朝凪を迎えに   作:藤城陸月

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 お久しぶり。あるいは初めまして。
 二話です。説明回を兼ねて。

 就活と教職のストレスから、続かないつもりだったモノの二話を発作的に書き上げました。

 四月こそ、新刊出てくれ……待つさいくらでもな。



 紹介にも書きましたが、サクラは完全な別人です。
 (自分含む)『真昼×サクラ』過激派の方々などで、不快に思われた方がいたら申し訳ありません。

 俺、就活と教職が一段落したら、WBF(ウィザーズ・ブレイン・ファンタズム)書いて自給自足するんだ──────


2話  クライム

「あ、ビーンズさんですか?ローズです。

 今期のハンター試験の監査員について何ですけど──────。

 ──────はい。あ、会長から聞いて……?そろそろ電話が来るだろう、と。なるほど……。

 了解です。それでは、29日の13時に。はい。お手数を掛けました」

 

 

「話は着いたようですね」

「ええ、何とか。サクラの試験をねじ込んだ時点で、電話が来ることを予想していたそうです」

「まぁ、そうでしょうね」

 

「ところで、体調は大丈夫ですか?」

「ええ、何とか……。サクラと一緒にいたので、ある程度楽になっていたのに、逆戻りです……」

「やはり……。全く、お前のそれは──────」

「話してませんよ」

「でしょうね……。二番目以降に大切な人には相談するのに、一番大切な──────本当に打ち明けるべき人には相談しない。あなたの悪い癖です」

「分かっています。心配を掛けたくない事に加えて、あの子は話したら無茶をする事が分かっていますからね」

「ええ、するでしょうね」

「ある程度、何とか出来てしまうから困るんですよね……。それが大きな負担になってしまう」

「何とか出来るのですか……後天的学習能力、でしたか。末恐ろしいですね」

「ええ、彼女は無意識的に周囲の温度や湿度、空気密度を快適なものに保つ性質があるので、コイツらを抑えるのに最適なんですよね……。それ以外にも──────」

 

 

  †

 

 

「──────先ほどの乱取りは失礼しました」

「ええ、本当ですよ。お前の抱えている性質からして、ある程度耐えればいいのが分かっているから良かったモノの、もし暴走したらどうするんですか」

「本当に申し訳ないです……」

「私だけではなく、ズシにも謝る事です」

「はい」

 

 

 自分はズシ。念を使っての戦闘経験はない。

 あの時何が起きたかは頓と見當がつかないが、目眩ましを喰らった後、目が目がぁ、と叫んだ事丈は記憶して居る。

 

 纏まらない思考のなかで、何となくだが、名前を呼ばれたような気がした。

 微かに呻きながら、ぼんやりと目を開く。

 

 どうやら自分は、自室のベットに寝かされているようだ。

 

「おや?気付きましたか、ズシ」

「おお、それは良かった。

 ──────早速ですが、貴方に言わなくてはならない事がありまして」

「えっと……、はい。何でしょうか?」

 

 

「ズシ君、先ほどは──────」

 

 ローズ、23歳、冬。

 

 愛弟子の心配に限界を感じ

 悩みに悩み抜いた結果

 彼がたどり着いた帰果は──────

 

「誠に申し訳ありませんでした」

 

 ──────謝罪であった。

 

 

「…………はい?」

 

 会派の流れに置いて行かれ、今一つ状況が分からないズシであった。

 

 

  †

 

 

 ──────試験会場までの道のりは体力診断みたいなところがあるから、極力、念能力を使わない事。

 ──────はーい。

 

 

 空気の薄さと寒さに思考と体が蝕まれる。

 地上の楽園という一説から最も遠い場所。

 

 ここは雲海の上。山脈の尾根。死神の楽土。

 ゴツゴツとした岩を僅かな高山植物が彩る。

 遮蔽物がないので、暴風は弱まることなく、自然の脅威として体を叩きつける。

 

 

 おっと、自己紹介自己紹介。

 私、サクラ。アマギ=サクラ。

 俗に言う『転生者』。『HUNTER×HUNTER』の世界で生を受けて17年。

 私の事を心配する、ありがたくも過保護な保護者の出して来た試練を通過し、ハンター試験を受ける事になりました。

 そして今、私は──────

 

 ──────ジャージで登山とロッククライミングしてます。

 

