if "双王"   作:おすまし

1 / 6
第一話 予想外の依頼

 □■???

 

『【グローリア】の投下は予定通り完了した。さて、王国はどうなるかな』

 

『……あくまで"バックアップ"を封印する気はないんだね、ジャバウォック』

 

『ああ。王国の<超級>は強い。だが同時に、ノーリスクで勝てるほど<SUBM>は甘くない。

 <超級>を生み出す前に相討っても、これならばどうとでもなるだろう』

 

『じゃあ<超級>が生まれてから殺されたなら止めるのかな?』

 

『生み出せる<超級>の数は多ければ多いほどいい。そうだろう、チェシャ』

 

『…………』

 

『安心しろ。<マスター>は強く、多様だ。いずれは誰かに滅ぼされるだろう』

 

『そっか』

 

『我々は見守るのみだ。【グローリア】―――The Glory Select Endless Routineの戦いを』

 

 

 

 

 

 □王都アルテア

 

 大陸の西にある国、アルター王国。

 他の国に比べ豊かで穏やかなこの国が、少々騒がしくなっていた。

 【三極竜 グローリア】。世界最上位の怪物(モンスター)、< S U B M >(スペリオル・ユニーク・ボス・モンスター)の襲来である。

 

 特異で脅威、それでいて倒した者の中で最も活躍した者に特典武具(ユニークウェポン)をもたらす<UBM>。

 その中でも最も強く、最高の武具(アイテム)を複数落とすものこそが<SUBM>。

 未だ一例しか観測されていない存在の出現に、人々は当然騒ぎ出した。

 <マスター>(プレイヤー)にとっては糧となる倒すべき存在。

 かつティアン(NPC)にとっては降って湧いた災厄。

 既に出現場所である公爵領を滅ぼし、公爵は死亡。

 王国としてはすぐにでも討伐にかかりたいのだが、あまりに情報が少なすぎる。

 今は敵の能力についての情報が集まるのを待ち、その上で作戦を立案することと決めた。

 

 そうして既に、二日が経過していた。

 【三極竜 グローリア】へ挑む者は多いが、生きて戻る者は絶無。

 挑んだ<マスター>の半数は【グローリア】が纏う結界を越えられずに死亡(デスペナ)。

 残りの半分はその身体能力(ステータス)による物理攻撃だけで死亡。

 世界最大の情報屋<DIN>でさえもかの三頭竜の全貌はまるでつかめぬまま時が過ぎている。

 

 それでも、首都に迫る怪物をこれ以上野放しにしてはおけない。

 王国は自国の最上位クランと連携して<SUBM>を討伐することを選択する。

 共に戦う相手として選ばれたのは、王国クランランキング二位の<バビロニア戦闘団>。

 王国屈指の強者たるクランオーナーを始め、実力者(ランカー)揃いの戦闘クラン。

 オーナーの性格の良さも鑑みれば、これ以上ない人選と言えるだろう。

 

 協力の打診が成立したものの、無策で戦って勝てる相手でもない。

 今回の討伐に参加する予定の王国騎士団・魔術師団・聖職者達。そしてバビロニア戦闘団。

 それぞれのトップである【天騎士】【大賢者】【司教】【剣王】の四人が王都に集まり、二日後の決戦に備え策を練る。

 その会合が、まさに今日、開かれることになっていた。

 

 

 

 

 

 バビロニア戦闘団オーナー、【剣王】フォルテスラは実直で真っ直ぐな男だ。

 この世界を訪れ最初に出会ったティアンの女性、エーリカと結婚する。

 初めて所属したアルター王国で決闘ランキングに挑み、今では三位にまで上り詰めた。

 人と出会い、パーティーを組み、クランを作り、クランのランキングは二位にまで到達。

 上が宗教団体にして廃人集団の<月世の会>であることを考えれば、真っ当な学生すら所属しているバビロニア戦闘団が二位というのは、中々驚異的な順位と言えよう。

 

 信頼を受ける実績と、人の信頼に応えようとする性格。

 そして、信頼に応えられるだけの能力。

 その三つが合わさった彼は、今の王国<マスター>の中で最も憧れと信頼を受ける人物だった。

 

「クレーミルを離れるのは不安だが、仕方がないか」

 

