東方交鏡録   作:シンP@ナターリア担当

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暖かくも隠された心~傍にあると決めた者~

 

~ミディット Side~

 

「おう早苗ちゃん!今日はいい野菜採れてるよ!」

「うわぁ!後で買いに行きますね!」

「お姉ちゃん!見て!こないだのテスト100点だった!」

「凄いですねぇ!頑張って偉い大人になりましょうね」

「早苗様、これは今回のお布施でございます」

「いつもありがとうございます。ですが、私に様は不要ですよ」

「ありゃ、早苗ちゃん今日はデートかい?妬けちゃうねぇ!」

「そ、そんなんじゃ無いですってば!」

 

 やかましい……わかっちゃいたが、どうしてこうもヒトってやつはやかましいんだ。こいつだって定期的に里に下りてるんだから珍しくも無いだろうに、どいつもこいつもこぞって話しかけにきやがる。そんで5人に一人はデートかと聞いていきやがる。その度に焦って返すこいつのせいで疑惑は晴れないままだ。ちなみに最初は俺にも話しかけてきてやがったが、何も答えずに睨みつけるのを繰り返したら誰も話しかけて来なくなった。楽でいい。

 

「ところでミディットさん、本当に用事とか無いんですか?私はこれから広場で布教活動をするんですが……」

「無いつもりだったが気が変わった。少し離れる」

「あ、はい。分かりました。私はずっと広場にいますので、終わったら戻ってきてくださいね」

「あぁ。精々頑張りな」

「ありがとうございます!それじゃあ、また後で!」

 

 嫌味の通じねぇ奴だ……。まぁいい。あいつは確か今は里の東の方に住んでるって言ってやがったな。自分から行くのも面倒だが、他にやることも無い。寺子屋やら本屋なんぞにも興味無ければ、万屋にも寺にも興味はねぇ。それに、俺の格好はずいぶんと目に付くからか、周りを行くやつらがジロジロと見てきやがって気に食わねぇ。ほんとに、自分でもなんで来ようと思ったか分からねぇ。

 

「にしても、ほんとに平和ボケしてやがんな、ここのやつらは。ついさっきガキ共が消えかけたっつうのに」

 

 そんな風に言ってみたものの、答えが返ってくるはずもない。というより、そんなことこいつらは知らないだろう。文字通り、平和ボケしているだろうからな。何故かイラついたので周りで見てくる奴らを睨みつけてからあいつの家へと向かう歩を少しだけ早める。と言っても対した距離でもない以上すぐに着く。10分もしないうちに目的の場所の目の前となった。

 

「おいクソヤロー。10秒以内に出てこねぇと家燃やすぞ。さっさとしろ」

 

 返事がねぇ。あの野郎の分際で俺を待たすとはいい度胸だ。

 

「10、9、面倒だ。1、0。出てこねぇな。燃やすか」

「待て待て待て待て!!少しくらい待てっちゅーに!!俺とお前の仲だろうがよー!」

「さっさと出てこないお前が悪い」

「いや、呼ばれてからすっごい速さで準備したけど!?そもそも間に合わせた俺は褒められていいからね!?」

「うるさい。少し黙れビリー」

「酷いってレベルじゃねぇ!」

「黙れって言ったろ」

「ぶへっ!」

 

 いきなりアホみたいなテンションで出て来たこのアホは、残念なことに俺の知り合いだ。本当に残念なことにな。名前はビドリーズ。長いからビリーと呼んでる。というよりあいつがそう呼ぶように言ってやがる。あいつの分際でお願いをするとは舐めてやがる。俺と同じ世界、同じタイミングでこいつもこの世界に来やがった。二人同時は珍しかったのか散々色々と言われたが、こいつと一緒に扱われるのが嫌過ぎてすぐに今住んでいる山に移り住んだ。迷惑なやつだ。

 

「いってて……ちったぁ加減してくれよ……俺はお前と違って肉体派じゃねぇんだから」

「少しは鍛えろ」

「へいへい。で、わざわざ来たって事はなんか用事なわけ?」

「そうだがお前の態度が気に食わないから一発殴らせろ。話はそれからだ」

「やーめいっちゅうに!話が進まんだろうが!」

「ちっ。少しイラつく事があった。酒が飲みてぇから近いうちに場を作れ」

「あぁ、そういうことね。でもそれならいらん心配だわ」

「あ?どういうことだ」

「さっき萃香ちゃんから連絡が来て、1週間後にまた宴会があるんだってさ。新しい人の紹介も兼ねてって」

「また増えやがるのか。まぁいい。それならお前に用はねぇな」

「言い方が酷いっての」

 

