if "双王"   作:おすまし

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 いやー結構かかってしまった。失敗失敗
 この作品はアニメ化記念作品です(強弁)


第二話 極竜に挑め

 □■<城塞都市クレーミル>周辺

 

 会合より二日が経過し、全ての準備は整った。

 この日のために、バビロニア戦闘団と皇国第二機甲大隊は情報共有・事前訓練を行い、付け焼刃ながら最低限の連携を習得。

 【グローリア】との戦いに限ってはミスは起こらないと言える領域にまで至っていた。

 また、王国騎士団の協力により、特典武具目当ての外部<マスター>は作戦区域より排除済み。

 今回はゆっくりとHPを削っていくつもりはない。

 数だけの存在は邪魔にしかならない。そう判断した結果だ。

 王国一位クランの<月世の会>には作戦に合う能力を持つ者に協力を要請したが、クラン単位での契約以外を拒絶され、その契約内容で交渉が不成立。

 【大賢者】と【天騎士】は【グローリア】の戦闘前の進路変更に備え王都周辺で待機。

 結局戦闘するのは戦闘団と皇国部隊のみとなった。

 

 

 

 

 

 クレーミルからそれなりに離れた平地に陣取り、襲来に備える戦闘団。

 彼らが構える天幕の一つで、二人の人間が語り合っている。

 片方はオーナーの【剣王】フォルテスラ。

 もう片方はサブオーナー、【超付与術師】のシャルカだ。

 彼らの会話は、不安を口にするシャルカをフォルテスラが勇気づけるようなものだった。

 

「我々だけですか。メンバーの大半が集まってくれたとはいえ、<月世の会>の協力が得られなかったのは痛いですね。

 動きを止めるのに適したシジマさんの力があれば心強かったんですが」

 

「あの女狐はがめついからな、交渉決裂も無理はない。

 国も王都から遠いこのタイミングでは厳しい条件は飲めないだろう。

 事前に練習は重ねてきた。俺達だけでもやってみせるさ」

 

 王国最上位に君臨するクラン同士、関係もないわけではない。

 特に元とはいえ月世の会の戦闘部隊隊長であるシジマのことは、フォルテスラ達も知っている。

 共同戦線を張ることこそほぼなかったが、ことフォルテスラとはとある共通点からそこそこ親しい関係性を築いていた。

 

「シジマさんは()()()()()()()()()()のよしみで協力してもいいと言っていたのですが」

 

「<月世の会>のトップである扶桑月夜に言われては断られてしまうのも無理はないさ」

 

「普段あれだけ『メンバーの意思を尊重する』と言ってる割に、こういうところでは厳しいんですよね」

 

「奴も特典武具は欲しいだろうし、シジマさんはかなりの戦力だ。

 奴らが戦う際、シジマさんがデスペナ中となるのは避けたいだろう」

 

 月世の会にも彼らなりの事情がある。

 多少の縁で無理強いするわけにもいかない。

 欲しい助力ではあったが、なければないで他に方策を練ればいいだけだ。

 そして戦いが決まってからこれまで、彼らは十分に考えてきた。

 

「アタシたちなら大丈夫! 勝って、堂々とあいつらに宣言してやればいいよ!

 王国で本当に一番のクランは<バビロニア戦闘団>だってさ!」

 

 フォルテスラの左手の紋章が輝き、一人の少女が出現した。

 彼女の名前はネイリング。

 フォルテスラの<エンブリオ>、人にして武器(TYPE:メイデンwithエルダーアームズ)の元気っ娘である。

 

「そうだな。俺達が勝って、特典武具を見せつけてやるか」

 

「欲をかかなければ手に入れられたかもしれない、とでも付け加えておきましょう」

 

「それはやめておけ、奴に恨まれるのは面倒だ」

 

 心底嫌そうに、フォルテスラが顔を歪める。

 そんな彼を見て、二人は笑いをこらえきれずふき出した。

 

 明るい、都合の良い未来予想図。

 必ずしも、未来が良いものとは限らないのは承知の上。

 敗北の可能性の高さはこの場にいる誰もが知っている。

 それでも笑い、きっと届くと理想の未来を語る。

 口に出すことで、思いを誓いへと変えるために。

 

 戦闘団のホームタウン、都市クレーミルを守りきる。

 此処で【三極竜 グローリア】を倒し、悲劇を未然に食い止める。

 【薬師】として最後まで街に残り、動けない重病人の治療を続けているフォルテスラの妻、エーリカを殺させない。

 この場にいる三人を含め、バビロニア戦闘団全員の想いは一つだ。

 そのためになら、三日経てば復活する程度の自分達(マスター)の命など惜しくはない。

 

