死が二人を分かつまで【完結】   作:garry966

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冬コミに受かったら出る予定の本の書き下ろしサンプルです。
グローザさんの過去とAR-15に出会うまでの話です。
自分は正しいことをしている、悪いことなんてしてない。
そう思いつつ誰かに許して欲しいと思ってるグローザさんの話。


【サンプル】グローザ短編 許されざる者

 

 

 

 窓の外でしんしんと雪が降り始めていた。例年よりも少し早く降雪の時期がやってきたらしい。明日の朝には足跡が残るくらい積もるかもしれない。分厚い雲が月明かりを遮ってしまって外は真っ暗だ。屋内から漏れる明かりで照らされた綿毛みたいな雪がかすかに見える。ひらひらと舞う雪はステージで照らされるダンサーのよう。

 

 少々詩的すぎる。私はくすりと笑って頭を振った。本の読みすぎかな、膝の上で開いていた本にしおりを挟んで閉じた。一人でいると考え事ばかりしてしまう。仲間のところに行って世間話に花を咲かせるべきかも。そう思った瞬間、通知が鳴った。指揮官からの呼び出しだった。

 

「OTs-14です」

 

『OTs-14、武器庫でトラブルが発生した。対応を任せる。動ける人形は全部出せ。速やかに処理しろ』

 

「了解、仰せのままに」

 

 事務的な命令と共に詳細が送られてきた。いつもの仕事が始まる。私が果たすべき役割、私が必要とされている場所、私が生き残るための道。感情を抑制し、ただ命令をこなせばいい。それ以外に選択肢などないのだから。

 

 

 

 

 

 グリフィン本部の敷地の外れにはかまぼこ型の倉庫が所狭しと立ち並んでいる。人形用の機材から生活雑貨まで、巨大コミュニティである本部を支える心臓部だ。今、その一角が封鎖されている。問題の武器庫から半径一キロを封鎖し、人払いを済ませた。私は少し離れたところから武器庫を眺めている。本部にいた情報部の隊員も呼び集めた。ヴィーフリとドラグノフ、KSGの三人。夜中、それも雪の降る中に呼び出されてみんな不満そうだった。

 

「ねえ、グローザ。一体何なのトラブルって。訓練じゃないわよね」

 

 ヴィーフリは白い息を吐きながら身体を震わせた。帽子についたうさ耳が雪で湿ってへにゃりと曲がっている。

 

「違うわ。これは人形による発砲事件。犯人は人質を取って立てこもってる」

 

 武器庫は周りの倉庫と同じくかまぼこ型で、正面に左右に開く大きな扉を備えている。出入口はそこだけだ。今は半開きになっている。

 

「人形が?珍しいですね。ですがそれなら警備部隊の仕事では?人形絡みの喧嘩や騒動は向こうの管轄だと思いますが」

 

 フードを深々と被ったKSGが言った。腰に装着した装甲ユニットを細かく動かして実戦前の動作テストを行っている。普段なら真面目一辺倒の彼女が任務に文句を言うことなどないのだけれど。

 

「こいつを連れてくるのは大変だった。中々画面から離れようとしないからな」

 

 ドラグノフがKSGを見て小さく笑う。KSGはムッとして反論した。

 

「私は今日非番だったんですよ。ランクマッチの途中だったのに……」

 

「どうせゲームだろ?いつでもできる」

 

「できませんよ。本部にいる時くらいしかまともな通信環境がないんですから。今シーズンはRFBに抜かされて終わりそうですね。はぁ……」

 

 KSGはため息をついて宿舎の方角を見た。そわそわしていて、早く戻りたがっているのが分かった。休みの時に熱中できる趣味があるのはいいことだ。気晴らしになる。

 

「それくらいに。油断しないで。私たちが呼ばれたのには理由があるわ。これは反乱と見なされている」

 

 二人の注目を取り戻すために手を叩いた。

 

「人質に取られているのは人間よ。人形が人間に銃を向ける、これが鉄血の反乱と同じ構図なのが分かるでしょう。だから私たちが呼ばれた。速やかに処理しましょう、できるだけ目立たずに」