 ちっ、足運んで損したな。まぁ酒が飲めるならそれで構わん。なんでこいつにこんな事を頼んだかと言えば、こいつの能力が『輪を取り持つ程度の能力』だからだ。簡単に言やぁ、あいつの定めた範囲の中なら、誰もが仲良くなる能力、って所か。別に洗脳なんて大それたものでもなく、ちょっとやそっとじゃ怒りにくくなる。人を怒らせるような言動を控えるようになる。くらいのもんだ。勿論例外はあるが、な。条件として、①範囲は最大で半径1kmまで②能力の持続時間は6時間まで③仲が悪すぎる相手には効果が出ない④複数回能力を受けた場合、徐々に効果が薄れる⑤使用者本人には効果が無いので自力で合わせることが必要。と、使い勝手が良いようでそうでもない能力だ。ちなみに俺は既にこいつの能力は受けないレベルにまでなっている。

 

「で、お前は未だに何もせずにだらだらしてやがるのか」

「うっせ!お前だって似たようなもんだろうが!」

「俺はあそこのバカ神1号に毎日組み手やらされてんだよ。んな状態でなんか出来るわけねぇだろ」

「俺は俺でケンカの仲裁やらなんやらで忙しいの!特に寺子屋からは毎週3回は呼ばれるんだぜ?」

「そんなに忙しいなら代わってやろうか?」

「いやいい。神奈子さんと組み手とか命がいくつあっても足らん。というかお前にケンカの仲裁ができると思えん」

「ケンカしてるやつら両方とも黙らせりゃいいんだろ?簡単じゃねぇか」

「お前はいつからそんな脳筋野郎になっちまったんだ!」

「冗談に決まってんだろ。そもそもお前が代わりたいなんて言うはず無いのくらい分かってんだよ」

「うっせ。どーせへたれですよーだ」

「おーいビリー。少しいいか。おや?客人か?」

「あぁ、慧音先生。大丈夫ですよ」

「ん?よく見たらミディットじゃないか。久しいな」

「ハクタクか。どうやら俺はお呼びじゃないようだし、先に帰らせてもらう」

 

 今来たこいつは、確か上白沢慧音。種族はワーハクタクだったか。寺子屋で教師をしているそうで、多分こいつの所に来たのもそれ関連だろう。さっき話してたケンカの仲裁か、はたまた単に暇してるこいつを教材のために使うかって感じか。どちらにせよ、俺は関係ないからさっさと帰るとしよう。そう思いその場を離れようとしたが、その肩をハクタクが掴んできた。

 

「なんのつもりだ。俺に用は無いはずだろう」

「まぁ待て、お前はどうにも我々を避けているようだからな。たまには付き合ってもらおう」

「避けてるのを分かった上で付き合えとはずいぶんだな」

「大人たちは難しいかもしれないが、子供相手なら少しは大丈夫だろう?それとも、子供すら怖いか?」

「そんな煽りは効かねぇよ。用があるのはそのアホにだろう。さっさと連れてけ」

「いやぁ、俺からも頼むよ。能力で多少はなんとか出来ても、子供の相手って大変なんだよ」

「知らん。やり始めたのはお前なんだから責任を持て」

「そこをなんとか!な?この一回だけ!手伝ってくれたら今度の宴会で秘蔵の酒持ってくから!このとーり!」

「しつけぇぞ。煽ってくるは物で釣るわ、くだらねぇにも程がある。俺みたいなやつがガキにいい影響があるとでも思ってんのか?」

「あぁ、思ってるさ」

「あ?」

「いい影響を与えない者は、そもそもそんなことを気にしないからな。気にしてるってことは、それだけ相手を考えてるってことだ」

「な~んだ。ミディットってばやっぱりちゃんと考えてんじゃんか~。このこの~」

「……」

「ちょ、やめっ。無言で蹴らないで。思ったよりつよっ、いっ!!」

「はぁ……酒の約束、忘れんなよ。それとハクタク。ガキにむかついたらどうなるか責任は取らねぇぞ」

「何かあれば、私が責任を持って止めると約束しよう」

「ちっ……さっさと済ませるぞ」

「あぁ、行くとしようか」

「待って、さっきの蹴りが結構足に来てるから!ちょっと!」

 

 こんなやつらに言いくるめられたように思えるのも癪だが、このままだと埒が明きそうにない。さっさと終わらせる方が早いだろう。というより、このハクタクはわざわざこいつを呼びに来たってことは何かあったんだろうに。何をのんきに説得してやがる。ひょっとしてこいつもアホなのか?そもそも、ほんとに何かあったんなら責任者が場を離れていいのか?

