最強ちゃんのVR配信   作:ユルオ

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「はあ……。怠いなあ……」

 

 私は今、電気を消した部屋でリクライニングチェアに背中を預けている。この暗い部屋にある光源は半透明ディスプレイから発されているブルーライトだけ。

 怠さを感じてる理由は明日が月曜日だから。イヤじゃない? 土日という至福の休日が無くなっちゃうんだよ?

 もう休みの翌日は全部休みでいいと思うんだ。そうしたらホラ、毎日が休日で誰もがハッピーになれるじゃないか。休日万歳!

 誰か総理大臣になって法律改定するんだよ。

 

 そこで目の前に音声通信のポップアップが表示された。ってまたか。

 ポップアップをタッチして通信を繋げる。

 

「どったの?」

『電話出る時はもしもしでしょ?』

「前から思ってたけど、フェルナの価値観古くない?」

『前から言ってるけど、ミドルネームで呼ばないで?』

「これで慣れちゃったから却下」

『ホント相変わらずね。リスティ』

「うん」

『うわっ。ミドルネームで呼んだっていうのに聞き流すなんて……』

「今更って感じだもん。慣れちゃったら平気になるよ」

 

 むしろフェルナが気にし過ぎなだけだ。もはや神経質と言ってもいいくらい。

 フェルナの言う通り、リスティは私のミドルネーム。フルネームは篠原(しのはら)リスティ美優(みゆ)。現在の日本ではほとんどの人がミドルネームを持ってる。

 

「それで、何の用?」

『いつも通りの用件。明日の準備は出来てるの?』

「準備も何も《Rasiel》持っていくだけじゃん」

 

 現在の日本において、日常生活からは切っても切り離せないARデバイス。それが《Rasiel》。名称の由来は『神の神秘』という意味を持つ天使の名。ラジエル。

 約二十年ほど前に流行り、ほとんどの人が持ってたというスマートフォン、みたいなものだと思ってくれれば大体合ってる。

 

 ラジエルは多機能型装着デバイスで、日常生活はこれがないと過ごすのが難しいってくらいには普及してる。お金のやり取りすらデータでやるようになっちゃったからね。

 これ一つあるだけで何でもできる。スマートフォンが流行ってた時代だって、既にネットでほぼ全部できたんだ。それがラジエルでもできるようになってるだけ。

 

 まあAR技術が確立された以上、不要になった媒体とかも多々ある。紙製品なんかはその最たるものだね。特に一番打撃を受けたのは書籍関連かな。

 

 ARは日進月歩。現代日本のARホログラムは五感情報が与えられるほど技術が向上してる。

 紙の匂いや手触り、ペラッと捲る感覚が好きっていうニーズにすらデータで対応できるようになっちゃったせいで、紙媒体の書籍はどんどん廃れていった。

 今の日本はデータ上に残せないようなもの以外、書類とかは存在しなくなった完全な情報社会。

 

 元よりデジタルコンテンツとして成功していたものは更に人気が出たし、見て楽しむようなグッズとかはほぼ全てがデータ化してる。

 ポスターやフィギュアとかね。私も最大限利用させてもらってます。作ってくれてありがとう!

 

『わかってる? それが一番大事なのよ?』

「りょーかい、りょーかい。しっかり持っていきますよっと」

『よろしい。明日も迎えに行ってあげるから』

「えー、いらないよー」

『ダメよ。女の子は万全に万全を期してもまだ足りないんだから』

「フェルナは大袈裟なんだよ」

 

 何のために通信教育で武術を習ったと思ってるんだ。護身くらいできるようにしたんだから、そう気にしなくたっていいのに。

 こう言ったらきっと「そういう問題じゃないの」って怒られるんだろうなあ。

 

『いいから。明日は迎えに行くからね?』

「あーはい。待ってます」

『それでよろしい。それじゃあもうすぐお夕飯だから、切るわね』

「うん。先に言っとくよ。おやすみ」

『ええ、ちょっと早いけれどおやすみなさい』

 

 そして、フェルナとの通話は終了した。さてと、こっちも多分夕ご飯の準備できてるだろうし、下に行こうかな。

 真っ暗な部屋を出て階段を下りる。階段を下りきれば左手に玄関があり、右行って突き当りがリビングになってて、いつもそこで食事するんだよね。

 空腹感を抱きながらリビングの扉を開く。

 

「ふっ…ふっ…ふっ…ふっ…」

 

 筋骨隆々で引き締まった浅黒い上半身を惜しげもなく晒した暑苦しそうな男が腕立て伏せをしていた。

 バカなの? ねえバカでしょ?

