須賀京太郎は彼女が欲しい   作:ファンの人

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44 ロマン

須賀京太郎はあの時のことをこう語る

 

__いや、あれは事故というかなんというか…

 

場面は一位を勝ち取った後、事件はそこから始まった。

 

~~~~~~

 

「で、私が最下位になったわけだが…」

「あー、そうですねぇ…」

 

一位になった須賀京太郎、その実感が未だ湧かない状態のまま何を指令しようかと迷う。

目の前にいるのは加治木ゆみ、師匠のように勝手に崇拝している相手である。

そんな彼女に何かを命令するだなんて…無茶ぶりは出来ないし、かと言って簡単過ぎるのも不快に思わせてしまうであろう。

うんうんと頭を悩ませて…

 

「じゃ、一発芸をするんだじぇ!」

「ちょ、おまっ!?」

 

いるところにスッと後ろから現れる快活少女、片岡優希はそう命じる。

 

「私のおかげで一位になれたんだし、私に権限があるといっても過言ではないじぇ!」

「うっ…たしかにな…」

 

そんな彼女を咎めようとするものの、その言い分は一理ある。

卓で打っていたのは京太郎だったが、はたして彼女のサポートなくして一位になれただろうか…?否である。

これには京太郎も言葉につまる。

 

「一発芸か…よし分かった!」

 

しかも、命令された加治木ゆみが案外乗り気である。何か持ちネタがあるのだろうか、自信満々にそう発す。

 

「みんな、ちゅーもーく!ゆみさんが一発芸やるじぇ!」

 

その返事に乗っかり、大声でそう注意を呼びかけるタコス娘。

そんな大声になんだなんだと反応する人々。

 

「お、ユミちんが一発芸するのかー!ワハハ!」

「へえ、ゆみが一発芸ね」

「え、ゆみ先輩が一発芸…?」

 

凛々しいカッコいい美しい彼女の一発芸、それはそれは期待がかかる。

須賀京太郎も思わずどんなことをするのか楽しみにしつつ待っていると

 

「こっちに来い京太郎」

「え?」

 

そう囁いてくる片岡優希、腕をぐいぐい引っ張られ、そのまま部屋を一緒に出てしまう。

部屋の中はやんややんやと騒がしい、どうやら加治木ゆみのネタは受けているようである。

そんな笑い声に気をひかれつつ、外に連れ去った張本人に訳を聞こうとするも

 

「急にどうしたんだ?加治木さんの一発芸は…」

「京太郎!」

 

「探検するぞ!」

 

目をキラキラと輝かせ、なんか変なことを言っているではないか。

 

「はぁ?」

「こんなに大きな旅館、色々と探検できるところがあるはずだじぇ!」

「いやでもなぁ…」

 

まるで小学生、やはりジッとしていられなかったようである。

これには京太郎も呆れる、が

 

「それに…京太郎は探したくないのか?」

「何をだよ?」

「覗きスポット」

「!?」

 

覗きスポット…女湯を覗くことは立派な犯罪であるが、その秘宝が垣間見できる場所を探すことはロマンである。

これには京太郎も揺り動く。

 

「そ、そんなのあるわけ」

「いいや、そうとは言い切れないじぇ、この地図を見ろ!」

 

バッと広げられた地図を見る。パンフレットではなく、どこで手に入れたのだろうか、しっかりとした地形図である。

 

「ほらここ、ここが少し丘みたいになっていて、ここからなら見れるかもしれないじぇ」

「お、おお…!」

 

そんな彼女が指し示す丘、そこに秘宝があるかもしれない!

これには心躍る京太郎、今の時間は風呂の利用時間外、たとえ本当に覗けたとしても問題ない。

ん?見れるものが無ければ意味がないじゃないかと…?

違うな、覗きが可能であるという事実が健全な男子高校生の妄想を加速させ、熱いリピドーがほとばしるのである。

 

「優希、いくぞ!」

「出発進行だじぇ!」

 

麻雀合宿だったことなんてお構いなし、ロマンを追い求め、ここに清澄のアホ二人による秘宝探索隊が結成された。

すぐさまロビーから外に出ていき、道なき道を進んでいく。

体が小さな片岡優希は藪の間をすいすいと、そんな彼女の後に続いて須賀京太郎はガサガサと、草木を踏み分ける。

この旅館、なかなかな山の中にあるようで、少し離れるだけで草がボーボーに生えているのだ。

とはいえこの程度の山道、長野の大自然で小さい頃から遊んだ二人にとっては庭をあるくようなものである。

木に手をひっかけ、茂みを掴み、整備されていない土の道を登っていく。

 

「時に京太郎」

「なんだ?」

 

すると前を行く彼女が声を発す。

なんだなんだと思っていると

 

「一位、おめでとうだじぇ」

「…まあ、大半はお前のお陰だけどな」

 

ちょっとした不意打ちである。これには照れくさそうに謙遜を返すものの

 

「そんなことはない、私はほんの少し背中を押しただけだ」

