坂本家の弟の日常   作:遮那王

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まだ、大きな展開は起きません。
ご了承ください。




二話:俺とうるさい幼馴染

入学式とはいっても特別何かを期待するような事は起きなかった。

 

長ったらしい学園長の挨拶やら、役員の祝辞やら、学園主任の挨拶やら、とにかく面倒くさかった。

何度も欠伸をしかけたが、此処で欠伸などしては目を付けられる事確実だ。

どうにか目を擦りながら耐え忍び、今現在振り分けられた教室で自己紹介の時間。

 

決められた席につき、それぞれが思い思いの談笑をしている。

 

「健太!!」

 

そんな中、甲高い声が俺の耳に響いた。

おもむろにそちらへと顔を向ける。

 

「ひどいよ健太!おいてくなんて!!一緒に行こうって約束したのに!!!」

 

やかましい。

雄二ほどではないが、耳元で叫ばれると鼓膜に響く。

ん?約束?

 

「……ああ、真琴か。すまん忘れてた」

「忘れてた!?彼女の約束を忘れてた!!??」

 

彼女の名前は北条真琴。

小学校からの腐れ縁だ。

 

と言うか、コイツ……一々テンションがおかしい。

俺の周りの奴らは何でここまで朝っぱらからハイテンションなのだろうか。

見ろ、周りの連中が珍しいものを見たかのように眺めてるぞ。

 

「周りの眼なんてそんなの関係無いよ!今朝健太の家に行ったら、雄二君と翔子ちゃんしか居ないんだもの!!私びっくりしちゃったよ!!!」

 

俺はお前のその大声の方がビックリだよ。

 

「いい、健太!今日の放課後一緒に帰る事!!いいわね!!!」

 

そう言うと、彼女はずんずんと自分の席へと戻って行った。

未だに俺には奇妙な視線を感じるが。

とりあえずそちらへと視線を向ける。

 

此処で言っておくが、俺は別に怒っているつもりは無いし、苛立ってもいない。

ただ妙な視線が気になっただけだ。

なのに……

 

 

―――――――サッ……。

 

 

俺が眼を向けると全員が視線を逸らした。

 

考えられる理由は、おそらく眼つきの悪さだろうか。

俺は兄と似た顔立ちをしているが、眼つきの悪さだけはあいつよりも鋭い。

 

切れ長の目で若干の三白眼。

 

それに加えて、格闘技ばかりやっていたせいで若干体格もゴツクなってしまった。

そりゃ眼を背けたくもなるだろう。

 

そんな事を考えていると、ガラガラガラ、と教室の扉が開いた。

入ってきたのは物腰柔らかそうな女性の教師。

その教師が教卓の前に立つと、一つ咳払いをして口を開いた。

 

「皆さんご進学おめでとうございます。私が一年B組の担任をさせていただきます、遠藤です。担当科目は英語で、このクラスでも英語の授業をさせていただきます。一年間よろしくお願いします」

 

遠藤教諭は、自らの自己紹介をすると、「それでは皆さんの自己紹介をしていきましょう」と言い、席順に自己紹介を促した。

 

とりあえず、優しそうな教師でよかったと俺は安堵し、のんびりと自己紹介を聞き流し始めた。

これから一年間共に過ごすであろう、クラスメイト達の自己紹介を頬杖をつきながら眺めながら、特に変な事が起こる訳でもなく、淡々と自己紹介が進んでいく。

 

「……です。皆さんよろしく」

 

前の奴の自己紹介が終わり、席へと戻る。

順番的に言うと、次は俺の番らしい。

気だるそうに前へ出ると、自己紹介を始める。

 

「神無月中学出身、坂本健太。どうぞ皆さんよろしく」

 

無難な自己紹介を終えると、周りからささやくような声が聞こえてきた。

 

『坂本?そういや昔噂になった悪鬼羅刹って?』

『それってまさか?』

『いやいやまさか……』

 

なんだか家の残念な兄が噂になってる。

弟の俺としては、迷惑極まりない。

まあ、いらぬ尾ひれはその内取れるだろう。

 

自分の席へと戻ると、再び自己紹介を聞き流し始めた。

そして、後半になってくるとさすがに人数が多く、若干疲れてきた。

眠気と闘いつつもウトウトし始めると、唐突に甲高い声が耳に届いた。

 

「神無月中学出身!北条真琴です!!」

 

……真琴だ。

このやかましい甲高い声の持ち主はあいつしか居ない。

 

「趣味は音楽と料理!!あと……」

 

そう言うと、チラリと俺の方を見た。

背筋が一瞬凍る。

あいつ、何を言うつもりだ。

 

「あと、坂本健太のハニーです♪」

 

ゴッ……!!