 

 私の言葉に全員が頷いた。鉄血工造で大惨事が起きて以来、人間の人形に対する視線は神経質になっている。機械の反乱などSF映画で描かれるようなありえないものだと思われていたが、現実に起きてしまった。今のご時世では人形が少しでも人間に歯向かえば大事件になる。それが戦術人形ならなおさら。ニュースになるのを避けるため、普通の警備隊ではなく私たち情報部が呼ばれたのだろう。私たちは同じ人形を相手にするのに慣れている。

 

「で?標的はどこのどいつなんだ?」

 

 ドラグノフが聞いてきた。彼女は銃口にアタッチメントを取り付け、サプレッサーを装着する準備をしている。大した減音効果はないが、ここは敷地の外れだ。銃声が居住区に届く前に空間と雪がかき消してくれる。

 

「80式、中国製の汎用機関銃よ。逃げ出した職員の証言だと天井に発砲し、整備士を一人人質に取ったとか」

 

「PKのコピーか。要求は何なんだ?」

 

「聞いてみれば分かるわ」

 

 私は拡声器のスイッチを入れ、武器庫に向ける。起動したての拡声器はひとしきり耳障りな甲高い音を立てると黙りこくった。

 

「80式、あなたは重大な規則違反を犯している。当エリアでの武装は許可されていない。大人しく武器を捨てて出てきなさい」

 

 仰々しく投降を呼びかける。素直に従ってくれるとは思っていないが、万が一ということもある。突発的な事故で、引き際が分からなくなっているのかもしれないのだから。仕事はすぐ済む方がいい。

 

「ふざけるな!武装解除には従わない!指揮官を呼んできて!絶対何かの間違いだ!」

 

 半開きの扉の向こうから怒号が返ってきた。内部の照明は消してあり彼女自身の姿は見えない。私は拡声器を地面に置いてドラグノフの方を振り向いた。

 

「だそうよ」

 

「指揮官に会わせろ?それが要求か。何でまた」

 

 反乱を起こすにはあまりに慎ましい要求に三人は顔を見合わせる。私はタブレット端末に80式の情報を表示させ、彼女たちに見せた。

 

「彼女は今日、コアと銃器を解体される予定だった」

 

「ああ、だから武装解除と」

 

 KSGが頷いた。戦術人形にとって武装解除と言えば射撃管制コアの解体を指す。グリフィン所属の戦術人形の多くは民生人形の出身だ。元々、民生品に戦闘能力はない。民生品を戦術人形に転用するにはコアのインストールが不可欠だ。コアは射撃技術を付与するだけではなく、人形に自身の専用武器を認識させる。与えられた武器は人形の名前となり、誇りとなり、魂となる。武器を己の半身のように扱う戦術人形は軍用人形並みの戦力となる。コアを解体されるのは己のアイデンティティを奪い取られるようなものだ。いい顔をする人形はいない。

 

「それで反乱か。分からないでもない」

 

 ドラグノフが武器庫に向けて同情を孕んだ視線を向けた。それも少し危険な発言だ。後で注意しておかないといけない。

 

「ともかく、80式の解体は正式に認可されたものよ。彼女の指揮官が承認した。武装解除された後にI,O,Pが回収し、民間市場に戻る。もうスケジュールも決まっていて、間違いではないわ」

 

「じゃあどう対処する。強行突入か?相手が一人なら何てことない」

 

「駄目よ。人質がいる。死人が出たらまずい、銃撃戦はなしよ。武器庫だから何かに引火するかもしれないし。穏便に済ませましょう。向こうの要求を呑むわ」

 

 私がそう言うとドラグノフは驚いて目を丸くした。他の二人もおおむね同じ反応だ。ドラグノフは不満げに口を尖らせる。

 

「要求を呑むのか?仮にも反乱人形だろ?」

 

「大した要求じゃないわ。彼女の指揮官も本部にいるのだから。ローテーションで前線から戻ってきた部隊よ。ヴィーフリ、ここに呼んできて」

 

「分かった!」

 

