数の暴力で神殺し   作:十六夜やと

2 / 3
 死にたくなってきた。
 今回出したオリキャラ以外は、基本的に名前付きのオリキャラは出しません。


裏の邂逅、魔王の日常

 ちょっと現在進行形で時間押してるから簡単に説明する。

 神話という名のレールから脱線したような行動をとり、存在するだけで災悪を起こす傍迷惑な高次元の存在の総称として『まつろわぬ神』と言われる。指鳴らせば人間を塵に変えるような化物共なので、普通の人間には太刀打ちできないのだが、例外というものが存在する。そのような、神様に対して下克上を成功させた愚か者共を、神殺し(カンピオーネ)と呼ばれる。

 神殺しは文字通り『神を殺した者』で、その神様殺して能力を奪う連中のことだ。

 

 俺が何を言いたいのかというと、神殺しの身体機能は都合のいいようにできている。

 伊達に『堕天使』や『悪魔』、『魔王』と呼ばれている存在ではないらしく、なぜか闘争心に比例して勘や反射神経といった集中力とコンディションが最良に近づくため、一度戦闘に入れば潜在能力が完全に発揮される。つまり戦闘の前段階でも相当な恩恵が受けられるわけだ。

 心臓の鼓動が早くなり、口元が自然と緩む。

 内包する権能全てが、我が敵を討ち滅ぼせと叫ぶ

 身体が闘争を求め、アーマドコアの新作が出る。

 

 もう準備おっけーな状況なのだ。

 そりゃ目の前に──まつろわぬ神がいれば当然か。

 

「………」

 

 東京でやりたいことを一通り達成し、いざ故郷へ帰ろうと考えていた矢先、それは現れた。

 コツコツと近づく音だけで警告してくるのだ。自身の肉体の反応なのに驚く。

 目の前の存在は、一見すると海外から来た少女にも見える。白銀に煌めく肩まで伸びた髪は研ぎ澄まされた鋼の如く、純白の肌は何も穢れを知らぬであろうと邪推してしまうほど美しい。暗闇の瞳はフクロウを彷彿とさせ、全てを見透かしていると言われても納得してしまいそうだ。

 描写した通り完璧な美少女だ。それ以外の言葉など飾りにもならん。

 故に──不自然なまでの美が、俺の闘争心に火をつける。

 

 つまりは……そういうことなのだろう。

 内に燃え上がる闘争を理性で押さえこみつつ、俺は会話というものを試みてみた。

 

「……えっと、珍しいお客さんだな。最近は海外からの観光客が増えてるって聞くけど、いつから日本は厄災に入国許可を出すようになったんだろうね? 俺は君との縁なんて結んだ覚えはないけど、どういった御用で?」

 

「妾とあなたの縁など敵対以外の何物でもない。ただ神と神殺しが存在する。それだけで相対する理由になると思うが?」

 

「そりゃそうなんだけど……」

 

 神からしたら同族殺しの仇のようなものなんだろうけど、基本的に彼等に『仇討ち』の概念は存在しない。しかし、古い因縁か何かは定かではないが、カンピオーネとまつろわぬ神は本能的に互いを『敵』と認識しており、出会って五秒で殺し合いなんて珍しくない。

 つまり現在進行形で会話している俺は稀なのである。

 できれば稀な関係を維持したいのだが。

 

 なんて考えていると、意外にも目前の少女は停戦に近い何かを持ちだしてきた。今までの相手が相手なだけに、一瞬だが彼女が何を言っているのか理解できなかった。

 

「この国に妾の蛇を持つ神殺し以外にも居たとは」

 

「俺だって自分の家帰る前に女神様に会うとは思わなかったよ」

 

「……さて、どうする? 妾には、蛇を奪い返すという目的がある。故に、あなたと戦う必然性を感じないが……戦うのであれば全力で応戦しよう。武力と勝利は常に妾のしもべなれば」

 

「うっわ、闘神かよ。おっかねぇ。……俺は君と戦う意思はないよ。できれば戦いたくはないし」

 

 彼女の小さい口から発せられる『蛇』や『武力』、『勝利』という言葉だけで嫌な予感しかしない。

 幸いにも俺を追いかけて遥々異国から「来ちゃった☆」ってわけじゃなさそうだし、彼女の戦意は原因であろう八人目のカンピオーネ君に任せるとしよう。

 

「諒解した。妾は疾く去るとしよう。だが神殺しよ、あなたは嘘をついている」

 

「はい?」

 

 背を向けて放たれた言葉に疑問形を返す。

 どういうことなのだろうか?

