if "双王" 作:おすまし
まだVSグローリアが終わってないという方は前々話
まだ約束の決闘を見ていないという方は前話からお読みください
□王都アルテア・<月世の会>本拠地
王国の<超級>が一人、【女教皇】扶桑月夜。
容姿端麗。能力優秀。才色兼備の才媛。
王国クランランキング一位<月世の会>のオーナーにして、教祖。
そんなたいした肩書を持つ女性は今、ふてくされていた。
「超級武具逃してー、変な噂立ってー、もうふんだりけったりやわー」
諸事情によりクレーミル防衛に協力しなかった彼女が、失ったものは大きい。
得られるはずだった超級武具を失い、他の<超級>……フィガロとフォルテスラに持っていかれた。
そのせいで、中々面倒なことになっている。
そもそもの元凶は、クレーミル防衛戦前に流れたある一つの噂だった。
「"<月世の会>が無茶な交換条件を突き付けたせいで破談"なんて噂、誰が流したんやろねー」
「王国側が後の交渉を上手くいかせるために流した、と考えるのが自然でしょう」
「おーのーれー」
彼女とて、クレーミルに滅んで欲しくはない人間の一人だ。
彼女はあくまで、ティアンの死を良しとしない上で、自分の願いを叶えるタイプ。
要求が通る上限を見極めギリギリを通すのが得意な彼女が、意図せぬ破談を呼ぶわけがない。
交渉の不成立は、あくまで
それは気にする必要もないほど全く根も葉もない噂だったのである。あくまで、最初は。
「そりゃ討伐には参加するつもりだったわけやし? メンバーには参加決めるまで動いちゃだめやでーぐらいは言うたけど」
「
そう、そのすれ違いが一点。
独自に参加を頼んだフォルテスラと、独自に参加を決めていたシジマ。
しかし結果として、シジマは"扶桑月夜の命で"参加を反故にすることとなった。
彼女たちがその約束について知っていれば、許可もしたかもしれないが……。
現実で忙しかった扶桑月夜と、彼女のサポートに忙しかった執事の月影。
普段<月世の会>の本拠地に住まず独自に家庭を持っているシジマの内々の約束までは知る由もない。
そうして生まれたのが"扶桑月夜が手をまわして参加を取りやめさせた"事実。
否定できない事実が、噂の説得力を増してしまった。
「それでなくても、我々は無理に交渉で優位を保とうとすることが多かったですからね」
「えー、公平な契約やん。うちらも幸せ、向こうも願いが叶って幸せで」
とは言いつつも、後に禍根を残しそうな契約を押し切ってきた過去は多い。
信者を増やした
所属しているメンバーでさえ、八割以上が噂を聞いた段階で『ああ、そうなんだ』と信じてしまう程度には、"ひどい交換条件で交渉決裂"という噂は真実味を持っていた。
しかし、その段階では問題なかったのである。
いつものよくある悪評の一つ。大手宗教団体だ、そういう噂もそれなりにある。
だが、クラン二位の<バビロニア戦闘団>が超級武具を得たことで、沈静化しかけていた噂はさらに枝葉を付けて広がっていた。
『<月世の会>がまた欲張って、しかも失敗したらしいぜ!』
『いつも無理難題ゴリ押してくるから罰が当たったんだよ』
『<バビロニア戦闘団>は無償で協力して超級武具を得た、<月世の会>は余計に何かを得ようとして両方失った』
『まるで正直じいさんと意地悪ばあさんだな』
『かぐや姫ならぬ強欲
『あっ、無理難題を出すのはそっちのパロディだったんですか』
『日頃の行いは大事って話クマー』
『オーナーも<超級>になったし、真のクラン一位は実質<バビロニア戦闘団>だろ』
<月世の会>は一部でそこそこヘイトを買っていた。
それが今回、些細な失敗により爆発した形である。
悪評。不評。罵倒。軽蔑。
単なる悪口もあるが、扶桑月夜にとってはある意味そちらの方がダメージは大きい。
日頃の行いが悪かったのが主要因のため、同情の余地はないのだが。
「取引を止めたいと言い出す商店が少々出てきていますね。様々な手で引き止めてはいますが」
「ぐぬぬぬぬ」
まっとうに治療してきた人々や信者達、長い付き合いの店などは、彼女達の良さを理解している。
