月になる物語   作:オティンティン大明神

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飯田天哉

 

雄英高校ヒーロー科、それは日本が世界に誇る天下のヒーロー育成専門学校。一般入試合格者36名に対して倍率は常軌を逸した300倍超えであり今年の総受験者は約12000人。全世界から集まった弛まぬ鍛錬を行ってきた強者の中から、限られた者達しか通る事が出来ない世界最高峰の学園だ。

 

当然、合格するだけで全ての者達から注視される。ヒーロー科の制服を来ている、ただそれだけで雄英高校の中に於いては殆どの他の学科の生徒達から羨望と嫉妬を一身に受ける事となるのだ。

 

無道一夜もそれに含まれる。肩に付けられたたった一つのボタンは彼がその狭き登竜門を乗り越えたという証、ヒーロー科から落ちたから別の学科に入った者達からすれば、その存在は羨望であり嫉妬の対象そのものだった。

 

「……あれって無道一夜だろ? 確か入試第1位の」

 

無道の周りで小さなざわめき声が共振し始める。敢えて聞こえる声で話しているのだろう、その声色から隠しきれない嫉妬がそれを証明している。

 

「あー。噂ではあの0点ヴィランぶっ壊したとか何とか……どんな強個性を持ってたら倒せるのか。スカした顔して俺達を見下してんだぜ」

 

ざわざわ

 

「アイツの父親ってプロヒーローのデステゴロらしいぜ。確かアイツが小さい頃に両親がヴィランに殺されて……それをデステゴロが預かったとかなんとか」

 

「コミックの主人公かよ! というか……それがマジならコネ入学って事か? 雄英も地に落ちたなぁ。確か今年はアイツを含めて家族がプロヒーローの奴が3人入ったらしいから、ソイツらも間違いなくコネで入ってるな。あーやだやだ、コネがある奴は羨ましいなぁ」

 

ざわざわ

 

「……というか、風の噂で聞いたんだけどよ。アイツって確か『無個性』だった筈だぞ? 」

 

ざわめきが止まり、嫉妬と羨望に溢れていた声色と視線が殺意によって統一された。『無個性』それは弱者の総称、決して雄英高校ヒーロー科にいて良い存在ではない。

ざわめきは糾弾へと変化し始める。何も答えない『弱者』に対して正当なる権利を振るう『強者』達は声をあげた。

 

「無個性!? ありえねぇだろ! 無個性のゴミが合格して俺が合格しねぇとか、どんなコネを使えば入れるんだ! 」

 

「聞いてんのか! おい! 俺達が実力で試験受けてる中、テメェは一人優雅にコネ合格か!? そんな事までして雄英に入りたかったのかよ! 」

 

卑怯者、犯罪者、コネ野郎。強者の断罪を求める声が伝播し何時しか無道の周りにいる者達全てが熱に浮かされるように叫んでいた。

『無個性』とは弱者の総称である。全人口の2割しかいない力なき者、弱者とは強者に淘汰されるべき存在である。弱肉強食の掟、知恵という力を持って他の動物達を淘汰し生物界の頂点に立った人間にも、当然のその掟が作用される。

 

曰く 弱者を許すなと。

 

「何とか言えよ! おい! 」

 

一人の少年が返事を返すことなく歩みを止めない無道の肩を掴み声を上げる。力づくで自分の方へと顔を向けさせ、無道の顔を見た。

 

「……んだよその顔! テメェまだスカしてんのか! 」

 

その顔には恐怖も怯えも、ましてや怒りも存在してなかった。そこにある感情まで少年は理解出来なかったが、兎に角少年は無道一夜という存在に腹が立っていた。無個性がこの自分を差し置いて雄英高校ヒーロー科に入るという事実、それは唾棄すべき行いである。

 

「僕は自分自身の研鑽と意思でここにいる。だからコネかと言われたら、それを否定するしか出来ない 」

 

弱者が吐き出した言葉に、少年は自分の頭の中が一瞬で茹で上がるのを感じた。眼前のコイツはあくまで実力で合格したと宣った、つまりそれは『無個性』に『個性』を持った自分が劣っていると言われているという事になる。

 

──お前は『無個性』以下の弱者だと、目の前の存在から言外にそう言い捨てられた。

 

「てっ……テメェェェッ! 」

 

最早我慢ならない。弱者とは常に強者に跪くのが道理であり、それを実行する為に少年は硬質化した拳を振るい上げた。個性『鉄拳』文字通りの鉄の拳が無道へと放たれる。拳は唸りを上げて無道の顔面へと向かい

 

「──君達は一体何をしているんだ! 」

 

『強者』の鶴の一声で動きを止めた。

凛としたその声は熱に浮かされていた者達を冷ますに十分であり。少年もまた、その声に動きを止めてしまう。キッチリと揃えられた髪の毛、人間性を現すかのような毅然とした態度と肩の1つのボタン。

 

「……ヒーロー科」

 

その制服は彼等が喉から手が出る程欲しかったものであり、その服を着ている時点で狭き門を潜り抜けた『強者』そのもの。己の自信から格付けられた立ち振る舞いを少年達に見せ付け、誰もが『強者』の歩みを阻まないように横へと逸れた。

 

「誇り高き雄英高校に入学したというのにその態度は一体なんなんだ! 他者を僻み、怒りのままに暴力を振るおうとする! 」

 

正しく清廉潔白を体現している存在だった、その気迫に少年は押され無道から手を離す。その姿を見た後は、周りで静まり返っていた者達へと怒りのままに吠え立てた。

 