「通信が来ました。【グローリア】の到達まであと二時間です」

 

「よし。そろそろ戦闘用意を始め、天幕をたたむよう通達を出せ。

 万が一到達が早まるようなら放棄しろ。武装の確認が先、天幕は後だ」

 

「了解」

 

 メンバーの報告を受け、フォルテスラが指示を出し、戦闘団は動き始める。

 侵攻を待っていたそれまでから、逆に打って出るために。

 

 

 

 

 

「覚悟は良いな!」

 

 二キロ先、堂々と進み続ける【グローリア】を睨み、フォルテスラは最後の確認を始めた。

 既に先行した偵察班により、レベル500が即死結界の境界なのは確定している。

 死亡(デスペナ)も厭わず足を踏み入れた彼らのお陰で、メンバーは安心して踏み込める。

 問答無用の即死を乗り越えたとしても、竜の攻撃で死ぬ可能性は依然高いが、それでも、今更そんなことを恐れる者はいない。

 

「500に満たない者は回復役・強化役、或いはその護衛として構え、結界外で待機。

 竜の移動により運悪く結界内に踏み込むことが無いよう、注意は欠かすな!」

 

『はい!』

 

「踏み込んだが体力が減った者、消費が激しい者は適宜結界外で待機している者達に接近。

 スキルが届く距離のギリギリで回復、終わったらすぐに奴の攪乱に戻れ!」

 

『了解!』

 

「遠距離部隊は結界外から先制攻撃、効けばそのまま援護を続けろ!

 効かなかった場合は俺達が結界の首を落とすまでしばらく離れて待機。いいな!」

 

『応!』

 

「よし。先制攻撃…………開始!!」

 

 開戦の合図と同時に、【グローリア】に氷刃と矢弾の群れが襲いかかった。

 <エンブリオ>の秘奥、必殺スキルも混じったその集中砲火が、頭部を狙い降り注ぐ。

 <UBM>であろうとHPを残すことは不可能に思える火力を前に、しかし【グローリア】のHPはピクリとも動かない。

 

「HP減少は皆無です! 衝撃も見受けられません!」

 

 観測担当のメンバーの報告を受け、団に動揺が走るも、一瞬で収まった。

 この状況は覚悟していた。故に二の矢も構えてある。

 

「俺が先陣を切る、ついてこい!」

 

 フォルテスラが超音速で走り出し、結界の境界を越えた。

 当然何も起きず、その勢いのまま【グローリア】の足元にまで走り込む。

 そしてそのまま、長剣へと変じたネイリングを構え、攻撃スキルを繰り出した。

 

「《アイシクル・カット》」

 

 冷気と共に敵を切り裂く剣士系統の攻撃スキル。

 威力より切断能力に長けたその一撃を受け、【グローリア】の黄金の鱗が断ち切られた。

 薄く血が流れ、ごくわずかな傷を負う【グローリア】。

 間違いなく、()()()()()()()()

 

「"通った"。釈天!」

 

「わかってるっての、《サンダー・ボルト》!」

 

 釈天と呼ばれた男が呼応し、雷を纏う矢が飛び、別の鱗を刺し貫く。

 【グローリア】の巨体に対してはわずかだが、確かに肉に突き刺さっていた。

 これで"確認"は終了だ。心置きなく、"戦闘"に移れる。

 

「氷・雷、斬撃・刺突、近距離・遠距離。どの属性も通った。

 結界内攻撃で間違いない! 狼煙を上げろ!」

 

 フォルテスラの言葉と共に、緑、紫、赤の煙が打ち上げられる。

 意味は"有効攻撃アリ""結界外攻撃複数属性無効""結界内攻撃複数属性有効"。

 すなわち、"予想通り"ということだ。

 

 散開したメンバーが竜の100m超の巨体を囲み、全身に攻撃を加える。

 竜も巨体を(よじ)って抵抗するが、その速度は亜音速が精々。

 シャルカのバフで音速近くから超音速にまで強化された面々は、一撃も喰らわずに回避する。

 

 【グローリア】のサイズは長い首と尻尾を除いてすら100mを超える。

 そんな竜からすれば2mにも満たない人間は、人にとっての虫に等しい。

 サイズ比で言えば、大きくてオオスズメバチ程度であろうか。

 攻撃を当てるのは難しく、しかし相手はこちらを害する武器を持っている状況。

 反撃を加えられた【グローリア】は、たまらず二つの武器を使おうと動き出す。

 そう、その背の翼と、一番右の頭部からのブレス(吐息)を。

 

「【グローリア】の一本角、発光を始めました!