金だけの人ではないことも、利益最優先のクランではないことも、よく知っている。
だが、金や利益を容赦なく得る一面も真実のため、否定まではできなかった。
扶桑月夜は八つ当たりの相手を探すが、残念なことに当たれる相手がいない。
特典武具を得たフォルテスラには、理由はどうあれ協力できなかった負い目がある。
フィガロも特典武具を得ていたことがわかったが、失うものがない脳筋相手は危険すぎる。
帰ってきて早々噂を広めているらしい【破壊王】を狙うにも、相性がひたすら悪い。
王国の国教に嫌がらせをしようかとも思ったが、一切数が減っていない以上、分が悪いのはこちらの方であり、これ以上悪評が立てば社会的地位が破滅する。
「しばらくはおとなしく社会貢献でもしておきましょう」
「ぐーぬーぬー!」
発狂し、畳の上を転がり続ける扶桑月夜。
クレーミルが無事のまま戦いが終わったことに一抹の安堵を覚えながらも、この扱いは気に入らないと暴れ続ける。
そんな姿を横目に見て、月影は微笑みながら、茶を入れ始めた。
天下泰平、世はこともなし。
王国も、国教も……しばらくは安心して過ごせそうだった。
□■<天蓋山>
アルター王国北部、<境界山脈>の中央に構える<天蓋山>。
天竜の頂点が住まう山に、今は二匹の竜と二人の
【三極竜 グローリア】の両親を殺し、ある意味事件の引き金を引いた【天竜王】。
投下直後の【グローリア】に殺され、【天竜王】が蘇らせた元【雷竜王】アルクァル。
【天竜王】の長子であり、今は《人化》している【輝竜王】。
そして最後に、人の姿をしているスライムの<マスター>、【犯罪王】ゼクス・ヴュルフェルだ。
『すまぬな、呼んでおいて要件が終わっているのだから』
「いえ、そういうこともあるでしょう」
【天竜王】は、自身の第三子、アルクァルの最期の望みを叶えるため、旧知の【犯罪王】に【グローリア】の討伐を依頼しようと招待した。
準備こそしているが、<バビロニア戦闘団>達では倒せないだろうと見込んでの依頼。
しかし最終的に、彼らは討伐を成し遂げてしまった。
結果的に、出した招待は無駄に終わったというわけである。
ゼクスとしては、無理に討伐に参加する気はなかった。
超級武具が手に入るのは魅力的だが、敗北し死亡すれば行きつく先は"監獄"。
死亡のリスクを犯してまで、<SUBM>と戦う気も特にない。
国と罪が残る結末は決して悪いものではない。
侵入が重罪な山に登ったことで罪も加算されているのだから、時間を無駄にしたわけでもないのだ。
『私にとっては、これ以上被害が出されずに終わったのは次善です。
次はこのようなことがないよう、自分を鍛え上げなければ』
「しかし新たな<超級>とはな。王国も随分戦力が増えてきたものだ」
竜達は思い思いに感想を述べる。
国家所属の四人の<超級>に、うち二人は超級武具を手に入れた。
残り二人もそれぞれ強力な切り札と特殊性を持っている。
"物理最強"を抱える皇国との関係も良好、仮に悪くなったとしてもそう困らない。
しばらくは安定していることだろう。
和やかな時が流れる中、ゼクスには一つ気になることがあった。
(シュウは今頃どうしているでしょうか)
カルディナまで遠征に行ってたばかりに、【グローリア】事件に一切関与できなかった<超級>。
睡眠時間と非ログイン時間を最小限にした結果、勝利を知らずに最後まで全力で帰還し、事件が終わっていたのを聞いた途端街中で泥のように眠りこけたらしい着ぐるみ。
彼の対極、悲劇を許さぬ【破壊王】は、悲劇が片付いた今どうしているのかと。
□決闘都市ギデオン・第三闘技場
「助かるよシュウ。相手になってくれて」
「あまり弱い敵だと練習にならなくてな」
『今回は役に立てなかったからな。これぐらいは任せろワン』
【破壊王】シュウ・スターリング、【剣王】フォルテスラ、【超闘士】フィガロ。
今、彼らは模擬戦の真っ最中だった。
何の模擬戦かといえば、【超闘士】フィガロの集団戦の練習だ。
「やっぱり難しいな……」
「大丈夫、まずは俺が合わせるから、自分の動きをすることを優先しろ」