 脳内でくらいふざけないとやっていられない。

 ………………それと、安易に『はーい』なんて同意するんじゃなかった。

 ロッククライミングにおいて、周囲の分子運動を制御できる分子運動制御(マクスウェル)と無機物をゴーストハック(生物化)させて操る仮想精神体制御(チューリング)があれば簡単なのに。

 まぁ、ハンター試験を訓練の場として捉えるのならば最適な指示ではあったが……。

 

 

 

 ハンター試験。

 

 プロハンターという特権階級に憧れる者はあまりにも多い。

 試験は年に一度行われ、一回の受験希望者は数万人に上る。

 それ故、試験を受験する人数を減らす為の篩が必要になる。

 

 それは分かっているし、仕方ないと納得も出来る。

 承知している事柄に理不尽だと感じても仕方ないだろう。

 

 ──────だが。

 

 

「ハッハッハ。どうした、若き挑戦者よ。これしきの山道で根を上げているようではハンターにはなれんぞ」

「──────そう、ですか……」

 

 明らかに、インストラクター(?)の基準がおかしい。

 こちらは、ちょっと脆弱なセブンティーンでしかないというのに。このタ◯シは……。

 

「しかし、他の挑戦者が全員脱落しているなか、ここまで着いてきたことには称賛を送ろう」

「……素直に受け取っておこう。しかし、明らかにふるい落としているように感じたが」

「挑戦者の一人が、他を置いていくようなペースで登山をするものだから、つい楽しく待ってしまってな」

「……ああ、確かにな。ムキになって、誰よりも早いペースで登ってしまったからな」

 

 思い出されるのは──────ジャージに着替えてから、回りの挑戦者を置いていくペースで山を登り、その光景を面白そうな顔で眺め、山登りのペースを早めるタ◯シ似のインストラクター。

 集まったハンター試験受験希望者が、私以外全員むさ苦しい男ばかりで、その事をさんざんからかわれた事が、無茶なペースでの登山の原因であった事に今さらながら気が付いた。

 

 まぁ、何と言うか……他の挑戦者は私が置いてきた。ハンター試験に挑みはしたがハッキリ言ってこの後の本試験にはついてこれそうもない。

 

「他の挑戦者がいる中で、スカートで山を登ろうとしていたのは驚いたな」

「…………」

 

 スカートで登山を初めてしまい、その事を他の挑戦者に指摘され、ジャージに着替えている最中に置いていかれたので、ムキになって彼らを追い越す速さで山を登り始めた。

 そんな、敢えて忘れていたことを思い出した。

 

 ………………貴様らが最後に見るSexyはこの私だ。

 

 因みに、普段──────戦闘起動させていない無意識下でも仮想精神体制御(チューリング)分子運動制御(マクスウェル)を使っているため、スカートの中は不自然にならないように一手間加えた上で見えなくしている。この操作は意識して止めることが出来る。今?……聞かないでほしい。

 

 

 

「もう少し頑張れ。もう少しだぞ」

「それを……聞いたのは、六回目ッだぞ……」

「そうか?……まぁ、何処までを言ってないからな」

「詐欺まがい、だな……。で、今回は、何処までもうすぐ、なんだ?」

「なに、頂までよ」

「いただき……?」

 

 

 感覚が薄れた足。

 白に染まる視界。

 そんな状態の中、一段上から差し出された手を取る。

 

 ──────真下からの突風。

 咄嗟に顔を覆った袖の向こうで霧が晴れていく。

 

「どうだ、良い眺めだろう」

 

 ──────そんなキメ台詞が聞こえたが、頭に入ってこなかった。

 

 地面に足が付いているのに、本来そびえ立つべき山々がミニチュアのように思える。

 険しい山肌を覆い隠す濃霧。

 湧水が集まり、大地に時を刻む渓谷。

 幾筋の白糸が一つになり、森を越え、橋をくぐり、小人の営みを支え、蛇行を繰り返し、やがて形の悪い碁盤の目を通り抜けて──────溢れんばかりの白い光を放つ、曇りガラスに繋がっていく。

 

 

 その鏡は朝日を浴びて光を放つ水面。

 大型の船が数多く来航する商業都市。

 

 光の揺らめきとして彼方に見える港。

 その港の名前を私は知っている──────。

 

 

「──────ドーレ港。それが、お前が目指すべき場所だ」

 

 そう、ドーレ港。

 『原作』において、彼らの乗った船はこの港街に到着し、彼方に見える一本杉を目指して歩く。

 遠すぎて一本杉見えないけど。

 

 ──────あれ?どうやって行くんだ?

