須賀京太郎は彼女が欲しい   作:ファンの人

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39 どうしてこうなった

彼女の名前は加治木ゆみ、高校から麻雀を始めたにもかかわらずメキメキと上達し、零細麻雀部を見事県大会決勝に連れて行った張本人である。

県大会決勝大将戦においても、化け物二人に全国クラス一匹とかいうやべぇ卓で奮闘した凄い人である。

そんな彼女、勿論の如く人望も厚く、特にとあるステルス少女からは過剰と言っていいほどの愛情表現をされていた。

彼女もまた、そんな少女の体質を心配し、娘のように見守っていた。そうしているうちにその少女に対して好意を抱くようになっていた。

しかし、そんな娘のような少女がなんと、好きな人が出来たというではないか。お相手は清澄の男子生徒、チラッと見たことはあるが話したことはない。

で、今回の旅行で偶然とはいえいざ会ってみると、色んな奴に粉をかけているではないか。風越のキャプテン、龍門渕の魔物、そして…清澄の部員達。

こんなスケコマシにモモを渡すことはできない!彼女は寂しがり屋だから一途な男性でないとかわいそうだ。そんなことを思ってしまう加治木ゆみ、もはや父親である。

さ、彼にガツンと言ってやって、モモを魔の手から守ろうと意気込んでいたのだが…

 

「俺に麻雀を教えてください!」

 

目の前の彼は何を言っているんだ?なぜ私に麻雀を教えてほしいなどと頼み込んでいるのだ?

突然の出来事に頭がついて行かない加治木ゆみ、普段から冷静沈着で快刀乱麻な彼女であるが、そんな彼女でも停止することはあるのだ。

まずは状況整理をする彼女、彼がイチャイチャしていて、それを制止して、警告してやろうと思って

 

__これはマズい!

 

ハッとする彼女、そうである、周りには彼に想いを寄せる少女たちがいるのである。

チラリと横目で周りを見渡す彼女、そこには

 

「…」

「…」

 

不機嫌そうに睨みつけてくる影の薄いかわいい少女と、まるで急に条約破棄され『貴様の首は柱に吊るされるのがお似合いだ』とでも言われたかのような表情をしている友人がいるではないか。

この他にも、四人の少女が恨めしそうに見ているのだが、彼女の視界には入っていない。

というか、この二人で手一杯。

 

__な、なんで私なんだ!?

 

そう思うのも当然である、なんたって彼とはまともな交流があるわけでもない、だから麻雀を教えてやる義理もないのだが…だが…

こんなにも目を輝かせ、自分よりも大きな男子が頭を下げて、必死に懇願しているのだ。やすやすと断れるわけはないだろう。

とりあえず訳を聞こう、そうしようと思う彼女、

 

「ちょっと待て、なんで私なんだ?」

 

傍からみると顔色一つ変えずに対処しているように見えるが、脳内では様々な思案が駆け巡っているのである。

それに対して彼は

 

「加治木さんって、高校から麻雀始めたんですよね!」

「ああ」

「俺も高校から始めたので、加治木さんに色々と教えてほしいと思いまして」

「なるほど…」

 

こう言ってくる。

なるほど、彼は初心者だったようだ。そして、どこからか…恐らくは久からであろうが、私が高校から麻雀を始めたことを知ったのだろう。

彼の境遇を考えると…同じ部員は皆、長いこと麻雀をやってきた人ばかり、初心者の彼には辿るべき道のりが分からないのであろう。

だからこそ私に声をかけた。どうやら彼をただのスケコマシだと思っていたのは間違いだったようだ。麻雀に熱意のあるスケコマシのようだ。

そういうことであれば、協力してあげても悪くないかもしれない、というかモモと関わらないことを交換条件に…名案かもしれない!さっそく…

 

「加治木先輩」

 

耳元で囁かれる。恐らく自分にしか聞こえないような細い声、されどナイフのように鋭い。

 

「いくら先輩でも、もし京太郎さんとの仲を邪魔するようでしたら…嫌いになるっすよ?」

 

ゾクリとする。この声には凄みがある。単なる脅しではない、心の底からの警告なのであろう、冷や汗が垂れる。

恐ろしくてその表情を伺えない、恐怖心が支配する。

 

__そ、そうだ、モモの友達なんだから優しくしないとな

 

凄まじい勢いで方向転換する加治木ゆみ、この心情を見ている我々からすると、いつもの凛とした彼女とはほど遠い。まるで愛娘に逆らえない情けない父親のようである。

ま、それも仕方ない、モモに嫌われてしまったら元も子もない。ここは冷静に対処して…

 

「分かった、私でよければ協力しよう」

「ありがとうございます!」

 

この少年の願いを聞き入れることに…あれ、なんだか空気が凍ったような。

急いで辺りを確認すると

 

「へー…」

「…」

 

先ほどよりも不機嫌そうな二人が佇んでいるではないか、どうやら選択を誤ったらしい。どういうことだ、とまたもや慌てる加治木、でも冷静になって考えてほしい。

彼女は図らずしも彼を独占するような形になっているのだ、彼との時間が喉から手が出るほど欲しい彼女らにしてみればどれだけ羨ましいことだろうか、しかも麻雀を教えてほしいと言ってきているのだ、何度妄想したことだろうか。

ま、パニックになってるゆみさんにはそんなことにも気づかず

 

