if "双王"   作:おすまし

5 / 6
本日二話目の投稿となります
まだの方は前話からお読みください


EX:MATCH 剣王VS闘技場の王

 □決闘都市ギデオン・中央闘技場

 

 アルター王国南部に位置する決闘都市、ギデオン。

 この都市には、西方三国で最大規模の闘技場施設が存在する。

 ここ中央闘技場は、それらの施設で最大の闘技場だ。

 

 今日ここで起こるのは、<()()()()>。

 

 つい先日トムを下し、新たに決闘ランキング二位となった【剣王】フォルテスラ。

 決闘ランキング一位、"決闘王者"として君臨する【超闘士】フィガロ。

 

 二人が全力で戦う、ランク戦。

 

 公式試合初の<超級>同士の試合に、闘技場は満員御礼。

 他国から人員輸送系<マスター>に大金を払って駆けつけた者もいるという。

 因縁の二人の勝負がどう転ぶか、開始前から賭けも大盛り上がり。

 胴元のギデオン伯爵のもとには相当な儲けが入るともっぱらの噂だ。

 

『さあ、試合開始十分を切ったァ!』

 

『そろそろ賭けが締め切られます、会場の皆様方は折角の機会、逃すことなく存分に儲けください』

 

『負ける可能性もありますがね!』

 

 会場にはアナウンスが響き渡る。

 <マスター>のアドバイスにより設置された実況と解説役だ。

 観客全般にそれなりに好評を博しており、今回は特典武具を無数に保有するフィガロ、超級武具を得たフォルテスラがいるため、特別に優秀な鑑定能力持ちの解説役を雇ったほど。

 

『オッズはフィガロが1.7倍、フォルテスラが1.6倍とフォルテスラ有利ながら接戦となっております!

 最強のチャンピオンがまさかのオッズ負け、これは如何に!?』

 

『フォルテスラ有利と見られる理由はいくつかあります。

 まず<超級>に進化したばかりでデータがないことがありますね』

 

『しかしフィガロもまた<エンブリオ>の情報は無いのでは!?』

 

『ええ。しかし長年闘ってきたフォルテスラが一切知らないというのは考えにくい。

 そして何より、彼には超級武具があります』

 

 フォルテスラが【グローリア】を倒して得た超級武具。

 他のMVP特典獲得者については『すぐにわかる』と言い明かさなかったそれ。

 トムとの一戦でのみ使用されたそれは、個人戦闘型の大敵たる分身増殖を破るほどの力を持っている。

 

『なるほど、超級武具の分ややフォルテスラが有利と言う訳ですかァ!

 とはいえフィガロも<エンブリオ>を隠したまま闘技場の天辺へ至った猛者。激戦になるのは間違いないでしょう!!』

 

 彼らの話には二つほどの瑕疵がある。

 フィガロは<エンブリオ>を隠し使ってこなかったのではなく、使った上で誰も気づかなかったのだということ。

 体内収納される心臓置換型、そして装備強化能力が【超闘士】の能力と誤解されていることがあり、極一部にしか知られていない事実。

 

 そしてここまで読んできた読者ならば知っている、今は二人しか知らない事実。

 もう一つの超級武具を、誰が持っているのか。

 

 観客の誤解を置き去りに、試合開始時間は刻一刻と近付いていく。

 そして遂に、その時が来た。

 

『会場の皆様ァ! 長らくお待たせいたしましたァ、これより本日のメインイベンツを開始致しまァッすゥ!!』

 

 開始の宣言を聞き、立っていた者が慌てて席に着く。

 会場が静まり返り、両選手の入場を待つ。

 

 

 

『東ィ! 挑戦者、決闘ランキング二位ィ!

 <SUBM>を倒し、【猫神(ザ・リンクス)】トムを破り、破竹の快進撃を続ける新鋭の<超級>にして古参の闘士ィ!

 折れても止まらぬその剣は、今日こそ最強に届くのかァ!!

 "凌駕剣"【剣王(キング・オブ・ソード)】フォルテスラァァァッッ!!』

 

 スポットライトが門を照らし、音楽が流れ出す。

 誰より何より、愛する者を守る。そんな強い希望と愛の歌が。

 濛々とスモークが焚かれる中、フォルテスラが現れた。

 

 その姿にはこれといった変化はない。

 しかし纏う空気は、これまで以上に研ぎ澄まされていた。

 歓声を上げようとしていた観客が一斉に黙るほどに。

 引き締まった顔に瞳は強く、対面の門を睨みつける。

 特典武具を手に入れ、この舞台へと上がった。

 今こそ約束を果たす時だと、フィガロの登場を待つ。

 

 

『西ィ! 防衛者、決闘ランキング一位ィ!