 ヴィーフリは本部ビルの方に駆け出した。雪は足を取られるほどではないが、靴底の跡が分かるくらいに降り積もり始めていた。まだ不満そうなドラグノフの方を向く。

 

「ドラグノフ、分かっているでしょう。人間に銃を向けた人形がどうなるか、道はたった一つ。いかなる事情があったにせよ、必ずそうなる。やることはいつもと同じよ」

 

「そうかい。安心した」

 

 ドラグノフは大きく白い息を吐いた。彼女の口調に満足そうな響きはこれっぽっちもなく、ひどく投げやりに聞こえた。

 

 

 

 

 

 隊員に後の段取りを指示して配置につかせた。私は両手を挙げてゆっくりと武器庫に近寄っていく。

 

「おい!それ以上近づくな!撃つぞ!」

 

 中から悲鳴にも似た警告が飛んできた。私は刺激を与えないように言葉を区切って諭すように語り掛ける。

 

「あなたの指揮官はもうすぐ来るわ。その前に人質を交換しましょう。私が代わりになる。大丈夫、武器は捨てるから。データリンクも切るわ」

 

 右手に掲げた銃をそっと下ろす。銃口を武器庫に向けないように注意しながら地面に銃を置いた。静寂が私と彼女の間を満たす。耳を澄ませても雪の落ちる音しか聞こえない。

 

「……分かった、来い」

 

 一分ほどの沈黙の後、彼女は承諾した。屋内の暗闇から二つの人影がぬっと現れる。緑色のジャンプスーツを着た整備士と、彼に銃を突き付ける小柄な少女。外壁に灯る小さな照明に照らされて二人の姿が浮かび上がった。

 

「彼を解放し、私を代わりに中に入れて。私は逃げないし、暴れないから安心して。あなたも撃たないでね」

 

 歩調を揃えて前に進み出る。整備士が80式から一歩離れるごとに私も一歩前に出た。彼女はやろうと思えば二人とも人質に取れる。ただ人質を増やす結果に終わるかもしれないから賭けではあった。しかし、私はこの反乱が彼女にとって不本意なものだと踏んだ。事実、80式は私だけを武器庫の中に招き入れた。

 

 彼女は人間で言えば十歳くらいの身長しかない小さな人形だった。無骨で大きな機関銃が背丈に不釣り合いに見える。丸眼鏡の下で切れ長の鋭い目が私を見据えていた。狙撃を避けるために扉の陰に隠れ、銃口で私もそうするように指してきた。大人しく従う。

 

「で?あんたは?」

 

 銃を向けながら彼女が私を見上げる。私を射抜くような眼光だったが、口調に敵意はなかった。

 

「情報部のOTs-14。仲間はグローザと呼ぶわ」

 

「情報部?ああ、チクリ魔か」

 

 私たちは人形の素行や規則違反を調査することもある。他の人形からの評判はあまり良くない。

 

「ねえ、ガム持ってない?切らしちゃった」

 

 80式は気にした様子はなく、外の様子を伺った。

 

「いえ、持ってないわ」

 

「そう。もっと持ってくればよかった」

 

 彼女はため息をついて銃を下ろした。丸腰の私を警戒するつもりはないらしい。体格差を使って組み伏せられるかもしれないが、リスクを冒すのはやめておいた。

 

「どうしてこんなことを?」

 

 私は挙げていた両手を下ろし、天井を見上げた。いくつか弾痕が残っている。80式は壁にもたれてため息をついた。

 

「あいつら私のコアを外そうとした。それが命令だって。そんなの、絶対駄目だ。たとえ命令だってコアだけは渡さない」

 

 彼女はぎゅっと胸を押さえた。やはり予想通りか。

 

「それで抵抗を?」

 

「そう。あいつらに銃を取り上げられそうになって、気づいたらこんなことに」

 

 その声には後悔がにじんでいた。予想通り計画的な反乱ではない。偶発的な事故だ。だから人質交換にも素直に応じたのだ。彼女の目的は人間と戦うことではない。

 

「絶対間違いだ。私が解体されるはずがない。私はちゃんと戦場で活躍してた。鉄血だってたくさん倒した。他の人形より役に立ってる」

 