__違う…違うんだ…そんなつもりは…

 

ただ心の中で謝るばかり。でも悲しい哉、彼女はテレパシーを使えるわけでもない、そんな謝罪は一ミリも伝わっていない。二人からの不信感はさらに積もっていく。

とりあえず受けてしまったのは仕方ない、表面上は淡々と彼の頼みを受け入れて、早速雀卓のある部屋まで一緒に移動することに。何の乱れもない動作。何も変なところはないはず。

 

__後ろからのプレッシャーが…

 

背後からの射殺さんばかりの視線さえなければ、特になんてことない行為なのに…どうしてこうなった。

 

~~~~~~

 

可哀想なことに巻き込まれてしまった加治木ゆみ、彼をモモから離れさせようと画策していたのに、彼が自分に来る始末。それが原因でモモから嫌われかけているという何ともまあ、不運というか上手くいかないというか。

そんなこんなでやってまいりました、なんか雀卓が置いてある部屋、今は誰も使っていないようだ。ガラガラである。彼女らは知らないが、風越と龍門渕は外へ遊びに行っている。元々はただの旅行だからね。

清澄高校麻雀部の皆さんもこちらを見ながら一緒についてきて、なんかどす黒いオーラを出している東横桃子もついてきている。女の嫉妬とは怖いものだ。普段は存在感のない彼女がもの凄い威圧感を出している。

加治木ゆみ、四面楚歌である。味方は隣にいる少年、本来は敵だと思っていた少年だけである。彼だけはニコニコと話しかけてくれる、それが後ろからのプレッシャーを高めているとも知らずに。

でもご安心を、せっかく打つならと、とりあえず鶴賀高校麻雀部の仲間たちも呼んでおいた。そろそろ来るだろう。これで彼女の胃の痛みも多少は和らぐ。早く来ないかと待っていると

 

「お、いたいた、ユミちーん!」

 

いつもは能天気な奴にしか見えない彼女、蒲原智美がこの日ばかりは天使に見える、これが吊り橋効果というものか。いつもは五月蝿いと思っていた彼女の笑い声が心を癒してくれる。

そういうことで多少メンタルが回復した加治木ゆみ、味方が増えるということはなんともまあ心強いことよ。

 

「よく来てくれた蒲原、ちょっと面倒なことになってだな…かくかくしかじか」

「まるまるうまうまってことか、なるほどな、ワハハー」

 

サラッと事情を説明すると、相変わらず能天気に笑っている彼女、とても考えている風には見えない。まあ、そもそも彼女には解決策を求めているのではなく、ただ単に話し相手が欲しいだけなのだ。

根本的な解決策にはならないが、これで多少は楽になったと安堵している加治木ゆみ、しかし

 

「じゃあ、彼をモモに渡せばいいじゃないか」

 

腐っても元部長である、ここでド正論をぶちかます。

 

「い、いや、それじゃあモモが彼と仲良くなってしまうし…それに久がどう思うか…」

「じゃ、ヒッサに渡せばいいじゃないか」

「そ、それだとモモに嫌われてしまう…」

「両取りできると思うなよー、ワハハー」

 

言う時は言う、まさに今一番認識したくなかった現実を容赦なく突き付けてくる彼女、天使などではない、悪魔の類である。心なしか目が笑っていないような。

たしかに彼女の言う通りである、どちらかに彼を引き渡してしまえば万事解決なのであるが…そう簡単にはいかない。

ゆみの置かれている立場は非常にややこしい、どのような行動をとっても後輩か友人の片方からは恨まれる危険性が高い。失うモノが大きく得るものは無い。ハイリスクノーリターン、割に合わないってレベルじゃない。

まあ、彼女は変な意地を張らずに、素直に後輩の恋路を応援していればこんなことにはならなかっただろう。他人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死ねとはよく言ったものだ、大変な状況になってしまった。

もうどうしようもない、睦月と妹尾に相談してもあまり意味はないであろう…

 

「た、頼む!なんとかしてくれ!」

 

藁をも掴む思いで、目の前の彼女に助けを求める。

すると彼女は

 

「私にいい考えがあるぞー」

 

なんと、そんなことを言い始めるではないか。でもなんだか不安感あるのはなんなのだろうか。

 

「本当か!?」

「上手くいくかは分からないが、やってみる価値はあると思うぞ、ワハハ」

「分かった、さっそく教えてくれ!」

 

思わずズイっと顔を寄せてしまう。

しかし、彼女はそんなことには意を介さず、後ろを振り向き

 

「モモと、ヒッサと、えーと、そこのお前」

 

「へ?」

「え?」

「俺?」

 

「こっちで一緒に打つぞー、ワハハー」

 

主な関係者を全員呼びやがった、やりやがった。ここにバルカン半島が形成されてしまった。

 

「か、蒲原、おまっ!」

「ユミちん」

 

「後は頼んだ、ワハハー!」

「なにがいい案だー!?」

 

何が始まるんです?

 

大惨事世界大戦だ!

 

次に続く




私にいい考えがある(コンボイ司令官)

いつもお気に入り登録等ありがとうございます!感想も書いていただきありがとうございます!

今回の主人公はゆみさんです、こんな闘争に巻き込まれてかわいそう…でもないな!
モモの恋路を邪魔するからそうなるんだよオラァ!
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