 同時に口を開き始めています!」

 

「想定内だ。釈天!」

 

「人使いが荒いっての! 喰らえや《天雷の滅塵弓(インドラ)》ぁ!!」

 

 先程と同属性、しかし圧倒的に威力が違う稲妻の一矢が、三頭竜の口内に吸い込まれる。

 他のメンバーのスキルを使った足止めが功を奏し、着弾と同時に爆発。

 たまらず【グローリア】は口を閉じ、飛び立とうとしていた動きを一時止める。

 

「シャルカ!」

 

「行け、ラフム!」

 

 動きを止めた【グローリア】めがけ、【グローリア】の何分の一かというサイズの人型が迫る。

 フォルテスラの釈天への指示と同時、シャルカの紋章より排出されていた泥の巨人。

 竜は尾を振り回して攻撃するも、流動する泥にそんなものは通用しない。

 形を崩しながらも接近するラフムに、たまらず【グローリア】は再び翼を羽ばたかせ、空への回避を試みる。

 だがそこまでは、読んでいた。

 

「ライザー!!」

 

『《悪を蹴散らす嵐の男(ヘルモーズ)》―――《ライザーキック》』

 

 【グローリア】の知覚を越えた超音速の蹴撃が、"一本角"を叩き落す。

 熱血漢なライザーには珍しい、奇襲のために静かに放たれた一撃。

 真上から撃ち下ろされた首と頭部は半ばまで泥に埋もれ、口も綺麗に閉じている。

 千載一遇の好機を逃さず、シャルカとラフムもまた切り札を切る。

 

「《硬軟の大守護者(ラフム)》!」

 

 必殺スキルの使用により、泥の巨人はその体を圧縮・硬化した。

 口枷のように頭部の一部を覆ったラフムにより、"一本角"の顎部は封じ込められる。

 神話級金属以上の硬度となった拘束具は、【グローリア】のSTR(筋力)でも壊れない。

 目や鼻を潰すようにも覆っているため、口からのブレスはどこからも吐き出せない状態だ。

 

 その後もメンバーが中距離でうろつき攻撃を誘うも、他に飛び道具を使う気配はない。

 ひとまずこれにて"遠距離攻撃を封殺する"というオーダーの一つは完遂された。

 必殺スキル三連発で<SUBM>のスキル:首一つを見事に封じ込める快挙。

 第六形態<エンブリオ>の連携は、十二分に強力ということだ。

 

 遠距離攻撃を封じられた【グローリア】は空からの攻撃を諦めた。

 この敵は、今後も飛ぶ瞬間の隙を突いて叩き落しにくるだろう。

 そうなればさらに大きい、命に関わるような隙を作ることにもつながる。

 ブレスによる空からの一方的な攻撃が叶わない以上、隙を押してまで飛ぶ理由はなかった。

 敵を倒すために、今まで以上に前のめりに、自身の四体、否()()で直接倒しにかかる。

 

『予想の一つが当たったか』

 

『竜で遠距離攻撃って言ったらブレスは定番だもんね!』

 

 竜の苛烈な攻撃を凌ぎながら、念話で発せられた安堵の呟きに、ネイリングが言葉を繋ぐ。

 一口に遠距離攻撃と言っても、大きく分けて二種類に分けられる。

 肉体を起点とするものと、肉体と一切関係なく使えるものとだ。

 後者の場合、防ぐ術は数少ない。能力を司る(コア)を破壊するしかなかっただろう。

 しかし前者ならば、その部位を破壊、或いは封じ込めばそれで事足りる。

 手、足、翼、角、そして口。どの部位であっても、封じる策は練っていた。

 

 

 

 敵の攻撃手段を絞った今、対極竜戦は次の段階に移行する。

 それはすなわち、トムとの約束。

 『可能な限り早く尻尾を破壊する』こと。

 これでようやく、フォルテスラは約束を果たすために動ける。

 

「行くぞ、極竜!」

 

