どこから現れたのか、いや、既にそこに居たのか、黒髪の少女が突如二人の間に躍り出た。
これには優希も京太郎も驚いたのか、うわぁ!と悲鳴をあげ、二人揃って後ずさる。
「ちょ、ちょっと、そんなに驚かなくてもいいじゃないっすか!」
そんな二人のリアクションに傷ついたのか、この少女は少し悲しそうに文句を言う。
この少女は東横桃子、人一倍どころじゃない影の薄さであり、目立ったことをしないと他の人から認識されない。
突如現れたのはそのためである。躍り出たというのも、言葉通りである。
「な、お前は鶴賀のユーレイ部員!」
「むむ!幽霊部員じゃないっすよ!ちゃんと部活には出ています!」
片岡優希、いいところで遮られたからか、いつもよりも強い口調でものを言う。
それに対し東横桃子、少しずれた返答をする。
「そういう意味じゃないじぇ!突然現れるのが幽霊みたいだっていうことだじぇ!」
「そういう体質だから仕方ないっすよ!」
やんややんやと喧しい二人、なんだなんだと集まる観衆、そんな様子に京太郎
「ほらほら、目立っているから落ち着いて」
落ち着いて二人を宥める。大衆から注目されるのは慣れているのだろうか。
そんな言葉に二人はハッとし、恥ずかしそうに俯いて口をつむぐ。
「ったく、優希、いくら何でも失礼だぞ、ちゃんと謝れよ」
「う、うぅ、ごめんなさい…」
いくら優希といえども、開口一番にああ言うのは失礼だと思ったのか、素直に謝罪する。
「あ、い、いえ、大事なお話に突然口を出したので、こちらも悪かったといいますか…」
これには桃子も悪かったと思ったのか素直に謝罪…ん?
「ん?大事な話って…」
「あ、あー!あーあー!あんなとこに幽霊が!」
「おいユーレイ、お前まさか」
このユーレイ、確信犯である。会話の内容を知ったうえで干渉しやがった。
これには片岡優希、とても見過ごせないようで、獰猛な獣のような目つきをしている。
須賀京太郎はなんだかよく分かっていないもよう。さっきまでの話を思い出そうとする。
__そういや、さっきほっぺに…
しかし、さっきまでの話を思い出そうとしたついでに、その時にあった出来事を思い出したようだ。
頬に手をやり、少し顔を赤らめる。もはや乙女、乙女顔負けである。
そんな様子を見て嬉しそうにニヤつく片岡優希。しめしめ、効果はあるようだ。
しかし東横桃子からしたら面白くない、他の女のことを意識しているのだ。
「で、何してたんっすか?」
そういうと桃子は腕にギュッと抱きつき、その豊満な胸を押し付ける。
たわわな果実が押しつぶされ、ぐにっと変形しているのであるではないか。
ま、この京太郎がそんなことで…
__お、おお、おおお!おもち!
嘘だろ京太郎、そんなにおっぱいが好きなのか、今度は腕の感触で顔を赤らめる。
しかし片岡優希、さっきの妨害の分も含め我慢できなくなったのか
「悪いのはこのおっぱいか!」
「ぎゃあっ!?」
バチーン!と片乳を激しくビンタする!これには思わず悲鳴をあげ、腕をパッと離して防衛する東横桃子。
「もいっぱああああつッ!!」
そんなこともお構いなし、腕を大きく振りかぶり、二撃目を繰り出そうとするが
「やめろぉ!こんな素晴らしいたわわが凹んだらどうするんだ!」
「ええい!離せ!」
後ろから京太郎が羽交い締めにする、ジタバタと暴れる優希、その表情はまさに修羅。一話前の乙女モードはどこへやら。
「ううぅ…酷いっす…」
その場でしゃがみ込んでさめざめと泣く…フリをしている東横桃子、あわよくば京太郎が慰めてくれないかとチラッとみるが
「やはり胸なのかー!そうなのかー!?」
「落ち着けぇ!」
悲しい哉、基本的に目立たないから静かにしていると誰も気づかないのだ。二人は楽しそうにじゃれ合っている、ように桃子からは見える。
「無視はよくないっす!」
謎の踊りをしながら二人の間に割り込む桃子、漸く認識したのか、二人とも少し驚いて、すまんと一言謝る。
「にしても、さっきからその踊りはなんなんだじぇ」
この無駄にカッコいいダンスが気になるようだ、東横桃子に確認をとるが
「ああ、それは見えるようにするために俺が教えたんだ」
京太郎は代わりに答える。この男、いつの間にかそんなことを。
「ふふーん!どうっすか!カッコいいっすよね!」
何やら誇らしげにドヤ顔しながらダンスする東横桃子、普段から踊っているのか中々にキレキレだ。
「ふーん、そういや京太郎とユ…モモちゃんってどこで仲良くなったんだじぇ?」
そんな彼女をスルーして、気になるところを聞いてみる。想い人の人間関係は把握しておくに越したことはない。
「そうですね、私と京太郎さんは運命的な出会いを…」
しかし何やら妄想話をし始めようとするこのユーレイ、成仏させてやろうかと思う片岡優希。しかし、
「あー、東横さんがケータイ無くした時に一緒に探したんだ、その時にダンスも教えたというか…」
どうやら東横の話はよく聞こえていないのか影が薄い故なのか、京太郎は無視して真面目に説明し始める。
話によると、とある駅で偶然オロオロしていた東横さんを見つけて、どうしたのかと声をかけ、ケータイを一緒に探したのがキッカケだと言う。
そして、その体質故にケータイがないと他人と意思疎通できないことの対策として、誰からでも見えるようになる動きを一緒に考えたという。
このコミュ力おばけ、顔見知り程度の人を助け、一日にしてかなりの好感度を稼いだのだ、ギャルゲーの主人公か何かか?
