ドアの前には、ウサギの耳を彷彿とさせる赤くて大きなリボンをぴょこんと立たせ、威風堂々といったように佇んでいる少女が一人。
しかしこの少女、体が幼すぎてもはや幼女である。かわいらしい服も着ており、見た目だけだと10歳前後にしか見えない。
だがしかし、驚くことなかれ、この少女は高校二年生である。驚いてしまったら本人に怒られる。
こんな身なりでも立派なおねーさんであり、麻雀の腕前はまさに魔物、そこにいる京太郎なんぞや吹き飛ばされてしまうだろう。
そんな彼女を視認して、ポカンとする清澄高校麻雀部。それもそのはず、彼女は他校の、龍門渕高校の生徒であるのだから。
なぜこんなとこにいるのだろうか?と思っていると
「何度も戸を叩いたのに、何故返事をしなかったんだ!」
どうやらご立腹の様子、何回もノックして暫くの間待っていたようだ。部室内でごちゃごちゃ騒いでいたため誰ひとりと気づけなかったのである。
プンスコといったように頬を膨らませ怒りをあらわにする幼…少女。どう見ても高校生には見えない。
突然とはいえ、せっかく来訪してくれたのだ、これは悪かったと思い部長が申し訳なさそうに
「ごめんなさい、ちょっと今立て込んでてノックに気づけなかったわ」
「そうか、なら仕方あるまい」
こう謝る。それに対し、このウサミミ少女は素直に納得する。子供っぽいとこもあるけれども、こういう対応は大人である。
いや、ちょっと前まではもっと尊大でふてぶてしくて高慢で失礼な感じではあったのだが、この夏の体験がいい方向へと導いてくれたようだ。
「で、今日は衣さんお一人ですか?」
そう云えば名前を紹介するのを忘れていた、この小さな少女は天江衣という。
優希の拘束が解かれた京太郎は、衣に対面してそう質問する。も
「衣ちゃん大丈夫だった?迷子とかになってない?」
その後ろから魔王がこんな戯言を申し始める。お前には言われたかないとこの部屋の何人が思っていることやら。
というか咲よ、その少女はお前よりも年上だ、明らかに年下と接している感覚だろう。
「む、咲が言えることではないだろ、笑止千万!」
「えぇ!?ちょ、ちょっと酷くない…?」
「これまでの自分の行動を振り返るんだじぇ」
「だな」
「東京で迷子になって一大事になったのはどこの誰じゃったかのぅ…」
「ええ、個人戦前なのにドキドキしたわねぇ…」
どうやら全員が同じことを思っていたようだ、まさに十字砲火、逃げ場はない。
衣からの手痛い一撃を喰らった後に全員からボコボコに言われる始末、これには魔王も何もできない。
まあ、どれもこれも東京とかいうコンクリートジャングルでスマホ忘れて迷子になったアホが悪いのだが。
清澄高校麻雀部だけならず、長野の他の高校や、はたまた全国の他校にも協力してもらってようやく見つかったのだ。
ちなみに見つかった場所はビックサイト付近だった、理由は不明である。どうしたらそうなるのか。
さ、そんなことは置いといて、今重要なのは天江衣のことである。
「話戻しますけど、衣さんの連れはいないんですよね?」
京太郎が話の方向を切り替えると
「ああ、あんな痴れ者共、もはや衣の友人などではない!」
なにやら吐き捨てるかのように言葉を発するではないか。
ずっとケンカしないってわけではなかったが、あんなに仲が良かったのにこの変わりようである。
これにはどうしたのだろうかと顔を見合わせる清澄高校麻雀部、とりあえず宥めるために
「まあまあ、そう興奮しなさんな、何か淹れてやるけぇ」
「じゃあ、ミルクティーがいい!」
「お茶菓子も用意しますね」
「そんなところに立ってないで、ソファーに座りましょ」
「タコス食べるか?」
「それは遠慮しておく」
「ゆっくりしていってね」
お茶と菓子で釣るのは常套手段である、古事記にもそう書いてある。
さて、不機嫌な少女の機嫌を五人がかりのVIP待遇でなんとか取って、怒りをどこかに追いやることに。
ここで京太郎、そんな彼女らを傍目にスッと部室から出て行って、スマホを取り出しどこかへと電話をかけ始める。
軽快なコール音が僅かだけ鳴り響くと、すぐさま誰かへと繋がる。
「京太郎君、どうしましたか?」
電話した相手は龍門渕家の執事であるハギヨシという男である。キリリと締まった声が電話口から聞こえてくる。
この男、色々とパーフェクトな執事であり、軽くワープしたという噂もあるほどであるが、それはさておき
「あのー、衣さんが清澄高校に来ているんですが」
要件を彼に伝える京太郎。彼は衣のお世話役もしており、大体彼がそばに居るのだが、今日はそうではないようだ。
そのことを不思議に思い、さらには天江衣のあの発言もあり、どうしたもんだと電話をかけたのである。
「清澄高校にですか、ありがとうございます。すぐにお迎えに…」
「いえ、それが…」
