最強ちゃんのVR配信   作:ユルオ

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生存報告と共に


Villain daughter

 破格な企業案件を受け、ホクホク顔のまま学校に到着。

 外を見てみれば、校門前に横付けされたこのフェルナ所有のリムジンには注目が集まってる。まあいつものことだから気にしないけどね。

 

 ドライバーの柳さんにお礼を言って車から降り、フェルナと一緒に校門を潜る。その先にあるのは白亜の学舎。学生の生活環境を極力変えないようにと同じ姿を保ち続けるように管理されており、かなりお金がかかってる。

 ただ、見た目通りお金持ちが通うような学校――というわけでもなく。特にお金持ちじゃない生徒も平気で通える学校。そこそこの授業料は取られるけど、それに見合った学習環境ではあるし、設備もそこらの高校とは比べ物にならないくらいに充実している。まあ女子生徒向けの施設が七割占めてるけど。

 

 最近の学校間で行われてる生徒獲得競争なんて女の子をどれだけ集められるかがミソだからね。社会的にも存在が希少な女の子が集まる学校には、そんな女の子達と同じ教室で過ごしたいという男の子が集まる。

 共学校として届出されてる学校が半ば男子校化してるっていう現実があるレベルだし。そういう学校は段々と生徒数が少なくなっていって自然消滅してしまうというようなケースも多いわけじゃないけど、少なくもない。

 そんな感じだから女子が集まる学校、イコール人気校。みたいな風潮になりつつあるのが現状。大概の運営費が多い学校なんかは如何にして女の子を集めるかに注力してる。学校経営を続ける涙ぐましい努力の一つだね。

 

 私達が通っている私立天野高校もそんな学校の一つであり、この地域の中では最も女生徒数が多い。人気がある理由としては、まず全日制高校では珍しい単位制の高校だということ。

 進級という概念そのものがない、平たく言ってしまえば大学みたいな学校。まあ出席しないと単位取れない必修科目が毎日入ってるから毎日登校には変わりないんだけどね。それでも、午後の授業をまるっとなくして半日休校とかは平気でできたりする。ちなみに本日の私は丸一日講義あります。ちくせう……。

 

 誰だよ、週明け月曜日は気持ちを入れるために全日授業入れたるでーとか調子乗ってカリキュラム提出した奴。

 

「そういえば美優」

「ん~?」

 

 二人横並びに校舎へと向かって歩いてる途中、フェルナが私に話しかけてきた。

 

「貴女、昨日の配信でアームズコンバットを引退すると宣言したそうね」

「ああうん。まあね」

「やっぱりみんな弱かったから?」

「一応私のマネージャーなんだから、ちょっとくらいは動画を見てよ。アーカイブも残してるのに」

 

 著作権管理とかするために確認とかしてないの? まあBGMとかは使ってないから大して問題ないと思うけど。

 

「ごめんなさいね。昨日は疲れで眠さが限界だったのよ」

「もしかして、私と電話した直後に寝たとか?」

「ええ、そのもしかしてよ」

「今すぐLuminousに電話して今日は休むと伝えなさい」

「今朝伝えたわ。その時に美優の引退宣言のことを聞いたのよ」

 

 本当なら学校も休んでほしいところだけど、それに関しては私が心配でどうこうとか言って無理やりにでも来そうなので、もはや私は何も言わなくなった。

 まあ今日の授業さえ終わっちゃえば、フェルナも大人しく家に帰って休むだろうし、あまり気にしなくてもいいのかな。

 

「それで、アームズコンバットはもうやらないの?」

「うん。どうせランク下がったところで、やったらまたランクトップになっちゃうだろうし、そもそもリスナーの受けもあんまり良くないっぽいんだよね……」

「それはどうして?」

「ARゲームってプレイヤーの主観視点でしか実況プレイできないでしょ?」

「ええ」

「どうにもそれがよろしくないみたい」

「?」

 

