放課後になるまでは割愛して、さあさあ集まりました清澄高校麻雀部女子部員。
唯一の男子部員は掃除当番で遅れるようだ、好都合である。
「私の情報筋によると、どうやら振ったという説が濃厚だじぇ!」
テンション高めにそう発表する片岡優希、薄い胸を張っている。
「そうですね、須賀君は他に好きな人がいると言って断ったという噂が回っています」
原村和は淡々と発言する。安心したからであろうか、目に光が戻っている。
「私も高久田君に聞いてみたけど、誰かと付き合い始めたとは言ってなかったって」
どうやら咲は京太郎と共通の友人に聞いてみたようだ。
「ふむ、どうやら告白されたのは確かみたいじゃが、断ったようだのぅ」
染谷まこがそう結論付ける。
流石は女子高生、今朝の出来事なのに既に噂が蔓延している。
京太郎が断ったという情報が一致したことにより、あちこちから安堵の声が聞こえてくる。
しかし、その声とは裏腹に、未だに空気は張りつめているように感じる。
それもそのはずだ、お互いの反応を鑑みて、そういうことだと察しているのであろう。
さてさて、どうするかと思案する竹井久、このまま部活は始められない、どう切り出そうか。
「そういえば皆さん、なんでそんなに須賀君のことを気にしていたのですか?」
ここで原村和がぶちかます!竹井久、この天然発言には驚愕する。
「え、えーとね…」
「そ、そのじゃな…」
言葉を濁す宮永咲と染谷まこ、顔を赤らめそっぽを向いている。
ただ、彼女だけは格が違った。
「京太郎は私の婿になる予定だからな!」
片岡優希、いつも通りの一直線、周りがどんな状況か分かっているのかいないのか。
これには驚く他三人、そんな様子を見て竹井久、こう思う。
__いや、想像できてたでしょ!
__特に優希なんてそれっぽい動きは多かったし!
どうやら全員がほの字であることに気づいていたのは、竹井のみだったようだ。恋は盲目とはよく言ったものである。
「だ、ダメです!いくらゆーきと言えどもそんなのは許しません!」
ここで原村和、さっきまでの落ち着きはどこにいったのやら、顔を真っ赤にしてたまらず声を張る。
「和!?お前もか!?」
「もしかして、染谷先輩も京ちゃんのこと…?」
もう滅茶苦茶である。あれよあれよと芋づる式に秘めたる想いがばれていくではないか。
告白を断ったことに安堵したのも束の間、まさか同じ部員が皆ライバルとは思いもよらなかったのであろう。
ワーワーギャーギャーと騒ぐわ驚くわ慌てるわ、もはや収拾がつかなくなってしまった。
「はいはい!皆落ち着いて!一旦整理しましょ!」
そこをなんとか治めようとするのは部長である竹井久、いつもなら鶴の一声で静かになるのだが
「おい久、まさかお前まで京太郎のことを好いとるなんて言わんよな?」
ここでまさかのカウンター、これは予想外だった竹井久、咄嗟に言葉を
「ええそうよ!」
出した結果がこれだよ!全力肯定である。これ以上にないいい返事。
そんな部長に対し部員たち、こう返す。
「え!?部長も須賀君のことを…」
「あんなに雑用ばかりやらせてたのにか!?」
「雑用させてたのはともかく、あんな意地悪とかもしてたのに…」
「おんし、まさか好きな子に意地悪しちゃう小学生みたいな…」
このざまである。後輩たちは思ったよりも辛辣だ。
「なんでよ!確かに雑用とかはさせてたけど、意地悪とかそんなしてないじゃん!からかってただけじゃん!」
幼児退行し始める竹井久。喋り方が小学生のようになってきた。
「いやなぁ、傍からはとても好きな人にする態度には見えんかったというか…」
「恋愛に悪待ちなんてありえませんよ」
さらに追い打ちをかける二人、心を折りに来る一言。こいつらには血も涙もないのか。
「うぅ~…」
