須賀京太郎は彼女が欲しい   作:ファンの人

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28 ブースト

何やら銅鑼のような音とともに始まる半荘、ツモから打牌までの時間は長めな方のルールである。教えながらやるのでそうしたのだろう。

そんな派手な音によって我に返り、慌ててマウスを握りしめる。カチカチと感触の良い音とともに牌を河に流していく。

彼女は短く、落ち着いていきましょう、といったような差し障りのない言葉をたまにかけつつ見守っている。

音のする方向で気が付いたが、いつの間にか斜め後ろに移動している。そんなことも目に入らないほど冷静ではない。

 

__なるべく楽に、頭を楽にして、冷静に思考しろ

 

自分にそう言い聞かせ、最近の調子のいい感じのようにクリックしていく。

彼女がなにも干渉しないということは、特に問題はないのであろう。

牌を一つ切る度に、正解しているのだという実感と喜びを噛み締めつつ、河に流れていく牌の一つ一つを何となく認識していく。

全てを覚えることは無理なのだ、やろうとしたら容量オーバーでパンクしてしまう。だからこそ、感覚で、どれがどんぐらい切れたかを認識するのだ。

なるべく自然体に、無理のない範囲で、集中、できる限りのことをする。持っているメモリには限りがあるのだ、そのメモリをいかに効率よく使えるかが重要だ。最近気づいた、いや、気づかされたことである。

 

 ロン

 

目の前の箱から音がする。自動和了にしていたからであろう、自分の牌は倒されて、役が丁寧に述べられている。

 

「よくできました、河にある牌もしっかり考慮できてましたし、ダマにしたのもいい判断でした」

 

きりりと締まった声が聞こえる、並べられているのはこの打牌に対する賛辞である。

彼女の目からしても文句なしの一局だったのであろう。そんな言葉の一つ一つに嬉しさが沸々と湧き上がる。

『憧れ』から認められる。どんな些細な事であろうと、基礎的なことであろうと、その一部分は認められたのだ。

 

__よし、いいぞ

 

とはいえ、実力の差はどうであれ同じ競技者である。まだ一局だ、半荘で勝ち切れなきゃ意味がない。

そう自分を律し、一喜一憂しすぎないように心を制し、適度な集中を保って次に進む。

テンポよく進んでいく、ツモも悪くない、他家のリーチがかかっても冷静に対処して…

 

「あ、そこは」

 

彼女はそう言うと、背中側から腕を伸ばし、手に手を沿えて、ゆっくりと操り始めた。

機械のような、ロボットのような精密でゆったりとした動きであったが、その手に抗うことは不可能に感じてしまう、そんな動作。

しかし、その手は暖かく、彼女がちゃんと人間であることを教えてくれる。

 

「こちらの方が~」

 

彼女は背中にもたれかかり、耳元でポソポソと囁く。子供をさとすような、とても優しく、甘い声色。

背中には柔らかな感触が密着しており、彼女の髪が首元をくすぐる。体温が伝わり合い、すこし汗ばむ。

そんな彼女は寸分狂わぬ舌先によって、素早く丁寧に言葉を紡いでいく。

熱が入っているのだろう、思わず身を乗り出してしまったのだろう、だから体が多少触れ合っているのにも気にせ…え?

 

__あれ、じゃあ、この背中の感触は…?

 

ふにゅりと柔らかい感触、彼女は身をぐいぐい乗り出してるので、背中に感じる何かはぐにゅぐにゅ変形している。

これはもしや、あの、その、たわわな果実ではなかろうか?そう思うと血流が一点に集中し始める。

 

__や、やばい!無心だ!無心無心、これはあれだ…幻覚だ…

 

生理的反応だから仕方ないとはいえ、流石に教えてもらっているのにそうなるのは不義理というか、男としてとてもヤバいと思う。

幻覚だと思い込み、後ろに居るのは幽霊だと思い込み、そんな感触はなかったと思い込み、なんとかして興奮冷まして卓に集中する。が

 

「どうしましたか?呼吸が荒くなってますよ」

 

その言葉とともに彼女の手がゆっくりと胸元を這う。少しくすぐったいが、そんなの気にならないぐらいに頭がぐしゃぐしゃになる。

平常心だ、平常心だ、それしかない。彼女はそんなつもりではないはずだ。

しかし、彼女の手が乳首を擦ると、どうしても体がピクリと反応してしまう。

そんな偶然とともに彼女はこう囁く。

 

「いいですね」

 

打牌に対して言ったのか、それとも…いや、そんなはずはない。

彼女の手を何とかしようとするも、蛇のように絡まれてどうにもならない。

いつの間にか、彼女は頭を首元にうずめ、吐息が首に当たる。

まるで、狙われているような錯覚を感じる。いや、狙われているのではない、捕らわれている、もう既に逃げられない。

牙は今にも首筋に噛みつこうとしているのか。

 