 

「妾との戦いを楽しまぬものが神殺しになるわけがない。あなたは嘘つきだ」

 

「──それはどうだろう?」

 

「……?」

 

「神殺しってのは、要するに天文学的確率で神様を殺した人間だ。確かに本能的には神様との殺し合いを望んでいるんだろうけど、はたして全員が戦いを楽しむ戦闘狂(バトルジャンキー)だけなのかね? 例外ってのも存在するんじゃないかな? それこそ──俺が神を殺したように」

 

 果たして神殺し全員が闘争を求めているのだろうか?

 カンピオーネなんざ愚か者共の総称だ。神様への勝ち方を知っているだけの化物であり、彼らそのものが『人間は神を殺せない』という摂理に反した異端者。神を殺そうなんて考えた酔狂な人間もどきが、全員が()()()()()()()()()()()()()()()()()? もしかしたら、神殺しの常識にも当てはまらない奴がいるかもしれん。

 

 じゃあ、なぜ言い切れる?

 『神殺しは皆が戦闘狂』であると。

 

 俺の持論を述べた後、闘争の女神は興味深そうに笑う。

 自分の言い分は正しいと信じ込んでいるが、このアホの考えも一理ある──そう言いたげな表情だった。

 

「……神殺しの分際で、存外学者のような考えをする。なるほど、神を殺す者が、神殺しの枠に当てはまるとは限らないと」

 

「さぁ? そもそも俺達がイレギュラーな存在だ。検証してないんだから、言い切ることはできないだろう?って思っただけだ。別に女神様の持論にケチ付けたわけじゃない」

 

「興味深かった。だが、一つ問う。あなたにとって『神との戦い』は何だ?」

 

「んなの決まってるだろ?」

 

 俺は女神様に背を向ける。

 ()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()。ここに長居する意味はない。去り際に白銀の少女の問いに、手を振ってこたえるのだった。

 

「──ただの作業だよ」

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 秋葉原から帰って来て数日後、東京都で大規模な破壊活動が行われたらしい。簡単に説明すると、高速道路や公園などが事故で大変な有様になったとか。世間一般では『事故』と処理されているが、どう考えても八人目の新人がやらかしたのだろう。

 とりあえずニュースとして報道されてはいるが、他にも様々な地形破壊が起こったに違いない。都心から限りなく離れた地方に住んでいるため、この程度の情報しか回ってこなかった可能性もあるが。田舎に住んでいるために、最新情報に置いていかれる魔王とか何の冗談だ?

 

 朝というには遅い時間帯に、一放送局のニュースを歯磨きをしながら眺めていた。

 魔術に対する絶対的な耐性がある俺だが、身体を自動的にクリーンな状態にする昨日は備わっていない。本当に神様と戦うことに特化してるので、これが日常生活に役立つ機会は少ない。病院に行く可能性が減るくらいだろうか。

 

「しっかし、随分と派手にやったもんだなぁ。今回の後輩君は」

 

 もしかしなくても、戦ったのは俺が出会った女神様なのは容易に想像できる。

 俺の場合は初めての神殺しが成立してから、地形破壊を防ぐ第三の権能獲得までに時間がかからなかった。故に、他の魔王と比較して、魔術結社が事後処理で悲鳴を上げるような大規模破壊活動を極力行っていない。伊達に『最善の神殺し』とは呼ばれていないのだよ。

 

 なんて素晴らしい博愛主義。

 これはノーベル平和賞モノではないだろうか?

 

「──でも、ハナ君って神様殺してるじゃん。博愛主義を名乗るには、物騒なことに首を突っ込みすぎじゃない?」

 

「……どうしよう。反論が思いつかねぇ」

 

 テレビの近くに配置している俺のベッドの上から、からかうような声が響いた。俺の発言そのものが本心で言ったものではないとはいえ、論破するには十分すぎる指摘だっただろう。

 

 俺はベッドの上で悪戯っぽく笑う少女──堀之北(ほりのきた)(なずな)に視線を移す。

 鮮やかな茶髪をサイドテールにまとめた少女は、ゴロゴロと転がりながら言い足りないと言わんばかりに言葉を重ねた。着崩れるぞと行動を嗜めようとしたが、薄着だろうが厚着だろうが関係なしに強調される、張りと形の良い双丘に視線を逸らす。

