ささ、前回のおさらいをしようか。
原村和、須賀京太郎を襲い始めるも魔王、議会長、次期部長に見つかる。以上。
「え、えっとですね…これは」
原村和、三人に咎められて冷静になったのか、段々と俯き、声がしぼんでいくではないか。
言い訳をしようとする彼女をよそに、この魔王
「和ちゃん、正座」
「あ、はい」
こう命令する。これにはオカルトを感じられない彼女も何か凄みを感じたのか、大人しく命令を受け入れる。
女子五人で囲い込み、中心には和が正座している。原村和包囲網の完成だ。
なにやら言葉責めをしている様子、それはダメだとか、無理やりは危険だとか、ルール違反だとか、なんとか言っている。
さてさて、一人ポツンと残るは京太郎、何を思っているのかというと
__や、ヤバい、めちゃくちゃ心臓がバクバク鳴ってる。
さっきの出来事がかなり衝撃的だったようだ。それもそのはず、ほんの数cmまで近づいたのだ、誰だってそうなる。
彼の心臓は活発に動き、未だに興奮は冷めやらぬ。どうやら彼女らの会話は毛ほども耳に届いていない。
彼女らの会話は核心に迫る話であるが、そこが聞こえていないのか彼らしいというか何というか。
さてさて、彼がドキドキしてる間に会議が終わったようだ。原村和は未だに正座している。
「ごめんね京ちゃん、せっかく早退したのに全然休めなくて」
「いやいや、別に休まなくても大丈夫だし、みんなが来てくれたことが嬉しいから」
「へぇ、和に迫られて役得だとか思っていたのかしら?」
「おい久、そういうところじゃ」
咲は謝るものの、そんなことはないと否定する京太郎、それに対し意地悪なツッコミを入れる久、そんな彼女を注意するまこ。
そんなこんなで漸く場が落ち着いてきて、いつものような雰囲気に。
…ん?何か忘れているような
「で、何しますか?」
突然現れる東横桃子、これには五人とも、うわっ!と驚き後ずさる。本日二回目である。
「お、おんし、いつからそこに?」
「ずっとここに居たっす!」
「相変わらず影が薄いのね…」
「ははは…全然気付かなかった…」
さてさて、個人の部屋としては広い方であるが、七人も入ると流石に狭く感じてしまう。
とりあえずリビングに移動して、皆でゆっくり寛ぐことに。
而して、たわいもない話を続けるものの、せっかく人の家に上がっているのだ、何か特別なことをしたいと思う。
何か面白そうなものはないかと辺りを見渡す竹井久、なんやかんや一番子供っぽいのは彼女かもしれない。
しかしリビングには特になんにもない、親がしっかりしているのだろう、キッチリと整頓されている。
染谷まこもそれにつられてあたりを見まわしてみるものの、特に何も目につかない。すると、
キュー
おや、何やら可愛らしい声がどこからか聞こえるではないか。
声の聞こえる方を見てみると、なにやら大きめの毛むくじゃらが動いている。
「んん?なんじゃこいつは」
「うわわ!これ、カピバラよ!はじめて見た~!」
「うお!思ったよりも大きいじぇ!」
「ホントですね、30cmぐらいはありそうです。」
「あ、カピちゃん!元気にしてた?」
三者三様ならぬ、五者五様の反応をする彼女ら。咲は何回か会っているのだろう、馴れ馴れしく触りに行く。
しかしカピはそんな咲をスルーして、お茶を飲んでる桃子の方へとじゃれに行く。
「わわっ!私のこと見えてるっすか?」
こういう体験は少ないのであろう、驚きつつも嬉しそうにそう聞いてみる。
キュルルル
返事なのか何なのか分からないが、喉を鳴らしたような声が聞こえる。
「おお、こんなとこで何してるんだカピ、うりうり!」
どうやら意図してカピをリビングに連れてきたわけではないようだ。
菓子を追加しに来た京太郎は、カピを見つけるとすぐさま話しかけナデナデし始めるではないか。
これに対し桃子、なんか奪われたような気がして、少しむっとなる。はたしてどっちに嫉妬しているのやら。
「京太郎さん、触ってみてもいいっすか?」
そんな感情は置いといて、目の前にいるカピバラを撫でてみたいようだ。京太郎に許可を取ると、すぐさま了承の意が返ってくる。
そぉっと触ってみるものの、想像していた柔らかさではなく、なんかゴワゴワしている。これには少し拍子抜け。
「思ったよりもゴワゴワしてるだろ?」
「ええ、でも、かわいいっす」
考えが顔に出ていたようだ、京太郎は微笑みながらそう言ってくる。しかし、かわいいものはかわいい。
カピも撫でられてご機嫌みたいだ、キュルキュルと喉を鳴らしている。どうやら桃子が気にいったらしい。
「うわぁ…私なんて、気に入られるのに結構かかったのに…」