 今回の依頼を受け、フォルテスラは会合の開始よりだいぶ早くに王都を訪れていた。

 【グローリア】と王都に挟まれるように存在する都市、<城塞都市 クレーミル>。

 戦闘団のホームタウンであり、彼の妻、エーリカの住む場所。彼の帰るもう一つの家。

 本来であればこの一大事に離れたくはないが、超音速で動ける彼が王都に行くのが一番早い。

 王家相談役でもある【大賢者】にそう言われては反論の余地はない。

 それでも早く訪れ出来るだけ早く終わらせたい、というのが一点。

 もう一つは、王都にあるDINの本拠地で情報を得るためだ。

 ギデオンにはまだ届いていない情報が、本拠地にならあるかもしれない。

 【グローリア】の情報は、現状ほとんど増えていない。

 策を練ろうにも対策を打つにも、もう少し能力がわからなければ話にならない。

 そのためにも、会合の前に新情報を仕入れておきたかったのだが……。

 

「空振り、か」

 

 残念なことに、さほど目新しい情報はなかった。

 いくつか自説を強化する情報や何かに繋がりそうなものもあったが、現時点ではほぼ無意味。

 問答無用の即死結界の穴は明確に見えたが、検証実験をする時間的余裕はない。

 

「いっそフィガロを誘って威力偵察でもしてみたいところだが、厳しいな」

 

 王(・)国(・)最(・)強(・)、決闘ランキング一位にして彼の好敵手である【超闘士】フィガロ。

 フォルテスラのもっとも信用する男ならば、単身でも威力偵察は可能だろう。

 だが、流石にリスクが高すぎる。

 フィガロ本人の事故死の可能性も勿論のこと。

 フィガロと戦うことでの【グローリア】の覚(・)醒(・)が、何よりも怖い。

 "本気を出される前に倒す"のが<UBM>討伐のセオリーとすれば、スロースターターのフィガロはそこから最も遠い男だ。

 "本気の相手を更に上回り勝つ"フィガロでは、負けた場合本気を出したままの敵だけが残る。

 そこまではいかずとも、用意の整いきっていない今、フィガロの攻撃に対し全力で反撃された時点で、厳しい戦いを強いられるのは間違いない。

 加え、今現在"本気の【グローリア】"と戦える存在は王国にフィガロのみ。

 出来れば最後の砦として控えてもらうのが一番だろう。

 

 他にもいくつも策を考え、そのほとんどを却下していく。

 手札も情報も何もかもが足りていない。

 それでも、クレーミルを、妻を守るために諦める訳にはいかない。

 その一心で、道を歩きながら討伐方法を考え続けている。

 

 だから、いつのまにやら目の前に居た青年に気付かないのも無理はなかった。

 

「やあ、フォルテスラ。ちょっといいかい?」

 

 目の前にいたのは、彼がよく知る一人の男。

 頭に猫を乗せ、両目をぼさぼさの髪で隠した、怪しげな風体の青年。

 

「ト(・)ム(・)・(・)キ(・)ャ(・)ッ(・)ト(・)か」

 

 

 

 先代決闘王者、【猫神】トム・キャット。

 どこか眠そうな雰囲気と間延びした喋り方から甘くみられることもあるが、実力は折り紙付き。

 <Infinite Dendrogram>の世界に<マスター>が大量発生する以前、六年以上も前から闘技場に君臨していた強者。

 運(・)営(・)側(・)の存在であり、運営が用意した<マスター>に対する壁の一枚。

 故に、こうしたイベントには関与しないと一部では予想されていた。

 だが彼は今、いつもとは違う真剣なまなざしでフォルテスラを見つめている。

 

「お前が、俺に用とはな」

 

「それも、こんな時期に、かなー?」

 

「ああ。討伐に参加してくれると言うなら心強いが、違うだろう」

 

 トムは<UBM>を討伐することも、ティアンのために戦うこともない。

 クエストをこなすところでさえほぼ目撃されていない。

 そこに"運営側"としての強い自覚と強固な意志があるのはフォルテスラにもよくわかっている。

 トム・キャットは余計な手出しはしない。

 

 しかし一つ、フォルテスラが知らないことがある。

 トム・キャットは手出しはしないが……口(・)は出すということを。

 

「君に、頼みがあるんだ」

 