 

「で、結局何があったんです?」

「いや、なんでも二人の子が神様をしっかり信仰しないと立派な大人になれないと言ったらしくてな。それを馬鹿げてると別の子が笑い、ちょっとした言い合いになっててな」

「……気が変わった。帰る」

「ここまで来て、はいそうですかと帰らせるわけが無いだろう」

「急にどうしたんだ?ミディット」

「うるせぇ。気が変わったって言ったろ」

「そんな急に子供みたいに」

「せんせぇ~!」

「どうした?何かあったか?」

「ケンカしてた二人が取っ組み合いになっちゃって」

「む、それはいけないな。よし、すぐに」

「待て」

「なんだ?子供とはいえ手が出てしまっては……」

「俺が行く」

「え?」

「ちょ、どういう風の吹き回しよミディット!さっきからなんか変だぞ?」

「今回の件、どうやら俺が原因らしい」

「はぁ!?どういうことだよ!」

「行けば分かる。さっさと終わらせるぞ」

「あ、あぁ」

 

 ったく……なんでさっきの今で恩を仇で返されなきゃなんねぇんだ。やっぱりほったらかしとくんだったか。まぁ、過ぎたことは仕方ねぇ。とにかく今はそれが原因でケンカだなんてわけわかんねぇ事になってんだ。さっさと止めねぇとな。で、寺子屋の中に入ったわけだが、案の定ケンカしてやがった片方はさっき助けたガキ共だった。これだからガキってやつは……。

 

「神様がいるからって、信仰しなくっても平気に決まってんだろ!」

「いーや!しっかり信仰しないと安全に山の中に入れないんだ!山にも入れない大人なんて立派でもなんでもないよ!」

「それがわけわかんねぇんだよ!俺は大人になったって山になんて入るつもりはねぇしな!」

「何を~!」

「なんだよ~!」

「そこまでだガキ共」

「え?お、お兄さん、誰?」

「あ!さっきのお兄ちゃん!ねぇ聞いてよ!こいつらが……」

「少し静かにしろ。まずそっちのガキ。こいつにさっきの話をしてやったのは俺だ。そして、こいつは少しだけ勘違いして覚えて帰りやがったみたいだ」

「そ、そうなの?」

「勘違い?」

「あぁ。こいつらは勝手に山に入ろうとして、そのまま入ったら妖怪達に食われちまうだろうからな。それを止めてやった。その時にあの山は神様の土地で、しっかり信仰しないと酷い目に会うと教えてやったんだ」

「そ、そうなんだ」

「ほら!だからしっかり信仰しないと」

「だが、俺が教えたことはそれだけじゃない。むしろそんなもんはどうだっていい。大事なのは、親を悲しませるやつは立派な大人になんてなれないって所だ」

「あ……」

「分かったか?大人になって、山に入る仕事をする奴は、山の神を信仰するのは大事だろう。だが、そうじゃないやつだっている。今お前達に勉強を教えているあいつだって、立派な大人だ」

「せ、先生……」

「うむ」

「何が大事で、どうなりたいかなんてのは人によって違うんだ。お前は狩りで生計を立てる道。こいつはそうじゃない道。それぞれの道で大事にするものがある。相手のことを考えずに自分の思うことが正しいと思い込んで相手にぶつけるようなやつが、立派な大人になんてなれると思うか?俺の言ってること、難しいか?」

「わ、分かります……」

「ご、ごめんなさい……」

「謝る相手が違うだろ?」

「さ、さっきはごめん。お前、学者さんになるのが夢だもんな。何にも考えてなかった」

「お、俺の方こそ。お前は山で狩りして食っていくっていっつも言ってるもんな。そりゃあ神様は大事だよ。ごめんな」

「よし。これでこのケンカはしまいだ。次同じようなことでケンカしやがったら今度は口じゃすまさねぇから覚悟しとけよ」

「「はい!」」

 

 ったく。くっだらねぇことでケンカなんざしやがって。この年のガキじゃわかんねぇのも無理はねぇが、その発端が俺だったって思ったら気持ち悪くて仕方ねぇ。というかそもそもだ。そういうことは本来教師であるあのハクタクが教えるか、親が教えとくもんだろ。人は人、自分は自分とか、いくらでも教え方なんざあるだろうが。そう思ってハクタクのほうを見ると、これでもかというくらいに笑顔でこっちを見てやがった。その後ろでビリーのやつもさらに腹立つ顔で見てきやがる。なんなんだこいつらは。

 