「彼が何も言わない事を良い事に、それをあげつらう君達にも言っているんだぞ! 恥を知れ! 雄英高校がコネを許す等という許されざる虚言を吐いたばかりか、ましてやその努力の否定まで! 」

 

「雄英高校ヒーロー科 一般入試第1位とは文字通り僕達12000人の頂点に立つ者! コネが云々で手に入る頂ではない! それでもまだ何か言いたいのならばこの僕『飯田天哉』に言ってもらおうか! 」

 

飯田天哉と名乗った少年の言葉に誰もがたじろぎ、その様子を見ていた飯田は未だ憤慨した様子で無道の腕を掴み、その場を後にする。その場に残った者達は彼等の姿が見えなくなると、小さな声で口々に話し出す。

 

「……出たよ『インゲニウムの弟』アイツだってどうせコネの癖に。身内にヒーローがいる奴はやっぱ違うんだな」

 

「なーにが『この僕、飯田天哉に言って貰おうか』だ。コネはコネ同士仲が良いってか? 」

 

「えっなにお前真似めっちゃ上手いじゃん。なにそれ個性? 」

 

「おう。個性『リピート』聞いた声はどんな声だって再生出来るぜ」

 

そんな声と共に彼等はその場を後にする。拳を振るおうとしていた少年もそんな彼等の中に入り込み、共にその場を後にした。騒然としていた通学路がまた日常の風景へと姿を戻るのに時間は対して掛からなかった。

 

「──全く。何なんだ彼等は! 自分の不甲斐なさではなく他者を責め立てるとは……っと、すまない。少々憤慨してしまった」

 

2人がヒーロー科の教室へと向かう中、先程の一件について腹に据えかねていた飯田が怒りから意識を浮上させ冷静な態度へと戻る。そんな飯田へと無道は頭を下げ、感謝の言葉を述べ自分の名前を伝えようとして

 

「正直僕の言葉が届く状態じゃなかったから君が来てくれて本当に助かった、ありがとう……確か、飯田天哉だったよね? 僕の名前は」

 

「存じているとも、無道一夜君。実は……3年前から此方から勝手にライバル意識を向けさせて貰っていた」

 

と、無道の言葉を遮りって語り始める。

 

「僕の通っていた聡明中学は特に学力に秀でた者達が通っていてね。全国模試では常に聡明中学の生徒が常に1位に名を残していたんだよ。それが聡明に通う者にとっても誇らしく、入学した僕も先達と同じように名を残さねばと意気込んでいた」

 

──そんな中で君が現れた。

 

「全国模試3年間1位、毎年奪われる1位の座、1年目は苦渋を飲んだが次こそはと意気込み2年目でまた苦渋を飲まされる。そして3年目も苦渋を飲まされた、3年間僕が超えられなかった存在が君だ」

 

──何時も頂点にいるのは君の名前。3年目になると僕以外が1位を取るのを諦めていた。けど、僕は越えようとした。

 

「3年間の一方的な戦いを終えて、この雄英高校に受験し僕は合格した。そして……順位を見て愕然としたよ」

 

──また君がいた。全ての受験者を超える総合点数三桁超え、入試第1位の欄に君がいたんだ。

 

「──未だに超えられなかった壁が、僕と同じように雄英高校に来る。その事実に喜び勇んで学校に来ればあの騒ぎ、そしてその中心にいたのが君だった」

 

正直、柄にもなくあそこまで憤慨してしまったと。飯田は言葉を続けていく。

 

「自分の事を棚に上げ『無個性』だからと馬鹿にし、それどころか自分達が通う雄英高校も愚弄した。自分達の実力不足を棚に上げ他者へと当たるあの愚行は正しく唾棄すべき行いだ! 」

 

それと……と一呼吸置き、次は無道の事について声を上げた。

 

「君は謙虚過ぎる! あの場で君は怒るべきだった! 無個性だからと揶揄する者を! 自分の実力の無さを棚に上げる者達に! 」

 

その言葉は無道一夜という人間を思っての事だったのだろう。その言葉を聞き無道は、返答に困り果てたように笑い言葉を返した。

 

「……確かに、君の言う通りだ」

 

「そうだろう?……っとそろそろ教室みたいだ。僕はAなんだが、君は? 」

 

会話に夢中になっていたのか、彼等はヒーロー科の教室の前へと辿り着く。ヒーロー科のクラスはAとBの2つで構成されており、飯田はAの扉へと手を掛けた。

 

「僕はBだから……取り敢えずここでお別れだね」

「むっ……試験で競い合いたかったが、仕方あるまい。取り敢えずは学年度の中間テストで君に挑むとしよう」

 

それでは、入学式の場でまた会おう。と声を廊下に残しながら飯田は教室へと入っていき、その姿を見送った無道は同じようにB組の扉へと手を掛ける。

 

ここを開けば無道一夜のヒーローを目指す日常が始まる。扉の先から聞こえてくる喧騒に耳を傾けながら無道は扉を開く。

 

「やぁやぁやぁ! 君が噂の第1位様かい!? いやぁさっきの光景は笑わさせて貰ったよ! まさか1位様が普通科に言われっぱなしなんてあんな面白おかしい光景はもう見られないだろうからね! 僕、僕かい? 第1位様が僕の名前をぉ? 僕なんて3位で、君から比べたら雑魚当然だよ! それでもまぁ……」

 

「物間、さっきからうるさい」

 

「答えてほしいなら特べッ……!? 」

 

突如マシンガントークと共に眼前に現れた少年は少女が放った手刀によってパタリと倒れ込む。

 

 

取り敢えず、無道一夜のヒーロー科としての学校生活はここに始まりを告げた。

 

 

 




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