この男の名は須賀京太郎、麻雀を嗜む高校生である。つい先ほど一半荘終わらせた疲れからであろうか、イスに背を預け天を仰いで大きく一息つく。
__あー、くそー!
どうやら先ほどの半荘がとても悔しかったようだ、心の中で毒づき誰にも見えないように歯を軋ませる。
それもそのはず、オーラスで逆転手を作ったのだが、紙一重というところで我らが部長に上がられた。しかも当たり牌である白を抱えられてのツモアガリ。
通常の雀士であれば白を切って彼のホンイツの餌食となっていただろうが、この悪待ち部長は普通ではない。なかなかに狂った打牌をしてもなお、余裕であがれるのである。
そんな雀士を相手にこの対局、点差を見ればそこまで差はないように見える。他の面子を鑑みても大した結果だと言えるだろう。しかし彼は納得できない。
__やっぱ序盤の失点が痛かったか…中盤の乱れてた隙をつけたのは良かったが
わずか紙一重、されど紙一重、その一枚が果てしなく遠く感じてしまう。圧倒的な実力差が、この対局の僅かな差といて表れたのであろう。
それに、彼女は傍目から見ても精彩を欠いていることが分かるほど乱れていた。特に中盤はなんの変哲もない待ちに振り込んでいた。それでもなお、彼女からトップを奪えなかったのだ。
それだけではない、
__そういや、モモの様子もおかしかったな…
このステルス少女がポンコツ少女と化していたのである。彼女がフルパワーで戦えていればこんなにも楽に点棒を集めることは出来なかったであろう。
ステルスしない桃子はただのモブ、のどっちほどではないただのデジタル雀士と化してしまうので脅威というものは何も感じない。
そんな乱れに乱れたこの卓、圧倒的実力者である二人が実力を発揮しきれていなかったこの卓で一位になれなかったことがとても悔しく感じてしまう。
とはいえ、彼は気づいていないようであるが、この卓がこんなことになった原因は彼自身にある。
いや、正確には策を案じたアドバイザーである加治木ゆみにあるというべきか…時は少し遡る。
~~~~~~
「え、今なんて」
「だから、モモをジッと見つめるんだ」
「見つめるって、ええっと…」
「理牌や相手の捨て牌を見るのを最小限にして、モモをずっと見つめるだけだ」
「それに何の意味が…」
「いいから黙ってやってみろ」
「は、はい!」
彼はどうしようもなくなったので、加治木ゆみに相談したものの返ってきたのはよく分からない助言のみ。やれ、東横桃子をジッと見つめるのが対策だなんて…とある宮守のモノクロさんでもあるまいし、何も起きるはずがない。
しかし、彼女は強い口調でハッキリとそうアドバイスしているのである。少し抗議しようとしてみるも棘のある言葉を返されるのみ、これには思わず従って言われた通りに東横桃子の方を見つめてみるも…
__あれ、何を見てるんだっけ…
見る目標自体を失ってしまうので見つめることが出来ないではないか、これにはどうしようかとオロオロするものの
「その方向に顔を向けておけ、ずっとだ、いいか?」
後ろからそう囁かれる。その言葉の端々から感じ取れる威圧感に気圧されてしまい、油の切れたロボットのように首をそちら向きに固定する。傍目からするとなかなかに奇妙な光景であるが、本人はいたって本気である。
するとどうしたのだろうか?ぼんやりとだが、東横桃子の姿が視認できるようになり、ついには普通に見えるようになっているではないか。対局中の彼女は案外表情豊かなようで、コロコロと顔を変えつつ、牌を切っている。
