理するために天空闘技場に住み始めた4年前。
都合7年間。
特に後半の4年間は、例え仕事であってもアシスタントとして同行していた。
高が一月。
それだけの時間。
会えなかった1年間と比べれば12分の1。
……いや、時間で考えて良いものではない。
「ローズ?」
「そうですね。サクラなら無事に帰ってくるでしょう──────よし」
「待ちなさい。安心しているのに、なぜ後を追おうとしているのですか?」
「ローズさん……」
「なるほど、つまり二人はこう言いたいんですね──────倒してから行けと」
「「どうしてそうなる」」
二人にとっては完全にとばっちりだが、不安で仕方がなくて考えが纏まらない頭を一度リセットするために、全力で体を動かすとしよう。
──────さて、日ごろの成果を見せるとしよう。
──────それは楽しみですね。貴方と拳を交えるのは久しぶりですからね。
──────今日こそ。僕は貴方を超える。
──────あなたと戦うのが、霧の中では分が悪いですが───さて、兄弟子としての意地を見せましょうか。
──────えっと……今一つ展開についていけないッス。
──────では。
──────ええ。
──────朝霧フラッシュ!
──────目が、目がァッ!な、何も見えないッス!
──────光というオーラを使わない攻撃、見事です。
──────電撃などと同じく、オーラでは完全には防げませんからね。では、今度こそ正々堂々と。
──────そう言いながら、氷の暗器を具現化させるのを止めなさい。
後方でぶつかり合う二つのオーラをスルーして歩き続ける。
あの二人は仲良く、かつ全力でぶつかり合うので何時も見ごたえがある戦いになる。
会った事は無いが、二人の師匠が『原作』通りならば、あの二人の戦いが噛み合うのにも納得できる。
二人を始めとした多くの人に出会い、多くのモノを手に入れた天空闘技場。
ここで手に入れたモノを総動員して、ハンター試験に挑戦しよう。
二人の会話も、もう届かない。
さあ、今の自分とこれからの自分を見極めに行こう。
──────しかし、今回の判断は本当に急でしたね。
──────自覚はしています。協会に無理言って、強引にねじ込みましたからね。
──────いえ、悪いとは言っていないのです。ですが──────
──────ライセンスが身分証明になる以上、サクラは何時かは取らないといけない。それならば、十分な実力が確認できたなら、極力早めに取っておいた方が良い。
──────ローズ。
──────聡明なサクラの事です。恐らくは気付いています。
ですが……そうですね。言えない事が増えるのは辛いです。全く、ままならないモノですね。
五里霧中。
風に乗り、正面から流れて来る霧の中を歩く。
先行きが不安であることを暗喩するようか情景だが、私にとっては幸運の直喩だ。
霧の向こうには朝日の輝きが待っている。これを希望と呼ばずに何と呼べばいいのだろうか。
あの夜明けの光景。
朝凪の向こう側へ。
此処を抜けたら、何が見えるのだろうか──────。
一話で終わってもいい(つーか、これが限界)だから、ありったけを──────
──────詰め込みました。
そのせいか、初めから互いの好感度が青天井に……。某『さすおに』を彷彿とさせるレベルの開幕チートです。
・ 人物紹介
ローズ=アクアマリン
23歳男性。念能力者。変化系。
いつも防寒具を纏っている青年。イメージカラーはアイスブルー。
天空闘技場では霧の魔術師、氷の貴公子などの(痛々しい)二つ名を持つフロアマスターの一人。
とある研究組織を壊滅させたで
ローズ=アクアマリンはライセンス上の名前。師と仰ぐ人物から貰った限りなく本名に近いナニカである。本人は気に入っている。
生来の名前は本人にすら分からない。
因みに、『とある原作登場主要人物』に対するメタキャラである。
サクラ=アマギ
17歳女性。念能力者。特質系。
後天的学習能力(?)。詳しくは『ウィザーズ・ブレイン』の『悪魔使い』を参照のこと(布教)。
『悪魔使い』の能力の一部
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出禁にした能力
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チートだから仕方ないね。おのれ《論理回路》……ルビが上手く振れないじゃないか。
こんな二人が主要人物です。なんと言うか、やってしまった感がすごいです。
明らかに寝不足で設定を作った事が分かる二人ですが、よろしくお願いします。……二話以降の更新が出来たらの話ですが……。
後、後天的学習能力はクロロとある程度互換性があるような、もっとマイルドな感じの別のものにしようと思ったのですが、つい発作が……。正直、物理学を無視できる力がある世界で『物理学』無双しても噛み合わないのです。
尚、HUNTER×HUNTERは『情報制御理論』が確立してない(あるいは成立しない)世界であるが、超高性能生体コンピューターがないとは誰も言ってない件。
暗黒大陸にあったりするかもしれないね☆