 

「勿論、歩いてだぞ」

 

 口に出ていたらしい。

 いや……無理だろう。

 

「いや、無理ではないだろう──────」

 

 

「──────お前さん、使()()()()()()

 

 

 一拍。

 

「何の事だ、とは聞かないが──────」

「なぜ分かったか、か。まぁ、勘だな」

「勘か。勘が働くには原因があるからな……私の落ち度だな」

「まぁな。何と言うか、体力と経験の差が大きすぎたのだ」

「すまない、どういう事だ?」

「つまりだな──────」

 

 年齢の割には山登りの経験が豊富に見える。

 仮に、見た目通りの年齢で膨大な経験を積んだのならば、相応の密度が必要になる。

 それならば、密度に応じた体力がついていなければおかしい。

 

「──────という訳だ」

「なるほど。参考になった」

「まぁ、俺には()()()()()()()()()は分からないけどな」

「──────は?」

 

 一端落ち着いた心が、再び乱れる。

 基本的に、念は秘匿されている物。

 罰則などが在るわけではないが、それを無闇矢鱈に伝えていいものではない。

 

「いや、そういうものがあることは何となく知ってはいるが、俺は使えないってだけだ」

「そうか……存在は知っているのか」

「ああ──────隠さないとマズい事だったりするのか?」

 

 その通りだ、と返す。

 周囲に自分とインストラクター以外の人影はいないので、必要以上に情報が拡散される必要は無い。

 まぁ、この場合は問題ないのだろう。

 

「この力は才能の多寡こそあれ、誰でも使うことが出来る。

 それ故に、本来ならば秘匿されなくてはならないモノだ。

 この力を総称して”念”。使いこなす者を念能力者と言う。

 ごく稀に、自然に才能を開花させる者が居るが、ほとんどは念能力者から使い方を伝授される。

 そして、プロのハンターとして活動するには、最低限の強さとして、念を使いこなせることが求められる。

 それ故に、ハンター協会は念についての情報を秘匿、管理している。

 別に話してしまっても罰則があるわけでもないし、ついでに私は()()プロのハンターではないからな。……まぁ、今回は例外という事にしてしまおう」

 

「なるほど……念、か」

「まぁ、名前くらいは問題ないだろう。代わりと言っては何だが、私からも一つ聞いても良いか?」

「何だ?俺に答えられることなら」

「いや、大した事ではないのだが───貴方はハンター試験の案内をしているのだろう。それならば──────」

 

 

「──────自分がハンターになろうとは思わんのか?」

「いや、全く思わないな」

 

 

「そう、か」

「ああ。意外か?」

 

「正直意外だ」目の前の男はハンターに求められるレベルの基礎体力を十分に保有している。また、(ライセンス)を持っている事の恩恵は計り知れない。「ハンター(ライセンス)だけでも、とか思ったりもしていないようだしな」

 

「まぁな。正直、特権階級としてのハンターは憧れではあるが、俺の性に合わん」

 

 どこか遠くを眺めるように、自分に言い聞かせるように。そんな風に呟く。

 

「所詮俺は山登りしかできないのだ。ハンターは何でも出来なくてはならないのだろう?」男は少し悪戯気な表情で「俺には、山を登る以上の特技も楽しみもない。お前さんはどうだい?何故、ハンターになりたいんだ?」

 

 ハンターになりたい理由。

 

「難しいな」頭の中を整理しながら「一つは身分証明。ハンター(ライセンス)はどこでも通じる身分証明書だからな」これはすんなりと出た「もう一つは」一拍「もう一つは──────そうだな、同じ視線に立ちたいから、かな」

 

「そうか。目標になる人でもいるのか?」

「ああ、恩人であり──────そうだな、思い人、でもある」

「なるほど。素晴らしい人物なのだろうな」

「そう、だな……そうとも。彼以上の人物はまずいないだろう」

「では、頑張らんとな」

「言われなくても」

 