 そして同時に、彼は<マスター>の意志と自由を尊重する者。

 自分達(管理AI)の思惑よりも、<マスター>が思うように動ける未来を望む者。

 

「グ(・)ロ(・)ー(・)リ(・)ア(・)の(・)第(・)四(・)頭(・)部(・)の(・)討(・)伐(・)。それを、君に依頼したい」

 

 

 

 

 

 

 

「……どういう意味だ?」

 

 トムの突然の依頼に対し、フォルテスラは疑問の声を上げた。

 それも当然。トムの発言には疑問しかない。

 

 運営側の存在が、自分達が放ったモンスターの討伐をプレイヤーに頼む理由。

 第四頭部とは何のことなのか。

 そして、なぜそれを依頼するのが自分なのか。

 

「ちょっと不手際というか、暴走があってねー。

 第四頭部―――尻尾を初(・)手(・)で(・)切り刻んでほしいんだ。

 バランスはそれでだいぶマシになる。アレは野放しには出来ないから」

 

「待て……待て。何故俺に頼む。フィガロ(決闘一位)ではなく、この俺(第三位)に」

 

 それがなによりも成さねばならないことであるなら、自分に頼む理由はない。

 トム(決闘二位)を倒せない自分よりも、倒したフィガロにこそ頼むべきだ。

 いつか倒すとこそ誓っていたが、今は彼の方が強いことはフォルテスラも認めていた。

 

「だからこそ、さ。彼(グローリア)は格下を見下す傾向がある。

 いまはまだ<超級>に至らず、かつメイデン(強者殺し)の君なら、殺し切れずとも首の一本も落とせるだろう」

 

 グローリアの四本目にして四本角の持つスキルは単純だ。

 命を落としかねない強者との戦闘時自切。

 身を隠した後、本体の消滅と共に一日かけて本(・)体(・)を(・)復(・)活(・)さ(・)せ(・)る(・)。

 《既死改生》の名の通り、既に起きた死を改め生を産むスキル。

 こんなものを残したままでは、誰にも止められず大陸中を蹂躙されてしまう。

 かといって、持久戦と生存能力に特化したトムでは尻尾を破壊することはできない。

 故にフォルテスラに依頼したのだ。

 

「理由を細かく言うつもりはないんだな」

 

「うん、細かいところは話すことはできない。でも、尻尾にはコアがあるのは確かだ。

 尻尾を壊せば高確率で特典武具が手に入る。悪い話じゃないよ」

 

「そうか。断る」

 

「……え?」

 

 まさか即座に断られるとは思わなかったのか、トムの顔が驚きを示す。

 <SUBM>は<UBM>の中で唯一複数人に特典武具が配布される。

 コアという重要部位を破壊すれば、彼にも配られる可能性は高い。

 この世界で最高の武具を得れば、フィガロやトムにも勝てるかもしれない。

 しかもコアはどちらにせよ退治するには破壊が必要な部位。

 完全討伐を目的としているフォルテスラとすれば、断る理由はないと思ったのだが。

 

「確かに俺のスキルでなら、最速で尻尾を微塵にする程度は可能だろう。

 だが、それはそもそも近づければの話だ。即死結界を越えられなければ意味はない」

 

「それは大丈夫。君や君のクランの極一部は結界を越えられるはずだ」

 

「だが500カンストを迎えたものは数少ない。おそらく攻撃スキルの類もあるだろう。

 お前の提案に乗るのなら、もういくつか情報が欲しい」

 

「……例えば?」

 

「遠距離攻撃の有無。出来れば射程の情報も欲しいな。

 三頭と尻尾のコアを破壊すれば完全に倒せるのかも知りたいところだ」

 

「後者はイエス、前者に関しては、ちょっと言えないなー」

 

「有無だけでいい。キロ単位の遠距離攻撃はあるのか、ないのか。

 それを知らなければ、遠巻きに攻撃しているうちに負けてしまうかもしれないな」

 

「答えるかわりに、可能な限り早く尻尾を落としてくれるかい?」

 

「ああ」

 

「即答か。しょうがない、あ(・)る(・)よ(・)。具体的には言えないけれど」

 

「充分だ」

 

 再びの即答に対し、トムは少し溜息を吐いた。

 流石に大クランのトップは交渉に慣れている。予想外に喋りすぎてしまった。

 あとで協力してくれた管理AIにどやされるかもしれないと憂鬱にもなる。

 