 単騎にて、フォルテスラが【グローリア】に向かい突撃する。

 <超級>に至らない準<超級>(格下)の攻撃に、余裕を持って尻尾で迎撃する竜。

 全身のバネをフルで使った鞭の様な一撃をフォルテスラは躱し、しかし剣は尾に激突し、砕け散る。

 武器を失ったフォルテスラは、しかし柄を握ったまま笑う。

 

「ここからだ―――《超克を果たす者(ネイリング)》!」

 

 瞬間、必殺スキルの宣言と共に、刀身が光によって再構成される。

 より鋭く、より強靭に。輝きに満ちた刃へと。

 

「《オーヴァー・エッジ》」

 

 新たなスキルを加え、二mとない刀身をその十倍近くまで延長する。

 尾の付け根辺りを狙い、()()()()()()()()()()()()()

 

 うっすらと血を流させることが限界だった竜の防御力を、明らかに無視した斬撃。

 竜もたまらず叫び声をあげ、驚きを示す。

 これこそが《超克を果たす者(ネイリング)》の効果だ。

 

 刀身の強化はあくまで副次効果。

 その本質は、"敵の凌駕"にある。

 ネイリングを破壊した敵の攻撃力を自身の防御力に、防御力を自身の攻撃力に、

 AGI(速度)を自身のAGIに加算する。

 これにより、フォルテスラの攻撃は敵に防御出来ず、敵の物理攻撃の威力を無効化。

 速度も敵より速いため、逃げ出しても必ず追いつく。

 "凌駕剣"と呼ばれた男の切り札であり、強者殺しの特化技能。

 

 それは此度も有効に作用していたが、それだけで勝てるとは思っていない。

 それに約束もまだ果たされたとは言い難い。

 『微塵に切り刻む』のが本来の条件だったのだから。

 

「ライザー!!」

 

『《ライザァァーーーキィィッック》!!!』

 

 先程叫べなかった鬱憤を晴らすように大声で、ライザーが蹴りを放つ。

 その対象は斬られ宙に浮いていた尻尾。

 蹴り飛ばされた尾は、剣を突き刺したフォルテスラを連れ、竜頭の傍にまで一息で移動した。

 

(射程内の首は"二本角"か、悪くない)

 

 三頭竜の頭のうち、未だ能力が謎に包まれている"二本角"と"三本角"。

 結界を張る能力を持つのは戦闘開始から眼を開いている左の"二本角"か、戦闘開始からピクリとも動かない中央の"三本角"か。

 どちらとも言えないが、直感的に二本目が怪しいとフォルテスラは睨んでいた。

 まだ驚きから立ち直っていない段階の攻撃を、尻尾だけで済ませるつもりは毛頭ない。

 

「ここで、纏めて切り刻む!」

 

 光の刃を更に拡張し、尻尾の上で構える。

 放たれるは超級職、【剣王】の奥義にしてフォルテスラの持つ最強の攻撃スキル。

 音の十倍での連続斬撃により周囲全てを斬断する超剣技。

 

「―――《ソード・アヴァランチ》!!」

 

 強化されたAGIは飛行中の物体を走り回ることさえ可能にする。

 尻尾の上を走りながら足元の肉を先から根本まで乱切りに刻み、その過程で延長した刃が他の首にも深い傷を付ける。

 体力と気力(SP)を激しく消費する連撃は、確かに尻尾(第四頭部)を破壊し、【グローリア】の長い首に深い切り傷を負わせてみせた。

 ただし狙いの"二本角"ではなく、斬撃に文字通り()()()()()()()()()"()()()"()

 

「なんだと!?」

 

 驚くフォルテスラを、【グローリア】は嘲笑う。

 口からブレスが吐けないのなら、喉を割いて放出すればいい。

 それだけのことだと言わんばかりに、【グローリア】は首に空いた風穴から光のブレスを放出し、辺り一帯を薙ぎ払う。

 

「総員、散開して後退!!」

 

 咄嗟の指示を待つまでもなく、全員瞬時に【グローリア】から離れている。

 だが足場を破壊し空中に浮くフォルテスラは、逃走が間に合わない。

 

 フォルテスラの視界は極光に包まれ、体は光の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 ボロボロになったフォルテスラに、声を掛ける女性がいた。

 彼の妻であるエーリカだ。しかし、少しだけ若く見える。

 すぐに返事を返そうとするも、思うように体が動かない。

 しばしの時間待つと、体が勝手に返事を返した。

 

「ああ。君は……」

 

「す、すぐに薬を作ります! 任せてください! わたし、これでも【薬師】の見習いですから!」

 