机に頭をぶつけた。

と言うよりも、体が勝手に机へと行ってしまった。

 

あいつ……。

入学初日から何という爆弾を放りこんできやがる。

チラリと見ると此方へ大きく手を振っている。

 

鬱陶しいし面倒臭い。

あとハズイ。

 

不意に机から顔を上げると、一斉に俺に視線が集まる。

今まで腫れものに見るような目線が、途端に生暖かいものへと変わった。

どうやら、俺のクラスでの評価ががらりと変わったらしい。

またもや俺にはクラス全員から、先程とは違った意味で視線を当てられる事になるのだが、俺は無視する事に決め込んだ。

 

-------------

 

その日は入学式と、クラスの自己紹介だけで終了した。

明日からは在校生達も通う事になっていて、授業も始まるらしい。

今日は午前中で全日程が済み、俺は昼飯どうしようかと考えていた。

 

「ねぇ君、坂本健太君って言ったよね?」

 

帰り支度をしていた俺に、前からふと声をかけられた。

目線を上げると、クラスメイトの女子が三人と、男子が二人立っていた。

 

「これからみんなでカラオケ行くんだけど、一緒にどう?」

 

そんな事を聞かれた。

クラス内でも、俺の評価は割といい感じで変わっているようだ。

 

「ん……あ……。オ…レと?」

 

思えば、中学時代はあまりクラスの奴らに声をかけられた事が無かったせいか、どもってしまった。

 

「フフフ…。そうだよ。坂本君おもしろいね」

 

声をかけてくれた女子は、笑みを浮かべながらそう言ってきた。

後ろに控えてたクラスメイト達も、笑いながら隣の奴と談笑する。

なんとなく、笑われている感じがするが、悪い気はしない。

 

カラオケは嫌いではない。

むしろ大好きだ。

中学時代は、一人カラオケに嵌ってしまった事があった。

そう言えば多人数でカラオケに行った事が無かったな。

 

「…そ…それじゃあ――――――」

 

ゾクッ……!?

 

行こうかな。

そう言おうとした瞬間、背筋に悪寒が走った。

冷たい視線が刺さった気がする。

 

…とりあえず冷や汗が出てきた。

 

「あーー……俺今日は家族と食事に行く約束してたんだ。今回はちょっと行けないかな」

 

……苦しい。

なんて苦し紛れな言い訳だ。

 

「そう?残念。じゃあまたの機会かな。また今度行こうね」

 

彼女はそう言うと、他数名と共に他のクラスメイトの所へ歩いていった。

どうやら言い訳に成功したみたいだ。

 

ホッとしていると、先程までの冷たい視線が無くなり、誰かが俺の背後から迫ってくる気配がした。

 

「ぶぅ~!」

「……」

「ぶぅ~!ぶぅ~!」

「……何だよ?」

 

振り返ると、頬を膨らませた真琴が居た。

どうやらご立腹らしい。

 

「彼女が隣にいないからって何浮気してんの~。泣くよ。引く位泣くよ」

 

そう言いながら、真琴は俺の顔へと迫ってきた。

ただでさえ、クラスの連中から奇異の目線を当てられているのだから、あまり此方に引っ付かないででほしい。

 

まあ、それはそうとして、こいつは俺が他のクラスの女子と話していた事に不満を抱いているようだ。

正直な話、俺はこいつが泣いた所を見た事が無いのだが、此処は…

 

「……一つ言う事聞いてやるから機嫌直せ」

 

モノで釣る事にする。

昔、真琴は泣き真似をして俺を一度陥れた事があった。

あの時の悪夢を俺は思い出していた。

 

「ほんとに~?」

「……二言は無い」

「……駅前のクレープ屋さんのイチゴチョコミックス」

「奢らせて頂きますよ。お姫様」

「よろしい」

 

そう言うと、満面の笑顔を浮かべた。

結局俺は、クレープ以外にも色々と奢るはめになるのだが、泣き真似とはいえこいつの機嫌を損なわせて泣かれてはいけない。

 