 だが、伝えるべきことは伝えた。

 背後を向き、最後に言葉を残す。

 

「正直、この情報込みでも君達が勝てる可能性は皆無に近いよ。

 それこそ万全のフィガロ(超級)と協力してすら、勝利は厳しい」

 

 その言葉を聞き、フォルテスラは頷いた。

 彼の表情は、先程の交渉から一貫して重く、苦しい。

 情報を得れば得るほどに、【グローリア】の能力を予測し、その強さを察していく。

 百戦錬磨の【剣王】は、かなり正確に能力の高さを読み取っていた。

 王国の総力を集めたとしても、討伐が難しいことは理解している。

 

「知っているさ。だが―――」

 

「それでも。剣折れても立ち上がる君が、此度も勝利することを願っている」

 

 トム・キャットは去っていった。

 振り返ることなく、フォルテスラに情報と声援を残して。

 

「ああ、やってやる。やってやるさ」

 

 トムを見送るフォルテスラの顔に、もう迷いも苦しみもない。

 ただ決意のみが、その顔には浮かんでいた。

 

 

 

 

 

□王都アルテア 王城会議室

 

「では、始めましょうか」

 

 トムとの話を終えたフォルテスラが最後に到着し、会合が始まった。

 トムとの会話は時間自体は短く、到着したのは予定の時刻の数十分前。

 にもかかわらず、その時点で全員が揃っていた。

 王国御意見番の【大賢者】フラグマン、国教指導者の【司教】ベルディン枢機卿の二人がそれほど早く訪れて待っていたという事実からも、今回の会合、そして<SUBM>襲来の優先度と危険度が推し量れるというものだ。

 

「まず初めに、我々の戦力を整理しましょうか」

 

 口火を切ったのはフラグマンだ。

 彼はこの中で最年長かつ最大レベル。

 百年を超える生涯で多くの<UBM>と戦ってきた経験は、それぞれ一流の面々に対しても一歩抜きんでた立場を彼に与えている。

 

「私の徒弟が三十人。全員400レベルを超えた優秀なティアンです。魔法の腕も良い。

 私以外は超級職はいませんが、合体魔法を使えば実質的に超級職が何人か増えたようなもの。

 私は進路変更に備え王都周辺で待つことになるでしょうね」

 

「近衛騎士団は総数ならば三百を超えるが、あれと戦える動かせる者は百に満たない。

 あの即死能力の基準がいまだ不明な以上、近接戦闘は避けたくもある。

 いざとなれば私は出るが、基本的には【大賢者】様同様王都待機となるだろう」

 

「国内で動員可能な聖職者の数は六百人といったところでしょうか。

 天罰術式の発動には十分ですが、ほとんどがまだ200レベルに達していません。

 実践に耐えられる聖職者はごく僅か。予定通り、天罰術式のみの参加が限界でしょう」

 

「俺のクランのメンバーは三百人近いですが、どれだけ参加(ログイン)できるかは未知数です。

 各々向こうでの生活もありますから、予定が合うとは限りません。

 500カンスト以上は十二名のみ。今からレベル上げに徹しても、数日では一人か二人増えるかどうか」

 

 完全に機能しているとは言い難いが、一体のモンスターに対して過剰なほどの暴力。

 神話級でさえも殺せる物量を揃えても、しかし【グローリア】を相手にするには物足りない。

 仮に<SUBM>を物量で殺すなら、大陸国家全てを動員してもまだ足りない。

 必要とされるのは"究極の一"だ。

 

「なるほど、国内の戦力はおおよそ想定通りですね。

 これはやはり皇国の部隊を主力として運用するのがよいでしょう」

 

「【四禁砲弾】ですか」

 

 三頭竜投下時、偶然王国軍と合同演習をしていた皇国第二機甲大隊。

 皇国第一王子の命により、【グローリア】討伐に参加を表明している部隊。

 戦車型マジンギアの火力もさることながら、皇国の最強兵器の運用が可能な理想的援軍だ。

 その最強兵器こそが、交渉により使用を認められた【四禁砲弾】の一種、【超重砲弾】。

 四キロ以上先から放て、半(・)径(・)一(・)キ(・)ロ(・)を(・)圧(・)縮(・)消(・)滅(・)さ(・)せ(・)る(・)超兵装だ。

 

