坂本家の弟の日常   作:遮那王

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坂本雄二に弟がいたらという、妄想からできた小説です。

暖かく見守ってください。


一話:俺と残念な兄

突然だが、俺には一人の兄がいる。

 

俺よりも身長が高く、そこそこ運動も出来る兄だ。

意外と体つきもしっかりしている。

だが、俺はその兄に尊敬の念など一ミリも抱いちゃいない。

 

小学生のころは勉強が出来て、かなり頭のいい兄だった。

だが、中学に上がると毎日のようにケンカをし、いつの間にやら悪鬼羅刹とまで言われた。

高校に上がると、ケンカはだいぶ収まったが、何やら変な友達が出来た。

 

兄曰く、どうしようもない馬鹿。

兄曰く、どうしようもないムッツリ助平。

兄曰く、どうしようもない美少女な男の娘。

 

……兄はいったい、どんな学校に通っているのであろう。

 

正直あまり考えたくは無いが、今年の四月から俺もその高校に通う事になってしまった。

 

何故なら、そこが進学校で何より学費が安い。

息子二人を抱える家の家計を考えるなら、そこに進学する事が一番だと考えた。

正直兄と同じ高校に入るのは、御免蒙りたかったが仕方がない。

 

そんな兄には、幼馴染の美少女がいる。

 

彼女が何故あんな兄が好きなのかは分からないが、俺の記憶が正しければ小学生の頃からぞっこんのようだ。

 

正直、少しどころか、かなりもったいない気がする。

 

彼女は兄と同じ高校に通い、そこでも学年一位の成績の持ち主だ。

そして、かなりの美少女。

彼女の長く伸びた美しい黒髪は、彼女の美しさを際立たせる。

 

才色兼備な彼女が俺の残念な兄を好いている事。

正直言ってなんか腹立つ。

 

そんな残念な兄だが、まあ、なんだか、高校に入っても残念なままだ。

本人曰く、世の中学力が全てじゃないとかいうが、お前にそれ以上の強みがあるのかと聞きたい。

 

ぶっちゃけ無い。

 

特に部活をしていた訳でもなく、ケンカばっかしていた。

 

そんな兄なのだ。

 

本当に残念な兄だ。

 

これだけ兄の事を残念だと言っていると、お前はどうなんだ。と言われそうなので、とりあえず俺の自己紹介もしておこう。

 

ぶっちゃけ勉強はそこまで得意じゃない。

歴史や生物は好きだが、英語とかよく分からんし呪文に聞こえる。

数学もそこそこ出来るかもしれないが、物理は苦手。

 

全体的な勉強の成績としては、中の上位か。

 

運動は基本好きだし、悪くないと思える。

昔から格闘技が好きで、キックボクシングを一時期習ってた事もある。

だからといって兄とは違い、自分からケンカを吹っ掛けた事なんか一度も無い。

 

顔だってそんなに悪くないと思う。

若干兄に似ているが、俺の方がかっこいい顔付きをしてると思う。

 

そんな俺だが、現在家の食卓で朝食中である。

兄はまだ寝ているようだが。

只今の時刻、AM6:25

 

此処に置いてある数々の料理は、ある人が作ってくれたものだ。

そのある人とは……

 

「健太ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

話の途中だったが、兄が起きてきやがった。

 

「何だ雄二。朝から騒々しい」

「手前ぇだろ、翔子を家に上げたのは」

 

……は?

何を言っている、俺が起きたときには彼女は既に台所で朝食を作ってくれていたのだ。

それも、俺とお前の二人分。

何とも出来た幼馴染だな。

それに彼女が家に入ってきた所で何の問題がある。

 

「大ありだコノヤロぉ…。オレの一生をぶち壊す気かお前は……」

 

大袈裟な事を言う。

別に彼女と何かあった訳でもあるまいし。

彼女とは昔からの幼馴染なのだから問題ないであろう。

って言うか、そもそも彼女がお前のような残念な兄を好いている事自体、問題があるが…。

 

「おいちょっと待て!誰が残念な兄だ、誰が!!」

 

全くうるさい。

よくもまあ朝っぱらから大声を出せるものだ。

 

「テメェが出させてるんだろうが!!」

 

本当にうるさい。

此方は朝食に勤しんでいるというのに。

お前も早く食え。

 

「さらりと流しやがったな…」

 

全く、残念な兄を持つと大変だ。

それにしても、何故彼女はこんな残念な兄を好いているのだろう。

不思議でならんのだが。

 

「そうだった。お前だろ、翔子を勝手に家へ上がらせたのは」

 

……

何を言っているのだこいつは?

さっきも言ったが俺はついさっき起きた所だが。

 

「嘘つけぇぇぇ!!おふくろと親父は昨日から旅行に行ってて家には俺とお前の二人しか居ねぇんだ。お前が居れたとしか思えねぇぇ!!」

 

全く。

そんな妄想壁まで出来あがってしまったのか。

残念さにまた一つ磨きがかかったな。

 

「舐めてるよな!絶対お前俺の事舐めてるよな!!」

 

何を今更。

 

「表出ろテメェぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「……雄二」

「「のわ!?」」

 

驚いた。

この人はいつの間に移動してきたんだ?

