須賀京太郎は彼女が欲しい   作:ファンの人

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20 ご指導

さて、卓を囲んでやることと言ったら一つである、麻雀だ。

卓に座るは、福路美穂子、竹井久、染谷まこ、そして須賀京太郎である。

彼一人を除いたら間違いなく全国クラスの打ち手ばかり、そんな状況でも彼一人は臆さない、怖気づかないし諦めない。勝ちにいくのだ。

須賀京太郎、彼のいいところは間違いなくこういうとこである。たとえ相手がどんなに強かろうと勝つためにしっかりと立ち向かう。

実力差はありありと分かっている、心の中で逃げだしたいという気持ちがないわけでもない。惨めに負けたくないとも思う。

しかし彼は認められたのだ、色々な意味で憧れの少女に卓で打つべき実力はあると言われたのだ、ならば座るしかないだろう。

そう、せっかくのお誘いなのである。周りが凄すぎて感覚がマヒしているが、人によっては垂涎もののお誘いだ。

はやる鼓動を落ち着かせ、頭を回す準備をする。

 

__落ち着け

 

短く自分に言い聞かせると、すぅっと大きく息を吸い、肩を落として肺の中身を全て吐き出す。

ささ、始めようではないか。サイコロ回って卓から牌が飛び出してくる。

カチャカチャと理牌し、ドラを見るも手にはなく、少し気落ちする。

ま、玄さんみたいにいつもある方がおかしいのだ、と思い手なりに牌を切っていく。

しかし、この局は流れが良くないようだ。どうでもいい字牌や端牌ばかり集まってくる。

やれやれと思い、要らない西を切るも

 

「ロン、12000」

 

これは手痛い放銃だ、対面の竹井久、親満をダマで待っていたらしい。

 

「あー、テンパイしてたんですか」

「そうね、でも分かりやすかったとは思うわよ、ね?」

 

そう言うと部長は福路さんの方へと向き合って、何かを確認するように言葉を打つ。

それに対し、福路さんは

 

「ええそうね、今のは捨て牌を見ると~」

 

言葉をスラスラと連ね、どうやったらテンパイ気配を感じ取れたかを教えてくれる。

内容は節ごとに分かれていて、理解しているかどうかの確認を挟みつつ、優しく丁寧に話す。

流石は名門風越の部長だ、教えるのも一流と言っていいほどだ。

 

「流石じゃな、わしも勉強になるのぅ」

「こういうのは美穂子の方が得意だからね、経験も豊富だし」

 

先輩お二人も感心しているようである。

そんなこんなで局は進み、終わる度に教えていただく、一言一言が貴重な金言だ。

そんな言葉の端々に見える凛々しさと、口調の柔らかさとのギャップが彼女の美しさを更に際立たせる。強さと優しさは共存できるものなのだ。

さてさて、そんなことを思いつつも、意識は内容に集中して、その一切を取りこぼしのないように理解しようと努める。が

 

「須賀君?」

「はい、なんでしょうか?」

 

急に説明を止められる、何かをしてしまっただろうかと内心冷や汗をかきつつも、訳を聞く。

 

「そんなに肩に力を入れなくていいのよ、リラックスしましょ?」

「え、そんなに力入ってました?」

 

返ってきたのは優しい言葉、

 

「ええ、全てを覚えよう、全てをやり切ろうっていうのがありありと伝わってきたわ」

「まあ、せっかく教えて頂いてますし…」

 

しかし、どこか厳しさも感じる不思議な言葉、

 

「ううん、そういうのじゃ辛くなると思うわ」

「えぇ…そうですかね?」

 

「須賀君はどこか強迫観念というか、しなくちゃいけないという義務感に追われることが多いと思うの」

「それもとても大事なことだと思うし、私だってそう思って動くことは多いわ」

「…」

 

少し苛立ちを感じてしまうのは図星だからであろう。ただ、そこを否定されるのは気分がいいものではない。

 

「でも」

 

「たまには適当にやってもいいのよ?常に全力じゃなくても、適度に、無理のない程度に」

「常に全力だと大変でしょ?それに、実際の試合だと常に全力なんて出せない」

「だから、自然体でしっかり集中して当たり前のように出来るようになる、そういう練習も意識した方がいいわ」

 

ただ、その後の言葉には反論の余地もなかった。

優しくさとすように話しかけるが、その内容は芯が通った重い言葉、ズシンと腹の中に沈む。

 