「アレなら【グローリア】の即死効果範囲、半径一キロの外側から殺害も可能です」

 

「神話級をも一撃で滅ぼすと噂の砲弾ですか」

 

「【大賢者】様は見たことがおありですか?」

 

「ええ、王国に仕える前に少しだけ。噂にたがわぬ威力ですよ」

 

「ならば、やはり我々の合体魔法と天罰術式で動きを止め、彼らに倒してもらいましょう」

 

「王国だけで倒せないのは無念だが、こうした時のための同盟だ」

 

「では、その方針で話を進め―――」

 

「その前に、俺が得た情報を語らせていただきたい。

 厄介な事実と推測があるのです」

 

 ここでフォルテスラが言葉を挟んだ。

 場の全員から怪訝そうな顔で見られるが、話さないわけにはいかない。

 先程の話の結果、他の誰も知らない情報をフォルテスラは所有している。

 そう、前提条件がいくつもひっくり返るような重大情報を。

 

「【グローリア】について、おそらく最もよく知っている情報通の友人から聞いた話です。

 まず一つ目に、奴は数(・)キ(・)ロ(・)先(・)を(・)も(・)狙(・)え(・)る(・)遠(・)距(・)離(・)攻(・)撃(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)ま(・)す(・)」

 

 一つ目の情報で、全員の顔色が変わった。

 結界で身を守る存在が、一方的に攻撃を放つ術すら持つという恐怖。

 誰もが百戦錬磨であるからこそ、この情報の重要性が理解できる。

 だが、思考停止の時間は一瞬。

 この中でも最も経験を積んでいるフラグマンが最速で立ち直り、止まった話を再開させた。

 騎士団長と枢機卿もそれに続き、話はどんどん加速していく。

 

「それは……確かに危険ですね。攻撃直前を狙われる可能性が高い。

 回避は合体魔法で妨げる予定ですが、反撃は想定していない。

 確かかの竜の速度は亜音速。【超重砲弾】のエネルギー充填よりも早く撃たれてしまう」

 

「クレーミルの防御結界は超級職の奥義でも防御できる、それでも防げないか?」

 

「超級職以上のスキルを使えるのが神話級、それよりも上が<SUBM>です。

 防ぎきることは難しいかと」

 

「攻撃の詳細は分からないのですか? せめて属性さえ分かればいくつか方策もありますが」

 

「そこまでは……申し訳ない。

 事前の威力偵察も考えましたが、竜の尾を踏み怒りを買えば侵攻の加速は必然」

 

「事前の用意を考えれば不用意な偵察は愚策、ですか。

 可能ならば一度の戦闘で片を付けたいのは同感ですが」

 

「この情報が事実ならただでさえ限定されていた作戦がさらに狭まります。

 せめて即死の判定を越える基準が分かれば」

 

「それとなく鎌をかけてみましたが、即死しない条件は500カンストで間違いないかと。

 こちらはDINの情報で裏付けが終了しています」

 

「なるほど、レベル判定か。

 カンストは騎士団には俺ともう一人しかいない。本格的に団単位での戦闘は不可能だな」

 

「聖職者はジョブの振り直しが不要な分、カンストも多少はいます。

 とはいえそれでも両手の指で足りるでしょうね。打開策にはなり得ないですか」

 

「いえ、値千金です。私と騎士団長が戦う時、安心して結界の内側に入れますからね。

 他に情報はありますか?」

 

「【グローリア】はコア型。頭三つと尻尾を破壊すれば完全に倒せるそうです。

 そして俺なら竜の頭一つは落とせる、と」

 

「コアを破壊すればHPに関係なく倒せるタイプですか。再生能力があるかが肝ですね」

 

「前回の<SUBM>には高い再生能力があったとか。あると想定して動くべきです」

 

「複数のコアが分散して存在する場合、能力がコアごとにあることが多い。

 遠距離攻撃、即死能力で二つ。防御能力も別でしょうか」

 

「いえ、フォルテスラ君に傷つけられるなら威力や属性の問題ではない。

 可能性が高いのは斬撃のみ有効か、即死結界外部の攻撃を無効化か。

 この二つならば後者でしょう。となれば防御能力は結界と纏められている説が有力です。

 しかし仮に内部の攻撃なら通るとすれば、どれだけ高い威力でも無効化する可能性さえありますね」

 