 ローズが見ているのは今の自分では見えないもの。

 視点の高さは『原作』を知っている私とは大きく違う。

 彼が知っているのは『原作』の外側。情報量だけでも、未来の一部を知っている程度では覆しようがないようなほどの差があり、到底敵うものではない。

 そもそも、『原作』の知識も大分曖昧だ。今期のハンター試験が『原作』のモノと同じだとは、先ほどドーレ港を見るまで気がつかなかった。その上、バタフライエフェクトなどを考えると、参考にならない事の方が多くなるのだろう。

 だからこそ、先ずはプロのハンターにならなくてはならない。それが最低限。そうでなくては、スタート地点にすら立てないのだ。

 

「さて、俺からの試練はお終い。合格だ」満足げな笑みを浮かべ「おめでとう。ハンター試験の予選の突破の報酬は特にないが、登頂の報酬としてこの景色を堪能してくれ」

「ありがとう。これ以上ない報酬だ」

 

 差し出された手を握り、握手。

 大きく硬い。その力強さに、この問答で自分の気持ちを再確認できた事への感謝を込めて返す。

 

 視界を遮るモノは一切なく、上には無窮の蒼天。

 一切の翳なき山頂に相応しいような清々しい気分だ。

 

「さて、次の目的地はドーレ港。そこに着いたら、今度は一本杉を目指して歩け」

「了解した。ここまでの案内に改めて感謝を」

「どういたしまして。常人じゃ一月は掛かる行程だが──────そうだな、一週間を目安にすると良い」

「かなりキツイな。だが、()()()()()()()()()な」

「おや、ばれていたか」

「当たり前だ。本当は、別の目的地がもっと近くにあるのだろう」

「その通り」至極嬉しそうに、獰猛に笑う「だが、お前さんなら行けるだろう」

「当たり前だ」サバイバルナイフの柄にはめ込まれている結晶体に触れた後、一歩踏み出す「せっかくだから、一端を見せようか」

 

 ──────戦闘起動、開始。

 ──────ディレクトリ『悪魔使い(ソロモン)』からフォルダ『デーモン』をオープン。空間曲率変換デーモン「アインシュタイン」起動。

 ──────騎士剣「雪月」接続。外部演算装置として演算補助を開始。

 

「ほう……”念”か」

「ああ。今から行うのは正確には”念能力”だがな」

「つまり、分かりやすいパフォーマンスとして、何かしらの超常現象を起こす、という事か?」

「ご名答」理解力の高さに驚き、感心しながら「今から使うのは、長距離移動──────瞬間移動、言った方が良いかな?」

 

 ──────目標座標までの演算完了。

 ──────Alart(警告)

 ──────本命令を執行した場合、オーバーフローにより、再起動には18000秒以上の休止時間が必要になります。

 ──────命令を執行しますか?Y/N?

 

「ほう、瞬間移動か」

「そこまで精度は高くないがな」ドーレ港に程近い、小高い丘を指さし「その上、負担が大きい。あの山の頂上まで跳んだら、五時間ほどは念能力を使えなくなる」

「ほう、あそこまでか……。負担が大きいは言うが、普通に歩いた時の時間を考えたら軽いのではないか?」

「そう聞こえるだろう。だが、この距離を移動するのに、ヘリコプターなら二時間だろう」

「む……。確かにそうだが、比較する対象が可笑しいのではないか?」

「確かにな。だが、正論ではあるだろう」

 

 念についての例え話で良く用いられるのは、『具現化した武器』と『購入した武器』の差だろうか。

 武器を具現化するよりも、武器を購入する方が手っ取り早い。むしろ、通常の武器ならば具現化したモノの方が有用な事の方が多いだろう。

 武器を具現化する事の大きな利点は、持ち運びの手間が掛からない事。使わないときは消しておけばいいのだから当たり前だ。

 これは具現化だけではない。強化系なら重機を使えばいし、操作系ならばリモコンで十分足りる。

 ならば、念は何処で使われているのか?

