2001年8月10日
日本side
エリーゼたちとの交渉の翌日、日本政府はエリーゼたちブリタニア帝国に対する方策を考えていたが、これといってできることはなかった。
一部には神社のことでエリーゼたちに何らかの譲歩を引き出せないかと考える者もいたが、あそこまで非常識な砲艦外交をしかけてきた未知の存在に対する警戒とエリーゼが今回の事に非常に消極的であったことから、それを交渉のカードをして使わなかったのだ。
最もエリーゼからすれば扶桑国建国に協力した神々に対してはある程度の便宜をはかるのはやぶさかではないが、自分たちが戦国時代に協力を求めても協力していないくせに後々になって扶桑国の価値が分かったからといって圧力を掛けてくる神々を積極的に助ける気にはならない。
そんな考えをエリーゼは交渉の場で言っていた為、もしも日本政府が駆け引きの一種として一旦断っていたらあっさりと引き上げていたのは想像に難くなく、この件で技術提供などの見返りを得ることは無理だろう。
また、ことが神道であることも問題だった。本来無関係なブリタニア帝国が神道の神々の要請に応じて行動しているというのに、それを台無しにするのは問題があった。正直な話、神々といっても半信半疑ではあるものの拒否できないのだ。
「しかし、戦国時代の有名人が実は異世界人でしたというのはアレだな」
と、日本の某大臣はそうぼやいた。
実のところ戦国時代の日本で白人女性のエリーゼたちはかなり目立っていたため文献の類はそれなりにあり、当然ながら相手の事を知らねばならない日本政府は未知の異世界人と接触という事態に対して大昔の文献を調べる羽目になっていた。
エリーゼは中世のヨーロッパでも活動していたから、同じくヨーロッパ諸国も文献を調べているものの、エリーゼたちはあちらではあまり目立っていなかった事からあまり成果はでないだろう。
ブリタニア帝国は地球には興味がないということであるが、楽観的にいられるわけがなく、やはり彼は政治家にも関わらず、歴史家のように文献を調べなければいけないのであった。
アメリカside
エリーゼたちが訪れた日本だけでなくアメリカでも今回の接触で大きな影響を受けていた。というのもエリーゼがアメリカが国家機密としていたアポロ計画以降の月人とアメリカの武力衝突を公表したからであった。
当然ながらアメリカは世界各国から問い合わせが続出して外務省だけでなくホワイトハウスも対応に追われるはめになっていた。この事態を鎮める為に急遽政府会見を開く羽目になった大統領はたまったものではなかっただろう。
また、エリーゼがユダヤ教、キリスト教、イスラム教などの一神教を完全否定したことから欧米や中東では大騒ぎになっていた。
実のところ、この世界では唯一神は存在せず、世界各地の多神教の神々も一神教に信仰を奪われたり文明の発達で信仰を失ったりして滅びており、現存する多神教は日本の神道やアイヌの信仰、中国の道教、インドのヒンドゥー教の神々ぐらいなものだった。まあ、それらもかろうじて残っているだけにすぎない。
エリーゼとしては事実を言っただけであるが、自らが信仰する神を全面否定されては宗教界が騒ぐのは当然で、アメリカだけでなく世界中の国々はそれの対処もしなければならなかった。
月の都side
月の都は月の結界の裏側に存在する、一切の穢れを排除した浄土である。その為、表の月に行くだけでは月の都を確認することはできない。
そんな月の都では綿月豊姫と綿月依姫はブリタニア帝国という降ってわいた異世界の超大国の存在に頭を痛めていた。
先日、月の王である月夜見から知らされるまでブリタニア帝国の暗躍や扶桑国の建国といった情報を察知できなかったのだ。勿論、それはエリーゼが月の都を警戒して秘密裏に事を進めた結果なのだが、それでも失態であったことは間違いない。
月の都としては地球人があんな高度な文明を持つ大勢力と接触することは好ましくないが、あんな大規模な軍事力を持つ国家相手に揉め事を起こすわけにはいかないので、月人たちはエリーゼに手を出せずにいた。この辺りは派手な砲艦外交を行ったエリーゼの目論見通りだった。
「幸いなことはブリタニア帝国が基本的には地球に不干渉でいてくれることね」
「ええ、おかげで地球人の隔離政策も問題ないわけだし」
元々、月人にとって産業革命以降の急激に文明を発達させている地球人の存在は大きな懸念材料だったのだ。このまま地球人が文明を発達させて宇宙に進出してくると月に乗り込んで月に穢れを持ち込んでくるのは分かりきっていたのだ。
案の定、地球人が月の乗り込んできたため月面での武力衝突が発生したのだった。これを受けて月の都では地球人による宇宙開発を妨害して、地球人を地球に閉じ込めることを決定。秘密裏に妨害工作を行っているところであった。
しかし、エリーゼたちが月の都のことを公表してしまった為にもはや秘密裏に行う必要はなくなったので、これからは表立って大規模な妨害ができるようになった。
ここで懸念となるのがブリタニア帝国の動きであるが、ブリタニアは神や妖怪の保護の為に一部の人間を一万光年も離れた惑星に移住させた一方で、文明に頼って妖怪に対する畏れや神に対する信仰を持たない現代の地球人がどうなろうが興味がないので、扶桑国に手を出さない限り問題にはならないだろう。
勿論、扶桑国の存在は懸念材料であるが、一万光年も離れている事と神と妖怪による文明コントロールがされているため将来的な脅威にはならないだろう。
そもそも、彼女たちも月に穢れを持ち込まなければいいのであって、むやみに知的生命体を排除したいわけではないのだ。
かくして、月の都は地球人を地球に隔離すべく大規模な宇宙開発の妨害を開始するのであった。