続・二人の魔女   作:ADONIS+

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33.ディストピア

 西暦2157年、地球は見る影もなく荒廃していた。

 

 空気は重度の汚染物質によって生身で呼吸することもできず、人々は外出するたびに防毒マスクをしなければ生きることはできない。海も汚れ魚介類は軒並み絶滅しており、大地も深刻な土壌汚染によって農業すらままならない状態で当然動植物も絶滅していた。

 

 文明に頼り星を汚染しつくしてしまった末期状態としかいいようのない地球であったが、それでも人はしぶとく生き延びていた。だが、この時代の人間社会は21世紀初頭にあった国民主権、人権、憲法などは過去の遺物となっていた。

 

 民主主義や国家が形骸化したこの時代の支配者は政治家でも国民でもない巨大複合企業の上層部こそが支配者だった。

 

 巨大複合企業の支配下に置かれた下層市民たちが汚染させた場所で健康を損ねながら生活しているのに対して、巨大複合企業の上層部や幹部の家族たちはアーコロジーと呼ばれる地球上でも数少ない地球本来の環境が維持されている場所に住まい防毒マスクなしでも生活できていた。

 

 そういえば、彼らアーコロジーの富裕層が我が世の春を謳歌しているように見えるかもしれないが、彼らは彼らで破滅の時が近いことを知っているため焦っていた。

 

 月人の所為で宇宙開発が頓挫している現状では、地球にある資源を使いつぶしてやりくりしているにすぎず、このままではいずれ破綻するのは分かりきっているからだ。

 

 勿論、彼らも座視していたわけではない。月人に通信を送りなんとか交渉しようとしたり、ブリタニア帝国に助けを求めて電波でメッセージを送ったりもしたが、いずれも無視されていた。

 

 また、月人の所為で宇宙にロケットなどを飛ばすことができないならと、ワープ、異世界、異次元、時間移動などこの時代でもSFやオカルト扱いされるような技術開発にも積極的に挑戦したが、当然ながらいずれも頓挫していた。

 

 せめてもの慰めが、一部の日本人が一万光年も離れた地球型惑星に移住していて例え地球上の人間が死に絶えても地球人類が存続できることである。だが、それはすなわちかつてエリーゼたちに導かれて新天地に移住した者達が勝ち組で、地球上に残された彼らはノアの箱舟に乗り損ねてしまった負け組である現実を痛感されることでもあった。

 

 下層市民どころか富裕層ですら扶桑国の人間を羨み移住を求めたが、ワープどころかまともな宇宙船すらない状況で一万光年も離れた惑星に移住できるわけがない。

 

 つまり、何もできず八方塞がりな状況だったのだ。彼らにできることは150年前からこうなることがわかっていたにも関わらずなんら有効な手を打たず、なあなあで問題を先送りにしてこんな現状を作り出した愚かな先人を恨むことだけだった。




解説

<ディストピアに至る時系列>

◎西暦2001年

■ブリタニア帝国艦隊の来訪
 エリーゼとアイシャが大艦隊を率いて地球に訪問。地球各国では騒ぎになったものの比較的穏便に交渉が終わり彼女たちは引き上げていった。

■月人が本格的に宇宙開発の妨害を開始
 エリーゼによって月の情報が伝えられた後に、月人が地球周辺の宇宙ステーションをすべて破壊。当然、これに地球各国が月に対して抗議のメッセージを送ったが月の都から無視される。

◎西暦2003年

■アメリカによる月の核攻撃失敗
 アメリカ合衆国が月を地球に立ちして敵対的な宇宙人として非難し、自国の正義を宣言するとともに月に対して核ミサイルを撃ち込んだが、月側にあっけなく迎撃される。

■月人の報復攻撃
 地球側の核攻撃に対して月人は軍用民用を問わずすべての人工衛星、ロケット発射場、宇宙港を破壊。これによって気象衛星のみならずGPSや衛星放送も使用不能となる。また、この一件で月人の圧倒的な技術力に地球各国に衝撃が走った。