 誰よりも早く闘技場に君臨していた【猫神】を倒し、決闘王者(チャンピオン)の座についた男ォ!

 孤高にして最強、絶対の闘士が、今日も勝利を魅せてくれるのかァ!!

 "無限連鎖"【超闘士(オーヴァー・グラディエーター)】フィガロォォォォッッッ!!』

 

 どれほど傷ついても、己の力を信じて闘う。

 強い闘志を感じさせる曲とともに、フィガロが闘技場に姿を現した。

 登場とともに、大歓声がフィガロを迎える。

 

 こちらは普段と同様に、柔和な雰囲気を纏っていた。

 だが、普段は優し気な微笑みを作る口は……狂気を感じさせるほどの笑みをたたえている。

 彼がどれだけ、この日を待ちわびたことか。

 或いは挑戦者であるフォルテスラよりも、彼はこの時を待ち、備えてきた。

 全ては、この場に立った己の好敵手(ライバル)に勝つために。

 

 

 

 両者が向かい合い、準備は整った。

 結界が起動し、二人を包み込む。

 

『それではァ! メインイベント―――試合開始ィィッッ!!』

 

 開始の合図を受け……両者、動かなかった。

 観客が戸惑う中、フォルテスラがネイリングをしまい、新たな剣を出す。

 

『おおっとこれはァ……どういうことでしょう!?

 フォルテスラが出したのは、この勝負には不似合いな性能の武器です!』

 

 出された剣は形こそネイリングとそっくりだが、性能は十分の一もないものだった。

 ちょうど、第二形態の<エンブリオ>と同じくらいだろうか。

 謎の行動に実況も解説も混乱を隠しきれない。

 

『スロースターター、時間とともに技の冴えを増すフィガロを相手にして、フォルテスラがするのは速攻以外ないと思われていましたが……』

 

『まさか、決闘王者相手に"これで十分だ"とでも言うつもりなのでしょうかァ!』

 

『フォルテスラはそんな挑発を行う性格でもないはず。超級進化で得た能力が関係しているのでしょうか』

 

 実況、解説、そのどちらもが的を外している。

 フォルテスラの意図に一人気付いたのか、フィガロも小さくふき出し武器を変えた。

 

『あれは、店売りの【ブレイズアックス】と【スティールソード】!?

 フィガロが挑発に乗ったということかァ!!』

 

『いや待てよ……【ブレイズアックス】って、まさか』

 

 解説が何かに気付く前に、二人が激突を開始した。

 高いSTRで振るわれ、二人の武器は一撃で破壊される。

 だがすぐさまフォルテスラはアイテムボックスを破壊することで、フィガロは《瞬間装備》を連発することで、新たな武器を取り出し、叩きつけ、何度も破壊する。

 

『何か気付かれたようですが、これは一体どういうことで?』

 

 実況が解説に聞くと、解説はいつの間にやら笑っていた。

 少し遅れて質問を受けたことに気付き、返事をする。

 

『いや、失礼。なるほどなるほど、楽しんでますねぇ』

 

『あの』

 

『フィガロがアルター王国に現れた時、メインウェポンがなんだったかご存知で?』

 

『いやー、流石に覚えてないですねぇ』

 

『【ブレイズアックス】と【スティールソード】。レジェンダリアで手に入れた武具です。

 当然その後、同時期に決闘に参加したフォルテスラと最初に戦った時もそうだった』

 

 フォルテスラが第二形態で、フィガロは第三形態でそれらの装備を使っていた。

 

『フィガロが三番目に出した武器は、確か初めて100位以内に入って戦った時のものです』

 

『言われてみれば、五番目と七番目の武器には見覚えがあるゥ……』

 

 長く決闘を見て来た彼らはうっすらとだが覚えていた。

 かつて特典武具を無数に得るまでフィガロが使っていた装備と、当時のネイリングを再現した武器。

 それらを使い、破壊し、徐々に強い武器へとシフトしていく。

 戦うことで、二人の築いた歴史を辿り、"自分はここまで強くなった"と示すように。

 ぶつかり合う二人の口元には、常に笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 いつしか二人の装備は、最新のものに移り変わっていた。