気配が全く無かったのだが。

 

「……雄二ひどい。おはようも言わないで逃げるなんて」

「雄二…お前酷い男だな。せっかく美人な幼馴染が起こしてくれたっていうのに挨拶の一つも返さないとは。あっ、ごちそうさまです翔子さん。朝飯上手かったです」

「……そう、良かった」

「さらりと、俺を無視してんじゃねぇ!!第一、部屋に不法侵入されたら挨拶どころじゃねぇだろ!!」

「「……不法侵入?」」

 

翔子さんと俺が首をかしげる。

 

「……雄二。私は健太に入れてもらった訳じゃない」

「は?家には鍵が掛かってんだぞ。じゃあどうやって入ったんだ」

「……昨日お義母さんに鍵を預かった。雄二と健太だけじゃ心配だからって」

「あんたかおふくろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

成程、そう言う事か。

母さん。

いくらなんでもそれは止めてほしかった。

何が嬉しくて朝っぱらから、残念な兄がいちゃついてる光景を見なければいけないのか…。

 

「どこがいちゃついているように見えんだお前はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

マジでうるさい。

何だってこの残念な兄は、朝からこんな大声を出せるんだ。

 

「……健太」

「ん?」

 

翔子さんが俺に声をかけてきた。

何だろう?

雄二じゃ無く俺に声をかけるなんて。

 

「……入学おめでとう」

「……んあ?」

 

不意打ちだった。

突然、微笑みを浮かべながらそんな事を言ってくれるなんて。

思わず訳の分からん声が出た。

 

「あ……ありがとうございます?」

 

なんで疑問形なんだ俺…。

 

「……うん。合格出来て本当に良かった」

 

この笑顔に落ちない男は居ないであろう。

クールな美少女が時折見せる笑み。

かなり破壊力がある。

こんな幼馴染から逃げ回る雄二は、いったいどんな神経をしているのであろう。

全く、あいつの考えは理解出来ん。

 

ん?

 

「雄二がいねぇ……」

 

ふと台所を見回すと、雄二が居なくなっていた。

おそらく、翔子さんが俺に気を取られてる瞬間に逃げ出したのだろう。

 

「……雄二が逃げた」

 

あの野郎……。

こんな美少女が起こしに来てくれたのに、礼も何も言わずに逃げ出すとは許し難い。

 

かくなるうえは…。

 

「……翔子さん」

「……なに?」

「雄二の部屋の本棚の二段目。そこにある漫画雑誌の右から五番目と六番目の本の間」

「……探してみる」

 

そう言うと翔子さんは台所から出て雄二の部屋へと向かった。

 

よし……。

俺は携帯を取り出すとそこから名前を検索する。

 

〈残念な兄〉

 

ディスプレイを確認すると、素早くメールを打つ。

 

【雄二の部屋の本棚の二段目。そこにある漫画雑誌の右から五番目と六番目の本の間】

 

送信。

 

……

メールを打って三十秒ほどした時、玄関のドアが慌ただしく開く音がした。

音の主は、相当慌てているのか一直線に二階の自室へと駆けこんでいく。

 

『……雄二』

『しょ…翔子、それを読むんじゃない!それはお前には早すぎる』

 

早いとか遅いとかそんなものじゃないだろう。

そもそも女性が読む時点でどうとか思わないのか、あの残念な兄は。

 

『……覚悟、出来てる?』

『待て翔子、話せば分か……ッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!』

 

声にも出せないような凄絶な叫び声?が聞こえた気がした。

気のせいだ。

そう言い聞かせながら、食べ終わった食器を流し台へと運ぶ。

 

そう言えば、あいつの食事冷めてしまったな。

全く、温かいまま食べないとは。

罰当たりな奴だ。

 

洗い物をしていると、ふと時計を気にする。

時刻はAM7:20。

若干速いが良い時間だ。

 

そろそろ向かう事にしよう。

そう考えると、俺は自室へと戻り着ていた寝巻を放り、新品の制服へと袖を通す。

 

……ブレザーか。

制服を着た自分を鏡で見るが、どうも似合わん。

ガタイの良い俺がスラリとした奴の方が似合うブレザーを着てもイマイチ似合わない。

中学の頃は学ランだったしな。

 

ガタガタガタン!!

 

隣の部屋で暴れてるような音が聞こえたが、気のせいだろう。

 

そう考えつつ、荷物を持つとのんびりと部屋を出た。

 

おっと、家を出る前にあいつの食べなかった朝食を冷蔵庫に入れておく必要がある。

とりあえずラップをかけて冷蔵庫に入れておけば少しはもつであろう。

食べ物は粗末にしてはいけないしな。

 

『ぎゃあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…………』

 

玄関を出ようとした俺の耳に苦しげな悲鳴が届いた。

朝食を食べなかった罰だろうか。

断末魔のように家の残念な兄の声は遠のいていった。

 

……雄二。

これはお前が自分でまいた種だ。

悪く思うなよ。

 

俺はそう思いながら家を出ると、のんびりと今日から三年間通うであろう学校へ歩き始めた。

 

……

 

そう言えば、俺の自己紹介をしていなかった。

 

俺の名前は、坂本健太。

 

残念な兄こと、坂本雄二の実の弟である。

 




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