 その言葉を聞き、思い出す。

 これは彼と彼女の最初の記憶。

 この世界に誕生(ログイン)した彼が、偶然見知らぬ女性が野狼に襲われるのを目にした時のこと。

 とっさに庇ったはいいものの、なんのジョブにもついていない弱い体で戦った結果、撃退は出来たが満身創痍になっていた。

 そんな彼を、一生懸命手持ちの薬で癒そうとしてくれた彼女を見て、彼のゲーム(第二の生)は始まったのだ。

 

 そう、これは走馬灯。

 フォルテスラが死ぬ寸前、脳がなんとか過去の記憶を呼び覚まし、致命を回避する方策を探っているのにほかならない。

 ゲームでなにを、と思うことなかれ。

 世界派にしてメイデンのマスターにとって、この世界での死は、体感としては現実の死とそう変わらない。

 

 記憶は進む。

 ジョブに就き、初めてパーティを組んだとき。

 全員が初心者だったから、リアルでスポーツをやっていたフォルテスラが一番活躍した。

 完全ダイブ型VRゲームなんてそんなものだ。

 頼まれたので仲間の動きも指導して、少しはまともにパーティ戦闘が出来た。

 勝った祝いに、酒場で安酒を皆で飲んで、【宿酔】(ふつかよい)で苦しんで。

 

(懐かしいな、それが今じゃ王国第二位のクランとは)

 

 たった一度、パーティを組んでみるだけのつもりだったのに。

 シャルカ、釈天、ライザー、RA-KAN、冷也。今じゃ皆、大事な仲間だ。

 

 初めて<UBM>に挑んだとき。

 隊商を村まで送る依頼をこなした後、姉が<UBM>に攫われたと言い張る男の子に会った。

 本当に<UBM>がいるとは思わなかったが、捜索してみたら森で偶然遭遇した。

 ライザーがヒーローとしては見捨てられないと言い出して、勝てるわけないと言った冷也を押し切って、難易度:八のクエストに挑んだ。

 結局全員もれなく満身創痍、装備もほとんどが壊れたが、なんとか勝てた。

 

(振り返っても、奇跡としか言いようがない勝利だった)

 

 最後の決め手は、エーリカがくれた薬だったか。

 あれで僅かに体力を回復させてなければ、最後の一撃を放てなかっただろう。

 

 初めてクランでクエストをこなしたとき。

 パーティの6人でも大変だったのに、その四倍以上の数を指揮する必要があった。

 なんとかクエストは成功したものの、それ以降は作戦を事前に練ってから戦うことになった。

 最前線で戦闘しながら指揮なんて簡単にできるもんじゃない。

 パターンを構築してからはだいぶ楽になったが、それでも全力で戦う時は一人の方が楽だ。

 でも、皆で戦うのは楽しかった。

 一人では倒せない敵でも、パーティでなら勝利できる。

 パーティではこなせないクエストも、クランでなら成功した。

 

 いろんな考え方のメンバーがいて、それぞれに役割を分担して。

 別々の個性を持つ者が、一つの場所に集まり、同じ方向を向いて共に戦う。

 だからクランの名前を<バビロニア戦闘団>にしたのだ。

 

(『バビロニアでは多様な民族が、都市ごとに共通性を持っていたそうです。

  我々のクランも多くのメンバーを抱える予定ですし、ちょうどいいんじゃないですか?

  クレーミルという都市に皆が愛着を持って、そのために戦えるようなクランが一番です』

  さて、そう言ったのは誰だったかな)

 

 フォルテスラの感慨を置き去りに、記憶の再生は進み続ける。

 

 初めて……プロポーズをしたとき。

 

「俺は<マスター>だ。定期的にあっちに戻る必要がある。

 <マスター>とティアンでは、おそらく子供もできないだろう。

 いつか急に、こっちに来れなくなるかもしれない」

 

「はい」

 

 生真面目にも自分との関係を持つことの欠点を挙げていくフォルテスラ(自分)

 そうすることしか誠意の示し方が分からなかった。

 でも、そんな不器用な彼からエーリカは目をそらさずに、真摯に耳を傾けてくれていて。

 その姿に勇気をもらって、フォルテスラは告白の続きを伝えられたのだ。

 

「きっと俺が想像しているより、ずっと多くの困難があると思う。

 それでも俺は、君との未来を選びたい。

 君と一緒に多くの思い出を築いていきたい。

 どうかこの願いを聞き届けてくれないだろうか」

 