 何度となく打ち合い、しかし壊れない。

 戦いも激化する。

 武器をぶつけ合う遊びのような振る舞いから、手足や急所を狙う遊びのない剣筋に。

 フォルテスラの口元に浮かんでいた笑みは消え、戦闘開始前の真剣な顔に戻る。

 フィガロの笑みは消えず、しかし感情を読めない薄笑いへと変わる。

 

 決闘が楽しくないわけがない。

 だがそれ以上に、目の前の相手を上回りたい、勝ちたいという真剣な思いの方が強い。

 全力で、全身全霊で、強敵(ライバル)を打ち負かそうとする二人。

 

『おぉーっとここにきて、フィガロの技と戦術が冴え渡るゥ!』

 

 フィガロはオールラウンダー、魔法以外は何でも使う【超闘士】。

 それに対しフォルテスラは剣一本の【剣王】。

 遠中近と武器を換装し間合いを突き放すフィガロ。

 剣で斬りつけ、槍で突き、弓で射り、徐々に距離を離していく。

 その全てが特典武具。特殊なスキルが乗っている強力な攻撃。

 一流の前衛でもたちまち倒れる怒涛の連撃だ。

 

 だが、フォルテスラも負けてはいない。

 斬撃を剣で流し、突きを払い、矢を叩き落す。

 剣一筋で戦ってきたからこその技の冴え。

 全てが一流のフィガロに対しても、剣にかけては勝っている。

 

「《オーヴァー・エッジ》!」

 

 そしてフォルテスラにはこれがある。

 フォルテスラの伸ばした剣が、距離を取って弓を構えていたフィガロを襲う。

 進化に伴い、伸ばせる距離も、伸びる速度も超上昇した。

 フィガロの射撃にも劣らぬ速度で、斬撃拡張は機能する。

 弓の弦を切り裂き、頬に一筋の傷を付けた。

 

「っ、ははっ」

 

 傷がついたというのに、フィガロは一瞬楽しそうに笑う。

 フォルテスラは今の自分と戦い、互角にやりあえる存在なのだと。

 それが確かに証明されたことが、なによりも嬉しくて。

 

「フォルテスラ!!」

 

「フィガロォ!!」

 

 互角の戦いは、長期戦の様相を呈し始めた。

 

 

 

『凄まじい戦い、両者一歩も譲らないィ!』

 

『いい戦いです。しかしこうなると、フォルテスラは若干不利ですね』

 

『フィガロは時間とともに強くなる、この状況が続くのもいつまでのことかァ!!』

 

 戦いが長引けば長引くほど、フィガロの力は増す。

 解説の通り、徐々にフィガロが押し始める。

 だが、フィガロは安易には攻め込まない。

 

『フィガロが気を付けて戦っている! これは珍しいぞォ!』

 

『必殺スキルか、或いはトムを倒した必殺コンボを警戒しているのでしょう』

 

 【ネイリング】の必殺スキル、《超克を果たす者》。

 剣が折れることを条件とするスキルに対し、下手に攻撃力を上げた一撃を叩き込むのは下策。

 攻めるには十分に装備補正を上昇させてからでなくては危険だ。

 ステータスが上回られるのは、複数の特典武具等で無数のスキルを持つフィガロにとっても厄介なのは間違いない。

 防御させない速度の一撃で勝負を決める必要がある。

 

 加え、今のフォルテスラには切り札がもう一つ。

 超級武具が残っている。

 トムとの試合で使われたが、対等な条件で戦いたかったフィガロはその試合を見ていない。

 故に効果は分からないが、強力なスキルであるのは確か。

 

 一気呵成に攻め込まず、様子を見ていたフィガロだったが……十分な強化値が溜まったと判断したのか、全力で動き出す。

 

「ッ!」

 

 【超闘士】の《瞬間装備》にはタイムラグもクールタイムもない。

 持っていた剣が槍に、槍が斧に、斧が短剣に、次々リーチを変え、フォルテスラを襲う。

 フォルテスラもまた剣の長さを変え回避を強いることで対処するが、徐々に押し込まれる。

 既にフィガロの装備は速度(AGI)優先に変更済み。フィガロの攻撃の方が速い。

 技量の差で武器自体は抑え込めても、斧の纏う風、槍の放つ振動波のようなスキル攻撃までは封殺できなくなってきた。

 攻撃が肉を傷付け、血が花のように空を舞い散る。

 明確に、フォルテスラが押されている。

 