---------------

 

そんなこんなで、下校途中にクレープを奢り財布の中が若干さびしくなったのだが、真琴にはそんなもの知ったこっちゃないようで、上手そうにクレープに齧りついていた。

 

「そう言えば健太、明日から雄二君と翔子ちゃんも登校するんだよね?」

 

真琴がクレープを食べながら俺に聞いてきた。

 

そうだろうな。

雄二の奴は、新学期早々試召戦争をするって躍起になっていたからな。 

なんだかんだで遅刻せずに、普通に登校しそうだ。

 

「翔子ちゃんは頭良いからきっとAクラスだろうな~。雄二君はどのクラスに行きそうなの?」

 

雄二が行きそうなクラス…。

あいつは勉強だけが全てじゃないとは言っていたが……。

確かにあいつはその言葉を体現したような生活をしていた。

はっきり言ってあいつがここ数年間、勉強している姿を俺は一度も見た事が無い!!

いくら昔、神童と呼ばれていても勉強していなければ、テストで点数を取ることなんて不可能だ。

 

よってあいつのクラスは…

 

「一〇〇%―――――Fクラスだ」

「あ、やっぱり?」

 

やっぱり…ってお前……

分かってたのなら聞くなよ。

 

「だって、陰で隠れて勉強してるかもしれないじゃん」

 

俺が知ってる限りでは無い。

あいつが友人の家へ遊びに行っている時に勉強していると考えれば別だが、あいつは家を出るとき勉強道具を持って行った姿など一度も無いのだ。

 

よって、あいつは勉強なんか一切してない。

 

「やっぱりそうか~。翔子ちゃん雄二君と一緒なクラスになれなくて残念だな~」

 

そう言えばそうだ。

 

片や学年一の才女。

片や学年一の不良。

 

この二人は、間違っても同じクラスにはなれないだろう。

まあ、翔子さんがわざとFクラスに行くような事をすれば別だが。

 

「それも無いと思うよ。翔子ちゃん結構点数取れたって言ってたし」

 

いつの間にそんな情報を?

 

そうか。

なら確実に二人は離れるな。

ぶっちゃけ雄二の方は離れてホッとしてるかもしれんが。

 

「雄二君も強情っぱりだね~。なんで翔子ちゃんみたいな美人から逃げるんだろ?」

 

それは俺にとっても永遠の謎だ。

雄二はなんであんな美人から逃げるんだ?

 

というかそもそも、あの兄の何処にそんな魅力があるのか。

不思議でならん。

 

「ま、二人にしか分からない事もあるって言う事で」

 

なんだ?

急に大人びた事を言う。

 

「ふっふ~ん。私も高校生になったから少し大人になったのです」

 

見た目は変わらんがな。

 

「酷いんだ~。こう見えても徐々に成長してるんですよ~」

 

そう言いながら胸を張る真琴。

 

確かに中学二年から少しずつだがこいつは成長し始めた。

何処がとは言わんが。

 

「あれ?もしかして照れてる?」

 

二ヤ付きながら俺に顔を寄せてくる。

女性特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 

いかんいかん。

このままではこいつのペースに持ってかれる。

 

「早く帰るぞ」

 

俺はそう言うと、真琴の顔を引き離し、先を歩き始めた。

なんとなくこいつは最近俺をからかい過ぎていると思う。

 

「健太も成長したんだね~。結構結構」

「お前は俺のお母さんか何かか」

 

思わず突っ込まずにはいられん。

こいつはまるで、自分の方が大人です。と言うかのように。

 

「ま、それは良いとして」

 

良いのかよ。

真琴はそう言うと、俺の数歩前に駆けていき、振り返りながらこう言った。

 

「健太。これからまた三年間よろしくね」

「……っ」

 

 

太陽の光で表情が上手く見えなかったが、おそらくあいつは笑っているだろう。

思えば、こいつとはもうずいぶん長い間一緒に過ごしてきた。

 

お互いの性格も知り尽くしていて、良い所も悪い所もあますことなく知っている。

そんな彼女と、俺はまた三年間過ごす事になるのだ。

 

正直、鬱陶しくもありやかましい。

 

だけど……

 

 

 

なんとなく悪い気もしなかった。

 

 




いかがでしたでしょうか。

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