須賀京太郎は彼女が欲しい   作:ファンの人

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10 少し前

時は少し前に遡る。

 

 

早朝、旧校舎にある麻雀部にて、とある女性が一人佇む。

竹井久である。彼女はこの部活の部長であり、もうすぐ引退の時期だ。

いや、本来ならば引退して受験勉強に専念していてもおかしくないのだが、彼女は推薦を得れる可能性が濃厚であるため、その必要はあまりない。

とはいえ、いずれ卒業する身である。三年間守り切ったこの部室、色々な物を置いて行ったのであろう。せっせと整理整頓を行っている。

 

__これはここに置いといて…

 

しかもこの竹井久、後輩のために沢山保管してある牌譜などを細かく整理して、見返しやすいようにしているではないか。

とある後輩に雑用を押し付けっぱなしのような印象もあるが、その実は後輩想いの優しい先輩。裏では自ら雑用もしている。

 

__きょ、今日は来るのかしら

 

しかし、今日はどこか落ち着かないようだ。ソワソワしながら整理して、時たま窓から外をのぞく。一体、何を待っているのか。

 

__…来た!

 

パッと表情が明るくなる。その視線の先には金色の髪をなびかせて、颯爽と歩いてくるかわいい後輩の姿が。

この部長、どうやら彼を待っていたようだ。いや、待っていたというよりも勝手に期待していたというべきか。昨日、偶然にも出くわしたからであろう。

さてさて、彼女は彼の姿を視認するや否や、サッと鏡を取り出し、身だしなみがおかしくないかチェックする。

彼が部室に来るとは限らないのに、何ともまあ気が早いこと。

そうしてチェックした後、またもや窓から外を見ると、なんと須賀京太郎は旧校舎に向かっているではないか。

これには竹井久、喜びを隠せないのか、誰もいない部室で小躍りする。

さてさて、まだかまだかと待ちわびるが、おかしい、廊下からは足音一つしない。

 

__あれ?どうしたのかしら?

 

不思議に思う竹井久、旧校舎に向かう用なんて部室に来る他ないはずだ。

部室から外を見るも誰もいない、廊下に出ては反対側の窓から外を確認すると

 

__…え?

 

なんとそこには須賀京太郎と女子生徒がただ二人対面しているではないか。その雰囲気はまさに、そういうことだ。

これには竹井久、思わず窓から顔をサッと隠し、またススっと顔を出す。

脈が速くなり、胸が締め付けられ、頭がクラクラしてくる。

そんな状態でしばらく様子を見るも、何か話しているようだが声は聞こえない。

 

__嫌っ!ダメ!

 

思わず声が出そうになるが、なんとか口を抑えて堪える。

一秒一秒が、果てしなく、長く、感じる。

ようやく会話が終わると、女子生徒はどこかに去って行ってしまった。

残された京太郎は壁に寄りかかり、そして勢いよく立ち上がり、意気揚々と歩いてしまった。

 

__ま、まさか…いやでも、上手くいってたら普通はすぐに別れないよね?

 

竹井久、どうやら結果は分かっていないようだ。ヤキモキしたまま部室に入り、ベットにダイブし、仰向けになる。

 

__いや、でも、もし付き合い始めてたら…

 

そんな思考がグルグル巡る。考えるだけで心が苦しい。血の気がサッと引くのが分かる。

…吐いてしまいそうだ。

 

__誰かに相談しましょう

 

とても抱えきれなくなったこの気持ち、他人に吐き出してしまいたい。

そう思うと早速ケータイを取り出し、親しい間柄である染谷まこに連絡する。

『今日の昼ご飯、一緒に食べない?』

そうメッセージを送り、返事を待つ。

たまたま見ていたのだろうか、すぐさま了承の文面が送られる。

そうして、どこか上の空のまま授業を受け、約束の昼休みになる。

旧校舎に移動をし、素早く階段を昇っていき、さあやってきました部室前。

ガチャリとドアを開けると、そこには染谷まこのみならず、一年生三人娘がいるではないか。

「お、来たか、たまたまこいつらと会ったから連れて来たわ」

どうやら彼女が連れて来たようだ、竹井からすると二人きりのつもりではあったが、まあいいかと割り切る。

ワイワイと飯を食べながら話している四人。

 

「せっかくだし、京ちゃんも呼ぼうか」

 

そんな言葉がどこかからか聞こえてきたが、それにすかさず反応する。

 

「待って」

 

竹井久、まるで試合直前のような真剣な表情をして、こう口を開く。

 

「話したいことがあるの」

 

なんだなんだと黙る四人、そして竹井は話そうとするが

 

__よくよく考えたら、この四人からしたらどうでもいい話かもしれないわね。

 

そうである。もし、この四人が京太郎に気がないのであれば、そんな深刻な話ではない。

故に、久は少しイタズラっぽい表情をして、こう話す。

 

「今朝、須賀君が告白されていたわ」

 

顔はニヤリと笑っているが、内心は心臓バクバクである。

それに対しこの四人、さあどんな反応するかと待っていると

 

「は!?ひ、久、それはホントか!?」

「え、ええええ!?京太郎が告白されたのか!?」

「須賀君が告白された…?」

「京ちゃんが…う、うぅ…」

 

滅茶苦茶である。

まこ、いつもの余裕を無くし、椅子からひっくり返る。

優希、大きな声を出し、何もないとこでコケ始める。

和、目からハイライトが消える。

咲、涙目になる。というか泣いている。

これには竹井久、察する。

 

__え、ええ?も、もしかしてこれってそういう…?

 

もしも、もしもそういうことであれば、この部活は今日から修羅場と化すわけだ。

そんな思考をしている竹井に、声がかかる。

 

「で、その、京太郎はどう返事したんじゃ…?」

 

染谷まこ、いつものはきはきとした喋りはどこにいったのか、恐る恐ると確認を取る。

「いや、告白されていた様子は見たんだけど、肝心の結果がわからなくて…」

周りがこんなに混乱しているのである、逆に落ち着く竹井久。

 

「私が聞き込み調査してくるじぇ!」

「私も情報収集してきます!」

「わ、私もしてくるよ!」

「わしも出来る限り調べてみるけぇ!」

 

この四人、そう言い残すとドタバタと荷物をまとめ、我先にと部室を出ていった。

咲に聞ける相手なんて居るのかしら?と思いつつも、部室に一人ポツンと残る竹井久。

 

__明らかにこれ、全員須賀君に気があるわね…

 

恐らくその通りである。彼は一体どんなマジックをしたのだろうか、全員がほの字である。

あのスケコマシめ、と愛しい彼を罵倒する竹井久。

彼にはそんな気はないんだ許してやってくれ、

ただお人好しで適度にチャラくてカッコ良くて素直なだけなんだ。

…いや、一番タチの悪いパターンである。

 

キーンコーンカーンコーン

 

さあさあ竹井久、そうこう考えているうちに予鈴が鳴ってしまったぞ。

その音を聞いてハッとし、慌てて昼飯を腹に詰め込み、走って部室を出ていった。

 

次に続く

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