__確かにそうだ、ハンドでもずっと全力で動くなんて無理だった

 

ハンドボールでもそうだった。あっちは身体的疲労もあったが、麻雀の精神的疲労は凄まじい、ずっと集中することが如何に難しいかはよく分かる。

当たり前のようで全く気づかなかったそんなこと。それを自分に指摘してくれた彼女は、もう既に通った道なのであろう。

 

「そうですね、分かりました!ありがとうございます!」

「うん!それじゃ次の局にいきましょ!」

 

声を張りしっかりと礼を述べる。運動部に居た時のクセであるが染みついたら抜けないものだ。しかし悪いとも思わない。

それに対し、心底嬉しそうな笑顔を浮かべ、次の局への準備を進める。

この不意打ちにはドキッとし、心臓バクバクになるが頑張って心を落ち着かせる。だがそうは上手くいかない。

 

「須賀君、また力入ってるわ」

 

ズイっと近寄られ両手で顔を挟まれ、少し不満そうな顔で見つめられるというか睨まれるというか、そんな感じで責められる。

思わぬ行動にフリーズしてしまい、ジッと見つめてしまうが、その端正で可憐な顔を見ていると、さらに鼓動が速まるのが分かる。

違うんです、そうじゃないんですと思いつつも

 

__うわ、わわわ!わわあわあわ!

 

心中はあわあわするしかない、そりゃこんな綺麗なおねーさんにこんなことされたらこうなるって!

更に緊張するともっと力が入ってしまうので、さらに責められ無限ループに突入する。なんか変なのに目覚めそう。

ああもう逃れられない!そんなことを考えていると

 

「美穂子、須賀君が困ってるわ、そこら辺で勘弁してあげなさい」

「流石に近寄りすぎじゃろ」

 

先輩お二人の介入が入る、福路さんはそんな言葉にハッとすると、パッと離れて真っ赤になって俯いてしまった。

そんな彼女をみて、ため息をつくまこさん、何も言わずに無表情な部長、なんだか少しだけ背中が粟立つ。

はてさて、色々あったものの無事に数半荘終わり、教えながらということもあったからか、中々に時間が経ってしまった。

もうすっかり夕暮れ時だ、カラスはカァカァ鳴いている。夕陽はやけに赤く光っている。

 

「今日はありがとうございました!」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます、また一緒に打とうね?」

「やっぱ美穂子は強いわねぇ」

「気が向いたら時はいつでも利用してください、待っとるけぇ」

 

福路さんと部長はそう言い残すと帰ってしまった。いつだってサヨナラはあっけない。

その後、まこさんと一緒に後片付けをして、一通りの反省をした後、これからのシフトの入れ方などを教えてもらって、あとは帰るだけとなった。

 

「京太郎」

 

しかし、背中から呼びかけられる。

 

「なんですか?」

 

そう一言返してみると

 

「お前さえ良ければ…」

 

あの言葉の続きなのだろうか、一瞬の間が延々と続く

 

「…いや、なんでもないけぇ、今日は疲れたじゃろ?ゆっくり休んでおけ、夜更かしとかはせんようにな」

 

しかし続きは紡がれず、代わりに母親のような小言が結ばれる。

 

「まるで母親みたいですね」

「いつでも甘えてええぞ、なんなら今からでも」

 

そんな小言に突っ込みを入れるも、すぐさま鋭い返しが飛んでくる。それどころか両手を広げて待ち構えているではないか。

しかも平然とした表情で、ほれ、とかいいつつ待っているのだから余計にタチが悪い。

 

「さ、流石にそれは遠慮します!」

「なんじゃ、寂しいのぅ」

 

くくく、と笑いを噛みつつも、イタズラっぽい笑顔でこちらを見ている彼女、どうやらからかっていただけのようだ。

ささ、もうこんな時間である、一言別れの言葉を残して自分も雀荘を後にした。

紫がかった空を見つめ、大きく息を吐く。今日は色々ありすぎて疲れた。

スマホを見てみると、そこには数件のメッセージが。

後で確認することにして、少しだけ歩みを止める。心の底から何かが沸々と湧き上がってくる、それがなんなのか分からない。

 

__走るか

 

よく分からないがそう思うと、地面を力強く蹴り出して、一歩一歩しっかりと走り始めた。

夕焼けは綺麗な紫色であった。明日も晴れであろう。

 

次に続く

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