 

「お父さん、リビングで筋トレしないでっていつも言ってるじゃん」

「はっはっは。我が娘よ。お腹が空いたのかー? 母さんの飯は旨いから楽しみにしてるといいぞ!」

「まあ、お父さんったら。照れちゃうじゃない」

「お願いだから言葉のキャッチボールくらいはまともにしてほしい」

 

 なんでこうも噛み合ったやり取りができない状況ができあがるのか。一回この父親の頭蓋骨をカチ割って脳ミソを解析してみたいものだ。

 

「今日はビーフシチューよ」

「いつもありがと、お母さん。ホラ、お父さんも筋トレ止めてご飯」

「今日のカレーは旨そうだな!」

「ビーフシチューだっての!」

 

 確かにパッと見は似てるだろうけどさ。お母さんがわざわざメニュー教えてくれたんだから、それを間違えるのは非常に失礼だよ。

 お母さんが作ってくれた美味しいご飯に舌鼓を打ちながら食べて、いつの間にか全部食べてしまってた。むぅ……。いつも味わってたらすぐなくなるから困る。

 

 食器の片付けを手伝ってから自分の部屋に戻ると、電源を消し忘れてたコンピュータのブルーライトが迎えてくれた。

 半透明のディスプレイには「最強ちゃんについて語り合うスレpart348」という掲示板の画面が映し出されている。ついやっちゃうエゴサだ。

 

 私は配信者《ミュウ》として活動している。稀に雑談配信とかもするけど、基本的にはゲーム実況中心。

 配信するゲームは多岐にわたる。ARもVRも関係なくFPS、アクション、ホラー、RPG、ストラテジーと何でもござれ。ただし得意かと聞かれればそうでもないと答える。

 

 最近だと複数対人戦闘ARアクション“アームズコンバット”というゲームをプレイしてた。ゲームが得意ってわけじゃなくても、実際に体を使うってなれば話は別になる。

 運動はかなり得意であり、アームズコンバットのようなリアルアクションは私としても大得意と言って過言じゃないジャンルだ。

 

 半年前からサービスが開始されたゲームで、やる気全開でプレイした結果、最初期からもう既にトップテン入りするほどの成績を残した。

 その後も各地で開催される戦闘に参加していって遂に一月前、ランキングトップになっちゃったんだよね。

 

 プレイ開始当初はそれこそ実際に体を動かせる楽しみから喜んで戦ってたんだけど。ほとんど前情報なしに始めた反動がその時になって来た。

 ランキングに応じてゲーム内能力が上下するというルールをその時初めて知ったんだ。しかも、トップテンにランクインすれば特殊効果が与えられるという仕様。

 

 別にそれ自体は本人が努力した結果得られたものだから、私は何とも思ってなかった。けど、ランクトップの特殊効果を知ってからは日に日にやる気は無くなっていったんだよね。

 その効果が、ランク11以下のプレイヤーの攻撃を無効化するというもの。公式が定めたチートコードと言ってもいい。

 だから私はこのゲームを止めることにした。自分で完璧な防御なり何なりした上で攻撃を無効化するならいいんだけど、さすがに何もしなくてもダメージを受けないっていうのは個人的に好きじゃない。

 

 だから、今日の内に配信をして《ミュウ友》にアームズコンバットの引退宣言をするつもり。ミュウ友っていうのは、私のリスナーになってくれた人の呼び名ね。面白い人達だよ、本当に。

 もうすぐ配信開始の時間になる。配信の予定はSNSで上げといたから、既に待機してくれてる人もいるはず。

 

 時間だ。配信スタート。

 

「やっほー! ミュウだよ! 今日も来てくれてありがとね!」

 

 テンション高めにいつも通りの挨拶をすれば『わこつ』の嵐。これが嬉しいんだよね。配信で何がイヤって、反応が全くないのがイヤなんだよ。すっごい不安になるし。

 

「まず今日は皆に宣言しようかなと思ってるんだ」

 

『何の宣言?』『まさか、配信止めるとか……?』『ウソだろ(絶望)』『やだー!』『そんなのってないよ!』『俺の生きがいなのに!』『ミュウ友はどうすればいいんですか!?』『路頭に迷ってしまう』

 

「こらこら、いきなりテキトーなこと言って話拡大させて勝手に絶望するんじゃないよ」

 

『サーセン』『すまんの』『うっす』『ごめんよー』『なんだ冗談か(ホッ)』『真面目に信じてたやつはいないな?』『そんな奴おらんやろ』『そうそう』『だなぁ……』『……おらんよな?』『スムーズに会話繋げられるのは草』

 

