坂本家の弟の日常   作:遮那王

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遅くなりました。
新社会人として、かなり忙しい毎日を送っております。
それではどうぞ。




五話:俺と部活と清涼祭

 

学生生活と言えば何を思い浮かべるであろうか。

あるいは勉学。

あるいは部活。

あるいは友人作り。

 

無論この文月学園も例外は無い。

 

俺がこの学園に入学して数カ月。

この一年の中で一番最初のイベントであり、ある意味一年の中で最大のイベント『清涼祭』が近々行われる。

その準備期間に今週から入ったのだ。

 

文月学園は、試験召喚システムと言う世間でも貴重なシステムを取り扱っているため、文化祭などの行事には多くの人々が訪れる。

とは言え、生徒達は所詮一般的な高校生であるため、クラス単位の出し物は喫茶店など普通の高校でもやる様な事をする。

 

そして、俺達一年Bクラスはと言うと。

 

「それじゃあ、一年Bクラスの出し物はクラス展示で良いですか~?」

 

教卓の前に立つ真琴の声が俺の耳に届いた。

 

教室内からはまばらだが、了承の声がチラホラと上がる。

クラス展示とは、また微妙な案が通ったものである。

まあ、それも仕方がない。

俺達一年生はまだ要領が悪いため、自然とそんなヤル気の無いような出し物になってしまうのだろう。

 

「じゃあ、みんな明後日までに何か案を幾つか持ってくるように」

 

真琴のその言葉で、クラス連中が立ち上がったり雑談を始めた。

今日はこれで終了のようだ。

 

そう言えば、結構真琴は仕切るのが上手かったな。

 

俺はそんな事を考えつつ窓の外を眺めた。

既に桜は散り終えて、木々には新緑が色付いている。

 

「……ん?」

 

ふと校庭の方に目が行った。

何人かの生徒が野球をしている。

校庭にいるその何人かは、全員が制服で一目見ただけでは野球部ではない。

 

学園祭の準備期間であるため、どのクラスも出し物の準備に一生懸命のはずだ。

それなのに野球部でもないのに野球をしているのは、何処の酔狂な奴らであろう。

 

正直嫌な予感がした。

 

眼を凝らしてよく見る。

 

ピッチャーマウンドに立つのは、茶髪の馬鹿っぽい顔をした少年。

見覚えがある。

二年Fクラスの吉井明久先輩。

 

彼がいると言う事は……。

 

「…やっぱり」

 

キャッチャーとして屈むその姿。

赤髪のトサカ頭を見間違えるはずはない。

 

我が残念な兄、坂本雄二その人だ。

 

学園祭の準備期間中に何をしているのだあの兄は。

 

「健太ぁ~何見てるの?」

 

背後から真琴が俺に声をかけてきた。

俺が無言で校庭の方へ指を指す。

真琴は、ん~と声を出しながらその方向へと視線を向ける。

 

「あれって雄二くん達だよねぇ。もしかしてもう学園祭の準備が終わったのかなぁ?」

 

んなわけあるか。

 

「だよねぇ~」

 

そんな雑談を交わしていると、視線の先の雄二達が遠目から見てとれるほど慌てだした。

 

何事かと辺りを見回すと、服の上からでも体を鍛え上げている事が分かる、スーツ姿の男性が何やら叫んでいるのが見えた。

 

おそらくあの人が、二年Fクラスの新しい担任となった西村教諭であろう。

 

そしてあの様子から察するに、学園祭の準備をまともに行っていない雄二達を叱りつけ、教室に戻るよう発破をかけているのであろう。

 

校庭にいた生徒達が蜘蛛の子散らすように走り去っていった。

 

よくもまあ、準備期間とはいえ堂々とサボりが出来るものだ。

その様子に思わずため息が出てしまった。

 

------------------------

 

「健太、今日もよってくけどいいよね?」

 

放課後、真琴が俺に話しかけてくる。

彼女の肩には学生鞄が掛けられており、帰る準備万端といったところか。

 

学園祭期間中とはいえ、俺達一年生は要領も良く分かっていないし、尚且つクラス展示と言う事であまり時間が掛からない。

そのため、放課後も時間通りに下校を迎える事が出来た。

 

それにしても……

雄二も懲りない。

 

試召戦争で敗戦し担任が変わったのに、一向に真面目に物事に取り組む姿勢が見られない。

まあ、あの残念すぎる兄がそう簡単に変わるとは思えないが……。

 

いや……それよりも、あいつはこういう学園祭のようなイベントにはあまり興味を示さない。

それも理由か。

 

「健太、何難しい顔してるの?」

 

む…。

少し考え過ぎていた。

真琴も俺の顔を覗きこんでいるし。

 

「もしかして、雄二君の事考えてた?」

 

―――――――勘が良いな。

 

何故分かった。

 

「だって顔に出てるもん」

 

そんなに顔に出てたか?