 フィガロの目にはフォルテスラへの信頼がある。

 『こんなところでは終わらないだろう?』と問いかけるような瞳に、フォルテスラは何も返さない。

 ただ、押されるままに全力で戦い、一方的に攻撃を受け続ける。

 その果てに、()()()()()()()()()()()()()()

 

 代わりにフィガロの腹にも大きな刺し傷が出来たが、等価とはとても言えない。

 身代わりの武具を使うわけでもなく、確かに光の塵と変わる。

 そんな姿を見て、フィガロの目は失望に彩られて……いなかった。

 最初から最後まで、その目には信頼と期待のみがある。

 

 そして会場も、終わったと思っているものはごくわずか。

 ここからの逆転劇を、闘技場の観客達は既に一度見ているのだから。

 

『これは、()()()!!』

 

『前二位【猫神】トムを破った必殺コンボッ……!!』

 

 フォルテスラは光の塵と化し……最後まで残った胸のアクセサリーが光った。

 光は舞う光塵を収束させ、()()()()()()()()()()

 元通り、いや元とは違い傷が完治した状況で帰還する。

 

「お前を相手に油断を誘うのは無理があったか」

 

 或いは、フィガロと言えども実際に死ねば僅かでも失望し、油断するかとも思ったが。

 フォルテスラの想像よりも遥かに、フィガロはフォルテスラを信じていた。

 その事実に大きな喜びを感じながら、復活直後に【剣王】の奥義を発動する。

 

「《オーヴァー・エッジ》―――《ソード・アヴァランチ》」

 

 超超音速の斬撃がフィガロを襲う。

 音の十倍近い斬撃に対し、フィガロは纏うロングコートの装備スキルを発動させた。

 球状のバリアに身を包み、攻撃の無効化を選択する。

 その威力と速度で腕に反動を残し、連発不可能な奥義に対して最適な行動。

 そう、相手が蘇生前までのフォルテスラならば、正しかった。

 

 フィガロは装備スキルで短時間ながら完全防御を成し遂げ、怒涛の連撃を防ぎ切った。

 絶対の壁に剣を叩きつけたことで剣が折れ、フォルテスラの《超克を果たす者》が発動してしまうが、問題は無い。

 反動で腕が動かせない相手に、フィガロの逆襲が始まる。

 その前に。

 フィガロの目に、()()()()()()()()()()()()()()、二発目を放とうとするフォルテスラの姿が映った。

 

 再びの連撃が、フィガロを襲う。

 クールタイムが長い完全防御は、今どころかこの試合中に二度と使えない。

 このままなら、フィガロが防御ごと切り捨てられ終わりだ。

 

 

 

 さて、その前に、何故連撃が成立したのかを語ろう。

 結論から言えば、討伐後新たに得たジョブ【殿兵】と、フォルテスラが手に入れた超級武具【讐譚帰還 グローリアΦ】の効果だ。

 

 【讐譚帰還 グローリアΦ】の効果(スキル)は二つ。

 一つ目は、"四本角(尻尾)"の《既死改生》から生まれた効果。

 『HPが1%以下となった時体を(リソース)に戻し、一瞬のちHPを一%にまで回復させ、記録した状態で蘇らせる』能力。

 これに組み合わせたのが【殿兵(リア・ソルジャー)】の《ラスト・スタンド》。

 致命傷でもHPが1残り、5秒間の生存を確約するスキルだ。

 この二つのスキルによってフォルテスラはどんな攻撃を受けても生存し、肉体を傷のない状態に戻してから戦闘に復帰できる。

 強敵相手に《超克を果たす者》を使った時に記録を更新すれば、いつでも当時のスペックで復活可能。

 まさしく、既に終わった逆襲譚を帰還させるスキルと呼べるだろう。

 

 そして二つ目は、"三本角"の《起死回生》から生まれた能力。

 その効果は『減少したHPが一定量を上回った時、最終ステータスを倍化させる』もの。

 こちらは一つ目ほど使い勝手が良くはなく、HP総量の半分を失ってやっと二倍。

 だが、九十九%を失っていれば。

 その効果は、超級武具に相応しい倍率にまで上昇する。

 

 一万程度のステータスで十倍の速度を発揮すれば、当然負荷は相当なもの。

 だが、例えば五万のステータスで二倍の速度を発揮するのなら。

 その負荷は五分の一以下。当然連発も可能という訳だ。

 