__え、あれ?なんで見えるようになったんだ?
何故か見えてしまったことに困惑する京太郎、難攻不落の彼女の能力がこんな単純な戦法で破られていいのか、と考えだしてしまう。ただ単にお前に見つめられたから集中力を欠いてしまって見えるようになっただけなのだが…
これには提案した加治木ゆみも驚く、何かしら効果はあるだろうと思っていたが、まさかここまでとは思いもよらなかった。というか、表情があまりにもコロコロ変わっているので普段よりも見えやすい。カブトムシよか存在感ある。
しかも、なぜか竹井久が乱れ始めるではないか。普通の待ちにあれよあれよと振り込み始める竹井久。どうみても普段の彼女の姿とは大きく異なる。
そんなこんなで点差を徐々に詰めて、先ほどのオーラスまで至る。
要するに、彼の行動によって卓を乱したのだ!これも一種の武器…とは言い難い。恋する乙女が勝手に自爆しただけである。
「お疲れ様っす!」
「ん、ああ、モモか、お疲れ」
こんな風に回想していると、隣から声をかけられる。そちらの方を振り向いてみると、なにやら東横桃子がちょこんと佇んでいるではないか。
そんな彼女を見て、そういえば対局中の様子がおかしかったことを思い出し
「そういや、体調とかは大丈夫なのか?」
「へ?」
心配そうに聞いてみる。
「いや、対局中もうわの空だったっていうか、なんていうか」
「あ、ああ、ええっと、それはっすね…」
アタフタし始めるステルスモモ、そりゃお前と結婚する妄想を楽しんでいただなんて口が裂けてもいえるはずがない。ここはテキトーな噓でごまかすことにする。
「ちょ、ちょっと疲れていただけっす!」
「お、おう」
なぜか勢いよく発言し、なぜか体も勢いよく前に出す東横桃子、そんな彼女に気圧される須賀京太郎。
しかし、その視線はどこにあろうか、彼女のかわいらしい顔からは目をそらし、その向く先はやや下へ
__うおっ…
そう、そのたわわに実った乳房がたゆたゆ揺れているではないか。これは破壊力抜群、彼のハートにも効果抜群。
清澄では某のどっちでしか拝めることの出来ない超常現象、それが見れるなんて…眼福である。
だがだがしかし、その果実の持ち主は目の前で会話中なのである。そんな風にしていると…
「…?どこ見ているっすか?」
そりゃ不思議に思われる。まあ、幸いなことに彼女は対人経験が少ないので彼がどこを見ているのか察せていないようだ。
そのたわたわしている大きな果実から胸が締め付けられるような思いをしつつ目をそらし、彼は
「いいいいやいや!別に立派だと思っていたわけじゃァ…」
「へ?」
この見事な自爆である。ボンバーマンもビックリのこの自爆、墓穴を掘るとはまさにこのこと。
こんな彼の言葉の意味がしばらく分からなかった東横桃子、しかし、すぐさま真意を理解すると…
「え、ええええ!?京太郎さんのエッチ!変態っす!!」
「ぐはっ!」
顔を真っ赤にして彼を罵倒し始める!言葉のナイフを彼にグサグサと突き立てる!致命傷だぁ!
胸を隠してプンスコしつつ、その攻め手は休むことを知らない。
__ざ、罪悪感が…
こんな純情でかわいらしい彼女に対してなんて邪な考えを持ってしまったのだ。と後悔している京太郎。
自責の念が、彼女の鋭い罵倒が、彼の心を蝕んでいく!彼はもう瀕死である。元気のかけらが必要だ。
しかしだ京太郎、お前の思考にはひとつ誤解があるぞ。
別に東横桃子は純情でもなんでもない、お前の部屋のベッドに潜り込んでモジモジするぐらいには穢れている。ムッツリーニなだけである。
というか、気になる子の新妻エプロン姿とかを妄想するお前の方が純情である。そこのステモは新婚旅行中の十八禁すら妄想していたぞ。
さて、そのムッツリーニな東横桃子は
(はっ!ここで京太郎さんに…)
なんだか思いついたようだ、ナニを思いついたのだろうか、嫌な予感しかしない。
「…その」
言葉のナイフを懐にしまい、少し間をおいて言葉を紡ぎ始める東横桃子
「も、もし、興味があるなら」
「へ」
顔を真っ赤にしたまま、震える声でその先を紡ごうと…
「さ、さわっ」
「東横さん?」
その刹那!後ろから肩を叩かれるではないか、この綺麗な声色は…
先ほどまでとは別の理由で震えるステルスモモ、その存在を消そうと努めるも
「こっちで一緒に打ちませんか?」
悲しい哉、この天敵にはそれは通じぬ。観念して振り向くとそこにはとてもいい笑顔でこちらを見つめている原村和、笑顔とは本来攻撃的なうんぬんかんぬん。
さ、その用意されたこっちの卓というのは…
「ほら、一緒に麻雀を楽しもうよ!」
「そうだじぇ!嫌になるぐらい楽しませるじぇ!」
サイコパスチックな笑顔を浮かべ、つぶす気満々の清澄一年の悪魔たち。手に握っている牌は今にも握りつぶされそうである。
この卓、ヤバい!本能的にそう察知するも逃げること能わず、ズルズルと卓の方に引きずられてしまう。
「えーと、京太郎君は余ってしまいますので…後ろで見ていてくれませんか?」
「お、おう、分かった!」
さらにさらに、このデジタル娘はわざとかどうかは知らないが、そのたわわな果実をゆらゆら揺らして彼をも回収したではないか。
罵倒している暇があったら彼を誘惑しとけば良かったっすー!と後悔するも時すでにおすし、お前の行く先はギロチン台だ。地獄の業火に焼かれるがよい。
そんな彼女が処刑される様を、彼は尊敬と畏怖の眼差しで見つめていた。
次に続く
いつもお気に入り登録等ありがとうございます。
お久しぶりです、最近は忙しいしアイデアも思いつかないのでのんびり投稿になります。
突然狂ったように投稿し始めると思いますので、少々お待ちください。