 一人では気付けない点も、複数人なら気付くこともある。

 騎士団長とフラグマンは<UBM>と戦った数ではフォルテスラを遥かに上回る猛者。

 製作者が同じ管理AI(運営)である以上、過去の傾向から予測するのは難しくない。

 【グローリア】の謎に包まれた能力も、徐々に明らかになってきた。

 

「敵を上回るステータスがないと傷付けられないという線はどうでしょうか」

 

「流石にそれは厳しいですね。<SUBM>のステータスは超級職をも上回ります。

 この際対策を打てないものは度外視するべきでは」

 

「そうだな。斬撃のみというのも中々存在しない条件だ。

 とすれば防御能力は即死結界関係。あと二つ能力が隠されているかもしれないのか……」

 

「しかしその場合、同種の能力ということはまずありません。

 加え基本的にはコアを壊せば有する能力が消えます。ふむ、見えてきましたね」

 

「攻撃無効化能力の上限は判明していません。存在しない可能性すらある。

 しかし即死結界関連ならば即死の首と遠距離攻撃の首を破壊すれば、後は遠距離で片付きます。

 そうすれば皇国との契約も果たせますね」

 

「【超重砲弾】で仕留めさせることで特典武具を皇国部隊員に与える契約でしたか。

 <SUBM>は特典武具を複数与えると聞きます。ならば」

 

「良いでしょう。バビロニア戦闘団には苦労を強いることになりますが」

 

「元よりそのつもりです。クレーミルは、我々の手で守ってみせる」

 

 フォルテスラが出した情報は、足りない穴を見事に埋めた。

 現状ではこれ以上の策は無い。そう断言できるレベルにはなっている。

 

「まずバビロニア戦闘団が【グローリア】に接敵、遠距離攻撃と結界内攻撃を両方試す。

 どちらも通らなければ威力判定と断定、足止めをお願いします。

 結界内攻撃が通ればそのまま戦闘続行、結界を張っている首を突き止めなんとしても落としてください。

 遠距離攻撃の首の方は手段によりますが、動きを止め皇国が【超重砲弾】を打ち込む隙を作ってくれれば充分です」

 

「はい。任せてください。

 奴を逃し、起こる悲劇を止めるため、我々も全霊を尽くします。

 最悪足止め中の我々ごと撃ってください」

 

「……わかりました。その覚悟を無駄にはしません」

 

 彼の決意に、フラグマンは少し懐かしそうな顔で頷いた。

 後は細かな点を埋めるだけ。

 皆が少なからず気を抜き……しかし、フォルテスラは予想していた。

 確(・)実(・)に(・)、(・)予(・)想(・)外(・)の(・)何(・)か(・)が(・)出(・)て(・)く(・)る(・)と。

 故に、"敗北の後"の考慮も忘れない。

 

「全滅した際にも情報を後方に伝えられるような何かが欲しいのですが」

 

「狼煙を何種か用意させよう。事前の符牒の通り打ち上げれば最低限の情報は伝わるはずだ」

 

「それなら教会の倉庫に今年の祭りで使う予定の狼煙があります。

 色もかなり幅がありますし、王都からでも見えるかと」

 

「助かります」

 

 勝てなくとも、何かを残す。

 これは負ければ彼の積み重ねてきた全てを失う戦いだ。

 後のことなど考えず、投げ捨てたって誰も文句を言わないだろう。

 それでも手を打ってしまうのは、彼の気真面目さがそうさせるのか。

 

(やっておかなければいけないことは、あと一つか)

 

 決戦前に最後にすべきことを、既にフォルテスラは決めていた。

 

 

 

 

 

 □決闘都市ギデオン

 

「と、ここまでが俺の知る限りの事実と推測、俺達のとる作戦だ」

 

 王都を離れたフォルテスラは、単身ギデオンに向かった。

 決闘都市に居を構える好敵手、フィガロに会い、全ての情報を伝えるために。

 その理由はフィガロと共に戦うことを望んでのこと、で(・)は(・)な(・)い(・)。

 

「それで、僕に会いに来たのは一度は拒んだ参加を望んでかな?」

 

「そうじゃないさ」

 

