オイルの血液が全身を循環し、エネルギーを生み出し続ける動力部は唸りを上げ続ける。定められた行動は頭部のメインカメラに映る動く物体の制圧、近づく存在の排除。全身に取り付けられた排熱機構から熱風を発しながら鉄の巨人は1歩、足を進めた。
轟音と共に立ち並ぶ雑居ビルが、積み上げた積み木の家のように崩壊していく。鼠色の整備された道路は、巨人の踏み出された1歩に耐えられず大きな陥没後を作り出した。
『オオオオォォ……! 』
抑揚のない機械音を響かせ巨人は腕を振り下ろす。巨人の眼前にあった高層ビルが菓子細工の如く叩き潰され、地面にその残骸に散乱させた。
巨人の目的は動く物体並びに近付いてくる存在の排除、プログミングされたその命令は彼にとって神からの言葉、自我を持たぬ巨人が唯一を果たせる使命そのもの。
巨人の競技場全てを見渡せる程高性能
な目が、ある存在を見つけ出した。
「やるしかない! 先ずは突っ込んでから、全てはそれからだ! 」
ちっぽけな存在だった。全長数十メートルの巨人と比べたら数十分の一程度しかない存在。巨人を人間とするならば、その存在は蟻の大きさになる、それくらいの身長差と質量差がある存在。
巨人に意思があるのならば、余りにも矮小で脆弱な存在故に歯牙にも掛けなかっただろう。だが、彼に意思はなく、あるのは神からの定められた使命ただ一つ。
『オオオオォォ! 』
近づいて来る者の排除、その命に従い腕を振り上げ、眼前にいる矮小な存在へと振り下ろした。吹き荒れる突風、崩壊していく競技場、その一撃に恐怖し逃げ惑う者達、振り下ろした先を巨人は見据える。そこにあのちっぽけな存在はいない、神から与えられた命令を成し遂げ巨人はまた歩き始める。
轟音と共に、全てを滅ぼしながら。
巨人は気付かない。自我を持たない故に、鉄という外装に包まれているが故に肌という機能を持たないからこそ、気付く事が出来ない。
自分の肉体にへばりつき凄まじい速度で登っていくちっぽけな存在に、早々と肩まで登り切ったちっぽけな存在は笑い、巨人の鉄の外装の隙間から機械仕掛けの体内へと飛び込んでいくのを
それに気付いたのは巨人に命令を下し、この光景を眺めていた者達のみ。
眺めていた者達の内の一人が笑う。
──これは面白い事になってきた、と。
それを咎める者、この光景を見て顔面を蒼白にし、上座に座る鼠へと声をあげる者。様々な思惑と言葉が飛び交うその中で鼠は笑い、周りにいる全ての者達へと言葉を放った。
──人間の意思は絶対的な絶望の中でこそ真価を発揮する、止めるのは何時だって出来る。今は待とう。僕達は今、新しい伝説の1歩を見守っているんだ。
競技場は鉄の巨人の歩みによってその姿を酷く惨たらしい物へと変化させていく。立ち並ぶ高層ビルに雑居ビルは皆、尽く崩壊させ、整備されていた道路は罅割れ辺り一面に建物の残骸を散乱させた。
──地獄とも呼べる光景の中、必死に走り続ける少女がいた。その少女の名は角取ポニー、海外からこの雄英高校へと入学する為に訪れた子どもだ。角取は必死に自分とは正反対の場所にいる巨人から距離を離す為に走り続ける。
「クレイジー……ッ!ワカリマセン! 」
角取の脳裏に先程出会った少年の姿が思い浮かぶ、 酷く愚かな男だった。あの巨人に一人立ち向かおうとした狂人。勇気と蛮勇は違う、立ち向かう力がないのに勝ち目のない存在へと立ち向かうのは勇気ではない、無駄に命を散らす愚行、即ち蛮勇だ。
「……イマ、ダレカト一緒二助ケ二行キマスカラ! 」
彼は自分自身の事を無個性だと言った。超常の力を持たぬ凡人、それが無個性と呼ばれる者達、庇護対象であり弱者故に苛めの対象となる者である無個性。
角取だけではあの巨人を倒す事は出来ない。だが……愚かにもあの巨人に立ち向かった彼は何としてでも助けなくてはならない。角取の遥か先には現状の安全圏まで逃げ切り 荒々しく息を吐く者達がいる。 彼等に助けを求めよう、そう思い角取は目の前の者達へと声を掛けた。
そこで何を言われるか知らずに。
──鉄の巨人に意思はない、定められた使命を実行していくだけの存在。鉄の巨人はその使命に従い遥か先に存在する酷く小さな者達の元へと向かう為に足を1歩進めようとした。司令部たる頭脳から足を動かすように伝令を発し、司令部から命令を聞いた足は命令通りに左足を
『……エラー。接続機能に異常アリ、至急点検を必要とシマス。ピンチ、エマージェンシー』
……足は上がらなかった。頭から足へと伝令を伝える部分に突如異常が発生したのだ。もしも鉄の巨人に意思があるなら、鉄の外装ではなく肌を持ち合わせていたらば、異常の原因を即座に理解出来ていただろう。
──自分の体内で暴れ回る小さな存在に。
オイルと鉄が発する独特の匂いの中で一夜は拳を振るう。彼の周りには鉄の巨人を動かすのに必要な内臓部分が広がっていた。ケーブルに謎の機材、一夜にはこれらが良く分からなかったが、取り敢えず殴れば全部壊れるという事だけは理解していた。