 トムを倒した時も、このコンボで葬り去った。

 《超克を果たす者》でトムの能力を加算し、しかし八体相手に倒し切れず致命傷を受ける。

 その瞬間に復活し、数倍化した能力で放つ射程を拡張した《ソード・アヴァランチ》の連撃が会場を埋め尽くし、見事復活前に殺し切った。

 

 二つの効果が合わさることで、復讐者が帰還し、逆襲譚が帰還する。

 単体でも超級武具として悪くないスキルが、複合すればどうなるか。

 その結果がトムの敗北であり、フィガロが今直面している危機だ。

 今、決闘王者は絶対の窮地に追いやられていた。

 

 

 

 

 

 フィガロが<エンブリオ>の秘奥、必殺スキルを得たのは、決闘王者となってから。

 <超級エンブリオ>に進化したことで得るというままある経緯だ。

 決闘と相性のいいそのスキルを、しかしフィガロは秘することに決めた。

 どんな強大な敵相手でも、決闘では使わないと。

 最高の好敵手(フォルテスラ)との決闘のためにとっておこうと。

 いつか必ず訪れる、トムを倒したフォルテスラが、自分に挑みに来るときのために。

 

 フィガロは待った。

 ずっと、何があろうと信じて待っていた。

 待ちに待って……【グローリア】の事件を超えて、ついに二人が直接戦う日が来た。

 

 

 

 ゆえに……今。

 この瞬間にこそ。

 この決闘にこそ。

 

 ――フィガロは己の力を解禁する。

 

 

 

「《燃え上がれ、我が魂(コル・レオニス)》―――《アクセラレイション》!!」

 

 指に嵌っていた指輪が砕け、そのAGIを強化するスキルがさらに強化され発動する。

 

 《燃え上がれ、我が魂》の効果は至極単純。

 武器の完全破壊・完全消滅を代償として、アクティブスキルの効果を極限まで高める。

 必殺スキルの効果時間中(三十秒間)は何度でもこの効果は発動でき、連続使用も可。

 しかし効果時間中、HPの上限が削れ、炎の如く燃え滾る血が体内からフィガロを焼く。

 まさに諸刃の剣。しかしフォルテスラの刃にも対抗し得る剣だ。

 

 AGIを上げたところで、フォルテスラには何の意味もない、こともない。

 確かに上昇値の加算は働いているが、今の彼はアクティブスキルの使用中。

 所有者のAGI以上の速度をもたらす剣撃は、逆に言えばAGIが上がっても速度は変わらないということでもある。

 この一瞬に限り速度で上回ったフィガロは、雪崩の如き斬撃を辛うじて回避する。

 

 だが、それも長くは続かない。

 フォルテスラの《超克を果たす者》が加算する値は、攻撃力・防御力・AGI。

 攻撃力や防御力は【グローリアΦ】の効果では倍加されないが、A()G()I()()()()()()()

 スキル終了後のフォルテスラは、フィガロが出した超超音速以上の速度を更に数倍化して使えるようになってしまう。

 その差は歴然。いくらアクティブスキルを使おうと、当たらないのでは意味がない。

 フィガロは依然、追い詰められたままだ。

 

 だからフィガロは、重ねて切り札を切る。

 《ソード・アヴァランチ》の終わり際、《瞬間装備》で新たな武器を取り出した。

 取り出しただけで発せられた、圧倒的な存在感が、会場の目を引き付ける。

 

『鑑定できない!? まさかあれがフィガロの<超級エンブリオ>なのかァ!!』

 

『いえ、違う。あれは……()()()()です!!!』

 

 会場がざわめいた。

 超級武具を持つということは、フィガロが<SUBM>討伐者の片割れだということ。

 それは二つの意味を持つ。

 

 一つ目は、フォルテスラの言葉の真意。

 『すぐにわかる』という言葉は、自身がトムを倒し、フィガロに挑み、その武器を使わせるところまで追いつめるという"宣言"だった。

 一歩間違えれば道化になっていたかもしれない宣言を、堂々と人々の前で言ってのけた胆力と、それを確かに成し遂げた実行力。

 ゆえに会場はフォルテスラを称賛する思いで溢れた。

 

 二つ目は、()()()()()()

 フォルテスラが有利と見られたことの多くは、"フォルテスラの超級武具"にある。

 超級職。<超級エンブリオ>。一年以上の決闘経験。

 どれも両者が共に持っているものであり、そこに明確な差はない。

 その上で、フォルテスラには超級武具がある。

 その分の優位が彼の勝利を信じさせ、実際にフィガロを追い詰めてみせた。

 しかし、フィガロも同じ超級武具を持っているのならば。

 勝敗は完全に未知の領域へと突入する。

 

