――明久サイド――
「明久は別行動だ」
古手川さんの応援に向かおうとした矢先の事だった。悪友の雄二からみんなとは別行動の指示が出る。今までの経験上、僕だけに指示を出す時は大体僕を騙すためか作戦がある時だ。そして今はテニスサークル「ティンカーベル」との売上勝負と何かと因縁がある常夏コンビとの勝負が控えている。その事を考えると僕を騙すためという線は薄いはず。
「分かったよ。……で、どこに向かえばいいの?」
「あっちだ」
【ミスコン出場者控え室】
僕は全力でその場から駆け出した。
――伊織サイド――
「少し遅れちまったな」
缶ビールを片手に寿先輩は野音ステージ後方で場所取りを始める。
「先輩方が酒盛りを始めるからですよ」
「ま、千紗ちゃんの出番はまだ先だからな」
出遅れた主犯格である先輩達に対して俺は呆れた口調でツッコミを入れるが当の本人に反省の色は無い。それどころか場所取りが完了した直後に新しいお酒を飲み出す始末である。
それにしてもただの文化祭の催し物の割にはかなりの人が集まっている。時田先輩曰く催し物の目玉はアイドルのライブ、ミスコンそして男コンの3つらしい。前者2つは分からなくは無いがこの並びに男コンがあるのは違和感がある。
「と言うことは男コンも同じくらい人が集まるのかの?」
今回は残念ながらミスコンに出場出来なかった秀吉が確認をする。秀吉が出場出来れば俺がネタ枠で出る必要もなかったのに……。
「多分時間的にもっと集まるぞ」
「こんな大勢の前に出るのか…」
「ただの遊びにそう気負うな」
俺と一緒に男コンに出場が決まっている耕平は今から青い顔になっている。しかし、奴は出場すると行っても服装は学生服でそこまでダメージはないだろう。
「耕平はまだいいだろ。男の服装なんとから」
俺なんて女子高生の制服でネタ枠なんだから……。
「ネタ枠が不満なのか?」
心外と言わんばかりの表情をする寿先輩に俺は複雑な表情になる。不満というより本命の耕平がいる以上、俺が出る必要がない。
「何を言う。見てみろ伊織」
時田先輩の真剣な表情に思わず視線をステージに移す――
ドケバーン
――そこに映ったのはお昼に俺たちが遭遇した化粧の凄い女の子だ。化粧は変わらずケバく服装はテニスウェアにラケット、花柄のニーソックスにガーターベルトそして天使の羽と何処をとっても個性の塊のような見た目に思わず言葉を失う。
「他のサークルだってネタ枠を用意しているだろ?」
確かにあれと比べればマシかもしれないがそれでやる気になると思われたのなら心外だ。
「なんだ凄い盛り上がってるじゃないか」
屋台を出た時には居たのに野音に着いた時にはどこかへ行ってた雄二が戻ってくる。
「あ〜ティンカーベルのネタ枠が凄くてな」
「確かにあれは凄いな……」
ステージが見える位置にまで来た雄二はステージを見るや否や若干引きながら感想を述べる。
「……でも盛り上がってるのは一部だけ」
「というと?」
撮影のために最前列に行っていたムッツリーニも合流する。
「……盛り上がってるのはティンベルだけ」
ムッツリーニはそう言うと盛り上がっている方を指す。その先には人を馬鹿にしたような笑い声を上げ周囲への配慮にかける集団がいる。そこ以外の人達は身内ノリに引く所か嫌悪感のある表情を浮かべている人もいる。
「なるほどな」
誰にも聞かせるつもりのない独り言をポツリと呟いた雄二は面白くなさそうな視線を集団に送る。
――明久サイド――
僕は舞台袖からステージの様子を覗き自然と手に力が入る。
ステージ上ではお昼に出会った女の子が必死に会場を盛り上げようと頑張っている。それでも盛り上がっているのは一部だけでしかも人を馬鹿にしたような笑い声に苛立ちが募る。
そこにピロンと一通のメールが届く。もうすぐ僕の出番なのでゆっくり読む余裕が無いので送信者の欄だけ見る。そこに雄二の名前があるのを確認してから僕はポケットに仕舞いステージへ上がる。
元々は雄二から無理やり参加させられたミスコンだったが、ここまで来た以上腹を括るしかない。
「うわ……」
ステージに上がった瞬間、僕は不愉快な感情が腹の奥から湧き出てくるのを感じる。
その原因は僕を除いて先輩たちが酒盛りをしているから?否、違う。後方で見ていたムッツリーニが神速の如きスピードで最前列に来たから?否、違う。さっきまで馬鹿笑いしていたティンカーベルから僅かではあるが声が聞こえたからだ。
「この後の飲み会愛菜ちゃん呼ぶか?」
「いや、今回も要らないでしょ」
「だよね〜。あの化粧見てたらお酒が不味くなる」
「ほんとそれ〜。それにこの後の飲み会は私達ティンカーベルの2冠を祝う祝賀会なんだから」
