月になる物語   作:オティンティン大明神

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鉄の巨人 上

「──それでは受験者の諸君。良き受難を」

 

プロヒーロー プレゼントマイクが言葉を締め括る。雄英高校ヒーロー科 一般入試の説明が多少のトラブルはあれど粛々と行われ受験者達は自分が向かうべき受験場へと動き始めた。

 

それは一夜も同じ事であり、自分が向かうべき場所に辿り着いた一夜は、持ち込んだ物を着々と身に付け始めた。鉄骨が埋め込まれたブーツを履き、使い古されたメリケンサックを指に嵌め込み、父のお古として貰った黒と黄色のコントラストがトレードマークの額当てをベルトをのように腰に巻き付けた。到着した受験会場では一夜と同じように準備を行う者、精神統一を行う者、緊張を隠しきれていないのか、ソワソワと辺りを見渡す者と多種多様である。

 

「──しっかし、流石は天下の雄英高校だなぁ。こんな場所が何ヶ所もあるんだろ? 金のある場所はやる事が違うぜ」

 

そんな声が一夜の耳へと届く。恐らくそれはこの光景を見た受験者の1人が漏らした感嘆なのだろう。自分以外もその言葉に同意していたのか、眼前に広がる光景へと視線を向けていた。

 

視線の先に広がっている世界、それは街そのもの。立ち並ぶ雑居ビルとコンクリートで整備された道路、使われる事のないであろう信号機に、全てが近代化された圧巻の三十階のビル。雑居ビルの中は蛍光灯の明かりが灯っており、まるで何処かの企業がテナントとして借りているように見える。

その光景は正しく街そのもの。雄英高校の財力の一端をひしひしと見せ付けられた一夜は、流石は天下に名を轟かす学校だと心の底から震え上がった。

辺りを見渡せば百など優に超える受験者達、自分がいる場所だけでこれ程いるのだ。他にも何十もある受験場にも同じくらいの受験者達が始まりを今か今かと待ち続けている。

 

その総受験者数……約12000人、倍率に直すと凡そ300倍超。その中から選ばれた40にも満たない者達しか通る事しか出来ない余りにも狭い門。生半可の力では通る事は出来ない、周りの受験者を見渡すと、目から熱線を放つ者にセメントを身に纏う者、鋭く煌めく刃を腕から出す者に豪炎を見に纏う者。一般的に強個性と呼ばれる力を持つ者が自分の個性の調整を行い、皆が臨戦態勢を取った。

静寂が受験場を支配する、1秒が永遠に感じられる緊張感の中。

 

『はい、スタート! 』

 

──そんなプレゼントマイクの気の抜けた開幕の宣言と共に、狭き門をくぐる為の試練が今、幕を開けた。

 

実技試験はロボットを仮想ヴィランと見立て、どれだけのロボを破壊出来るかが評価の対象となる。

人間台の大きさならば1p それより大きければ2p 見上げるほどに大きいのなら3pと危険度が高ければ高い程、p数は

一部例外を除けて多くなる仕組みとなっている。

 

『対象ハッケン、ぶっ殺しマス! killkillユー! 』

 

例え1pの仮想ヴィランだとしても、それは鉄の塊。振り払う腕に直撃すれば、骨の1本や2本くらいなら簡単にへし折る破壊力を秘めている。故に、全ての攻撃を受ける事は出来ない。一夜は眼前から飛び掛ってくる仮想ヴィランを睥睨し、後方へと下がる。鉄腕が一夜が先程までいた場所へと深く突き刺さり

 

『ハズシタ! Die Die kill ミー! ぶっ殺してヤル! 』

 

「……どっちなの? 」

 

その頭部へと踵落としが放たれた。鉄骨の埋め込まれたブーツから産み出される遠心力は仮想ヴィランの頭部を粉砕し『ギ……ガ……』と末期の言葉を挙げた後、機体そのものをスパークさせ動かなくなる。

 

『同胞のカタキー! ブッチkill! kill! kill! 』

 

その言葉と共に一夜に襲い掛かる仮想ヴィラン。サイズは1pよりも大きく、一夜の二回り程度であった。ポイントでいうならば2p仮想ヴィラン。

攻撃方法は巨体を活かした殴り掛かりに突進程度しかないが、当たれば大怪我は免れない代物、質量とは多ければ多い程強い。

 

「えっ……ごっ、ごめん! 」

 

一夜は先程壊した1pヴィランを持ち上げると、遠心力を使った大振りのスローイングで2pヴィランの頭部へと放り投げた。放り投げられたスクラップは哀れにも宙を舞い、鉄同士がぶつかる鈍く鋭い音を響かせながら完全なる鉄屑へと姿を変えた。