 私が魅せプレイよろしくド派手な立ち回りをすると、主観視点の動画画面も私の動きに合わせて上下前後左右へと二転三転しちゃう。そして、それを見た視聴者さんはよっぽど耐性があったり慣れていたりでもしない限り、視覚情報で三半規管をやられてしまうらしい。

 そんなこともあって視聴者は見るのが結構きつかったと。アームズコンバットの視聴者数もアーカイブの視聴回数も大して増えないし、ランクトップの仕様に対する不満もピークになってしまい、結果私は引退を決意した。

 

「そんな感じかな」

「そう」

「責めないの? これ、フェルナが持ってきてくれた案件からやりだしたものなのに」

「構わないわよ。とっくに契約は終わってるし、むしろ案件として単発的にやって自然消滅するよりよっぽど潔いもの」

 

 潔いのかこれは?

 

「先方がどう判断するかは全くわからないし、興味もないけれど。私個人としてはとても良い区切り方だと思う。別にそのゲームを貶めるような発言をしたわけじゃないのでしょう?」

「まあ私の主観的意見で言えば」

「ならいいじゃない。貴女はしっかりと仕事をしたし、ゲームを目一杯楽しんだ。ファンはちゃんとそれをわかってくれるはずよ」

 

 それで離れてしまうのであれば、それまでだったってことで、ね? とお茶目にウィンクなんかしながら、私の頭を撫でるフェルナ。これを見て母性どうこう言う男が結構いるんだけど、要は私が子供に見えるって言ってるんだよね、それ。大分失礼だよ。

 そりゃあ確かに、私はちいっとばっかし小さいかもしれないよ? それでも私は自分のことを子供と思ったことはない。ましてや、私を見て小学生みたいとか言う奴は一回お灸を据えて地獄を見せるべきだと思うんだ。

 

「さて、フェルナさんや。いつまで頭撫で続けるつもりかな?」

「私が満足するまでかしら?」

「じゃあ私が満足するまでチョップし続けていい? って聞いたら?」

「それはちょっと遠慮したいわね。痛そうだし、なんかイヤだし」

「そっか。なら私が言いたいことわかるよね?」

「仕方ないわね」

 

 何が仕方ないのかきっちり教えていただきたいところだけど。まあ手は放してくれたから不問にしてあげようじゃないか。

 

「ところでフェルナ」

「何かしら?」

「いつまでついてくる気?」

 

 月曜の一限目は個人が選択した講義を受ける時間。私は毎週月曜朝の日課で特別教室に行く。

 けど、私の記憶が確かならフェルナはこの授業を選択してなかったはず。なんせ、入学から三ヶ月経つ今でも、その教室にフェルナと二人で入った覚えなんて一度もないし。

 

「あら、話すのに夢中になっていたら美優が講義を受ける教室に来てしまったみたいだわ」

「たま~に抜けてるよね、フェルナって」

「そこは私のチャームポイントってことで」

「アーハイソーデスネー」

「適当に流したわね」

 

 反応しにくいことを言ってくる方が悪い。

 

「もうそろそろ一限目の鐘が鳴るし、早く自分の教室に行った方がいいよ」

「えぇ。そうするわね」

「また同じ講義の時にでも話そう」

「そうしましょう。今日で言うなら三限目ね」

「ん」

「それじゃあ、私は医務室で少し寝てくるわね」

「まあ、どう足掻いても始業には間に合わな――ん? 医務室?」

「私、月曜の一限目には授業を入れない組み方をしたのよ」

 

 じゃあね、と言ってフェルナは私の前から去っていく。歩くことによって波打つ艶やかな黒髪を靡かせて。

 

「ホントにもう……」

 

 授業ないなら家でしっかり寝とけっての。私の世話とかしないでさ。

 誰も見てない廊下で一人肩を竦めつつ、私に対して過保護な恩人へと感謝を抱いて見送った。

 

 ――キーンコーンカーンコーン。

 

 そこで無慈悲な始業の鐘が鳴る。

 

「あ」

 

 私は月曜一発目から十秒の遅刻をした。

 