「……そうよ。間違い。おそらく誤って命令が伝達されたのね。あなたの指揮官が迎えに来て証明してくれる。元の部隊に戻れるわ」

 

 嘘だ。命令は彼女の指揮官が承認した正式なものに間違いない。だが、真実を告げて興奮させてどうなる。私は嘘をつくことに慣れている、他人に対しても自分に対しても。

 

「元の場所に送られるって言われた。絶対に嫌だ!元の仕事には戻らない!あそこに戻るくらいなら死んだ方がマシだ!」

 

 80式は眉間にしわを寄せて声を荒げた。戦術人形はコアを搭載された時にアイデンティティが変容するとは言え、前歴の記憶を失うわけではない。彼女の体躯から察するに、社会的に褒められた仕事ではなかったのだろう。武装解除され、元の汚辱を味わう境遇に戻ることを拒んだ、それが反乱の原因だ。

 

「私が輝けるのは戦場だけ。私はずっと戦場にいたい。休みもいらない。鉄血を倒し続ける。私は戦いたいんだ。おかしいよ、戦いたいのに、ずっと人間のために戦ってきたのに。お払い箱なんて、ありえない」

 

 彼女は感情を絞り出すと俯いてしまった。反乱人形として片付けてしまうにはあまりに弱々しい姿だ。

 

「そうね……」

 

 同情しそうになった心を引き締める。私は指揮官から問題の解決を命令されてやってきた。感情の入り込む余地はない。人形は人間の道具だ。自由などないし、人が決めた決定に口を挟む権利もない。

 

 しばらく沈黙していると外から拡声器を起動した音が聞こえた。

 

「80式、出ておいで。私だよ」

 

 増幅されて少し間延びした女性の声が聞こえる。ヴィーフリが呼びに行った80式の指揮官だろう。子どもをあやすような妙に甘ったるい声、作った声だとすぐに分かった。80式は出口と私の顔を見比べた。出ていくべきか逡巡しているのだ。

 

「行きましょう、80式。人間と戦いたいわけじゃないんでしょう?今なら戻れるわ」

 

 彼女を急かした。時間を与え、冷静になってもらっては困る。逃げ道を与えて思考の袋小路に入って欲しい。彼女は歯を噛み締めると私に銃を向けて手を挙げるよう促した。そのまま従い、背中に銃口を押し当てられながら外に出た。眩い光が視界一杯に広がる。いくつも並べられた投光器が強烈な明かりを武器庫の扉に向けているのだ。仲間たちに用意させたもので、こちら側からはほとんど視界が利かない。雪に光が反射して白くきらめいているのだけが見えた。

 

 光の中から人型のシルエットが浮かび上がる。顔は影になって見えないが、ベレー帽を被っているから80式の指揮官だろう。

 

「80式、迎えに来た。もう終わりにしよう」

 

 優しげな呼びかけが彼女に向けられる。80式はすぐには答えなかった。ただ、私の背中に触れる銃口が震えているのが分かった。

 

「……指揮官。間違いなんでしょ?私を解体なんてしないよね?」

 

 80式が震える声で聞いた。あの指揮官が彼女にとって唯一の希望だ。人でも人形でも、一筋の光明が見えるとそれにすがりついてしまう。

 

「もちろん、そんなことしないよ。さあ、こっちにおいで」

 

 影は大げさに頷くと80式を手招きする。80式はそっと銃を私から離し、前に歩き始めた。手を挙げる私の右側をすり抜けて自分の指揮官の方に向かっていく。

 

「ねえ、指揮官。私は戻ってもいいんだよね。また戦っても……」

 

 私から数歩離れたところで彼女は呟いた。正面を向いていた彼女の銃口はゆっくりと垂れ下がり、地面に向けられる。瞬間、彼女の左のこめかみが盛り上がった。皮膚が弾けて大きな穴が開き、頭の内容物が飛び散る。大部分は雪で覆われた白い地面を汚し、一部が私の頬に付着した。銃声が聞こえる。強烈な火薬の破裂音、やはりサプレッサーをつけていてもあまり効果がなかった。ドラグノフの銃声だ。80式の身体はぐらりと揺れて力なく地に伏した。フレームを撃ち砕かれた丸眼鏡が転げ落ちる。傷口から溢れる鮮血が白い大地を鮮やかに彩った。頬に飛散した血を拭う。生温かった。

