須賀京太郎は彼女が欲しい   作:ファンの人

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22 電撃戦

雨脚は強まっている、カンカンと雨が戸を打つ音が響く。

階段を昇って、京太郎の部屋へと向かう二人、沈黙が間を埋めている。

部屋に入るとベッドに腰を掛ける少女、その隣にそっと座る少年、すかさず距離を詰める彼女、動かない彼。

 

「でさ」

 

隣の幼なじみは口を開く、短い言葉、試合開始の合図だ。

 

「京ちゃんはどうしたいの?」

「うっ…」

 

単純だが、一番厳しい質問、自分にとっては一番複雑な質問。

思わず言葉に詰まってしまう。

 

__どうしたいんだろう

 

自分に問いかけてみるも何かが返ってくる訳でもなく、何も分からない。

少し前の彼であったら、『彼女が欲しい』と思ったはずだ。ただ、今は即答できない。

そうこう考えていると、彼女は

 

「京ちゃんは皆の気持ちを考えすぎちゃうから、困ってるんでしょ」

 

勝手に言葉を続ける。彼の長所でもある部分をまるで悪いかのように扱う。

どんな表情をしているかは分からない、少し俯いている。

 

「そんなのさ、全部捨てちゃって、自分の本当にやりたいようにしちゃったらいいよ」

 

本当にやりたいこと、本当は何がしたいのだろうか、何を思っているのだろうか。

 

「京ちゃんには難しいかな?」

 

少し小馬鹿したような響きではあったが、文句の一つも言えない。

そうだ、彼女はいつでもそうだった。彼女に対して人に流されやすいような印象を受ける人が多いかもしれない。

ただ、彼女は自分のやりたいことを中心に動く人間であった、自分の世界に閉じこもり、気まぐれにそこから出かける。出そうとするのには大きな力で引っ張らないと出てこなかった。

麻雀でも、いつでも、なんでも、独り善がりであった。そんな彼女が言うからこそ、その言葉の重みは違う。

 

「…うん」

 

正直に答える、自分には到底無理だと、常に他人と触れ合って生きてきた自分には出来やしないと。

誰かひとりの意志を汲み取って、他の人の意志をないがしろにするだなんて…とても

 

「そっか…」

 

沈黙がこの部屋を包み込む、お互いに音を発さない。静かな時間が過ぎていく。

どこか心地よさをも感じる静寂、雨音だけが鳴っている。

ふと、隣の彼女が体重を預けてくる。突然のことだったので体が傾くも、すぐに姿勢を元に戻す。

 

「じゃあさ」

 

別に大きい声でもない、特に甲高かった訳でもない、しかし背中が跳ねる。

 

「決めちゃえばいいんだよ」

 

隣の彼女は何を言っているのだろうか、それが出来ないから悩んでいるというのに。

 

「さっさと決めちゃったら、もう悩むことなんてないよ」

「やるって決めたら、もう悩みなんてない、決めちゃったのはしょうがない」

 

いつの間にか隣の少女は彼の目を真っ直ぐ見ている。その瞳はとても透き通っていて…どこか無機質のような、鈍い鉄のような、いや、これはそんなものではない。

この少女は果たして誰なんだ、彼の知ってる少女はもっと内に秘めた感情が光っていたはずだ。しかし、こうも思う。

 

__こんな咲をどこかで見たことがある

 

彼の知らない彼女、されども既視感はある。何処であっただろうか、つい最近のような気もする。そう…ついこの間まで見ていたような。

熟考する京太郎、しかし彼女は止まらない、もう賽は回ったのだ。

 

「だからさ」

 

言葉を挟むタイミングを逃したと直感が告げる。

 

「もう、いいでしょ?」

 

その瞬間、グッと体重をかけられる。

咄嗟に手をつこうとするも、先に小さな手がその腕を包み込み、石のように硬直する。

そのまま体が傾き、重力には逆らえず、押し倒されてしまう。

咲はスッと京太郎の上に跨ると、腰を落としてマウントポジションを取る。

まるで花びらが乗ったかのように軽く感じるが、まるで大きな岩のように動く気がしない。

 

「さ、咲!急になにを…」

「京ちゃん」

 

声を上げて抵抗しようとするも、人差し指を口の前に押し当てられ、顔がグッと近づく。

吐息がかかる、そんな至近距離、本能が警鐘を鳴らす。心臓は限界まで脈を打つ。

 

「京ちゃんが困ってるんだったら、私が救ってあげる」

「京ちゃんが選べないんだったら、私が選んであげる」

「ホントに嫌なら、とっくに突き放してるよね?」

「京ちゃんはヘタレだけど、そういう所はしっかりやるもんね?」

「さ、咲、落ち着け」

 

妖艶な雰囲気で言葉を紡ぐ咲、その一言一言は蜜のように甘く、されど猛毒のように心を蝕む。後に続く言葉も彼をしっかりと縛っていく、彼をよく理解している彼女だからこそ分かることだ。

表情は恍惚としている。心底嬉しそうな笑顔をしているが、その瞳に光はない。

彼は何とかして声を喉から振り絞る、しかし短すぎる言葉だ。止まらない。もう止められないのだ。

 

「だから…ね?」

 

そう言って咲は顔を近づけ、そして、その唇が…

 

 

ゴロゴロピシャーン!!

 

 

「きゃあ!!!?」

 

触れることはなかった。けたたましい程の雷鳴が轟く。

その音に思わず驚いた宮永咲、体を飛び跳ねさせ、たまらずベッドから転げ落ちる。

さあさあ、ベッドの上に京太郎、ベッドの横には宮永咲、二人は顔を見合わせると

 

「…えへへ」

「…」

 

とりあえず笑ってみる宮永咲、沈黙を貫く須賀京太郎。

 

「咲」

「な、何かな、京ちゃん?顔が怖いよ…?」

 

名前を呼ぶ京太郎、見慣れた姿でオロオロするのは宮永咲。

 

「そこに直れぇぇ!!」

「ご、ごめんなさーい!!」

 

さあ、形勢逆転だ。

 

次に続く




五回ぐらいゴールインしかけた、あぶないあぶない
お気に入り登録等ありがとうございます。とても喜んでます!
咲さん強い、っていうか、なんか勝手に動き始めて暴れ始めたんだけど…
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