故に殴る、故に蹴る。さながら鬼の腹の中で針を刺し回った1寸帽子の如く、八面六臂の大暴れ。駆動に重要な部分が尽く破壊され、鉄の巨人はエラーを何度も吐き出した。
『右足……伝達機能に異常……アリ、至急点検……』
粗方壊せばまた別の場所の機械を。
『ギ……ガガ……稼動限界5%突入、至急マニュアルに従い点検を……』
そして、また別の場所を。と何度も何度も壊し続けながらケーブルが続く先、つまりは動かすために必要な物が鎮座する巨人の中枢へと一夜は進んで行った。
「……ナ、何デ……? 」
「だって……普通に危ないじゃん。それにあの仮想ヴィランは0点なんでしょ? 戦う方が馬鹿じゃん」
一夜を助ける為に逃げた者達の協力を得ようとした角取だったが、それはあっさりと拒絶された。何度も何度も必死に懇願する角取だったが、その度に他の受験生達は否定を持って返事を返す。
「アノママ一人デイタラ死ンジャイマス! ダカラ! 」
「いやいや……流石にそうなったら先生が助けるでしょ」
──何を言おうが。
「キットワタシ達ノ力ヲ合ワセレバ……彼ヲ助ケラレルカモシレナインデス! 」
「……助ける意味が見当たらなくね? 敵が1人減るし」
──どれだけ懇願しようが。
「彼ハ無個性ナンデス! ダカラ! 」
「えっ……無個性がこの試験受けてんの? マジで? 敵が一人減ったな」
声は届かない、角取がなりふり構わず頼み倒している間にも時間は無常に、残酷に進んでいく。そして、角取の懇願が発せられる前に誰かが叫ぶ。
「おい! 向こうにまだ仮想ヴィランの生き残りがいるぞ! あのデカブツは動いてないしチャンスだ! 」
その言葉に我先とその方向へと誰もが足を進めた。当然の結果だ、これは競走であり他人を助けるよりも仮想ヴィランを倒してポイントを稼ぐのが最優先、一夜のように0点ヴィランに立ち向かったり、角取のように彼を助けようとするのが受験生達からすれば理解不能な行動だ。
呆然と立ち竦む角取の脳裏に先程の一夜の言葉が思い起こされる。
「『市民の仕事は逃げる事……そして立ち向かうのがヒーローの仕事』」
角取ポニーはヒーローを目指してこの雄英高校ヒーロー科に受験した。この試験内容はどれだけ仮想ヴィランを倒すか、如何に人よりもポイントを稼ぐのかに集約されている。
視界の先には立ち竦む0点ヴィラン、そして他の受験生達は別の場所に残っている仮想ヴィランを狩りに向かっている。
「(ヒーローニ成リタイデス……皆ガ行ッタ方向ニハ仮想ヴィランガイマス。ポイントヲ稼ガナイトヒーローニハナレマセン)」
角取ポニーはグレイトフルなヒーローになる為に雄英高校の門を叩いた。ならば自分は合格する為に全力を尽くすべきだ。
「(彼ヲ助ケナイト……誰ガ助ケニ行カナイトキット死ンジャウ ……デモ、先生が助ケテクレルナラ……)」
誰かを助けられるヒーローになりたいから、祖国を離れここに居る、ならばやるべき事は一つ。
「行カナイト……! 」
──0点ヴィランの最奥、動力部に辿り着いた一夜は眼前に鎮座する巨大な謎の機材を見つけ拳を握った。これを何とかすれば恐らくこの鉄の巨人は止まる、一夜は直感的にそれを理解していた。今まで見た全てのケーブルがここに繋がっている。これは人間で例えるならば心臓、これを壊せば全てが終わると。
「良し……やろう! 」
ベルト代わりに巻き付けていた額当てをメリケンサックで叩き、コンと軽い音を鳴らす。父から譲り受けた物は戦闘になんの役にも立たないが、そこにあるだけで自分の心を震わし勇気が溢れ出す。
「──父さん直伝……ッ! 」
イメージするのは拳を振るう父の姿、力で事件を解決する鉄拳が放つ最高の一撃。身体の動かし方を父と同じようにする、全身をバネのように伸ばしただ一点に全ての衝撃を与える一撃
「ダイナミック……インパクトォッ! 」
言葉と共に放った拳は動力部を貫く。中から液体が溢れ出し、0点ヴィランは末期の悲鳴を上げた。
『エマージェンシー! 本機自爆まで残り30秒! 内部にいる者は速やかに避難を! 避難を!』
「……えっ? 」
──角取は駆け出す、自分が向かうべき所へ。その場所は鉄の巨人。助けるべき存在がいる者の元へと。
「『逃げるのが市民の仕事、立ち向かうのがヒーローの仕事』ナンデスヨネ!? 」
残った仮想ヴィランを狩れば角取の合格は盤石のものとなるだろう。だが、それは彼女が真に欲する行動ではない。
彼女はヒーローになりたい。仮想ヴィランを狩れば合格するだろうが、それは一人無謀にも立ち向かった彼に縋り、平和を享受するのと同じ、つまりは市民だ。
彼によって安全に仮想ヴィランを狩るのは、彼の言葉を借りるなら『市民の仕事』になる。それは駄目だ、彼女はグレイトフルなヒーローになる為に此処に来た。
彼女が憧れるグレイトフルなヒーローが誰かを見捨てるのか? 理由を付けて見捨てるのか?