 元々プロポーションが良いのは、小さい頃からの馴染で知っていたが、コイツまたデカくなってないか? どことは言わんが。

 

「少しは心配するコッチの身も考えて欲しいよ。いつもいつも危ないことに首を突っ込んでさ。せっかく新しい魔王様が日本に生まれたんだし、その人に厄介事押し付けられないの?」

 

「そうしたいのは山々なんだが、こちらが望んでなくても勝手に向こうから土足で踏み込んでくるんだよ。……来週実施される、お前の実力模試みたいに、な。」

 

「うっ……」

 

 現役女子高校生の薺はうめき声を上げる。

 テスト直前に俺の家へ遊びに来るとか、コイツ暇人かよ。

 

 そもそも未成年の女の子が、成人したばっかの男性の家に転がり込んでくること自体が問題なのだが、こればかりは親公認なので口を挟めない。

 俺と薺の両親は昔から繋がりが深く、薺の親御さんには前から世話になっている。海外に仕事に行っている俺の両親の代わりを、この幼馴染の両親が行っている。ある意味、俺がちゃんと生活出来ているのかの監視も含めて薺が来ている。

 だから俺は薺が合鍵を持っている事実に違和感を抱かないし、俺のタンスの下段にコイツの服が入っている事実に何も感じない。

 

 この状況が世間一般で「おかしい」と発覚したのが高校時代。

 俺は彼女の親御さんに確認を取ってみたのだが、

 

 

 

『桜華ちゃんなら、その辺しっかりしてるから大丈夫よ。薺も自分から進んでやってることだし、何も問題がないじゃない』

 

『え、でも間違いが起こったりしたら大変じゃないですか?』

 

『むしろ早く間違い起こしてくれないかしら?』

 

『ゑ?』

 

 

 

 補足であるが、当時の俺は高校二年生であり、薺は中学一年生である。

 天然を通り越した彼女の母親はそう言っているけど、問題ありまくりだろうが。

 ちなみにだが、彼女の父親兼、俺が『オ』のつく自由人になる諸悪の根源は、「エロゲ展開は男の夢だろうが。つか、ウチの娘がいるのに童貞とか恥ずかしくないの?」と俺を煽る。

 良くも悪くも堀之北家は自由奔放らしい。

 

 彼女が俺の枕を抱きかかえて唸っていると、キッチンからリビングに足音を響かせる存在が登場する。

 

「──心配ありません。桜華には私達がついてますから」

 

「──ふん、貴様等がそれほど頼りになるとは思えんが?」

 

 追加で入ってくる人影。

 それは一組の男女だった。

 

 最初に入ってきた長身の女性は、俺が人生で出会った中で二番目に美しかった。

 きめ細かな群青色の髪を靡かせ、『美女』という単語を容易に使わせない雰囲気を醸し出す、それこそ『美』を体現したような存在。下品な言い回しになるかもしれないが、薺よりも女性として成熟した肉体は、男を喜ばすためだけに生まれたといっても過言ではない。近所で適当に購入したユ〇クロの服を着用していても、その感想が出るのだから、傾国の美女って言葉がこれほど似合う女性も珍しいだろう。

 十人の男性のうち八人が「今世紀最高の美女」と称賛し、残りの二名が間髪入れず告白するレベルの美女は、リビングに入ってきたもう一人を睨む。

 

 もう一方の長身の男性も、妖艶な美女に引けを取らない美形だった。

 日本人には珍しい白銀の髪すら彼のステータスの一部でしかなく、整った顔立ちは同性の俺ですら見惚れる。どちらかというと「少女漫画に出てくる、ちょいキツめの性格をした、主人公が通う学校のイケメン」を具現化した美青年で、着用している眼鏡を外す姿で死人が出ると巷で噂される。

 十人の女性のうち八人が「今世紀最高のイケメン」と称賛し、残りの二名が間髪入れず告白するレベルの美青年は、美女の睨む姿を鼻で笑う。

 

 彼女等は俺の家にホームステイしている留学生である。

 ……はい、嘘です。俺の権能その二と、その四です。

 

「言葉を慎みなさい。私達は貴方よりも先輩なのですよ? 桜華と共に神と対峙したことのない未熟者は、未熟者らしい態度を心がけなさい」

 

「神殺しの強さが経験に左右されると本気で思っている馬鹿が、人間以外にも存在したとは驚きだ。元娼婦の配下たる女共よりも、我々の方が役に立つのは明白だろう」

 

「……その言葉、私達への宣戦布告と受け取っても?」

 