「嫌がってた割には、しっかりと対応してくれたじゃないか」

「うるせぇ。原因が俺だったからやっただけだ。後は知らん」

「素直じゃないな~ミディットちゃ~ん。子供にはこ~んなに優しくでき、いだっ!ちょ、脛!脛は止めて!わ、悪かったか、らぁ!」

「次は顔にやる。覚えとけくそ野郎。お前らも、俺はこの通り善人でも立派な大人でもねぇ。周りに余計なこと言いやがったら調べ上げてぶん殴る。分かったな」

「「ひっ……!」」

「こら!子供たちを怖がらせるんじゃない!」

「知らん。何かありそうなら止めるのはお前の仕事なんだろう?そんなことが起きないよう、お前の口からもしっかり釘を刺しとくんだな。言っとくが、俺はやると言えばやる。聞かないやつが悪い」

「まったく……お前達、安心しなさい。こんな風に言ってるがこいつは根っからの悪者じゃないんだ」

「うん!お兄ちゃんはいい人だよ!」

「……ちっ。気分が悪い。もう帰るぞ」

「照れているのか?」

「それ以上言えばこいつが大変な目に合うぞ」

「え?なんで俺?」

「別に構わない。と、言いたい所だが、ビリーには何度も助けられているからな。ここら辺にしておこうか」

「あれ?何気に扱い酷くね?」

「ふん。行くぞ、くそ野郎」

「い、いだだだ!み、耳!ち、千切れるから!」

「お兄ちゃ~ん!またね~!」

 

 この気持ち悪い空気に耐えかねて寺子屋を後にする。あのガキはニコニコと笑いながら手を振ってやがったが、あそこまで脅してこれだともはやあいつはただのアホだな。ここにはアホが多すぎる。そしてそれはこのアホ1号も同じだ。ここに来る前。何度も何度も俺は離れるように言った。一人の方が楽でいい。だが、こいつはそれを意に介さず何度でも何度でも近づいてきやがった。その結果あいつの周りか人が離れようと、あいつはそれを気にしなかった。本当に、こいつはアホだ……。

 

「で、これからどうするんだ?」

「どうするも何も、あの嬢ちゃんを拾って山に帰るんだよ」

「違う違う。この世界で、これからどうしていくのかって話だよ」

「それこそどうするもねぇ。このまま山に住んで、死ぬまであのアホ神共に付き合わされるか、追い出されて山の中で野垂れ死ぬかのどっちかだろうよ」

「それならよ、うちにこねぇか?」

「前にも言ったろ。俺は里なんぞに住む気はねぇ」

「大丈夫だって!さっきの見てる限りじゃ全然……」

「それはあいつらが何も知らねぇガキだからだ。知ればあいつらでも俺を恐れるだろうよ。ヒトなんてのは、そんなもんだ」

「こっちの世界だったらもっと変なやつだって大勢いるさ!妖怪なんてのもいるくらいなんだ!絶対に……」

「くどい。誰もがお前みたいなやつばかりじゃない。そんなこと、お前だってよく分かってんだろ」

「だけど!」

「この話はもう終わりだ。酒の件忘れんじゃねぇぞ」

「ちっ……分かったよ」

 

 そう。ヒトなんてのは異端を恐れる。異能を怖れる。自分達と違うものを、恐れ、離れ、排除する。だから俺は、最初からヒトなんてものを信じない。信じてしまえば、裏切られるのを分かっているから。裏切られると知っているから。何もかも、失うと覚えているから。

 

 ビリーのやつと別れ広場に戻ると、言ってた通り嬢ちゃんはまだ勧誘活動をしてやがった。聞いてるのはよっぽどの物好きか、すでに信者になってるやつくらい。ほとんどの奴は通り過ぎていく。嬢ちゃん自体は好きでも、神を信仰するってほどじゃない。そんなところだろう。そういうやつに限って、いざとなれば神頼みをするんだろうな。勝手なもんだ。そんな風に思っていると、周りを見回していた嬢ちゃんと目が合った。嬢ちゃんは『今日はここまでにしておきますね』と言いながら俺のほうへと向かってくる。ちっ、目立ちたくねぇってのに……。

 

「お帰りなさい、ミディットさん!用事はもう終わったんですか?」

「終わってなきゃ戻ってねぇだろうが」

「あはは。そうですよね。それでは、そろそろ帰りますか?」

「そっちは良いのか?まだ終わってないなら待つぞ」

「いえ!お買い物もして行きたいですから!それに……」

「ん?」

「い、いえ!何でもありません!そ、それじゃ、行きましょう!」

「おい、帰りはあっちだろ」

「ちょ、ちょっと遠くのお店も見て行きたいんです!」

「ちっ。仕方ねぇ。付き合ってやる。さっさと回るぞ」

「はい!」

 

 本当に、どいつもこいつも……アホばっかりだ。

 

~Side Out~

 


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