須賀京太郎は彼女が欲しい   作:ファンの人

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33 中秋

前回までのあらすじ: 衣とデートしてるよ!

 

そろそろ帰らないかという京太郎に、まだ行きたいところがあると言う天江衣。

 

「行きたいところですか…?カラオケとかなら次の機会に」

「夜じゃないとダメだ」

 

こんな遅くに出歩くのは少々危険だと思い、宥めるようにそう言うものの、彼女はそんな彼に言葉を被せ、確固たる意志を伝える。

とはいえ、夜じゃないとダメとはなんなのであろうか…?

 

「須臾ほどでもいい、あと少しだけ付き合ってほしい」

 

彼女は真剣な目で彼を見つめる、なにか決心したような、虎視眈々というか、そんな瞳をしているような。

京太郎、しゅゆとは何ぞや?と思いつつも、そこまで言うなら付き合おうと承諾する。

 

「よし!好機逸すべからず!早くいくぞ!」

「うわわ!ちょ、気を付けてくださいよ!」

 

そんな返事に顔を綻ばせ、彼の手をグイっと引っ張り、ファミレスを後にした。

…心なしか、部室の時よりも力強く見える気がする。

 

はてさて、どこに行くのだろうか?やや栄えた街並みを通り抜け、閑散とした道も走り抜け、辺りは一層暗くなる。

徐々に不安感を覚え始める京太郎、そんな彼の様子も意に介さず、颯爽と走り抜ける天江衣。光が徐々に減っていく。遂には街灯すら見えなくなった。

そんなこんなで着いたのは鬱蒼とした公園である、あまりにもおどろおどろしく、京太郎ですら恐怖感を覚える。それなのにこの少女は一切怯えを見せない。

木が風に揺れ、がさがさと音を立てている。虫の音も聞こえる。それがほのかな安心感を与えるのみだ。あまりにもか細い安心ではあるが。

彼女はそんな公園の深部まで彼を連れて行くと、ピタッと立ち止まり、そうして

 

「見ろ!」

 

上を指さした。

 

 

月が仄暗く、しかし燦々と輝いていた。

 

 

「おお…」

 

思わず感嘆の声が漏れる、意図したものではない。

綺麗な月だ、まん丸の満月である。中秋の名月とはよく言ったものであり、美しい、ただそう感じるのみ。

そう、彼女はこの綺麗な月を彼に見せたかったのだ。月に対し愛着を持っていた彼女だからこそ、光の少ない鬱蒼とした公園で、月が一番栄えている姿を見せたかったのだ。

それだけではない

 

「上ばかりではなく、下も見よ」

 

彼女は京太郎にそう伝え、指をスッと下に向けると、そこには水面に映った月が揺れながら池を照らしていた。

 

「うわぁ…すげぇ…」

 

まさに幻想的、絵に描いたかのような風景がそこには広がっていた。

闇夜に月が輝き、草木が月光によって仄かに照らされ、池の水面には蓮の葉と黄色い月がゆらりと、池の底には微かに魚影も見える、

視覚だけではない、虫の音によるハーモニーが奏でられ、風により絹に包まれたかのような心地よさが感じられた。どこからか清水が流れてきているのだろう、せせらぎの音も聞こえる。

 

風情がある、その意味を真に理解した京太郎、15歳である。

 

 

「虫のねも 月のひかりも風のおとも わが恋ますは秋にぞありける」

 

 

ふと隣から声がする、彼女の表情は暗くてよく分からない。

 

「へ?」

「中秋の名月を詠った短歌だ」

 

突然呪文を唱えられたので何事かと思うと、どうやら短歌だったようである。

 

「やっぱ衣さんって博識なんですね」

 

恐らく名歌なのであろう、彼はそういうのはよく分からないのでとりあえず褒めると

 

「浅学寡聞とはこのことか…」

 

何やら残念そうに呟かれる。これには首を傾げる京太郎、意味はよく分からないが反応は良くなさそうである。

 

「で、さっきの短歌の意味ってどういうことなんですか?」

 