「事実を述べただけだ。他意はない」

 

 御覧の通り、仲はクソ悪い。

 死を迎える女神の配下と、かつて天に反逆した主の配下は、神話の垣根を超えて互いに火花を散らす。

 

 先日世界に公開するために作った『第二の権能と第四の権能は俺の代名詞にふさわしい』という旨のレポートを、割と本気で改変しようと考える俺だった。ドニさんとの戦闘で使用した際には「めっちゃ凄いやん。これで戦術の幅が広がる!」と考えていたが、いざ日常になると組織レベルで仲が悪くなる。

 権能同士がいがみ合っている魔王など、世界広しといえども俺だけだろう。

 俺が世界に第四の権能を公開したくない理由の一つである。誰が身内の恥を好き好んで晒す?

 

「ヴァルさん、グレさん。ここで喧嘩しちゃダメだよ? 家壊れちゃうから」

 

「「……はい」」

 

 そんで、どうして幼馴染の言うことを素直に聞いてるの? 今の主は一応俺だからね?

 薺の言っている『ヴァルさん、グレさん』は、二つの権能に正式な名称がないために、彼女が独断でつけた名前である。

 

 俺は溜息をつきながら、人間の少女に注意されて項垂れる配下二人をフォローする。血気盛んなのは大変喜ばしいところだが、できれば魔王の権能らしくTPOを弁えて欲しい。

 彼女等には彼女等にふさわしい舞台があるのだから。

 

「その敵意は今度欧州に行くときに発揮してくれ。あっちの魔術結社の人に頼まれたから、そう遠くないうちに最古の魔王様の接待をしなきゃいけないんだ」

 

「え、それ大丈夫なの?」

 

 ここで言う『接待』とは『殺し合い』と同義である。あちらはゲーム感覚で対応しているだけなのだろうが、俺からしてみればガチで殺しに行かないと死んでしまう相手である。

 ヴォバン侯爵のことは薺に言っている。だから『最古の魔王』の単語を耳にして、表情を一転させて曇らせる。

 

 大丈夫じゃないが、やるしかない。

 俺はソファーに腰を深くかけながら笑みを返す。

 

「お前が気にすることじゃねぇさ。いつものように適当に相手して、適当に帰ってくるだけだ。つか、そう遠くない俺の海外旅行より、お前のテストの方が大切だろ。ほら、勉強道具持って来い」

 

「うぅ……ハナ君がイジメる……」

 

「この程度がいじめだと感じない程度には学力つけてくれ……」

 

 薺はふてくされながら、重い足取りで部屋を出ていく。

 その様子を眺めている傍ら、権能二人が何か言葉を交わしていた。

 

「……あぁ、やはり桜華×薺は素晴らしい。貴方もそう思いませんか?」

 

「不本意ながら同感だが、先日の薺に告白しようとしている男の件はどうなった?」

 

「問題ありません。私の配下が秘密裏に処理しました」

 

「上出来だ」

 

「お前等何の話してんの?」

 

「「何も」」

 

 時折見せる、お前等の一体感は何だ?

 

 

 

 




登場人物紹介

・櫻木桜華
 今作の主人公。知らない人は前回を見てね。

・堀之北薺。
 今作のヒロインであり、主人公の幼馴染。現在高校一年生であり、主人公の正体を知っている数少ない一般人。身長は149cm、体重は44kg、スリーサイズはB87/W58/H88。明るい性格に、クラスでも人気のある美少女という、『なろう系』のヒロインのテンプレを具現化したような少女。もちろん、テンプレにふさわしく主人公ラブ勢。まぁ、ヒロインはこの娘だけなんですけどね。
 モデルは『トリノライン』の宮風夕梨というキャラ。可愛いから検索してみて。エロゲだから18歳未満は検索しちゃ駄目だけど。

・ヴァルさん
 主人公の第二の権能《黄昏の主》を総括する戦乙女。
 フレイヤを殺害して得た権能から生み出される配下のため、絶世の美女設定にしている。主人公の言う「一番の美女」はフレイヤである。
 桜華×薺を至上としており、彼女等の恋路を邪魔する輩は成敗する。
 ちなみに本編で「秘密裏に処理した」は「配下を使って、告白しようとした男子生徒を篭絡した」の意である。

・グレさん
 主人公の第四の権能《見張りの者たち》を総括する奴。
 今のところは詳細を語れないが、権能の名前見れば殺した神様の名前は分かるやろ。
 桜華×薺に目覚める。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。