視点は戻って須賀京太郎へ
ブラックアウトした直前の記憶はいずこへと飛び去ってしまったようだ、何も覚えてない。
気がついたらベッドの上、皆に心配をかけてしまったなと反省する。
__何かとても幸せなことがあったような…
悲しい哉、幸せすぎた故に記憶が飛んでしまったのだ。後ろからパフパフなんてそうそう…
「な、何も覚えていないんですか?」
目の前に居る和はそう確認してくる。
ああそうだ、と短く返事をすると、どこか安心したような残念なような表情で、そうですか、と呟く。
何があったのかを聞こうとしたとき、
「京ちゃん、もうお疲れみたいだし、今日は早退したら?」
隣の咲がそう提案してくる。これには冗談じゃないと思い、すぐさま否定しようとするが
「だって、いきなり倒れたんだよ?ちゃんと休んでおかないと体調崩しちゃうよ?」
「もし、京ちゃんが居なくなったりしちゃったら、私…」
そう言って段々と涙目になってくる少女、どうやらとても心配をかけたようだ。
ふぅ、とため息をついて、幼なじみの頭をコツンと小突く。
あいたっ、とマヌケな声を出してこちらをにらみつけてくるが、そんな視線も意に介さず
「ばーか、俺が居なくなるわけないだろ?」
こう返して、頭をわしゃわしゃする。幼なじみはイヤイヤしながら抵抗するが、お構いなしだ。
「でもまあ、咲の言う通りだな、気がつかないうちに疲れてるのかもしれないし、今日は早退させて頂きます」
とはいえ、これ以上部活をやると言っても咲が頑なに拒否するだけだし、今日は諦めて家で勉強することに。
「じゃあ、私が送ってあげるね!」
さっきまでの涙目はどこにいったのか、とてもいい笑顔でそう提案する宮永咲。
予想外の提案にすぐさまツッコミを返そうとするが
「いやいや、これは私の監督不十分だったのが悪かったのよ、だから責任をもって私が…」
「おいおい、お前が鍵とか管理しとるんじゃからお前は早退できんじゃろ、だからわしが責任もって…」
「何を言ってるんだじぇ、先輩たちはそんなことしなくても、私が責任もって…」
「何を言ってるんですかゆーき、あなたに任せたら須賀君が逆に疲れてしまいます、ここは私が…」
立て続け様にこれである。口を挟む余地がない。
__なんだこれ?
須賀京太郎、理解が追い付かない。というか追い付く方がおかしい。
__あれ?咲以外は俺んち分からないんじゃないか?
そんな疑問が思いつくも、すぐさま隣の幼なじみが
「もう、皆は京ちゃんの家がどこか分からないでしょ!」
こう突っ込む。これに対し
「え、あ、ええ、そ、そうわね!確かにそうね!」
「あ、う、うん、そうじゃな!危ない危ない…」
「あ、そ、そうでしたね!そうですよ!」
この反応である、これには京太郎も不審に…
__うっかりさんだなァ
思わない!この明らかに挙動不審な三人を見てもうっかりさんで済ませるのか!