「バカですね」

 

「むっ」

 

 鼻白むフォルテスラに、笑いかけるエーリカ。

 微笑む彼女の目の端に、うっすらと涙が浮かんでいた。

 

「最初から、そんなの全部わかってます。

 もっと他に、言うべきことがあるんじゃないですか?」

 

「……ああ、そうか」

 

 大事なセリフを忘れていたことに、フォルテスラはようやく気付いた。

 まだ言っていなかった言葉がある。

 情けない自分が嫌になるけど、彼女の前ではせめて格好つけたい。

 胸を張って、顎を引いて。姿勢を正して、口にした。

 

「愛している、エーリカ。俺と結婚してくれ」

 

「……はい、喜んで」 

 

 

 

 そして最後に、決戦に挑む前の記憶が流れ出す。

 ネイリングにも外してもらい、夫婦二人で語り合った時のこと。

 

「人はいつか、必ず別れの時が来るものです。

 それが望んだものであれ、望まぬものであれ」

 

 【薬師】として生きるということ。

 それは、人の死に目に立ち会うということでもある。

 末期にたった一人で死んでいく人。

 一生の悔いを最期に解消して亡くなった人。

 大家族に囲まれて、眠るように息を引き取った人。

 いろんな人の死にざまを見てきた。

 だからこそ、彼女は思う。

 

「わたしは最後の一瞬まで自分らしく生きると決めました。

 そしてわたしは【薬師】です。

 この街から動けない人達のためにも離れるわけにはいきません」

 

 妻は、自分を避難させようとした夫の言葉をはねのけた。

 

「今回の戦いは負けるかもしれない、じゃない。

 負ける可能性が高いから言ってるんだ。

 ……君がここで死ぬより、長生きした方が救える患者の数は多い。

 【薬師】として生きるなら、より人を救える方を選ぶべきじゃないのか」

 

 フォルテスラは妻に生きていて欲しいという願いから言葉を紡ぐ。

 エーリカは自身の覚悟から、そして夫への信頼からその願いを拒絶する。

 二人はどこまでも平行線で、たいてい夫が折れる形で話はまとまる。

 だが今回、フォルテスラはかなり粘っていた。

 トムから【グローリア】の情報を聞き、その強さを類推したからだろうか。

 少なくとも、本来の聞かなかった場合よりは頑張っている。

 

「頼む。俺は君に生きていて欲しいんだ。

 たとえホームタウンが失われても、君がいればまたやりなおせる。

 クランオーナーとして不甲斐ないことを言ってるのはわかっている。それでも俺は……」

 

 フォルテスラからすれば、妻エーリカの存在は全てと言っていい。

 実際には妻が失われても、クランメンバーも、王国第二位の闘士という地位も消えはしない。

 しかしその全てと妻を天秤にかければ、悩んだ末に妻を選ぶだろう。

 それほどまでに、フォルテスラはエーリカを愛していた。

 

「信じられませんか、自分が」

 

「ああ。未来ならともかく、現在の俺にそこまでの力はない。

 <超級>のフィガロどころか準<超級>のトムにも勝てていないんだ。

 その<超級>が束になってかかるべき<SUBM>相手に、信じるなんてできるものか」

 

 正直な内心を吐露するフォルテスラを、エーリカは聖母の如く見つめている。

 そしてよほどフォルテスラが不安に思えたのか。

 彼の不安を消すために、予想外のことを言い出した。

 

「じゃあ、クランを、メンバーを信じてみたらどうですか?」

 

「メンバーを……?」

 

 バビロニア戦闘団に、一対一でフォルテスラ以上の者は存在しない。

 無論普段なら信頼できる強さと連携能力はあるが、それでも<SUBM>相手には心もとない。

 一見思いつきで適当なことを言っているようにも思えるが、自分の妻がそんな人間じゃないことはフォルテスラが一番知っている。

 

「確かに彼らは圧倒的な力を持ちません。連携込みでも月世の会には及ばないかもしれません。

 それでも彼らは、あなたが思うよりずっと()()と思いますよ?」

 

「そう、だろうか」

 

「ええ。だってあなたの仲間なんですから」

 

 【グローリア】ほどの強敵相手に、彼らの強さが通じるのか。

 通じるかもしれないし、通じないかもしれない。

 その確率は十回に一回か、百回に一回か。

 だが、妻がそこまで言うなら信じてみようと彼は思った。

 