心なしか先ほどの声よりもゆったりとした話し方になったような気がしたが、それよりも迎えに来るという言葉に咄嗟に反応して事情を説明し始める。
「~ということでして、何があったんですか?」
「そうですか…分かりました。こちらであったことを話させて頂きます。」
電話口でも分かるほど落ち込んだように声を落とし、暫く間を空けたのちにキリっとした口調で話し始める。
「衣様以外の麻雀部員達が少し談笑していまして」
「はい」
「それで、話の内容が男女の恋愛事の方へと移ったのですが」
「その際に衣様の容姿では…という方向に話が行ってしまい、それを衣様がタイミング悪く聞いてしまって」
「それに激怒した衣様が半ば家出のような形で飛び出したということです」
思っていたよりも実情は軽いものだった、もしかしたら家のことで何かあったのかとも思っていた京太郎は一安心するも
「なるほど、分かりました」
「それで丁度捜索していたところに京太郎君からの電話が来て、現在に至ります。」
「で、どうしましょうか…?」
「どうしましょうか…」
ただ単にこっちに来た理由が分かっただけであって、解決策は何もない。
ハギヨシさんに迎えに来てもらっても、嫌だ嫌だと駄々をこねるのは目に見えてるし、かといって龍門渕の皆さんをこちらに呼んで謝らせたところで許してくれそうな雰囲気ではない。
龍門渕の彼女らもそんなつもりがあって言ったわけではないだろうが、受け取った本人がそう思ってしまったのだ、些か軽率であった。
たとえハギヨシさんがタルタルソース付きエビフライで釣ったとしても動かないであろう。あの発言にはそのぐらい強い意志を感じた。
それでもハギヨシさんなら何かしらの解決策を思いつくはず!と思い聞いてみるも、彼も人間である、何でもかんでも分かるわけではない。
「とりあえず、ほとぼりが冷めるまでうちで保護しておきますね」
「ありがとうございます。あと、何かあった時のためにも、ラインで逐一連絡して頂けませんか?」
「分かりました、では」
今のところでは何も思いつかないので、とりあえず電話は一回切って、連絡手段はラインに変更、そしてまた部室に戻ると
「そしたらトーカがだな、『衣は容姿が幼いですので、お相手を探すのは難しそうですわね』とか言ってたんだ!」
「うんうん、それは酷い話ね」
「一や純もそれに続いて、特殊性癖じゃないと厳しそうだなとかいう戯言を言ってて」
「国広がそれを言えた筋合いかのぅ…?」
どうやら衣本人の口からも聞いているようだ、恐らくそのことに関する愚痴を言っているのだろう。
部長はそんな彼女の体面に座って、話を肯定しながら聞いてあげている。こういうところも彼女のいいとこである。
染谷まこは小声でボソッと呟いている、どうやら衣には聞こえてないようだ。危ない危ない。
「京ちゃん、何してたの?」
「お手洗いに行ってたのではないですか?」
さてさて、一年組は戻ってきた京太郎に近寄って、何をしていたのか聞いてくる。
しかし彼女だけは違った
「いや、京太郎のことだから、ズバリ!」
「…ハギヨシさんと連絡取ってたんだろ?」
前半の部分は大げさに、後半の部分はそこに居る天江衣に聞こえないよう控えめに話す。
どうやら彼の行動なんぞ手に取るように分かるようだ、伊達にいつも一緒に遊んでない。そこの魔王よ、立場が怪しくなってきているぞ。
「ああ、よく分かったな」
「なるほど、確かにいい判断です」
「京ちゃん、ハギヨシさんの連絡先知ってたんだ」
「私のためにタコス作るときに従事したんだよな!」
彼がハギヨシさんとそんなに仲が良かったことなど知らなかった咲、そんな彼女に対し無い胸張って偉そうにそう言う優希、どうやら自慢しているようだ。
この魔王、心中ではぐぬぬと思いつつも、表面ではサラッと流して京太郎にどうだったかと問う。
京太郎は何を話したか、何が起きているのかを一通り説明して、どうしようかと投げかけるも
「うーん、どうしましょうか」
「衣ちゃんも頑固っぽいしなぁ」
「一筋縄ではいかなさそうだじぇ」
やはり解決案は見つからない、やれやれどうしたもんかと困っていると
「そういえば、なぜわざわざうちに来たのかしら?」
「言われてみればそうじゃな、他にも鶴賀とかあったじゃろうに」
「あ、そうだった!大事なことを忘れていた!」
その話題のウサミミ少女が
「京太郎!」
こちらにぴょこんと近づいて
「衣とデートしろ!」
ビシッと指をさしながら、何やら言い始めたではないか。
さあさあ面白くなってまいりました!
次に続く
ステルス、キャップときて、他校勢からはウサミミロリの参戦よ。
いつもお気に入り登録等ありがとうございます。
この前UA数を確認してみたところ、電撃戦(咲さん暴走話)だけ突出してますね…
やっぱ皆そういうの好きなんですかね…グフフ、いやらしいですなお前ら!