『協力プレイは一に自分が動き、二で他人を動かし、三で他人に合わせる。
一つ一つ、しっかり学んでけばいいワン!』
他人との連携が苦手な理由はいくつかに分類できる。
自分が悪い動きをすることへの緊張。他人に悪い影響を与えないかの緊張。
他人の動きがわからないことの恐怖。他人の動きにどう合わせればいいかわからない混乱。
その全てを一度に克服しようとしても不可能だ。
幸いフォルテスラは連携戦闘を年単位でやってきたクランのオーナー。
そしてシュウは現実で格闘技など色々なことをやっていた天才。
どちらも初心者に教えるのには慣れている。
「自分の戦闘に集中しろ! 俺を信じて思うように動け!」
フォルテスラとフィガロは長年決闘してきた好敵手。
互いの動きはこれ以上ないほどわかっている。
"自分以外を考えずに動くフィガロ"の思考と戦術に合わせることは、フォルテスラになら可能だった。
少しずつ、少しずつフィガロの動きがマシになる。
連携能力は据え置きのままだが、今はそれでいい。
"集団戦で自分のことだけ考えて戦う"ことができれば、それなりの戦力にはなる。
フィガロほどの、主力として運用可能な戦士ならなおのことだ。
そして"援護された経験"を積むことが、"援護する能力"を上げる最善の方法である。
『どうすればいいかわからない』が『こういう時フォルテスラはこうしてくれた。だからこうしよう』となる。
経験は加算ではなく累乗。一に満たない間の上昇は微々たるものだが、超えればあとは楽なものだ。
一時間も練習を続けた後。
フィガロが単独で戦い、フォルテスラがその援護をするパターンは形になってきた。
三人が円になって座り、休息をとる。
『しっかしフィガ公が俺に協力プレーの相手役を頼むとは。意外だったワン』
「シュウは着ぐるみ一杯持ってるから対多数可能なものもあるかなって」
「俺も意外といえば意外だったな。もう連携は完全に諦めているとばかり思っていた」
「僕もそう思ってたんだけどね」
仲間や知り合いの存在により動きが鈍ってしまう性質。
現実では生まれつき心臓が弱く、人と連携して動くことがなかったことに由来するこれの克服を、一度はフィガロも諦めていた。
それなら一人で戦えばいい、肩を並べなくとも共闘は出来る。
実際、それで結果も出してきた。
「今回、フォルテスラに協力を断られて思ったんだ。
いつも全力で戦えないのも、そのせいで戦うべき場所に立てないのも……嫌だなって」
今回は最終的にはどうにかなった。だが、次回は?
次も同じことができるとは限らない。
街中に突然敵が現れたり、敵が人質をとってきたりすれば、今まで通り、まともに戦えず、敗北を喫することも、役立てないこともあるだろう。
<超級>となったフォルテスラと並び立つ者として、二位のフォルテスラの上に君臨する王者として、そんな自分を見せるわけにはいかなかった。
そんなフィガロの思いに、二人は自然と笑みを浮かべ、立ち上がる。
『よっし、じゃあしばらく狩りの時間以外は付き合ってやるクマ!』
「俺も手伝おう。クランで動かねばならない用事以外の時間はな」
「えっ、いいのかい? 二人とも他にもやることいっぱいあるし、忙しいんじゃ」
「『友達のためだ、気にするな』」
フィガロの最初の友達と、一番の親友。
友達が困っている時には助け合うのは彼らにとって当然のこと。
フィガロは二人の優しさに感謝し、さっそく連携の続きを始めた。
もう何ヶ月かみっちり練習すれば、ある程度は戦えるようになるだろう。
だが、そんな打算を差し引いても。
友達と一緒に戦えるフィガロは、それだけで十分に楽しそうだった。
□王都アルテア・とある新聞社
「先輩、こっち来てくださいよ!」
「お、ちょっと待ってろ」
ある新聞社で、二人の人間が作業していた。
明日売る予定の新聞の製作に、最後の文字調整。
やるべきことは山のようにある。
ひとまず呼ばれた男はきりの良いところまで進め、呼んだ女性のもとに行った。
「あーこれは……見出しか?」
「はい、運良く取れたフィガロとフォルテスラのインタビュー記事なんですが、いい感じのが思いつかなくて」