「わたしは誰より、あなたのことを信じています。

 あなた自身も、あなたの仲間も。

 あなたが揺らがなければ、きっと奇跡だって起こせますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして視界は元に戻る。

 光のブレスが輝き、放射されている。

 口ではなく喉から発射されているからか、拡散しているブレスは本来のものより少し薄い。

 それでもフォルテスラを蒸発させるにはまばたき二回分の時間があれば十分だ。

 

(揺らぐな、か)

 

 その一瞬で過去を想起したフォルテスラは決意を固める。

 決して揺らがず、勝利を信じて戦うと。

 

 空中で足場を失ったフォルテスラに、死ぬ(デスペナ)前にできる行動は無い。

 決意では奇跡を起こせない。

 奇跡を起こすのに必要なものは覚悟だ。

 そう、たとえば―――"大事なものの喪失を怖れず、より大切なものを守る覚悟"。

 この戦場には丁度、そんな覚悟(強さ)を持つ者が一人いる。

 

『【ヴァルカン・エア】フルブースト―――《ライザァキィィック》!!』

 

 自身の装甲型エンブリオ(ヒーロースーツ)の上に更に強化装備を纏い、マスクド・ライザーは天を翔ける。

 超音速のその先へ。超加速したライザーは光の中へ突入する。

 フォルテスラが蒸発するより一呼吸速く、()()()()()()()()()()()()

 そのまま足に引っ掛けて突き進み、瞬時にブレスを脱出した。

 

『大丈夫ですか、オーナー』

 

 【グローリア】の首を狙うより、位置関係的に近いが故の味方への特攻。

 事前に使っていた《超克を果たす者》により、フォルテスラの防御力が自身の攻撃力を上回っているのを理解しての一撃。

 とはいえそれでも味方に攻撃するのは並大抵の覚悟ではできない。

 仲間への攻撃。自らの死。

 一瞬でも迷っていたら間に合わなかっただろう。

 救助を見事に成功させたのは、まさに覚悟の強さと言うほか無い。

 しかも、本来ならある迷いはもう一つあった。

 

「お前こそ大丈夫か、その装備は壊れれば修復が効かないだろう」

 

『大丈夫です』

 

 人生初のMVP特典素材で出来た鎧。

 それがライザーの【ヴァルカン・エア】だ。

 通常の特典武具と違い、完全に壊れてしまえば戻らないその鎧を着て光の中に突入する。

 誰でも迷いが生じるはずのことだ。

 それでも、仲間を守るため、クレーミルに住む彼の鎧を作ってくれた職人達を守るため。

 "壊れるものだからこそ良い"と誓った自分自身を、ライザーは決して裏切らなかった。

 

「そうだ、シャルカは無事か?

 あいつは後衛、この攻撃を避けられるほどのAGIはないはずだ」

 

 結界内戦闘者唯一の後衛にしてバッファーを失えば、勝率は大きく下がる。

 マスターが死ぬことでラフムが消えれば、【グローリア】の口も解放されるだろう。

 

『ちょっと前から俺のヘルモーズのバイク部分を渡してます。

 必殺スキルのクールタイム中ですし、今はサブオーナーの機動力を確保した方が良いかなと』

 

「そうか、助かった。……あいつバイクの運転できたか?」

 

『ラフムで姿勢制御して、ひたすらアクセルふかしてるようです』

 

 ちょうどその瞬間、【グローリア】から離れてしばしの休憩をとる二人の間に走り込んできた。

 口枷からラフムを少量回収し、タイヤに絡めて摩擦の減少と衝撃の緩和を同時に行っている。

 肉体にも付け、空気抵抗の減少と体の固定もすませていた。

 

「とっさの思いつきにしては出来が良いな」

 

『前から興味があったみたいで』

 

「とーまーれーなーいー!!」

 

『あ、ブレーキの使い方教え忘れました』

 

「まあいいだろう。なんとか最低限の制御は出来ているようだ」

 

 全速力のトップギアで結界内を回っているシャルカ。

 絶叫マシーンにでも乗っているかのようなありさまだが、こころなしか楽しそうにも見える。

 通信アイテムでなるべく離れているよう告げ、放置することにした。

 

「喉からのブレスの詳細は?」

 

『威力は若干落ちますが、十分な熱量はあります。

 神話級金属を投げ込んだところ、数秒かかりましたが完全に溶けました。

 どうも射程が落ちているようなのが救いですね』

 