「全くもう。さて、もう面倒だから言っちゃうね。最近何度も配信してたアームズコンバットはわかるかな?」

 

『もち』『ミュウ友に知らない奴はいない』『モチロンシッテタヨー(棒読み)』『トーゼンダヨナー(棒読み)』

 

「怪しい人がいるのはどういうことだ。お姉さんそういうの許さないよ」

 

『すんませんっした!』『決して酔っちゃうから見てなかったとかじゃないんです!』『許してつかぁさい』『これからは全部見ます!』『ミュウ友なら当たり前だ!』『なんか理由ごとゲロった奴いなかった?』

 

「まあいいや。それで、そのアームズコンバットなんだけどね。引退しようと思ってるんだ」

 

『!?』『!?』『!?』『なにぃっ!?』『ダニィッ!?』『そういやぁランクトップになった辺りからテンション下がってたな』『誰か恐ろしく古いネタ使った奴いたぞ』『いつかそう言うと思ってました』

 

「あれ? 予想してた人いたんだ? まあランクトップの仕様に萎えちゃってね。ああでも、アームズコンバットがダメなゲームってわけじゃないからね? そこは勘違いしちゃダメだよ?」

 

『わかってるー』『それは大丈夫よ』『そもそも出不精ですし』『ミュウちゃん最初は楽しそうだったもんね』『すっごい笑ってたなあ』『俺もしてるから面白さは知ってるで』『誰だ!今ニート公言した奴!』

 

「ふふっ。優しいね。ミュウ友の皆ホント大好き」

 

『あ、俺もう今日死んでいいわ』『大好きいただきました』『しっかり録音したで』『俺も好きやで』『ん~っもう好き!』『愛してる』『結婚してくれ』『大好きです』『ホント大好きのとこだけ繰り返して』

 

 その後もゲームはしなかったけど、ミュウ友と駄弁った。時間が過ぎるのは早くて、気付いたらもう配信限界の三十分になりかけてた。

 

「さて、名残惜しいけど今日はこのくらいで配信終わろうかな」

 

『いかないで』『いかないで』『行かないで』『逝かないで』『おつかれやで』『今日も楽しかったよ~』『ちょいちょい不吉なこと言う奴がいますねぇ』『おつ!』『配信おつ!』『お疲れさまー』『次の配信も楽しみにしてるで』『お疲れちゃーん』

 

「うん。バイバ~イ。以上、最強ちゃんこと、ミュウがお送りしました~!」

 

『もうその呼び名定着したな~』『ミュウちゃんが良いって言ったからな』『むしろ最強ちゃん呼びの方が無駄に広がってて草』『配信以外じゃほぼ皆最強ちゃん呼びしてるし』

 

「私は嫌いじゃないよ、その呼び方。よし、そろそろ切れるから! またね!」

 

 お別れの言葉を告げた直後、時間上限で配信が途切れた。そして、心の中には祭りの後のような寂寥感が広がっていく。

 

「はぁ……慣れないなあ、この感覚」

 

 それだけ楽しく過ごせてる時間だってことなんだろうけどね。こうなると、本当に心寂しくなるというか。しばらくは配信で高揚した名残を噛みしめる。

 

「次、何のゲームを配信しようかな……」

 

 最近やってないし、何かしらレトロなRPGでも発掘して配信する? 2Dゲームの配信も選択としてなくはないかな? もしくはドットゲームで攻めてみるか?

 

「ん?」

 

 色々と悩んでいると、ピロンという電子音と共に一通の電子メールが送られてきた。

 

「これは、ケルビム社?」

 

 VRハードとゲームソフトに関しては右に並ぶものなしと言われるほどの大企業。この会社が製作したゲームは良くプレイしている。たまに依頼でゲームすることもあるし。

 

「これ依頼メールじゃなくて応募返信のメールか。そっか、当たったんだ」

 

 次にやるゲームは決まった。これならかなり長い間プレイすることになりそうだし、一番気になってたゲームでもあるし。

 

「楽しみになってきたなー」

 

 

 

 

<篠原リスティ美優様 新ゲーム当選通知>

 

この度は我がケルビム社が開発した新ゲーム《Wizard player Online》に応募していただき、誠にありがとうございます。

厳正な抽選の結果、見事当選されました。

つきましては、商品の発送に伴い、篠原リスティ美優様の住所確認をさせていただきたく思います。

当メールが届いてから3営業日以内に御住所を記載したメールを当社に送ってください。

尚、3営業日以内にご返信いただけなかった場合は当選資格が消失しますので、お気を付けください。

それでは、御返信をお待ちしております。

 

ケルビム社より

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