ジリリリリリリ!!
けたたましい電子音が鳴り響く。
それを止めるはこの男、須賀京太郎。
昨日の夜に味わった絶望はもう過去のことである。
スッとした目覚めに大層機嫌を良くしたのか、鼻歌を歌いながらベットから降りる。今日の朝食はなんだろうか?鮭の気分だな、と思いつつリビングに降りていく。扉を開け、母親に挨拶をし、テーブルに目を向けると焼き鮭と納豆、味噌汁にご飯と自分の願望通りの朝食。更に機嫌を良くした京太郎、寝起きとは思わせないような食べっぷりで朝食をあっという間にたいらげる。これには母親も満足、いつもよりも甲斐甲斐しく世話を焼く。そのおかげもあってか、いつもよりも早く支度が終わり、早めに出発することにした。
さてさて、いつもの通りの通学路を歩いていき、見えてきたのは我が学び舎、清澄高校。その学び舎の古ぼけた校舎、旧校舎の方に入っていき、階段を昇っていく。どうやら彼は部室に行って、麻雀の教本を持ち出して勉強するという魂胆のようだ。彼の心に下心などもうない…というのは詭弁かもしれない。しかし、今の彼にとって大事なのは彼女などではなく麻雀のようである。
さ、部室の扉を勢いよく開けると…
そこには我らが部長、竹井久が佇んでいた。
これには彼も驚いたようだ、すかさず口を開く。
「あれ?こんな時間にどうしたんですか?」
これに対し竹井久もこう返す。
「須賀君こそ、なんでこんな時間に?」
「いや、俺は麻雀の教本を借りようかなって思いまして…」
「あら、いつからここは図書館になったのかしら?」
「あ、いえ、すみません」
少し意地の悪い返答に思わず謝ってしまう須賀京太郎。
そんな彼の様子を見て申し訳なくなったのか、すぐに言葉を返す竹井久。
「ごめんなさい、少し意地が悪かったわね、麻雀の教本ならお好きに取っていっていいわよ」
「ありがとうございます!」
彼はそんな返答に顔を明るくし、すぐさま教本を手に取り吟味し始める。
そんな彼の様子を見た竹井久はそっと近寄り
「どんな本がいいのかしら?」
と耳元で囁く。
ゾクリとしてしまう、そんな至近距離。
この距離感に彼は思わずたじろいでしまう。
普通の男子高校生であれば、『あれ?これって脈あり?マジで!?』ってテンパるであろう。
しかし彼は違う。彼女とは数ヶ月の付き合いだ。腹の内など透けて見える。
__ただ単にからかっているだけだな
そう判断した彼はすぐさま立て直して返答する。
「えっとですね、基本的なとこから理論的に説明してくれるようなやつがいいですね」
「ふんふん、それならこれとかどうかしら?」
彼の返答に対し、スッと答える竹井久。その動作には何の乱れもなく、滑らかに行われる。
そんな部長に対し、どこか違和感を覚える京太郎。
__あれ?からかってるわけじゃないのか…?
しかしそう思うのも束の間、竹井久はさらに行動を起こす。
「あ、そうだ、あっちにもあったはずよ」
そう言うと、おもむろに彼の手を握り、引っ張っていく竹井久。
これには須賀京太郎もうろたえる、というかメチャクチャドキドキしてる。
__おおお!やわらけぇ!
悲しい哉、彼は幼なじみの手をつないだことはあるが、他の女子の手は繋いだことはない。
別に女子と接してなかった訳ではない、しかし彼の紳士な部分が身体的な接触を控えていたのだ。
「ほら、これとかどうかしら?」
そんな彼女の言葉は半分も耳に入っていない。彼はとりあえず手渡された本を読み始め、適当に相槌を打つロボットと化した。ほぼ直感で良し悪しを選び、いくつかの教本をバックに詰め込んでいく。
そんな彼に対し、竹井久は追い打ちをかける!
「ねぇ、どうしたの?さっきからなんか上の空だけど…熱とかないかしら?」
彼の額にピトッとなにかが触れる、いや…これは…まさか!
「うーん、特に問題はなさそうね…?」
おでこを手で触られている!
そう理解した須賀京太郎はヤカンのようにカンカンになる!
「うわわ!なんかすごい熱くなってきたわ!保健室行きましょ!」
ウォン!彼はまるで人間火力発電所だ!
そう言われても仕方ないぐらいの熱量、今にも湯気が出てきそうだ。
__え、なにこの人、天使かな?
今までの扱いの反動もあってか、まさかの判断を下してしまう須賀京太郎。
この男、確実にちょろい。
__もう告白しちゃってもいいよね?
ちょっと優しくされた程度でこの有様、これは酷い。
さあさあ思い切って告白しようとしたその刹那!
思い出すは昨日の光景。
『麻雀が強い人ね』
__ふぅ、危ない危ない、とんだ勘違いをしてしまうとこだった
__そうだ、あの雑誌に書いてあった通り、好きな人は麻雀が強い人
__俺は告白しても玉砕するだけだ
スッと冷静になる須賀京太郎、それに伴い熱も下がったようだ。
「あ、あれ?急に元に戻ったわね?」
__冷静になって考えると、この人はいざという時は他人想いだ
__今回のもただ心配してくれただけで、別に俺に気があるわけでもなんでもない
「大丈夫です、じゃ、そろそろ授業始まるんでここいらで失礼します!」
そうはっきりと伝えスタスタと麻雀部を後にする。
__最初の授業は古典だったな、こっそり読むか
そう思い教室に戻っていく須賀京太郎。
部室に残されたのは麻雀部部長の竹井久。安堵したような仕草をしたあと、なにやら残念そうな表情で部室を後にした。
次に続く