涙目になる竹井久、確かに思い返してみると、まともに好感度稼げるようなことはしてないかもしれない。
というか、ちょっと話すだけでも満足していたというか、ちょっかいだすので満足していたというか。
思い返せば返すほど自信がなくなっていく竹井久。
と、その時、
バタン!と一際大きな音が
慌ててそちらを向いてみると、話題の京太郎がいるではないか。
その京太郎はいつもよりも一層元気そうに
「今日はよろしくお願いします!」
と発声する。さっきまでの喧騒をかき消すぐらいの大きな声だ。
これには五人ともポカンとする、どういうことかと聞いてみると
「俺、決めたんです、部長たちと同じくらい、いやもっと強くなるって!」
こんなことを言い出す始末、今朝告白された件と何か関係あるのか、と考える四人。
しかし一人は違った、優希である。
「うむ!その心意気やよし!これからは私たちがみっちりと鍛えてやるじぇ!覚悟しろ!」
すぐさまこう返す、こういう咄嗟の判断の良さは見習いたいところだと久は思う。
そう思いつつも優希に続いて言葉を紡ぐ。それに続いて皆が言葉を紡いでいく。
そんなこんなで部活を始めることにしたは良いものの、今日はいつもと状況が違う。
__誰が須賀君に教えるか
皆もそう思っているのであろう、互いににらみを利かせている。
__このままでは埒が明かないわね
そう思い、行動しようとしたその瞬間
「じゃーんけーん」
ここで優希、唐突にじゃんけんをし始める。焦る部長。周りも慌てて準備をし
「ぽん!」
手を出したらあら不思議、部長だけパーで他がグーを出しているではないか。意外にも一発で決着がつく。
__やったわ!
これには思わずガッツポーズ。そんな様子を白い目で見られ、いそいそと須賀君の後ろにポジションする。
__これは好機ね、早速アピールしていきましょう!
いつもなら悪待ちとか言っているこの乙女、恋愛においては手堅く押していくようだ。
さてはて、トトカマぶったことは幾度もあるが、恋愛経験なんて一度もないこの乙女、どう攻めるのか。
後ろからスッと顔を近づけ、耳元に向かって
「じゃ、わたしが教えてあげるわね」
こう囁く。
京太郎は少し体がピクッと動くも、なんとか平静を保っている。これに対し竹井久は不満気なようだ。
__な、なによー、もうちょっと反応してくれたっていいじゃない
心の中ではこんな風に毒づいている。それも仕方ない、やった本人の心臓は今にも破裂しそうなくらい鼓動しているのだ。
さてさて、サイコロ回って東一局が始まると、須賀君は手なりに進めていく。
しかし、彼はまだまだ初心者だ、受け入れが悪い切り方をしようとしている。
そんな彼に対し、反射的に声が出る。
「まって」
ピタッと静止する彼、そんな彼を横目にスッと牌に手を伸ばし、分かりやすいように説明する。
その動作は滑らかであり、どこか妖艶な雰囲気をかもちだしている。これには京太郎も思わず見とれる。
こんなことが出来るのであれば最初から…
__
この女、無心である。ただ教えることに集中している。もはやアピールなどとは頭の片隅にもない。
竹井久、ふと須賀君に意識を戻すと何やら硬直しているではないか。
「須賀君、分かった?」
もしかして教え方が分かりづらかったのかなどと不安に思い、確認の言葉を投げかけると、須賀京太郎は顔を赤くし、慌てて牌を切り始めるではないか。
__もしかして、なんか上手くいった?
竹井久、思わぬところでアピールに成功し、思わず笑いが口から零れる。
はてさて、そんなこんなでこの局は和のツモで終了し、次の局に行こうとすると
「待ってください」
原村和が咎め、なにやら京太郎の方に身を乗り出しているではないか!
__ぐっ!和、あなたそれは卑怯よ!
京太郎の後ろにいるからハッキリと分かる、このアマ、谷間を見せつけているな!