「バット! ソノチョイスハミステイク! グレイトフルヒーローハ、決シテ誰カヲ見捨テマセン! 」
自分が成りたいヒーローは誰かを守れるグレイトフルなヒーロー。ならやる事はただ一つ、自分一人でも彼を助け出す事。
「イマシタ……ッ! 」
0点ヴィランの元へと向かう角取の視界に一夜の姿が現れる。ノイズ混じりのエラー音を響かせるその巨体の肩に立つかと思うと、そのまま駆け出し宙へと飛び立った。
「エッ……ッ!? 」
数十メートルもある高さから唯の人間が飛び降りたら死は必須、彼女が視認するだけでもかなりの高さがある。地面に落下すれば確実に死ぬ、身体は潰れ血潮で地面を汚す事になる。キャッチしようにも自分と仮想ヴィランの距離はかなりかけ離れている。ここからではどう足掻いても走っては間に合わない。
だが、角取は逆転の一手を持っていた。個性という名の超常の力、頭部に生えた4本の角を自由自在に動かせる個性を。
「オ願イッ! 」
今の角取に4本同時に操る事は出来ないが、1本だけならば自由自在に操る事が出来る。彼女の頭部から放たれた角は一直線で一夜の元へと向かった。
「……蛮勇だな 」
その光景をモニター越しに眺めていた者達がいた、その内の1人が少年をそう評価する。
「そう言うなイレイザー。俺はあんな奴は案外好きだぞ? 向こう見ずな所はこれから直せば良い、違うかマイク? 」
宙へと飛び立った少年、そして角を放った少女がモニターに映し出されている。
「ブラドが俺に振るのは珍しいな。あのリスナー達はあのお邪魔虫を無視して仮想ヴィランを倒せば良かったのに、自分から死地へと向かった。試験的にはバッド、ポイントを稼ぐのが最優先の試験でソレはミステイクだ。だよな、ミッドナイト」
飛び立った肉体は重力に従い落下活動を始める、そのまま地面に落下すれば死は確実だ。
「そうねぇ……貴方が説明した試験としてはアウトでも、ヒーローとしてならどう? ねぇオールマイト? 」
話を振られた痩身の男性は画面から目を離さず言葉を続けた。命だけは必死に助かろうと藻掻く少年、そこに向かう1本の角。それは凄まじい速度で少年へと接近し
「あぁ……ヒーローの大前提『恐ろしい存在へと真っ先に立ち向える勇気』そして、もう1つは」
──足掻く少年の手にその角が握られた。角に従い、少年の身体はドンドンと0点ヴィランから離れる。そして、角が持ち主の元へと辿り着いた瞬間
──轟音と共に、鉄の巨人は火に包まれた。
「『知らない誰かを助けられるお節介の精神』……校長先生、どうなさいますか? 」
言葉を振られた鼠は『満場一致の癖に……そうでしょ?』と笑い、声高らかに宣言する。
「この試験場の合格者は彼等! 無道一夜君と角取ポニーさんなのさ! 文句があるならこの雪のように真っ白な毛を赤く染め上げる覚悟のある校長先生に言えば良いのさ! 」
「異議なし……あの子達は私が預かろう。イレイザーは緑谷と爆豪で」
「は? 俺はあんな個性も強ければ我も強い、いつ爆発するか分からん核爆弾2つ抱えるよりも、正常でマトモな爆弾2つ抱えた方がよっぽど精神的にマシ……緑谷と爆豪はお前が育てれば良いだろうが。あ、合格に関しては俺も異論はないです」
「なーにさっそく取り合い始めてんのよアンタら。今年はアタシがどっちかの担任をするわ! 今年は青臭い奴らばっかで最っ高よ! もう皆好み! 」
「……ミッドナイト。 正直ソレ、ドウカト思ウゾ」
既にモニターから視線を外した者達は自由勝手に話し始めている。モニター越しに映る少年と少女は
「バカデス! オオバカ! ファッキンクレイジー! バカ! バカ! ジャパニーズハラキリファッキン! 」
少女は瞳から大粒の涙を流し何度も少年の頬を叩き、少年は。
「ご……っごめ……ごめんなさ……ごべば! 」
ビンタで頬を真っ赤に晴らし、ブザーが鳴り終わっても必死に謝り続けたとか何とか。
設定
主人公
バカ オオバカ ファッキンクレイジー
ジャパニーズハラキリファッキン
角取ポニー
うわ女の子つょい