 

「健太の表情って分かりやすいよね~」

 

あんまり意識した事なかったが、これからは気にしよう。

あまり表情を出すと気味悪がられるからな。

 

「それで?雄二君の何を考えてたの?」

 

いや……大したことじゃないんだが、あいつは相変わらず真面目に生きる事を知らないなと思ってな。

 

「まあ、仕方ないんじゃない?雄二君学園祭とかあんまり興味があるとは思えないし」

 

お前もそう思うか。

まあ、ともかくあいつが面倒事を起こさなければそれで良「先生!覗きです!変態です!」「逃げるぞ明久!!」「了解ッ!」……。

 

「吉井と坂本だと!?またアイツらかッ!!」

「雄二マズイ!鉄人の声だ!!」

「とにかく走れッ!!」

 

……。

 

ああ――――――――もう俺ヤダ。

あんなのが自分の兄だと思いたくない。

 

外の方から駆ける音が聞こえてくる事から、恐らく外へ逃げ出したのだろう。

 

しばらくすると、目の前の扉が勢い良く開かれる。

 

「まったくもうッ!!あいつらときたらサイテー!!」

 

ヒステリックな声と共に出てきたのは一人の体操服姿の女子生徒だった。

見たことない顔立ちから、恐らく上級生だろう。

 

女子生徒は口を尖がらせながら扉を勢いよく閉めると、此方へと向き直った。

 

「あっ……」

 

女子生徒が声を上げる。

まるで、見られてはいけないものを見られてしまったかのように……。

 

「あ…いや――――えっと」

 

どうやら、女子生徒はあの大声を気にしているようだ。

さて……どうしたものか―――――。

 

「大丈夫、誰にも言いませんよ」

 

愛想の良い声が俺の隣から聞こえた。

真琴の諭すような言葉は、目の前の女子生徒へかけられる。

 

「私こう見えて口は固いですから」

「ほ……ホントに?」

「モチロン!」

「や…約束よ!?誰にも話しちゃダメだからね!!」

 

そう言うと、女子生徒は次に俺の顔を見る。

 

「そこの貴方も!絶対に誰にも言わないでよ!?」

 

まあ、言う訳にはいかないしな。

身内の恥を晒したくないし。

 

「ダイジョブですよ。健太は口が堅いし、約束を破る様な軽い人間じゃないですから」

 

真琴はそう言うと、俺の背中をパシンと叩く。

地味に痛い。

 

「そう…それなら良いんだけど」

「それに、健太も言ったら言ったでまずいしね~」

 

うるせぇ。

まあ、あの馬鹿野郎の悪評はこんなもんじゃ済まされねェがな。

 

「え?まずいって一体何のこと?」

 

いや……とりあえず身内の恥は一応謝っておくか。

あと真琴、肘で俺をつつくな。

 

「始めまして。俺は1年の坂本健太と言います」

「あ…此方こそ、2年の木下優子……って坂本?」

「はい……先程あなたに迷惑をかけたと思われる坂本雄二の弟です。この度はウチの愚兄が御迷惑をおかけしました。」

 

ホントに残念な事にな。

 

「あ~……いや、いつもの事だから貴方が気にしなくて良いのよ。いつもの事だから」

 

いつもあんなことしてるのか、ウチのあのクソ野郎は。

 

「いや、いつもしてるのなら尚更御迷惑を―――」

「いいのよ別に、気にしないで」

 

いや、気にしないでと言われても……。

 

「弟の貴方が気にすることなんてないの。そう言うのは自己責任なんだから」

 

なんというか、結構あっさりとしている。

もう少しネチネチ言われそうだと思ったが。

もしかしてこの人にも兄妹ないし姉妹がいるのだろうか?

 

「じゃあ、お互い痛み分けって事で。木下先輩も、健太も良いよね?」

 

真琴が仲を取りつくろう。

というか、お前も原因の一つだぞ。

 

「まあ、こっちはさっきの事を黙ってさえくれれば良いから。じゃ、そう言う事で」

 

そう言うと、木下先輩はそのまま歩いて行ってしまった。

此方の気持ちを分かってくれる良い先輩だった。

あんな良い先輩をあそこまで激怒させるのだから、ウチの兄は大したもんだ。

 

そこに痺れもしないし、憧れもしないが。

 

「丸く収まってよかったね」

 

まあな。

あの先輩が良心的な心を持っていて安心した。

 

「じゃあ帰ろっか」

 

真琴のその言葉で、俺達はその場を後にした。

とりあえず、ウチに帰ったらあの兄を絞めよう。

そう決断した。

 

 




原作キャラの木下姉を出してみました。
キャラが違うんじゃね?と思いの方もいると思いますが、学園では優等生を演じているという事で、こんな感じにしました。

それでは、感想お待ちしています。
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