それに対しデレデレしている京太郎、これはとても面白くないと思い
「ふーん、和、はしたないわよ」
「あ、すみません」
すかさず注意するも、あっさり引き下がられる。
__なんだかやられっぱなしってのも面白くないわね…
竹井久、負けず嫌いの性格ゆえにそんなことを考える。確かにこのまますんなりと引き下がってたまるものか。
何か閃いた竹井久、スッと京太郎の手に自分の手を添え、優しく触りながら牌を卓に飲み込ませた。
__だだだ大丈夫よね?手は震えていないよね?
はたから見ると自然と行ってるように見えるが、内心こんな感じである。ビクビクである。
しかし、それに見合う効果はあったようだ。京太郎はあわあわしながら牌を押し込む。
__やった!効果あり!
そう思い、どうだと言わんばかり和の様子を伺うと、ムッとした表情でこちらを見ている。
それに対し軽く挑発するように顎を上げると、その表情はさらに険しくなっていく。
__ふふん、先に仕掛けたのはそっちの方よ
気づいてないのか竹井久、先に京太郎にアクションを起こしたのはお前だぞ。
さて、一人がアピールし始めるとどうなるか、言わずもがなである。戦争だ。
そんな感じで半荘が終わり、キャバクラ状態になり、須賀京太郎がノックアウトで現在に至る。
咲が慌てて京太郎を抱きかかえ、重そうにしつつもベッドまで運ぼうとする。
これを見て、慌てて他の四人も手伝おうとする。ゆっくりとベッドに横たわらせ、異常がないか確認する。
「熱はないようじゃな」
「疲労、ですかね」
まこはおでこにそっと手をやり、そう呟き、和は負い目を感じているのか、俯きながら言葉を絞り出す。
皆もやりすぎたと反省しているのであろう、沈黙が部室を包み込む。
「ねえ」
そんな沈黙を切り裂く一つの声が
「皆が京ちゃんのことが好きなのは分かるけど、こういうのは良くないと思う」
響き渡る。
「京ちゃんは必死に頑張って麻雀上手くなろうとしているのに、私たちの都合でまた振り回しちゃうのは」
その声はとても重く
「京ちゃんにとっても、私たちにとっても、良くない結果を生み出すと思うよ」
いつものような自信のない口調ではなく
「だから、やめにしよ?」
堂々と、そして誰よりも冷淡であった。
「そうじゃな、こういうのはよろしくない」
「一理あるじぇ」
「でしたら部活中は、なるべく露骨なアピールを避けるという感じでどうでしょうか」
その声を皮切りに、次々と発言していく部員たち。
「そうね、ある程度の取り決めはしましょう」
自分も大いに反省しているのであろう、その提案を受け入れ、皆である程度のルールを作っていく。
一つ、部活中の露骨なアピールはさける。
先ほどの和のような不要なアピールはやめようということだ。ま、スキンシップぐらいならオーケー。
あれは露骨ではありませんと言い張ったが、悲しいかな、持たざる者たちによって拒否された。
二つ、部活外ではなんでもオーケー
これは満場一致であった。それぞれ策があるのだろうか。
三つ、たとえ結果がどうなろうと恨みっこなし
いざ決着がつかないとどうなるかは分からないが、このことでギスギスするのはやめようということだ。
ただまあ、言うは易く行うは難しと言ったものだ、大丈夫であろうか…?
はてさて、そんなこんなで軽い取り決めをし、落ち着きを取り戻す清澄高校麻雀部。
__ま、バレなきゃセーフよね
この部長、ルールを守る気がない。こんなんではこの部活は崩壊の一途を…
(バレなきゃセーフですよね)
(ガンガン攻めていくじぇ)
(部活外での関わりは私が一番だよ!)
(実家の雀荘でのバイトでも勧めてみようかのぅ)
この部長にして、この部員有り。欲望まみれである。
特に宮永咲、あんなに堂々と発言しておいて、自分が一番有利になるように誘導してやがる。
この部活、大丈夫であろうか?
次に続く