この一連のやり取りでティンカーベルが彼女を今までどのように扱ってきたのか分かってしまう。手に力が入るのを必死に抑え笑顔を絶やさずマイクを持った司会の方へ歩く。
「お〜これは珍しいメイドさんの登場です。では所属サークルとお名前をどうぞ!」
「ダイビングサークルPeek a Boo所属の吉井明子です」
司会の人から自己紹介を求められた為、高校生時代からお世話になったこの偽名を名乗り、嘘ばっかりにならないように真実であるPeek a Booの名前も出す。それにしても参加名簿の中にこの名前があった時は雄二を八つ裂きにしようと思ったんだけど……。
「……エントリーしたのは雄二じゃなかったのかな」
「???どうかされましたか?」
僕の独り言は会場の盛り上がりにかき消されて司会の人の耳には届かなかったらしい。まぁ聞こえても困るので今回はこの盛り上がりに感謝しよう。
「いえ、少し恥ずかしくて……」
僕は秀吉ほど声を変えることは出来ないので男の声とバレないように声を小さくして答える。経験上、この答え方ならシャイな子と勘違いしてくれることが多いのも助かる。
「これはこれはメイド服という装いからは予想外の初心な反応に会場は大盛り上がりです。それでは吉井明子さんに質問をしていきましょう。1つ目の質問、ご趣味は?」
これはどのミスコンでも定石の質問だ。答えは決まっている。
「料理です…」
僕という存在を騙し通すためには不要な嘘はつかないようにしなければならない。
「これは家庭的な趣味をお持ちで。得意料理はありますか?」
「パエリアです」
「パエリアですか。海鮮を使った料理にダイビングサークル所属ということは海が好きなんですか?」
海か……。
「実はあまり……」
実はトラウマがあるんだよね…。あの時の皆は本当に怖かった……。
とそんな定番の質問を幾つか答えていき終盤に差し掛かる。
「それでは男性の方必聴!好きな異性のタイプは?」
司会者はここぞとばかりにテンションを上げて会場を盛り上げる。下世話な質問ではあるが祭りの雰囲気に飲まれてか今までの参加者も結構答えてくれている。ちなみに個性的な化粧の子はイケメンとキッパリ答えていた。
僕が男とバレないためにはここからが正念場だ!
「優しくて」
「優しさは大切ですね」
人のために動ける人っていいよね。
「時に大胆で」
「やっぱりリードしてくれる人がいいと」
頬を赤らめながら迫って来てくれるとドキッとするよね。
「……」
とここで素直に回答したが、これ以上は危険か?などと考えていると会場では無言の時間が流れてしまう。僕としてはもう少し考えてから答えたかったが、司会の人はそれを良しとせず間髪入れずに質問が飛んでくる。
「他には?……例えば体を鍛えている人や背が高い人とか」
う〜ん。僕的には美波のようなスポーティな子も好きだけど姫路さんはどちらかと言えば華奢な方だろう。でも――
「――脱いだら凄い……(でも流石に胸の大きな人とは言えないよね)」
「おーっと!これは大胆な発言!お淑やかな印象からのこの発言はギャップがありますね!」
「!?」
僕が考え事をしている合間に何故か会場は大盛り上がり。それに加えてあのモテなさそうな4人組が脱いでポーチングを始めているが無視しておこう。
「皆さん気になっていると思うこの質問。恋人はいますか?」
「(彼氏って事!?)居ませーん!!!」
僕は全力で否定する。
「おー!これは皆さんに嬉しい情報でしたね。ちなみに好きな人は?」
「(何その質問!?)」
さっきの子までは無かった踏み込んだ質問に僕は動揺を隠せない。咄嗟に下を向いてしまったため、否定もしにくい状況に僕の灰色の脳細胞がフル回転する。しかし、良い案が出ず無駄に時間が過ぎてしまう。そんな中ティンベル側から声が聞こえてくる。
「工藤会長ならあの子落とせるんじゃないですか?」
「少しガードは硬そうだが俺にかかれば余裕だろ」
「流石会長!」
などと下心満載の会話が繰り広げられる。流石に気持ち悪いので俯いたまま視線を向けると工藤会長と呼ばれた人物と目が合う。すると見定めるような視線を向けた後、何故か笑顔で手を振ってくる。流石にこれ以上は我慢が出来なさそうなので僕は最後に一礼して舞台袖に捌ける。
「何回やってもミスコンって疲れる……。あっ古手川さんも頑張ってね」
僕は入れ替わりで出ていこうとする古手川さんに一言声を掛けるが緊張のせいか返答はない。まぁ普通はミスコンなんて自分から出ようとしない限り緊張するよね。
「僕も古手川さんのステージ見たいから早く着替えなきゃ」
僕は朝から着続けているこのメイド服を脱ぎに更衣室へと向かった。
本作に出して欲しいキャラ※やってみたかったのでやってみます
-
久保くん
-
玉野さん
-
根本くん
-
清水さん
-
鉄人又は高橋先生かババ長