しかし、残る一人は発想が違った。
「じゃあ、京太郎!私をお前んちまで連れてけ!」
誰が京太郎を送り届けるかという話なのに、この発想。もはや一周回って天才である。
「ちょちょっと優希ちゃん!いくら何でもそれは」
「さっさと行くぞ京太郎!タコスを奢ってやるじぇ!」
「うおっ!?」
「あ、待ちなさい!」
周囲の制止もものともせず、京太郎をグイっと引っ張り、ダダダと走り、あっという間に部室の外へ
「ほれ荷物!」
いつの間に取っていたのか、京太郎の荷物をポイっと渡すと、意気揚々と階段を降り始める。
慌てて追いかける京太郎、送り届けるとは何だったのか。
「おい待てよ優希!俺を置いていくなー!」
「ははは!早くついてこい!」
走れど走れど追いつかず、この少女は中々に足が速いのだ。
校舎を後にし、校門を走り抜け、ようやく追いつく須賀京太郎。
流石の優希も疲れたのか、ゼーゼーいいつつ肩を揺らしている。
「い、いきなりどうしたんだよ」
京太郎も疲れたのであろう、息を切らしながらも疑問を口にする。
「なあ京太郎」
彼女は息を切らしつつも
「告白されたって本当か?」
はっきりとそう聞いてきた。
「え、な、なんでその話を」
「女子の噂の早さを舐めない方がいいじぇ、とっくに広まってるじぇ」
優希らしくないような、淡々とした口調で話し続ける。
「そして、京太郎がそれを断ったってことも」
「…」
思いもよらない話題に、咄嗟に言葉を紡げない京太郎。
「も、もしかして」
言葉が震える少女
「誰か好きな人がいるのか…?」
か細い声が紡がれる。
不安と期待が入り混じったような、そんな言葉。
それに対し
「いや…」
否定の言葉を頭に置き、
「よく分からないんだ」
素直な心情を口にした。
「よく分からない?」
思いもしない回答だったのか、ポカンとする片岡優希。
須賀京太郎、彼女のことをとても信頼しているのか、自分の心情を素直に明かす。
「…正直な話、皆のことが好きでもあるし付き合いたいとも思うけど」
「選べないってことか」
京太郎が言葉を続ける前に被せてくる優希、彼女に似合わない小難しい表情をしている。
「そんな感じなのかな」
俯きながら言う。自分の気持ちに自信がないらしい。
「ふーん、じゃあ、麻雀が強くなりたいってのは?」
さらに質問を続ける優希
「ああそれは、麻雀が強い人が…」
サラッと質問に返答しようとするも
__あれ?俺は何を言おうとしてる?
危機一髪である、あの気合の原動力がモテたいという一心から来ているとは流石にバレたくない。
「…か、カッコいいじゃん?」
まあ、あながち嘘ではない回答。
「ほうほう、なるほどなるほど」
しかし片岡優希、何やらニヤニヤしながらこちらを見ている。
「な、なんだその目は!」
「いーや、かわいいやつだなと思っただけだじぇ!」
思わず反抗する京太郎、しかし余裕の対応を取られる。
ぐぬぬと思いつつもパッと踵を返し、家への帰路とたどり始める京太郎。
そんな彼の後をトテトテついていく片岡優希、しかしすぐに
「あ、タコス買ってくるから、ちょっと待つんだじぇ!」
脇道のタコス屋に向かって走り始め、そのまま店の中に消えてしまった。
__フリーダムなやつめ
部室を抜け出すときからずっと振り回されっぱなしである。
__でも、あいつなりに気を遣ってくれたのだろうな
ただまあ、京太郎も優希とは短くない付き合いである。いつもとは違った空気を元に戻そうとした彼女なりの気遣いであることは分かった。
そうこう考えていると、優希がタコスを持って戻ってきた。
「ほれ!京太郎の分も買ってきてやったじょ!ありがたく思え!」
こんな軽口を言ってくる彼女がかわいらしく思えて、微笑みながらタコスを受け取る。
「んぐんぐ…」
小さな口をめいっぱい大きく開け、タコスを頬張る姿は小動物を思い浮かばせる。
そんな風に思いつつ、自分もタコスを頬張っていると
「ん、京太郎、ここについてるじぇ」
「へ?」
どうやら頬の辺りにソースがついてるらしい、マジかと思い拭おうとすると
「私が拭いてあげるじぇ!」
そういってハンカチを取り出し、かがめかがめと言ってくる。
少し恥ずかしくも思ったが、しつこく言ってくるものなので、諦めて拭いてもらおうとかがむと
「ん」
頬に、何か、柔らかいものが、触れた。
硬直する京太郎、目の前には顔を真っ赤にした優希が俯いている。
__は、え、ちょ!?
大混乱である、不意打ちも不意打ち、予想だにしなかったのである。
「そ、そのだじぇ、私は…」
いつものような快活な姿はどこにいったのか、しおらしい様子で何か言葉を紡ごうとするが
「あー!京太郎さん!お久しぶりっす!」
それを防ぐかのように、少女が突如現れた。
次に続く