 

『……エラー、エラー、見えナイ見えナイ。パーツ変更が必要デス、ピンチ』

 

頭部のカメラ部分を破損した仮想ヴィランはそんな機械音を響かせ、がむしゃらに腕を振るう。

 

「──腰を落として……弾丸のようにッ! 」

 

腰を落とし、両手を身体の前で構えて一夜は仮想ヴィランの元へと駆け出す。がむしゃらに振るう腕が一夜の元へと放たれるが、それを横へとステップする事で躱し、仮想ヴィランの手が当たらない部分。つまりは目の前まで近付き、拳を振るう。

 

メリケンサックを付けた拳が鉄の装甲をひしゃげさせ、ボクサーがジャブを繰り返すように何度も何度も、一夜は拳を放った。

 

『ギ……ガ……エラー……腹部パーツ損傷……エラー 』

 

1発1発。放たれる拳は弾丸の如く仮想ヴィランを撃ち抜き、最後に振るった大振りの一撃で機能を停止させたのか、仮想ヴィランはその場に崩れ落ちる。その姿を見送った後、一夜は更なる仮想ヴィランを求め街の中へと姿を消した。

 

「──いやはや。今年の受験生は粒ぞろいだね、0点ヴィランを殴り飛ばした緑谷君や1人でほぼ全ての仮想ヴィランを打ち倒した爆豪君。雄英は彼等と同じように、君達にも試練を与えよう」

 

もう良いかな?と、鼠は周りの人達へと問いかける。他の者達の同意を得た鼠は笑い、意気揚々と眼前にあるボタンへと手を伸ばした。

 

「絶対的な絶望の中でこそ、人の本質は光り輝く。plusultraさ! 」

 

── ヤル気スイッチ ON! ──

 

実技試験が始まってかなりの時間が経った。受験生達は自分の全力を尽くし、仮想ヴィランを打ち倒していく。1pを堅実に狙い、石を積むように確実に点を増やしていく者。危険を承知で巨大な仮想ヴィランへと挑み、ハイリスクハイリターンで点数を増やしていく者、眼前の仮想ヴィランを大小構わず全て打ち倒して行く者。全ての受験生達が戦い続ける中、それは姿を現した。

最初の違和感は小さな地鳴りから始まった。だが……その揺れはどんどんと大きくなり、直ぐに立つのもままならない程の大揺れへと変化した。

 

「んだぁ!? 何がおきやがった! 」

 

「地震か!こんな時に限ってよォ! 」

 

突然の揺れに困惑する受験生達、誰よりも多くの仮想ヴィランを倒さなくてはならない。そんな中で起きた地震、困惑しない訳がない。

現状の揺れに困惑を示す者、大事な時に発生した揺れに対して怒りを感じる者。様々な反応を見せた受験生達だったが、そんな中で誰かがそれに気付いた。

 

いや、気づいてしまった。

 

「おっ……おい……なんか、変じゃねぇか? 」

 

「何がだよ! 地震なら変でも何でもねぇよ! 日本に住んでんだから突然の地震くらい対応しろ! 」

 

「違ぇよ! なんか……空、暗くないか? 」

 

「はぁ……何を……? 」

 

自分達が巨大な影の中にいる事実に。そして、その影を齎している鋼鉄の巨人は此方を見据えている事に。

 

───轟音が鳴り響く。雑居ビル薙ぎ倒され、三十階建ての高層ビルが巨人の手によって、まるで幼児が虫を踏み潰すように叩き潰された。

 

『対象者……ハッケン! ハッケン! 潰ス! 捻リ潰ス! ブッ殺ス! 』

 

駆動音を試験場に鳴り響かせ、山を彷彿とさせる圧倒的な鉄の巨人は唸り声を上げた。今まで対峙してきた仮想ヴィラン達と同じように。地鳴りを響かせながら巨人は一歩踏み込む、それだけで突風が吹き荒れ壊れていない雑居ビルのガラスは全て割れ、道路に置かれていたであろう車はなぎ倒された。

 

「0……点……ヴィラン……!? 」

 

それは、試験が始まる前にプレゼントマイクが笑いながら説明していた仮想ヴィランの1つ。倒すだけ無駄な存在、この試験におけるギミックでありお邪魔虫のようなものだと。

確かに、これは倒すだけ無駄だろう。

 

何故ならば、此方側に勝ち目がないからだ。

 