闘技場で一位二位を争う<超級>二人へのインタビュー。
ダメもとでの依頼だったが、運よく通り、インタビュー自体はもう済ませた。
決まらないのは、二人の呼び名だ。
「"双頭""双剣""双牙"、なるほど二人をまとめて呼ぶ名前か」
「<グランバロア七大エンブリオ>みたいな感じで、せっかく【グローリア】を討伐した<超級>が二人いるんだから何かくくりたいじゃないですか」
「ふーむ」
"双頭"は三頭竜とかけたのだろうが、残念なことにこの時点ではフォルテスラがなんの頂点にも立っていない。
"双剣"に関しては【グローリアΩ】と【ネイリング】で悪くないが、世間的にはフィガロのエンブリオはまだ微妙に正体不明。
これで斧とかだったら目も当てられず、剣だったとしてもそれはそれで『一人で"双剣"じゃん』とか言われてしまう。
"双牙"に関してはもう何にもかかっていない。
うんうんと唸り考える二人だったが、正直長々と案を考える時間的余裕はない。
適当にそれっぽいのを、と考える中、男が一つ思いついた。
思いついたものを紙に書き、女性に見せる。
「これでどうだ?」
「えっ、でもフィガロは……ああ、そういう。でもフォルテスラが勝ったらどうするんです?」
「それはそれで先代と当代でいいだろう」
「確かに」
名前は決まった。他の作業もしなければ。
テキパキ動き、残りの作業も終わらせ、次の日が訪れる。
その日の新聞は、飛ぶように売れた。
記事の題名は、こうだ。
『"双王"特別インタビュー!
フォルテスラとフィガロに聞いた、その強さの秘訣とは!?』
王国の双璧。
剣王と闘技場の王。
或いは当代決闘王者と、先代決闘王者。
この新聞を機に、"双王"の名は国を越え、世界に広く
この先は誰も知らない未来。数多の困難があり、危機があり、選択がある。
強敵が、悲嘆が、苦痛が、アルター王国に待っていることだろう。
だが、希望が絶えることはない。
どんな試練も越えていける
この国には―――"
Episode End
□■???
『<超級>の増加は一人か』
『十分だろう。誰も進化しない可能性もあった』
『ポジティブに考えるのが一番なの~』
『最低限の目的は果たせた。今回の件は不問にしておこう、チェシャ』
『それは助かるなー』
『しかし、やはり王国の<マスター>は逸材が多いな。
特に
『そぉぅでしょぉう。彼は中々有力でぇす』
『パンプティのお気に入りの【破壊王】を抜いて始めたのに、結局はクレーミルも落とせずに終わった。たいした連中だ』
『チェシャの仕込みがなければもっと楽しいことになったんじゃない?』
『さて、それはどうかなー』
『どちらにせよ、【グローリア】ほどの<SUBM>でさえこれだ。今後の投下は更に念を入れないといけないな』
『流石に今回以上の難易度を繰り返すのはバランスを崩すのでは?』
『そうなったら、私も止める側に回るかもしれないわね』
『そう結論を急ぐな。難易度だけでなく、工夫を重視すればいいだろう。
分裂・禁則・分断・統率。いくらでも手はあるさ』
『…………』
『王国への介入ももう少し気を遣わねばならなくなるだろう』
『率先して王国のために動く<超級>の増加。面倒だが、誘導も容易だ』
『早速今後のイベントも色々考えないとなの~』
『なにはともあれ、今は祝福しておこう、新たな<超級>の誕生を。
未来に待つ、我々の望みのための小さな一歩を』
To be continued……?
続きません(断言)
これにてこの話は終わりとなります
"双王"の物語はこの後もVS皇国編、VSカルディナ編などと続いていくかもしれませんが、書く予定はないですね
元々は自作オリキャラ交えてのグローリアRTAの予定が、どうせならオリキャラ抜きでifでやった方が読者も喜ぶかなと思っての着想でした
それなりに評価も貰えましたし、読んだ方に喜んでもらえたなら幸いです
非ログインの方もそうでない方も、なにか感想がありましたら感想欄と評価コメントに書いていただけると作者はめっちゃ嬉しいですので是非