 フィガロが持つ超級武具の銘は【極死竜眼剣 グローリアΩ】。

 形状はブロードソード。外見は単眼が刀身に埋まっている以外は普通の剣。

 "一本角"と"二本角"の能力より生まれた力を備えた武具であり、特殊性とサポート能力に特化した【グローリアΦ】に対し、基本的には非常に高い攻撃力を持つただの武器だ。

 フィガロ以外が握れば、と但し書きが付くのだが。

 

 

 

「決着を付けよう、フォルテスラ。次の一撃で最後にする」

 

「……いいだろう」

 

 フォルテスラには、持久戦を選ぶ方法もあった。

 時間によりフィガロのスキルの威力は上がるが、必殺スキルを使い続ける限りHPもまた減り続ける。

 AGIで大幅に上回る彼なら勝率は高い。

 それでも、親友との、好敵手との頂上決戦をそんな方法で終わらせるのは憚られる。

 そんな思いが、彼に回避ではなく迎撃を選択させた。

 

 或いは、決着を決めたのはそのフォルテスラの誇りと友情の示し方だったのかもしれない。

 

「《燃え上がれ、我が魂(コル・レオニス)》―――《極竜光牙斬(ファング・オブ・グローリア)終極(オーヴァードライブ)》」

 

「……」

 

 フィガロは己の全てで挑む。

 右手に握るは、己の最強を更に強化した、三極竜のブレス以上の熱がこもった光剣。

 フォルテスラは総身の力をただ発揮する。

 両手に握るは、既に最大限に強化されているが故に、ただただ強い光剣。

 二人は同時に構え、同時に動き出す。

 感慨、期待、友情。全てを投げ捨て、勝利だけを望んで。

 

「フォォルテスラァァァッ!!!」

 

「来い、フィガロォォッ!!!」

 

 小細工なしの全力勝負。

 

 フィガロの渾身が、フォルテスラを襲う。

 空に飛び上がり、上空から剣に纏わせた光熱を振り下ろす。

 

 フォルテスラもまたフィガロの待つ空に突貫し、同時に斬撃を切り上げる。

 地から伸びた一刀が天を切らんと突き進む。

 

 ことここにきて、速いのは当然ながらフォルテスラだ。

 《超克を果たす者》が発動している限り、速度で負けるなどありえない。

 光熱は文字通り光速だが、フィガロが剣を振り下ろさない限りは天より落ちない。

 攻撃範囲と威力を引き上げようと、最後に物を言うのはやはり速度。

 

 決着寸前で、思考速度が過剰に加速し、全てがゆっくりと流れる。

 フォルテスラの光剣がフィガロの首の皮膚を切り、しかしフィガロの剣はまだ中途。

 仮に身代わり系の特典武具があろうとも、切り返して再び斬る方が速い。

 剣の勝負において、完全にフォルテスラはフィガロを上回った。

 フォルテスラは勝利を確信する。

 

 だが、フィガロの首に刃が食い込み、半分ほど斬った、その時。

 フォルテスラは、強烈な()()()()を感じ取る。

 フィガロの顔を見ると、死ぬ寸前の彼が口を動かし続けているのが見えた。

 

 その言葉が示すのは、不屈でも、称賛でも、感謝でもなく、()()

 

「《絶死結界(真・絶死結界)》」

 

 

 

 

 

『……決着ッ!! 勝者はなんと、【超闘士】フィガロだァァッ!!!』

 

 勝者を告げるその実況に、観客の反応は鈍い。

 なにしろ二人が速すぎるため過程が認識できず、唯一示された結果が意味不明だったのだから仕方ない。

 

 決着により結界が解け両者が試合開始時の状態に戻る直前、残っていたのは二つ。

 首に大きく切り込みを入れられ、腕をまだ振り下ろしていないフィガロ。

 そして光の塵となったフォルテスラの姿。

 明らかにフォルテスラが勝つ寸前の光景であり、同時に敗北し死亡した光景だ。

 

『これはいったい、どういうことだったのでしょうか!? 解説さん?』

 

 実況が解説を振り向くと、またも解説は質問を聞いていなかったようだった。

 しかし顔にあるのは、最初と同じ笑いではなく、唖然。

 『そんなのありかよ』という驚愕と、『そこまでやるか』という困惑だ。

 解説は呆然としながら、半ば無意識に、解説の仕事を果たそうとする。

 或いは、口にすることで誰かに聞いてほしかったのか。

 