 

 それは、対人間───特に、対個人。或いは数人から数十人程度───の戦闘である。

 

 武器を具現化させる例で言うのなら、相手の油断を誘える。その上で、凶行に使われた得物の出所が分からなくなる。

 それ以外に、特殊な条件───例えば眠気を誘う、一時的に麻痺させるなど───を付けることで戦局を一気に傾けることが出来る。

 強化系ならば単純に相手よりも肉体や武器を強くすればし、操作系ならば相手を操作できれば戦闘する必要性すら消える。

 

 念の歴史には人間同士の諍いの影が付きまとう。

 特質系を始めとする、人間には再現不可能な”能力”も存在するが、ほとんどのモノは現代の技術でカバー出来る。

 念能力者に工事をさせるなんてのはナンセンスなのである。但し、特殊な修行の場合は除くが──────。

 

「なるほどなぁ……」

「夢が無くて済まないな」

「いや、そんなことは無いぞ」

「ほう」おっと「言うではないか」これは期待しても良いかな「ならば、聞かせてもらおうか」

「いやなぁ。誰かと戦うことを目的に作ったからと言って、それ以外に仕えないワケじゃないんだろう」

「そうだな。日常生活で便利、みたいなことは多いな」

「なら、それでいいじゃないか。それに、俺たちが普段から使っている物だって、元々は兵器だったものだっていっぱいあるだろう」

「そして我々も、か」思わず笑みがこぼれる「上手い事を言うじゃないか」

「お褒めに預かり光栄だ、とでも返そうかな」

 

 真面目くさった顔が笑みで崩れる。

 会話力・理解力に優れ、己の欲し求める事に忠実な純朴な男。

 全く。何故これ程の男が何故インストラクターをしているのか?

 いや──────これ程の男だからインストラクターをしているのか。

 高水準な体力と知識。そして、ハンターではないがハンターに相応しい精神性を持つ者。

 

「名を聞こうを思ったが、止めておこう」振り返らずに「聞いてしまうと、名残惜しくなる」

「まぁ、そうだな。俺はインストラクターで、お前さんは挑戦者の一人。それで良い」

「人生は一期一会。先を急ぐ場面でなければ、もう少し会話を楽しみたいのだが……まぁ、この場面で出会うのも定めなのだろう」

 

 脳内で引き金を引く。

 目の前の空間が捻る。

 

「ではな。もう会う事はないだろうが──────次に会う時まで達者でな」

 

 飛び込む。

 お前さんもな。という幻聴を残して。

 主観的に三歩ほど空中を歩き、次の瞬間には地面に足が付いている。

 

 今いるのは、先ほど目印にした小高い丘の山頂。

 一帯は開けていて、目の前には深い森が広がる。

 

 振り返る。

 

 彼方に──────遥か向こうの、見上げる高さの山の頂に人影。

 大きく手を振る。その人影は振り返してくる。

 人懐っこい。その人影が笑ったような気がした。

 

 笑みを返し、森の中に足を踏み入れる。

 気持ちを切り替えていこう。

 幸先の良いスタートとは言え、まだ試験会場にすら辿り着いていないのだから。

 

 

  †

 

 

「──────というわけで、今回の試験の監査員に加えて欲しいのです」

「別に構わんぞ」

 

 即答。

 

 

 1998年12月29日正午過ぎ。

 ハンター協会にて。

 

 事務方のビーンズさんに会いにハンター協会を訪れ、廊下を歩きながら「年末なのにお疲れ様です」「ハンター試験が終われば、暫く楽になりますから」などと話していたら、会長が向こうからやって来た。

「ではまた」とビーンズさんが言い残して奥に行った後、出口に向かう会長と歩きながら直談判を始めたら、すぐに許可を貰えたのであった。

 

「毎回、参加者の人数が変わるから、監査員にはある程度の余裕が必要じゃし、別に構わんぞ」

「こんなにもすんなり決まっても良いのでしょうか?」

「すんなりも何も、お主が監査員を志望しにくることは読めてたしの」

「ビーンズさんも、そう言ってましたね」

「そりゃの。何時もは余裕をもって行動しているお主が、急に愛弟子のハンター試験参加を認めたのだから、何かあったと思うのは当然じゃろうに」

 

 そんな事を話しながら、出口に向かって歩き続ける。

 先ほどから人の気配を感じていた目の前の曲がり角から、人影が現れる。

 

「おや、奇遇ですねネテロ会長──────それと、直接会うのは久しぶりですかねローズさん」

「うげ」

 

 人影は自身のわざとらしさを隠さない。

 ハンター協会副会長パリストン=ヒル。

 まるで何かの作業の途中かのように、胡散臭い程の山積みの書類を持ち抱えている。

 