 今は他の面々が全力で抑え込んでいるが、じき限界が来るだろう。

 抑えきれなくなる前に首を落とす必要がある。

 フォルテスラを警戒している今の【グローリア】の首を落とすのは難題だが、それしかない。

 それは【グローリア】もわかっていた。

 

「おい、誰か止めろ!?」

 

「あいつ、また空に!」

 

 ライザーが全力を使った休息中(クールタイム)に空へ飛んだ。

 他のメンバーの妨害も、ブレスの牽制で弱め、傷を厭わず羽ばたくのを止めない。

 フォルテスラも止めようと走り出すが、目の前をブレスが横切り、動きを妨げる。

 

「くっ」

 

 間に合わない。

 この状況で飛ばれては、最も危惧した"空中からの遠距離攻撃"が実現してしまう。

 射程が落ちた分、矢が当たらないほどの長距離ではないが、それでも近接攻撃は届かない。

 敗北は確定する。

 バビロニア戦闘団に、この瞬間に打てる手はもうない。

 

 だから、この危機を打開するのは彼らではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数秒前、結界の外部五百m程の地点にて。

 

「まだ戦いは続いているようです。準備はできておられますか」

 

「加速させ過ぎ、とは言えませんね。君の乱暴な運転もたまには役に立つものです」

 

 空中を走る機械に相乗りする二人の男がいた。

 

 戦闘団が上げた狼煙は非常に高くたなびいた。

 王都からでも見えるほどに。

 故にこれは運命ではなく必然だ。

 

「【雷霆】、全速!」

 

「演算と軌道はこちらで補助します。【黄金之雷霆】よ、どうか存分に」

 

『任せよ』

 

 躊躇うことなく、二人と一騎は結界内に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天に座す三頭竜が嗤い、見守る騎士団が悲嘆の声を上げ、戦闘団が諦めかける。

 フォルテスラは諦めない。

 

「まだだ!」

 

 奇跡を起こしてでも現状を打破する、そんな彼の想いは実らない。

 だってもう、奇跡は起っているのだ。誰にも見えない【グローリア】の背後で。

 

「《セレスティアル・ブレイク》!!!」

 

「――《恒星(フィックスド・スター)》、"二連:開放"」

 

 空に浮かぶ三極竜のさらに上から、黄金の光が飛来した。

 

 天使のように美しい剣閃が竜の翼を切り落とす。

 バランスを崩した竜に、星の如く輝く二発の炎球が直撃する。

 鱗を燃やし肉を焼き、収束した熱量を開放することで熱風を生み、再び竜を地に叩き落とした。

 

「"()()()()()()"だと? おいおいありゃまさか」

 

「じゃあ後ろに乗ってるのはもしかして……!」

 

「王都から駆け付けたってのか。まだ戦闘開始から数分しか経ってないんだぞ!?」

 

 この世界に、黄金で出来た機械の馬といえば一つしか存在しない。

 【黄金之雷霆(ゴルド・サンダー)】。王国の至宝にして現王国騎士団長の愛馬。

 王族を除き、その背に跨ることを許されているのは王国広しといえども僅か二人。

 

「【天騎士】、【大賢者】、来てくれたのか……」

 

 王国最高の魔術師、【大賢者】。

 王国最強の騎士、【天騎士】ラングレイ。

 王国ティアン最強の二人が今、戦場に参入した。

 

「<バビロニア戦闘団>の諸君、ここまでよく戦ってくれた!」

 

「君達の奮闘のお陰で我々は間に合いました」

 

「諸君らは十分戦った。だがあえて聞こう、『まだ戦う力は残っているか』と!」

 

 王国の象徴二人の言葉に、呆気に取られていた戦闘団が呼応する。

 歯を食いしばり、武器を握り締め、天すら揺らすほどの雄叫びを上げる。

 

 その応えに満足した二人はフォルテスラの傍にまで降りてきた。

 最後まで諦めなかった男を見つめ強く頷く。

 

「フォルテスラ君、君の言ったとおりです」

 

「そう、まだだ。我々(王国)はこんなところで終わらない。―――勝つぞ!」

 

「はい!」

 

 新たな役者が加わり、戦場は熱気と激しさを増す。

 人の輝きが強くなればなるほど、三極竜は全力で暴威を振るうだろう。

 勝敗の天秤は未だ怪物に傾いたまま、しかし激しく揺れ動いていた。

 




 これにて集められるだけの戦力がこの戦場に集まりました
 さーてここからが本番ですよー
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