■民間が宇宙産業から完全撤退
 月人による宇宙開発の妨害から収益を得ることが不可能だと判断した民間企業はロケット事業を始めとする宇宙開発関係事業から撤退。

◎西暦2005年

■国家による宇宙開発の停止
 アメリカなどの大国が宇宙ステーションの再建や人工衛星の発射のためにロケット発射場や宇宙港を再建しようとしたが、再度月人から攻撃を受けて破壊される。これによって宇宙開発は不可能と判断した各国は宇宙開発を停止。

■世界経済の停滞
 月人の影響で世界経済に大きな打撃をうけるとともに技術的にも停滞してしまう。

◎西暦2010年

■有識者たちの間で環境問題が議論される
 宇宙開発の頓挫により地球環境と地球の資源が重要視され、大大規模な環境対策と資源の計画的な使用が必要だという意見となるが、利権の侵害や有権者の反発などから各国に拒絶される。

◎西暦2017年

■二酸化炭素排出規制が有名無実化
 環境対策の一環として国際的に取り決められていた二酸化炭素の排出規制に経済的な理由から発展途上国のみならずアメリカと中国が脱退。

◎西暦2054年

■石油の枯渇
 かねてから懸念されていた石油が枯渇してしまうものの、メタンハイドレートの実用化に成功して以前からエネルギー資源の切り替えを進めていたこともあり、大きく混乱することはなかった。

◎西暦2070年

■アーコロジー計画始動
 一向に環境対策が進まないことから、将来的に地球環境が破壊されてしまうのは明らかであったために、各国の富裕層や大企業などが共同で世界各地に完全環境都市(アーコロジー)を建設する計画を立てる。

◎西暦2095年

■先進国の各地でアーコロジーが完成
 この時期になると大気汚染から外出時にはマスク着用が推奨されていた為、富裕層はこぞって各地のアーコロジーに移住する。

◎西暦2102年

■地球環境が急激に悪化
 これまでのツケから地球環境が急激に悪化してしまう。特に大気は防毒マスクをしなければ生存できないほどになる。この結果、食料生産が壊滅して世界各地で食料不足から暴動が起こる。

■国家崩壊
 暴動の激化により法秩序が崩壊した隙をつく形でいくつもの巨大複合企業が各地を実効支配してしまう。これによって国家ではなく巨大複合企業が民衆を支配する体制になる。

◎西暦2103年

■巨大複合企業による統治体制の確立
 各地の支配権を得た巨大複合企業によって民主主義、国民主権、憲法などが廃止される。また、支配体制強化の為に義務教育を廃止する愚民政策を行う。これにともない富裕層以外から教育を受けられない無学歴の子供たちが続出することになる。

■労働環境の悪化
 庶民の労働者は21世紀初頭のブラック企業すら生易しくなるほどの酷使を受けて過労死する者が続出するが、労働組合どころか労働基準法すら廃止されたため泣き寝入りするしかなくなる。

◎西暦2104年

■VRゲームが大人気になる
 リアルの地球が汚染の所為で外で遊ぶ事すらできなくなったため、ゲームという仮想現実が人気になる。実のところこれは庶民にVRゲームというサーカスを与える事で現実の不満から目をそらさせる巨大複合企業の思惑もある。

◎西暦2105年

■各地でアーコロジーに対するテロが発生
 アーコロジーの支配層に対する不平不満から庶民の中にはテロを起こすものが続出したが、国家ではなく巨大複合企業の犬となっている警察組織や軍事組織によって鎮圧されていく。しかし、それでもテロはなくなることはなくテロリストとの抗争は後々まで続いていくことになる。

◎西暦2134年

■一般庶民の少子化と低学歴化が進行
 巨大複合企業の政策によって労働者の学歴が低下して小卒でも普通となる。また子育ての手間から結婚しなかったり子供を作らない大人が多くなったが、この時代では環境の悪化から庶民が高齢者となる前に死ぬため、高齢化にはならない。また、少子化も残された資源の節約という理由からむしろ好都合となっていた。

◎西暦2154年

■地球に残された資源を巡ってアーコロジー間で対立が発生
 各地のアーコロジーでは地球の資源を可能な限りリサイクルすることでやりくりしていたが、やはり資源不足から他のアーコロジーと資源の取り合いになってしまう。
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