 ハンター協会に数多くのシンパを持ち、その中でもハンター協会からの斡旋を専門とする協会員───通称、教専のハンターに対して強い影響力を持つ男。

 そして、ローズ=アクアマリンの天敵、である。

 なので──────

 

「会長、後は頼みました」

 

 ──────逃げる。

 

「せっかくの機会なのですから、少しくらいは話をしても良いでしょう」

 

 失敗。ギリギリで聞こえないが、それとなく分かるように小さく舌打ちをする。

 

「話をすると言っても、特に話すこともないと思うのだがな」

「そうかもしれませんね。先月の依頼の件と教導のお礼、くらいでしょうか」

「その節は、わざわざ忙しい時期に入れてくださり、誠に感謝しています」

「これはご丁寧に」

「ええ、例え腹立たしい事でも、甚だ遺憾ながら世話になっているのですから当然でしょう」

「いやいや、お礼を言うのはこちらの方ですよ。

 貴方の能力───"自身のオーラを相手のオーラを奪う冷気に変化させる"───は念の修行にうってつけですからね」

「だからと言って、ホンの少し修行に付き合っただけのハンターが1つ星に認定されたからって、半ば強引に2つ星に認定するのは強引な気もするがな」

「貴方は見込みがあるハンターですからね。署名が在ったことも大きいですが、本人の才能とハンター協会への貢献が十分であれば、早めに2つ星を認定しても問題ないでしょう」

「相変わらずの流れるような詭弁ですね。何時見ても素晴らしいです」

「いやぁ、嬉しいですね」

「副会長に至っては顔を分厚いようで何よりです」

「どうしたのですか?そんなに誉められると舞い上がってしまいますね」

「随分とオメデタイのですね」

「ありがとうございます」

 

 一発触発の雰囲気──────。

 

「相変わらず仲が良いのぅ」

「何処がですか!?」

「ですよね!」

 

 ──────が会長の一言で崩れ去る。

 

「いや、似た者同士だしの」

「撤回してください。自分の好きな子に、照れ隠しでイタズラしたり、ちょっかい出したりする子どもみたいなヤツと一緒にしないでください」

「えー。ローズ君だって、愛弟子に嫌がらせして可愛がっているじゃないですかー」

「大っぴらにやるか、やらないか。この差は大きいんですよ」

「ふむ……。ローズ、お主の方が問題じゃないかの?」

「勿論です。僕のは犯罪で、彼のは犯罪的。この差は大きいのです」

「……何処で張り合っとるんじゃ?」

「僕は大衆の面前で恥ずかしげもなく可愛がることで、サクラが可愛らしい反応をするのを楽しみたい。

 パリストン・ヒル。貴方は、単純に困らせたいだけ。其処に大きな違いがありはしないか!?」

「ほぼ無いでしょう!」

「五十歩百歩じゃのう」

「違うのだ!」

 

 

 

「──────という訳で、彼とは音楽性が違うので人間関係を解散します。再結成の予定はありません」

 

 

 

「やれやれ、逃げてしまいましたか……僕は嫌われているのですね──────おっと」

 

 ワザとらしくよろける。その手から一枚の書類が逃げ出す。

 

 

 ──────機密事項:■■■■市大量死亡事件に伴う一連の事柄。通称、コード711最終報告書

 

 1994年7月11日早朝。■■■■国郊外の■■■■市および周辺で発生した大量変死事件について。

 当日の深夜から翌日夕方にかけて、同市周辺では季節外れの大寒波・大雪に見舞われている。死因は寒さによる衰弱死と見られており、死体および生存者の手足には程度の差こそあれ凍傷が見られた。

 協会外部の医師は熟睡時に大気温が氷点下にまで下がったのだろうとの見解を示した。

 しかしながら、数日の気象条件を鑑みると、明らかに起こりえないような異常気象であることに加え、この事件と同時に協会員───後述の捜査・検挙による功績で1つ星ハンターに認定される───賞金首ハンター■■■・■■■■■■による”■■■■研究所および関連施設の強制捜査・違法研究従事者の一斉検挙”と■■■■による国庫襲撃および主要官僚の大量虐殺事件が発生したことを考慮すると、これらの事柄には何かしらの関連があるのではないかと推測される。

 周知の事実ではあるが──────追記として、以前から違法研究が行われているのではないか、との懸念があった■■■■研究所は■■■■市にあり、関係者やその家族の大半が居住している事から、市全体での隠蔽がなされていた可能性も高いとされている。