『フィガロの使った《燃え上がれ、我が魂(コル・レオニス)》は、まず間違いなくフィガロの<エンブリオ>のスキルでしょう。形のないルールか、或いは他の何かかもしれませんが』

 

『装備スキルを見通すあなたが言うならほぼ間違いないでしょうね』

 

 超級武具のスキルさえも見通す鑑定能力を持つからこそ雇われたのが今回の解説役。

 肉体に持つ武具のスキルにない以上、ジョブスキルか<エンブリオ>のスキル。

 解説はその知識から、それがジョブスキルの命名法則ではないと見抜いた。

 

『効果は指輪の崩壊を見るに、武器の破壊と共に効果を超上昇させるタイプ。

 問題は、それで何を強化したのかということです』

 

『強化……それは最後の攻防前の発言からして、光を放つスキルなのでは』

 

『そう、我々はそう思いました。おそらくフォルテスラもそう思ったことでしょう。

 "アクティブスキルの発音をすることでスキルを使ったと誤認させる"小細工だとは思わずに。

 ……そして【グローリア】には、500レベル未満を即死させる能力がありました』

 

『ちょ、ちょっと待ってください!? それじゃあまさかッ』

 

 《絶死結界》。

 500レベル未満の人を、絶対に即死させる能力。

 HPの低下とともにレベル上限を上昇させる《真・絶死結界》というスキルもあったが、フィガロの超級武具にはスキルとして組み込まれてはいない。

 その上超級武具のスキルは例外なく劣化する。レベル上限も、100レベルとないだろう。

 フィガロ以外が持っていれば、そうたいしたスキルではない。

 持ち主がフィガロ以外ならば初心者以外には効かないただの武器。

 だが、"装備品の能力を強化する"フィガロが持てば?

 破壊を代償に、極限にまで高めれば?

 

『光剣を強化したと見せかけ、即死スキルを強化する。

 即死の効力が既に上限であれば、強化されるのは効果レベル範囲以外無い。

 おそらくは合計レベル四桁台でさえ余裕で殺せる程に強化し、葬ったのでしょう』

 

『…………嘘でしょう!?!?』

 

 闘技場でなら、決闘なら、終了すれば消滅した装備も代償にした武器も復活する。

 だとしても、超級武具を使い捨てる覚悟。

 あのフィガロ(脳筋)が、そんな小細工をした事実。

 どちらも驚嘆に値するものだが、最も恐ろしいのは結果。

 それはたとえ超級職であろうと、フィガロがその気になれば一息に殺せることを意味する。

 【ブローチ】が禁止されている決闘でならなおさらのこと。

 各国の決闘一位にすら通るだろう。

 決闘は、決闘王者が意地とその真の実力を示して終わったと言える。

 

『しかしフィガロが切り札を使うしかないほど追い詰められていたのも確か。

 <超級>となった【剣王】はそれほどまでに強かった。

 今回は【超闘士】が一枚上手でしたが、次はどう転ぶか私にもわかりません』

 

『【剣王】フォルテスラは今や王国二位! いつでもフィガロに挑める立場!

 これからも二人が決闘大国であるアルター王国を盛り上げてくれることは間違いないッ!!

 次の<超級激突>に、そしてそれ以外の試合にも、どうぞご期待くださいッ!!!』

 

 二人の総括に、観客は万雷の拍手で応える。

 最後の攻防が予想外に終わるアクシデントこそあったものの、解説でその困惑も(ほど)けた。

 今度こそ、惜しみない拍手が、闘士二人の決闘と、実況解説の二人の説明に送られた。

 

 

 

 今回の決闘の感想。次はどうなるか。他に期待できる闘士は誰か。

 観客たちが興奮冷めやらぬ様子で語り合う中、静かに佇む者が一人。

 渾身の決闘に敗北した、フォルテスラだ。

 

(負けちゃったね、団長。……団長?)