 

 

 午前の講義、全四時間が終わってお昼休みになり、ご飯を食べるためにサロンへと足を向けている。

 女子生徒しか立ち入ることができない校舎とは別に設けられた施設で、この学校の女の子達は大半がそこで長い休憩時間を過ごす。色々と楽しめる設備もあるからね。

 後、他の理由として、サロンにいないと男子からの告白合戦やらアプローチやらで休み時間が潰れることがある。入学して一週間経ったくらいで私はその洗礼を受けた。

 

 この学校にはサロンとは別に学食や購買もあるから、一応校舎の中でも過ごせないってことはない。入学当初の私はわざわざサロンに行くのが面倒くさくて、適当に歩き回って見つけた中庭のベンチで弁当を食べてた。フェルナも一緒に。

 最初は全く男子の接触はなくて、フェルナと談笑しながら過ごせてたんだけど。いつの間にか私達がそこで毎日昼食を取ってることが知れ渡ったみたいで、これまでは来なかった男子が中庭でお昼を食べたり、同席しようとしたりという図々しいのが現れ出した。

 

 ただ中庭で食べ始めた人達は、まあ大して干渉してこなかったから全く気にしてなかった。けど、同席するために話しかけてきた奴らは別。

 奴らは同席への誘いをかけてきて、最終的には私達の私生活にまで干渉しようとしてきた。例えば、「放課後どこかに遊びに行かない?」とか「女の子だけじゃ危ないから、家まで送っていってあげようか?」とか。

 前者に関しては特に仲良くもないからお断り。後者に至っては論外である。アンタ達に自宅の場所を知られる方がよっぽど危険だと、口には出さずとも頭の中では考えてた。送り狼って言葉は現代でも健在なんだぞ。あんな奴らは警戒対象でしかない。

 とまあそんなわけで、移動するのが面倒ではあるものの、私もフェルナもサロンで昼食を取るようになった。

 

「はむっ」

「美優」

「むぐむぐむぐ……ごっくん……何?」

「歩きながらお菓子を食べるの止めない?」

「違うよフェルナ」

「?」

「お菓子を食べながら歩いてるんだよ」

「そんな差異なんてどうでもいいわ」

「あむっ」

「また貴女は……」

 

 相変わらずお固いなあ、フェルナは。

 

「いつも言ってるじゃない。何をするにせよ“ながら”は行儀が悪いって」

「フェルナほどお嬢様な世界で教育を受けたわけじゃないし」

「だから色々と教えているのよ? 社会に出て貴女が恥をかかないように」

「そんな母親みたいなこと言われても……」

 

 そもそも歩き食べは現在の日本において一つの文化として確立されつつある。

 お店で売られているスイーツなどは歩きながら食べることを前提としたパッケージングがなされてるんだ。食べ屑を溢さないように受け皿的なものが合体してるものもあれば、商品そのものを改良してそもそも食べ屑が出ないようにされてるとか。フランクフルトやホットドッグなどといったホットフードの存在も、またその文化の波及に役立っている。

 これは明らかに歩き食べが当り前な海外の雰囲気をリスペクトしたもの。つまり、グローバリゼーションだ。

 そんな最新の文化である歩き食べ。日本でも流行ってきたそれに肖った私は、その最先端を行く発信者であると言える。

 今後も素晴らしきこの文化を広め、日本の発展に努めたいと常日頃から思っているからこそ、歩き食べをすることは必要であるのだ。

 

「そんなに長々と屁理屈を捏ねて自分の行動を正当化しない」

「ダメだった?」

「甘めに採点して十点ね」

「満点とか私天才過ぎない?」

「赤点よ。私の採点方式はいつだって百点上限」

 

 厳しすぎるよフェルナ。ちょっとは感動してくれてもいい理屈だと思うんだけどなあ。

 

「もし、貴女が本気でそう思ってるんだったら、もうちょっと考えたわ」

「わりと本気だったよ?」

「言い訳に使う理由としてね?」

 