「なるほどなるほど、そーいうことか」
説明を受け納得した片岡優希、しかし、心中は穏やかではない。
__このステルスおっぱい、もしかしてこいつも…
実はこの少女、他人の感情にかなり敏感である。ここだけの話、竹井部長よりも先に皆の気持ちには勘づいていた。
このステルスおっぱいも京太郎のことを少なからず想っていることに勘づいたようだ。
「そーいうことっす、ゆーきさんは京太郎さんと何してたんっすか?」
さてさて、どうやら桃子も片岡優希と須賀京太郎の関係が気になるようだ、何をしていたのか聞いてくる。
__少し調べてみるじぇ
これは丁度いいと思い、アクションを起こそうと画策する片岡優希。
「デートしてたんだじぇ、な!ダーリン!」
その言葉と共に、京太郎に抱きつきスリスリし始めたではないか!これには京太郎も思わずたじろぐ。
さてさて、これに対し東横桃子はどう反応するのか…
「な、ななな!?デートっすか!?そんなのダメっす!違法っす!!」
はい、確実に惚れてますね、確定です。まーたライバルが増えてしまったのか。
「勝手に捏造するな優希!東横さんが誤解しちゃうだろ!」
流石に変な誤解を広めたくないと思ったのか、そう否定する京太郎。
「私はデートだと思っていたじぇ!」
しかしこの子の火力を舐めない方がいい、このゴリ押しである。
これには思わずドキッとする京太郎、ストレートな好意には弱いこの男。
「京太郎はもしかして、嫌だったか…?」
そして、上目づかいで自信なさげにこんなことを言ってくるのだ、緩急をついた鋭い攻め!
__や、やっぱ優希は俺のことを…
このアピールにはいくら鈍感な京太郎といえども、そういう意識をしてしまう。
さてさて、この空間に二人だけであったら、このまま優希が押し切ってゴールインも夢ではないが
「ちょーっとまったー!」
やけにテンション高めのステルスモモのインターセプト!なんだかラブコメ的な雰囲気をぶち壊していく。
「いくら私の影が薄いからって、二人だけでお話するのは可哀想だと思いませんか?」
「今からでもお前を成仏させてもいいんだじぇ?」
「い、いやでも、このまま見過ごしたら取り返しがつかないっす」
これには片岡優希もおかんむり、思わず殺害予告をしてしまう。
しかし東横桃子もここで引くようなタマではない、彼女の凄みに気圧されつつもなんとか食い下がる。
なんだか険悪な雰囲気なお二人、そんな様子を見過ごせないのはお人好しの京太郎。
心配ではあるがこの二人を置いてススっとどこかに行き、そしてすぐに戻ってきた。
「二人ともケンカはやめやめ、タコスでも食って落ち着け」
本日二度目のタコスである、特にこの片岡優希を落ち着かせるのにはもってこいである。
「んぐんぐ…」
「あ、ありがとうございます」
片岡優希、タコスを渡されるや否や大口を開け頬張り始める。
東横桃子、京太郎に一礼してからお淑やかに食べ始める。
そんなこんなで食べていると、高ぶった感情も落ち着いてきたのか、表情が穏やかになってくる。
「で、今からどこに行くんっすか?」
桃子はタコスを咀嚼しつつも、口を抑えてそう尋ねる。
「いやまあ、ただ単に帰宅途中だったというか」
京太郎は何の変哲もない返答をするが、事情が事情だ、語尾がすこし曖昧になる。
「そうだじぇ!今から京太郎ん家に遊びに行くんだじぇ!」
「そんな約束はしてねぇだろ!」
「そんなつれないこと言わずに、あ・そ・ぼ?」
この少女、一体送り届けるというのはどこにいったのか、もはや家に上がる気満々だ。
こんな楽しそうな二人を見て何を思ったのか、いや、羨ましく思ったのか
「じゃ、じゃあ」
すこし顔を赤らめながら
「私もついて行っていいっすか?」
ハッキリとそう発言した。
次に続く