人間は酷く小さい、プロヒーローに数十メートル程巨大出来る人がいるが、そんな存在は滅多にいない。当然、この場にいる受験生達もそうだ。

如何に目から熱線を放とうとも、腕から刃物を生やそうとも、豪炎を身に纏うとも、これには敵わない。敵う訳がないのだ。

 

質量とは力だ。そして、0点ヴィランは全てを凌駕する質量と、そこから放たれる圧倒的な破壊力を秘めている。

動くだけで地鳴りは起き、突風が吹き荒れ、建物は崩壊していく。身動ぎ1つで災害を引き起こす怪物

 

今まで勇敢に戦ってきた誰かが顔を蒼白に染め上げ、その場にいる全ての者達に聞こえるような大声で叫んだ。

 

「──逃げろォォォォッ! 」

 

恐怖は瞬く間に伝染していく。誰もが逃げ惑い、0点ヴィランから必死に離れようと走り出した。あの鉄の巨人から少しでも離れないと死ぬ。それだけが、彼等の思考の全てを支配しており、誰もが声を上げて身を翻し、走り出した。

 

「……アレに勝てる訳がアリマセン、エスケープデス。この場からハナレナイト……ッ! 」

 

それは、1人の少女も同じだった。祖国を離れ、世界に名を轟かす日本の名門高校へと入学を決め入試試験を受けに来た少女、角取ポニー。彼女の個性は自身の頭部に生えた4本の角を自由自在に操る力。つまりは0点ヴィランに対してなんの効果も持たないちっぽけな力、彼女は聡明だった。自分では太刀打ちが出来ないし、この場にいる誰もがアレには敵わないと理解していた。

だから逃げる。幸い、結構な数の仮想ヴィランを倒していた彼女は、残り時間。逃げるだけでも自分は問題ないと理解していた。恐らく、逃げる者達の中で1番冷静だったのは彼女だ。

 

──だから気付けた。

 

「……よっし! やるか! 」

 

無謀にも1人、あの鉄の巨人へと立ち向かうとする愚者の存在に。

 

「何ヲシテルンデスカ! 」

 

「えっ? 」

 

0点ヴィランの方へと進んでいく存在の肩を掴む。少女の気迫に満ちた声色に、肩を掴まれた少年は困惑したのか間の抜けた声を上げる。

 

「勝チメハナイデス! 逃ゲマショウ! 死ンデシマイマスヨ!? 」

 

「……あぁ! なるほど。だったら早く逃げた方が良い。アレはヤバい」

 

それじゃあ、と。掴まれた肩から手を外し少年は0点ヴィランの方へと進んでいく。それを見たポニーは1つの可能性に至った。

 

それは彼があの0点ヴィランを倒せるほど強力な個性を持っているというものだ。それならば逃げる必要は無い、そう思い前へと進もうとする少年に声を掛ける。

 

「アナタはアレを倒せるホドノパワーヲ、モッテイルノデスカ!? 」

 

「ううん。持ってない」

 

「……ッ!? ナラ、ナニカ倒ス為ノ個性ハアルンデヨネ!? 」

 

「……実は、無個性なんだ」

 

そう恥ずかそうに笑う少年を見て、ポニーの意識は吹き飛ぶ。理解出来ない、無個性がこの試験を受けている事よりも、無個性があの鉄の巨人に立ち向かおうとしている事実に。

 

「ダメデス! 死ンデシマイマス! ワタシト一緒二逃ゲマショウ! 」

 

この少年を行かしてはならない。きっと彼は自分が止めなければそのまま行き、そしてあの巨人に殺される。

 

「……父さんが言ってたんだ『ヴィランから逃げるのは市民の仕事、そして…立ち向かうのがヒーローの仕事』って」

 

「だから……あれを何とかするのがヒーローの仕事なんだと、僕は思う」

 

だから早く逃げてね。と、少年は笑いその場を後にする。駆け出していく少年は既に彼女の手から離れてしまった。彼女では、少年にはもう追い付けない。

 

「ジャパニーズ……クレイジー……ッ! 」

 

少年とは逆の方向を向き、ポニーは駆け出していく。本来自分が進むべき方向へと。

 

「クレイジー! クレイジー! クレイジー! モウ知リマセン! カッテニシテクダサイ! 」

 

駆動音を響かせ鉄の巨人は歩き出す。競技場の全てを破壊し、蹂躙しながら。

 

「……よっし! 頑張ろう! 」

 

ガチン。両手に付けたメリケンサックをぶつけ合い少年、無道一夜は笑った。

 

「『怖い時こそ笑え! 』だ! 」




設定2
主人公
・無個性
・マトモ(当社比)

今回のキーパーソンキャラ
角取ポニー
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