 

 ネイリングのかなしげな声が、フォルテスラの脳に響く。

 声を聞きながらも、フォルテスラはうつむいたまま。

 下を向いて、顔は影で見えない。

 

 そんな彼に、トムの制止を振り切って、フィガロが声をかけに来た。

 

「フォルテスラ、いい試合だったね」

 

「ちょ、ちょっとフィガロ。今は止めた方が」

 

 そんなフィガロに、フォルテスラは"笑顔"で言葉を返す。

 

「あのスキル、射程はそう長くはないんだろう?」

 

「バレちゃったか。うん、闘技場を覆うには足りないぐらいさ」

 

「そうか。なあ、フィガロ」

 

「なんだい?」

 

()()()()()()

 

「……いつだって、受けてたつよ。でも、勝つのは僕だ」

 

「ははっ」

 

「ふふっ」

 

 和やかな空気が流れる。

 同時に、決闘に己を懸けている者特有の緊迫感が溢れるが、それもまた日常。

 楽しそうな二人に、トムは少しひいた。

 

 何を隠そう、フォルテスラは悲しんでも悔しんでもいなかった。

 互角の戦いを繰り広げ、決着が僅差だったのがわかっているからだろうか。

 そう、僅差だ。

 もし余裕があったのなら、首に剣が刺さるまで待つ必要はない。

 AGIに数倍の差があったから、真っ向勝負のように見せてなお、発動までに時間がかかった。

 慣れないフェイントを使わせた上で、あと一歩まで追いつめていたのだ。

 

 だから、言える。

 種が割れた以上、次は勝つ、次は勝てると。

 

(或いはこれも、あの戦いを経たからこそか)

 

 絶対に勝てないはずの相手に、一度は凌駕しあと一歩まで追いつめた。

 逃げられ最後の止めを譲ったとはいえ、尻尾を巻いて逃走させたのだ。

 三極竜と凌駕剣の戦いとしては、勝利には違いない。

 あの絶望的な戦いに比べれば、この決闘のなんと勝率のあることか。

 

(だから気にするなネイ、次は必ず勝つさ)

 

(団長……うん、次こそ勝とう!!)

 

 二人の決意は、いずれ確かに実を結ぶ。

 近い未来、先代と当代として、"決闘王者"の座を奪い合う日が来る。

 勝ったり負けたりを繰り返し、『アルター王国に二人の王者あり』と謳われるようになる。

 そんな、素晴らしい、両者が心から望む未来が訪れる。

 

 だが、それはまだ未来の話。

 今はまだ、フォルテスラは挑戦者でしかなく。

 雲一つなく広がる無限の空が、そんな彼を照らしていた。

 




 次回、エピローグ
 作品を完結させるのは初めてなので、少し感慨深いものがあります

 ついでに武具等の軽い設定を置いておきます
 読まなくてもまったく困らないので、気になる方だけどうぞ



・【ネイリング】
 超級進化によりリソースが増えたが、スキルの新造や強化、装備補正の強化など多方面に使用されたためそこまで劇的な効果上昇は無い
 一番効率・効果率が上昇したのは《オーヴァー・エッジ》で、頑張れば一kmクラスの斬撃も可能になった
 作中で描写されている以外の変動は剣の硬度の防御力との同期や《超克を果たす者》による光刃の再構成速度の上昇など
・【讐譚帰還 グローリアΦ】
 装備スキル特化型。超級武具二つ分の能力がある
 本編でだいたい語った通りの性能
 "四本角"由来の能力は普通の<超級>が持つと単に無傷の状態に戻れるだけのエミリーの下位互換スキルだが、フォルテスラのような条件付き強化能力持ちが持つと超便利
 いつでも一番強かった時に戻れるのだからそりゃ強い
 実はフィガロが持った時が最悪で、常に戦闘開始直後に使い更新し続けることで、本来は戦闘終了時にリセットされる強化を延々と加算可能
 そこまでせず、いつでも120倍にできるという使い方でも普通に世界最強を狙える
 今回は討伐貢献率最上位のフォルテスラを優先してアジャストしたため、フィガロの方にはこの能力は行かなかった
 ちなみに、本文中では語感を重視し"蘇生"や"復活"と呼んでいるが、実際には『【殿兵】にてHPが僅かに残り、そこからスキルで肉体をリソースに一度変え、直後に記録しておいた全盛期の状態にして再構成している』ので死んでおらず、闘技場の結界でも敗北・死亡判定とはなっていない・【極死竜眼剣 グローリアΩ】
 およそ原作の【グローリアα】と【グローリアβ】を合わせた性能
 能力もほぼ同じだが、《絶死結界》の範囲は100m前後まで低下
 その分モンスターにも多少は効くようになっている
 地道な時間比例強化でレベル上限を上げる場合、元が100レベル上限でも1000レベル以上を狙うには800秒、13分以上は最低限必要になるのでコスパが悪い

 ちなエピローグも本日投稿します
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。