 まあこんな感じで移動中に話し込みながら移動した私達は、三階建てのサロンへと到着し、吹き抜けになってるその広大な空間の中にある一組のテーブルへと腰掛ける。

 そこでお弁当を広げて昼食を取るのが私達の日常の一つ。

 

「あら、そこにいるのは嬉野さんと下賤な一般庶民ではありませんか。ごきげんよう」

「ごきげんよう、天上院様。……ちっ

「どうも」

 

 今日は厄日らしい。軽く応答と会釈をして、歓迎できない闖入者さんへと目を向ける。

 

 その先には、お嬢様然としたドレスにその身を包む一人の女生徒がいた。

 くるっくるに巻いた黒の縦巻きドリルヘアーに勝気な吊り目。それが当たり前かのように他人を見下し、口角を歪ませる底意地の悪そうな女生徒。

 天上院(てんじょういん)ラスター麗華(れいか)。日本においてそこそこ規模の大きい会社、ヴァーチュー社を経営する天上院家の御令嬢であり、学校一の嫌われ女子である。貴重な女子だというのに男子にすらご遠慮される存在だ。

 そりゃまあ一言目から私を下賤な庶民扱いするもん。一応言うと、私だけじゃなくて他の人達にだってこんな態度なんだよ。例外は元華族の血を引く家格が高い人だったり、大きな会社を経営している御家の子息令嬢だったりくらい。

 そういう意味では家がお金持ちで大企業の経営者を父親に持つフェルナは、対等に接するに値すると考えてるんだろうね。フェルナ自身がどう思ってるかとかは一切考えずに。

 なんだろう。こう、彼女を見てると悪役令嬢って言葉が自然と思い浮かぶんだけど……。リアルにこんな子がいるっていうのはホントビックリだよ。

 

 ところでフェルナ、今小さく舌打ちしたね? それなのににこやかな表情が一瞬も変わらないのが逆に恐ろしいよ。

 

「嬉野さん。本日のご予定は? 放課後、(わたくし)の家でお茶会を開こうと思っていますの。もしよろしければ、出席なさいませんか?」

「少々お待ちを」

 

 そう言ってフェルナは制服のブレザーにある内ポケットから手帳を取り出す。完全にお断りの合図だ。勿論、それを知ってるのは私だけ。フェルナのメモ帳はラジエルだから。

 手の持った手帳を開いてスケジュールを書き込む(真っ白な)ページを開く。当然、天上院から見えないように。

 

「申し訳ありません天上院様。本日は予定がありました。残念ではありますが、またの機会がありましたらその時に」

「そう? まあ予定があるのなら仕方ないわね」

 

 さらっとそんなことを言って天上院は踵を返し、サロンの奥へと歩いていく。そっちに専用のVIPルームがあるんだってさ。

 けど、歩いていく途中で一度止まり、こちらを見遣ってくる。

 

「そうです、嬉野さん」

「はい。何でございましょう?」

「お友達付き合いはもう少し考えた方がよろしいのではなくて?」

「…………」

 

 答えを聞くこともなく天上院は再び奥へと歩いていき、その姿が完全に見えなくなる。

 

「黙れよ糞アマ……」

「どうどう。落ち着いて瑞希」

 

 いつもより二つはトーンが落ちた、低音の声が大分怖い。

 基本的に人を嫌うことがないはずのフェルナでさえ、嫌悪感を露にする存在。それだけで、どれだけ天上院が嫌われているのかっていうのがよくわかる。しつこく付き纏う男子にだってここまで汚いことは言わないような子なのに、それを口に出させるって相当だよあのお嬢様。

 まあその怒りの大半は、私をバカにされたことに対するものみたいだけど。フェルナの中で私がどういう位置付けなのか非常に気になるところ。

 

 怒り狂ってるフェルナを落ち着かせつつ、私は今日の昼休みを過ごしていく。もうちょっと平和な日常を過ごせるようになりたいところだ。




一応物語に関わってくる(予定)の人物なので名前出しました

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