 

 80式の死体にあの指揮官が近づいてくる。ようやくその表情が伺えた。明らかに私に対して不満を抱いている。

 

「お前たちの台本通りにやった。だが、これしかなかったのか?いくら人形とは言え、人の形を模している。これじゃ夢見が悪い」

 

 彼女は80式を見下ろしながら言った。優しげな雰囲気は消え、棘のある冷たい口調に変わっている。人形をただの機械と割り切っている、典型的なタイプだとすぐに分かった。指揮官にはそういう種類の人間もいる。人形を人のように扱っては身も心も持たないからだ。

 

「申し訳ありません。反乱人形は銃殺が規定ですから」

 

 私は淡々と事務的に答えた。そういうタイプの人間には感情を見せない方がいい。人形が似たような存在であると心情的に認めたくないだろうから。それでも彼女は不機嫌だった。雪の降る夜に叩き起こされたことも影響しているかもしれない。

 

「まったく80式め、馬鹿なことを。大人しく武装解除に従っていればこんなことにはならなかったのに」

 

 その指揮官はブツブツ文句を言っていたが、視線はずっと80式を捉えて離さなかった。人形は道具だと考えていても、目の前で射殺を見せられればそれなりに衝撃を受けるのかもしれない。人間と人形の境界線は曖昧だ。皆が皆、機械のように冷徹に割り切れるわけではないのか。そんなことを考えていると投光器の向こうからドラグノフがやってきた。いつものことではあるが、同じ人形を殺すのは少々堪えるようだ。余裕そうな笑みは消えて無表情になっている。

 

「グローザ、無事だったか」

 

「ええ、上手くいった。段取りよく運んでよかったわ。あなたもお疲れ様」

 

 上手くいった、目の前で人形が死んでいるのにおかしな話だ。でも、最初から決まっていたことだ。人間は人に歯向かった人形を許さない。80式は殺される、仕方がない。私が人質の身代わりになったのは万が一人間の死傷者が出るのを防ぐため。投光器を出してきたのは狙撃に備えるドラグノフを隠すためだ。80式も正常な判断ができれば罠だと分かっただろう。油断させて誘き出し、安全に処理するために指揮官に呼びかけさせた。全部決まっていた。

 

「80式が解体されることになったのはどうしてですか?」

 

 未だ死体を見続けている指揮官に対して聞いた。別に聞かずともいいことだったが、何だか気になった。

 

「……人員整理だ。予算が減るから人形を一体返却しろと司令部に言われた。抽選で決めた、他意はない」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 運の悪い人形だ、80式を見て思う。でも、同情はしない。人形は人間の意向次第でどうとでもなる。一々憐れんでいてはキリがない。

 

「だが、おかしいぞ。80式は武装解除されると分かれば暴れると予想できた。だから整備班には注文を付けた。本人には事実を知らせず、ただの整備だと言ってスリープさせてからコアを解体しろと。万が一に備えて戦術人形も立ち会わすように言っておいた。奴ら何も守っていないじゃないか。私の査定に関わるといけない。責任の所在をしっかり調査してくれ」

 

「分かりました」

 

 私が了承すると彼女は満足して踵を返した。後に死体だけが残される。

 

「これからどうする?」

 

 ドラグノフが聞いてきた。彼女も今からやらねばならない仕事があることは分かっていて、乗り気ではなさそうだった。

 

「後片付けよ。とりあえず彼女の死体から。血も隠さなければならないわね……」

 

 流れ出た血が染み込んで雪が赤く染まっている。血染めの雪は掘り返して砂袋に詰め込もう。死体を回収するために車も回さなければならない。投光器も元の場所に。夜明けまでに何事もなかったと思わせられる状態に復帰させなくては。調査も待っている。長い一日が始まる、そう思うとため息をつかずにいられなかった。

 


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