 協会側の派遣員は、死体の司法解剖の結果と生存者の診察の結果、事件発生時の被害者の位置、交通機関への影響および■■■■の侵入・逃走経路に相関が強く表れていると報告。

 この件について■■■・■■■■■■氏に聞き取りを行うも、同氏は関係を否定。証拠が不十分なことも有り、聞き取りは終了された。

 ■■■■国は国家機能の停滞による治安悪化を基因とする暴動などにより、■■■帝国に吸収された。それにより、住基ネット以外の資料の大部分が所在不明になるなどの影響が出たため、この件についての詳細な情報の入手が困難と判断。本報告書の作成を以って、調査を終了する。

 また、本書類を含んだ今回の事件に纏わる書類は速やかに破棄を行う事。

 

 

「おや、これは私が副会長になる前のモノですね」

「わざとらしいのぉ」

「いやいや偶然ですよ偶然。折角ローズ君が来るのですから、彼についての資料を集めていたんですよ」

「機密事項で、処分したはずなんじゃが……。抱え込みの事務員かの?」

「ええ、そうです。事務員の子の能力です。

 まぁ彼女の念の”破棄された書類の複製”は制約の影響で、機密書類の場合、固有名詞だけは黒塗りになってしまうんですけどね」

「機密になっとらんのぉ……。で、これを見せてどうするんじゃ?」

「別にどうもしませんよ」書類を拾い「この事知ってた上での判断なら、私としては納得致しますし」破りながら「この事がバレても、"念"を知らない一般の方からすれば協会の戯れ言ですしね」

「嫉妬かの?」

「……はて、何のコトでしょうか?」

「本当に分かりやすいの」

 

 

  †

 

 

 1999年1月1日06:53。

 

「──────さむ……」

 

 ここはドーレ港──────目前の、森の中の湖畔。

 湖から出て来る霧が立ち込め、一面真っ白がった。

 

 昨日はドーレ港を目前として、無念の日没。

 水の確保が簡単な事。そして、朝方は水際の方が温かいから、この場所にテントを張ったのだった。

 

 夜間は地面より水の方が温かいとは言え、霧が体温を奪っていく。

 これだけ寒いと霧が大量に出る事を失念していた。

 普段から、分子運動制御(マクスウェル)を多用していたツケだろうか?

 

 また、テントについても昨晩は上手くいったが、それ以前は酷いものだった。

 分かってはいたが、私は仮想精神体制御(チューリング)分子運動制御(マクスウェル)による補助に頼り過ぎているのだろう。

 

 いい練習だと思う──────だが、理不尽だ、とは感じる。

 この世界にノイズメーカーなんて邪魔なものはないのに、とも思う。

 

 まぁ、そう思う事を含めてお見通しなのだろう。

 

 全く……やれやれだ。

 

 仕方がない、と思えるようなローズに対して。

 私の事を考えている事に、ほんの少し喜びを思える自分にも、だ。

 

 

 ふと、手持ち無沙汰になり、携帯電話を確認する。

 

 アドレスを登録している人が少なく、普段は一人からしかメールが来ないソレ。

 ハンター試験の為に一人で行動している、この一週間弱はメールが来ないソレ。

 

 ──────着信一件。

 

 口元が緩む。

 全く、年賀状の代わりだろうか?

 

「ハッピーニューイヤー、だ。ローズ」

 

 そんな独り言は霧の向こうに消えていく。

 

 

 

 ならば届いただろう。

 届けたい相手は霧の彼方に居るのだから。

 

 もし、届かなかったのからば、直接届けに行けばいい。

 さて、ならば霧の中を進もう。目的地はすぐそこだ──────。

 

 




 登山での移動のイメージ──────中央アンデス踏破。


 という訳で二話でした。
 タ〇シ似のインストラクターとの会話がメインとなる説明回でした。彼は原作での船長ポジションです。今後、出る予定はありません。注意一瞬、怪我一生(ハザード・アラート)という能力の案はありますが、今後(ry

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
 感想や評価を頂けると幸いです。

 次回更新が何時になるかは分かりませんが、次回もよろしくお願いいたします。



 4月こそ、新刊出てくれ……。それまでに就活を一段落させて、自分へのご褒美にしたいんだ──────。
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