まあ、分からないことはさておいて、話を広げようとさっきの短歌の意味を聞こうとする。ずけずけと、図々しく。

意味が分かっている人からするとトンデモ行動ではあるが、彼は無知なんだ、許してやってくれ。

さ、彼女は彼のそんな言葉にびくりとし、

 

「…知りたいか?」

 

睨むかのように彼を見つめる、月に照らされるその顔はほんのり赤みがかっているような。

 

「え、ええ」

 

彼は困惑しつつも、そう答えた。

 

 

静寂が訪れる、何か、途轍もないナニカが、辺りをドッと襲ったような、気がする。

その怪物はどこに居るのだろうか、言いようのない不安がつのる。

先ほどまでの虫の音も、草木の音も、風とせせらぎも、パタリと途絶えてしまった。

 

安心を与えてくれるものは、もう、無い。

 

ただ月が二つあるのみ、天と地、それぞれ一つずつ。

 

「虫の音も、月の光も、風の音も」

 

彼女は言葉を紡ぎ始めた。

 

「そして私の恋心が強くなるのは秋のことでした」

 

いつものような可愛らしい声ではなく、大人びた、透き通った声が聞こえる。

 

「…え?」

 

彼が彼女の言葉を認識したときには、すでに彼女は彼の腕を手に取り、軽く下に引っ張った。

彼はどうしたのであろうか、腰から力が抜け、あれよあれよと尻餅をついてしまう。

立とうにも思うように力が入らない、腕にすら力が籠らない、そんな自分自身に困惑していたが、それも束の間

上からのぞき込まれるようにして、顔を見合されている。月の逆光で表情は見えないものの、口元は三日月に歪んでいるように見えた。

 

「京太郎」

 

「お前のことが好きだ」

 

背筋が凍る、愛の言葉を囁かれているのに、それなのに、なぜ化け物と対面したかの如く冷や汗が止まらないのだろうか。どうして鳥肌が立っているのだ、なぜ火照るのではなく、氷のように体が冷たく固まってしまうのだろうか。

いや、これは愛の言葉ではあるが、その本質は…呪いにも近い。

 

「初めて会った時から好きだった」

「一目見た時から、お前とつがいになりたいと思った」

「どうしてだかは分からない、だが、衣の中の鬼が、怪物が、それを求めて止まないのだ」

 

口が開けない、いや、舌も唇も動くが肝心の声が出ない、何も出来ない、抵抗すら、本能は逃げることすら諦めている。

 

「だから…京太郎」

 

彼女はそう言って、服のボタンを外し始め…そして…

 

 

 

「ちょーっとまったー!!」

「そうはさせないよ!」

「衣!それはいけませんわ!!」

「京太郎!助けに来たじぇ!!」

 

 

 

その続きなんてなかった!ワッフルワッフル言ってもないものは無い!

どこから出てきたのか、なんか大勢そこらの木陰から颯爽と出てきて、あれよあれよと二人を取り囲む。

 

「はなせー!!いいところだっただろー!!」

「衣、流石に順序というものがありますわ」

「そうです衣様、今日のところは出直しましょう」

 

「だ、大丈夫か!?どこも何ともないか?」

「あ、ああ」

「よ、よかったわ…」

「危ないところでしたね…」

「冷や汗かいたけぇ…いきなり襲い始めるとはのぅ」

「あ、あはは…」

 

どうやら後をつけてたようである。良かったな京太郎!ホントにロリコンの称号を手に入れるとこだったぞ!

さてさて、無事に保護された京太郎、連行される天江衣、なかなかおかしな絵面である。

 

「すみません京太郎君、後でこの非礼はしっかりと謝罪させて頂きます」

「あ、はい」

 

いつの間にか隣にいた執事はそう言うと、お嬢様二人を連れてどこかに消えてしまった。

 

なんというかもう、メチャクチャである。

 

 

次に続く

 




魔物は暴走するっていう決まりでもあるのかね?
気がついたらこうなってた、短歌で想いを伝えるなんて奥ゆかしいなぁと思ってたらこのざまよ!

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