「ほら、姿勢が悪くなってますよ」

 

突然のそんな言葉とともに這わされた手に力が籠り、胸がさらに押し付けるようにして、姿勢をしゃんと正してくる。

そして、先ほどまでとは違って抱きしめるかのように腕が胴に巻かれる、まるで蛇が獲物を絞めていくかの如く。

冷や汗か、それとも密着しているから体温があがったのか、どちらか分からないが汗が流れる。止まらない。

 

「ここは~」

「この場合は~」

「こういう時は~」

 

彼女の言葉も止まらない、丁寧な説明が氾濫している。

次第に、彼女の忠告に従うばかりになっていき、自分の意識は段々と、その流れに飲まれていく。

その通りに動けば上手くいく、その支配が徐々に快感へと変わっていき、これがあるべき姿のようにも思えてしまう。

そうだ、この導きの通りにすればいいのだ、理性はそう告げる。

ダメだ、これは危険だ。本能は危険信号を示しているものの、理性は既に囚われている。

いつの間にか閉じ込められていたのか、この部室から逃げることはできるのか。分からない、どれが現実なのか分からない。

とにかく今はこの箱の中にて、牌を叩き続けなければ、勝たなければ、そうだ、今日はあの原村和が見ているんだ、変なミスはできない。

 

「いいですよ、私の言う通りにやれば大体は大丈夫です」

「安心してください、私がついてます」

「そうです、その牌を切りましょう」

 

彼女の言葉はスッと耳から入っていく、薬だ。安心させてくれる、不安感を除いてくれる、劇薬だ。

そう、効果がありすぎて二度と手放せないような、延々と囁きかけてほしいような…脳が侵される薬だ。

もう戻れない、逆らえない

 

「そう、その牌を切れば大丈夫でしょう」

 

彼女の言葉の通りに牌を捨てていく、彼女の吐息が激しくなる、腕にこもる力が強くなる。締め付けられる。

その可愛らしい桃色の髪が視界の端に見える、今ばかりはそれが何かの触腕のようにも思える。

画面の卓も大詰めになると、ぬいぐるみのように抱きしめられる。いよいよ捕食されてしまうのだろう。蛇のように丸吞みするのだろうか、どうなるのだろうか。何が起きてしまうのだろうか。

 

彼女はどんな顔をしているのだろうか?

 

 

 ロン

 

 

しかし、その疑問は永遠に分からなくなってしまった。

 

「え?」

「へ?」

 

間抜けた声を出す二人、すると銅鑼のような派手な音とともに

 

国士無双

 

との言葉が浮かび上がる。放銃したのは…

 

「うぉおい!?最後の一枚でこれかよ!!?」

「さ、災難です、仕方ありません」

 

彼だったようだ。しかも三枚切れの四枚目、そしてオーラス。

これによって、あれよあれよとラス転落、親の役満当たったんだ、とんでないのは凄いことだ。

 

「で、でだ、和、ちょっとくっつきすぎじゃない?」

「え?…あ、あああ!??す、すみません!!」

 

ささ、彼は彼女にそう告げると、彼女は目にも止まらぬスピードで離れ、顔を真っ赤にしながら髪を乱して錯乱し、手をブンブンふって羞恥心をどこかに追いやろうとしている。

そんな彼女の様子を見た彼は

 

__さ、さっきのはただ単に熱が入りすぎたのかな…

 

こう思うのみである。それ以外に答えが見当たらない。

先ほどまでの妖艶さはいずこに飛んでいき、目の前の少女は純情可憐な乙女である。

いや、あの妖艶さは自身の錯覚だったのではないかと考えられる。ただ抱きしめられただけだ、うん、そうだ。

 

外を見ると、日が暮れてきている。たったの半荘だったがかなり時間が経ってしまったようだ。

その後は普通に軽くネトマを打って、後片付けをして、途中まで一緒になって帰ったのみである。その間に彼女はあのことに関しては何も言及しなかった。

あれは白昼夢だったのか、そんなことを思うほどに普通の日とさほど変わらぬ夕暮れ時だ。しかし、あの感触はしっかりと覚えている、とても、幻覚だったとは思えない。でも、勝手に自分が意識しすぎただけなのではとも思う。悶々とした思いがつもる。

 

その晩、京太郎は、少しだけ夜更かしをした後にとてつもない罪悪感を感じて寝床に入った。

 

 

次に続く

 




もしも国士無双ぶち当てられなかったらどうなってたんですかね?
想像つかないなぁ…

いつもお気に入り登録等ありがとうございます。
感想はとても楽しく読ませて頂いてます、評価してくださった方はありがとうございます。
これで清澄麻雀部員の一通りの見せ場は作れたかな…まあ、これからも彼女達の描写はたくさん書くけどね!
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