なんだか知らないが勝手に落ち込んでいる宮永咲、どうやら懐くまでに時間がかかったようだ。
「わ、私も触ってみてもいいかしら?」
さっきからソワソワと落ち着かない竹井久、もちろん、と言葉が返ってくるや否や、すぐさまナデナデし始める。ちょっと激しい。
これにはカピもご不満の様子、なにやら渋い顔をしてそそくさとどっかに行ってしまった。
あぁ!っと残念そうな声を上げ、少しガッカリする竹井久。
「そんなに激しくやっちゃうと駄目ですよ、優しく撫でてあげないと」
そんな彼女に注意をするも時すでに遅し、カピは和の方に行ってしまった。
「近くでみるとなかなか愛嬌があって、かわいいですね…」
「確かにそうじゃな、このマヌケ面というかなんというか、そんな見た目が可愛らしいというか」
この二人はそんなことを言いながら優しく優しく撫で始める、これにはカピもとてもご満悦なようだ。
特に和が気に入ったのか、和の方にスリスリと体を寄せ始めた。
「お、和のことが気に入ったようじゃのぅ」
「わわっ、ど、どうしたらいいのでしょうか」
そんな様子を微笑ましく見守る染谷まこ、当の本人はどうしたらよいか困っている様子。
とりあえず撫でてたらいいよ、と忠告する京太郎。それに従いとりあえずナデナデする和、とてもリラックスしているカピ。
しかし誰か忘れていないだろうか?そう、彼女がいるではないか
「私も触るじぇー!」
満を持して登場のこの少女、片岡優希のおでましだ!
同じ小動物系の彼女なら気も合うだろう、意気揚々とカピを触りに小走りして近づく、が
グッグッグッ
「…おい優希、お前カピになんかしたか?」
「な、なんにもしてないじぇ!」
明らかに警戒されている、何やら歯をかち合わせたような音を出しながらジッと対面してくるカピ。
これには片岡優希も本能的におかしいなと思ったのだろう、ピタッと止まって間合いを取っている。
こんな状況はそうそうないようで京太郎は思わず確認するも、優希は何もしていないようだ。
はてさて、同じ枠組みだと判断してライバル扱いされているのか、それとも
「…おい、カピ、お前もしや胸の有る無しで好みを分けちゃぁおらんよな?」
キュ!?
このカピバラ、人語を理解しているのか、まこの小声の質問に対し驚いたような鳴き声を発す。
やれやれペットは飼い主に似るとはよく言ったものだ、どうやら図星だったらしい。そそくさと逃げて京太郎の元へ。
「おー、よしよし、どうしたんだ?」
「やっぱ飼い主に似るもんじゃのぅ」
「?、そんな似てますかね?」
そんなカピを保護する京太郎、まこはそんな言葉を発するが意図が分かるのは本人のみであろう。
さてさて、皆でカピと戯れて、優希は相変わらず威嚇されて、和と桃子は懐かれて、咲は無視されて
まこには…忠実に従っている。どうやら舎弟と化したようだ。弱みを握られては逆らえないのである。
こんな感じで遊んでいたら、もう空が真っ赤に燃えてきた、時計は縦棒になっている。
「あ、もうこんな時間ね」
「そうじゃな、そろそろお開きとするか」
「そうですね、須賀君、今日は楽しかったです!また来てもいいですか?」
「私が許可するじぇ!」
「なんでお前が許可するんだ、いつでも来ていいけど」
「また皆で遊ぼうね!」
「わ、私も楽しかったっす!また今度お伺いします!」
最後までやんややんやとやかましく、玄関までその喧騒は収まらず、玄関で見送って漸く静かになった。
__今日も楽しかったなァ
どうやら本日もとても楽しかったようだ。それもそのはず、皆で目いっぱい遊んだのだから。
しかし、ただ楽しかったわけではない。
__告白されて、断ったのも今日だったか
__そして、優希のあれも…
どうやら甘酸っぱい青春を送っているようだ、恋愛には慣れていない京太郎、今日の出来事は簡単に流せるものではない。
面と向かって好意をぶつけられたのも、友達と思っていた少女に恋愛感情を抱いたのも、それは彼の大事な経験だ。
__でも、優希も麻雀が強い人が好みだったはず…?
ああ、なんでそんな記事に引っ張られるのだ京太郎、彼は根明ではあるが少し自己評価が低いのか、全てをいいようには考えない。
そういう所が彼の魅力でもあるのだが、見ているこっちはもどかしい。
好みのタイプと好きになるのは違うのか、とか、やっぱ俺の勘違いなのか、とか考え始める京太郎。
そうこう悶々している内に、やれやれ母親が帰ってきた。時計は七時を指している。
残暑厳しいが今日の晩飯はキムチ鍋のようだ、パパっと作れるから仕方ないね。洗い物も少ないし。
コンロを出して、まだかまだかと飯を待つ京太郎。
彼の一日はもう終わる。これからの日々、どうなることやら。
次に続く