 既に一度、フィガロからの打診をフォルテスラは断っている。

 

 フィガロは集団戦を苦手としている、否、個(・)人(・)戦(・)以(・)外(・)を(・)不(・)得(・)意(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。

 守るべき者。連携すべき仲間。攻撃してはならない相手。

 それを意識すれば意識するほど、彼の体から自由な動きは失われ、緊張で技は鈍る。

 一般的な集団戦が苦手な戦士の十倍は苦手と言っても過言ではない。

 

 それでもフォルテスラのクレーミルと妻への愛をフィガロは知っている。

 だからこそ苦手極まりない共同戦線すら受け入れ、フォルテスラのために戦おうとしてくれた。

 そして、だからこそフォルテスラは断った。

 素では王国最強の彼が、弱弱しく戦う姿は見たくない。見せたくない。

 そんな個人的感情に加えて、全力の彼に後を託すために。

 

「お前には、俺達が負けた後の仇討ちを頼みたい」

 

 全力を出せぬ彼と共に戦っても、纏めて負けてしまうかもしれない。

 だが、自分達と戦った三頭竜と、全力の彼ならば。

 自分達の犠牲を越え、凶竜をも一人で倒せると信じている。

 

「負けた後のことなんて、後になってから考えればいいのに」

 

「そう言うな。性分だよ」

 

「負ければクレーミルは破壊される。本当に、いいのかい?」

 

「くどい。俺達は全力で戦う。お前もやるなら全力で戦え、フィガロ」

 

「……わかったよ」

 

 フィガロにも分かっている。

 こうなったフォルテスラは、なんと言おうと頷かないだろう。

 功名心や特典武具欲しさ、理性的な判断ではなく、なにより自分(決闘王者)のために言ってくれているのだ。

 無下にはできない。

 ここまで言われては、二流の自分を見せるわけにはいかない。

 決闘王者として、最強として君臨する。

 それがフィガロの誠意であり意地だ。

 

「余計な心配は不要だ。

 どうせするなら、【グローリア】を倒し超級武具を得た俺に倒される心配でもしておけ」

 

「わかった。君の挑戦を待っているよ」

 

 持ちうる全ての情報を伝え、フォルテスラは去っていった。

 

 後ろ姿が消えてもしばらく視線を動かさなかったフィガロだったが、不意に立ち上がる。

 そして虚空に向かい、こう言い放った。

 

「見ているんだろう、ト(・)ム(・)」

 

 

 

「けっこう高レベルの隠蔽道具使ってたんだけど、君は欺けないか」

 

 文字通りに虚空から、トム・キャットが現れた。

 姿を隠していたことを悪びれもせず、いつも通りにゆるやかな雰囲気を纏っている。

 フィガロも隠れていたことの是非を追求することはなく、和やかに話し始める。

 

「いや、正直に言うと感知はできなかったよ。

 トムがそんなにいいアイテムを持っているとも知らなかった。

 単に、君なら居るだろうと思っただけさ」

 

「あー、また鎌かけられたのかー。

 まあいいや。それで、何の用だい?」

 

「分かっているんだろう?」

 

 あくまで和やかに、しかして目には強い意志を宿して。

 トムの横を通り過ぎ、闘技場に向かいながら言う。

 

「スパーリング、付き合ってもらうよ、トム」

 

「……仕方がない。容赦はしないよ?」

 

 彼(フォルテスラ)の想い(全力)に応えるために。

 "決闘王者"フィガロもまた、己の全力を発揮することを決めた。

 それが活きるのか、無駄になるのか。

 誰も未来を知ることはできない。それでも信じることはできる。

 

 

 

 かくして舞台は整った。

 戦(いくさ)の前に極竜の力の一部が露呈し、対策も練られている。

 本来ならば消滅するはずの火力の温存も成り、急所の位置すら判明済み。

 それでも未だ秘された技能は数多く、そも全て知られたとて容易に倒せないのが<SUBM>。

 

 戦いの末に残るのは、【三極竜 グローリア】か<城塞都市 クレーミル>か。

 人の力は、天の竜に届くのか。

 運命を乗り越えるために必要なものは、一人一人の心の中に。

 




これにて事前の用意が終了。
結構長々とつまらないことを書き連ねてしまった。こういう時修行の足りなさを思い知ります。
次話から戦闘入ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。