「そうかァ…?」

「牌を引いたのは京太郎、選んだのも京太郎、私は京太郎の迷いを断ち切っただけだじぇ」

「…」

 

淡々と返される、その表情は見ることが出来ない。

 

「ま、あれだじぇ、よく頑張った!ほめてつかわそう!」

「ははっ、今度は俺一人でも勝てるようになるぜ!」

「その心意気や良し!ビシバシ鍛えてやるじぇ!」

 

彼女は彼を一人の雀士として認めているようだ。そして、麻雀歴が長い『先輩』という自覚もあるようである。

意外だと思うであろう。確かに彼女は見た目や言動によって幼く見えるし、実際に幼いところは多々ある。しかしながら、中学時代は部長という役を務め、後輩の面倒を見ていたものである。

そして今、学年的な後輩も居ないし、麻雀的に後輩なのは京太郎以外いない。そのため、自分が面倒を見れて先輩面出来るのは京太郎だけである。彼女にとって京太郎は同級生というよりも、大きな後輩という認識の方が近い。

ゆえに、彼の成長はまるで自分のことのように喜ばしく思え、そして素直になれるのである。彼女は麻雀に関して褒めるときだけは茶化したりはしない。彼女なりのルールなのであろう。

彼もそんな彼女の気持ちが伝わったのであろう、屈託のない笑顔でドンドン上手くなってやるぜ!という感じに返事をする。

まるで少年漫画のような青春の一コマ、そんなやり取りをしつつ深い茂みを越えていく。

次第に坂は緩やかになり、そしてついに目的地と思わしき所に到着した、が、

 

「あー…」

「木が邪魔で何も見えないじぇ…」

 

丘といえども丘は丘、少しばかり高くなっているだけである。そんな森林限界に達しているわけなどあるはずもなく、木々はワガママ顔で生い茂る。

よくよく考えてみたら、そんな近くに覗きが行えるような場所があっても果たしてそこを放置するかと言われたら…答えは否である。

がっちりと組まれた広葉樹林によるスクラム、やや赤みがかった葉っぱが綺麗ではあるもののそれは置いといて、これを突破して秘宝を手に入れるのは至難の業。

もはやここまでか、そう諦めて踵を返そうとするも

 

「んー、んー」

「何やってんだ?」

 

隣の少女がなにやらピョンピョン跳ねているではないか。スカートがチラチラとめくれ、その中身が見えそうになっているが、そんなことには気づかない。

京太郎はそっちに視線が行きそうになるものの、彼女の顔に視線を定める。彼女は唇を嚙みしめ、なにやら悔しそうにうめき声をあげているが何がしたいのかはよく分からない。

 

「この木ならそこの枝に手をかけて登れそうだと思って、試してみたけど身長が足んなかったじぇ」

「んん?…ホントだな、この木だけは登れそうな感じだな。」

 

どうやら登れそうな木があったから頑張っていたようだが、少々身長が足りなかったらしい。

彼女の言う通り、その一本の木だけは剪定が甘いのかなんなのか知らないが、頑張れば手が届きそうな所に枝がある。

その枝を伝っていけばかなり上まで登っていけそうだ、ちっとやそっとでは折れそうにもないので安全性も大丈夫っぽい。

 

「よっと」

「おお!」

 

スッと軽くジャンプして、枝に手をかけ、幹に足をかけ、スルスルっと登っていく京太郎。小さい頃はこうして遊んだものだなぁと思いつつ、その巨体を軽々と動かして木のてっぺんへと近づいていく。

そんな彼に対して感嘆の声をあげる片岡優希、男性特有の力強さに思わず見とれ、カッコいいなどと思っている。若い頃は運動の出来る男子に惚れやすいものだ。彼女もそのクチである。

さてさて、彼はそんな彼女の感情などいざ知らず、そもそも何故木に登っているかも頭の中から抜け落ちて、ただ童心に帰って木登りに夢中になっている。ただの子供と変わらない。

お、どうやら彼は登れるところまで登ったようだ、モザイクになっている紅葉を手で押しのけ払いのけ、その頂上からの景色を見ると…

 

「うおお…」

 

見渡す限りの山々、その色は緑から黄色、そして赤色とまちまちであり、秋の訪れを感じさせる。

ハッと息を吞むような絶景。見下ろすようにして眺める森林はより一層、緑と赤のコントラストをはっきりとさせ、なんとも言えない美しさをかもちだしているではないか。

他の皆にも見せてやりたいと思い、木に掴まりながら器用にスマホを取り出し、写真を数枚撮り始める。

そうして写真撮影に夢中になるものの、一つの建物が目に入る。

その建物は煙だろうか、なにやら白い靄を噴き出しており、なんだなんだと目を凝らすと…

 

「え」

 

思わず視界に入るほどのまばゆい金色、そのやや下には肌色が…誰かの裸体が目に映る。

 

その人物はふと顔を上げ

 

その両目と目が合った。

 

 

次に続く




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