相克の水平線   作:帝都造営

6 / 15
生きてるって素晴らしいよね。

と言うわけで初投稿です。


けんぞう。

 建造。建物や船、そのような大きな構造物を作ること。つまり、軍艦(ずいかく)を作ること。

 

「俺を……建造した?」

「ええ、そうよ」

 

 そして飛龍は、そんなことを事も無げに認める。俺の視線に気付いても尚。

 

「言いたいことは分かるわよ。でも言ったでしょ、まずは受け入れなさい」

 

 そう言いながら、飛龍は俺にぐいと服を押しつける。それは紛れもない「瑞鶴」の服。これを着てしまったなら、俺はどこからどう見ても瑞鶴になる。

 

 そこには、紅白が控えていた。真っ白な道着に真っ赤な袴……というかスカート。

 

「これを着ろって、いうんですか」

「ええ。そうよ」

 

 

 そしてその上に載せられた、下着。

 

 

「………………紐パンは、なんとかなりませんか」

「そこら辺の葉っぱでいいなら、良いわよ」

 

 まあ、そうなるな(諦観)。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勘違いしないで欲しいのは、私は別にあなたの敵ではないわよ」

「それは……まあ、分かりますけれど」

 

 飛龍が瑞鶴(おれ)と同じ立場なのは分かっている。というか、もしも俺をこの訳の分からない場所に艦娘の瑞鶴(おれでないそんざい)として呼び出したのが飛龍なら、その事実を隠そうとするだろう。少なくとも、そちらの方が都合がいい。

 

「あなたの目覚めた場所。もうどんな場所かは目星がついてるでしょ?」

「艦娘を建造する場所…………『工廠』って訳ですか」

 

 そ、大正解~。飛龍が示す先には、私が目を覚ました廃墟。風雲は「鎮守府の跡地」という風に言っていたのは、本当のことだったらしい。

 

「もちろん、出来るのは建造だけじゃないわ。装備開発も出来るし、解体だって」

()()()()()()()()()って、ことですか」

 

 無言で頷く飛龍。それでは、これまで見てきたいくつもの廃墟は、それぞれ鎮守府の機能を持っているということになるのだろう。そしてそれらは――――今でも機能している。

 

「あそこで、あなたはもうずっと眠っていたの」

「……眠っていた?」

「えぇ、眠っていたわ。ずっと、あそこでね」

 

 もちろん、それは俺の記憶で言うならば「偽」である。なにせ俺は昨日の夜、持ち帰り残業していたのだ。もちろん、あれが昨日の夜ではなく、実は何年も前のことだと考えれば……例えば、あの夜に俺はUFOか何かに攫われて、そこで肉体改造を施されたとか? つまるところ、UFOも「艦これ」を知っていたと?

 

「多分、あなたが考えるほど難しい話じゃないわよ」

「……え?」

 

 なんだ。俺の考えていることが分かるのか? そんな疑念を向ける俺に、飛龍さんは笑いながら言う。

 

「そらそうでしょ。だって、いきなり目覚めたら艦娘になってた? 馬鹿らしい。そんなことがあるわけないって、誰しも思う。けれどね、ここが本当に『艦これ』というゲームだと考えてごらん? 私たち提督(プレイヤー)は何の予兆もなく、()()()()()()()()

「じゃあ何ですか。俺が瑞鶴に()()したと?」

「少なくとも、私が年単位で考えて得た仮説はそれよ」

 

 年単位。その言葉はするりと出たけれど、俺の中にはずしりと落ちる。年、年単位で飛龍として過ごしてきたというのかこの人は。

 いや、この人は「令和」を知らなかったのだ。それも当然……それは当然のこと。

 俺は飛龍を見る。彼女は、真っ平らな表情で俺を見返していた。

 

「同情しなくていいわよ。私は何も手を打てなかった。このまま状況が解決しなければ……どうせあなたも、同じ運命」

「その原因を作ったのは、あなたなんじゃないですか?」

 

 口をついて出たのは、俺にとっては当然の言葉。

 

「あなたが、俺を……瑞鶴を建造しなければ、俺がここに着任することはなかったんじゃないですか?」

「……誰が『着任』しようと、今日まで瑞鶴は目を覚まさなかった。私にとっては、それだけのこと」

「だったら……なんで瑞鶴(おれ)を建造しようとしたんですか!」

「分からないの? ()()()()()()()()。提督なら、艦隊を強化するために艦娘を建造する。それが提督のやるべき事(デイリークエスト)でしょ?」

 

 そこには、何の迷いもない表情の飛龍(ていとく)がいた。当然のことを当然のこととして行う、提督が。

 

「じゃあ、他にも私みたいな艦娘(ヒト)がいるんですか?」

「提督は艦隊を強化するために建造するのよ? 目覚めない艦娘なんて要ると思う? それにそもそも、この世界には『任務』とかないし、資源も自然回復しないし……」

 

 ということは、建造されたのは私だけ。それ以降は建造していない……と。

 

「一発で『瑞鶴』を引き当てるなんて、恐ろしい強運ですね」

「まあね、なにせ今の私は運40の飛龍だし?」

 

 そしてそれは、俺にとっての不運であった。この不仕合わせを一体誰に嘆けばよいのだろう。

 飛龍に対して? ありえない。ここで飛龍との関係を拗らせることは悪手でしかないし、そもそも飛龍も俺と同じ境遇なのだ。

 瑞鶴(このからだ)に対して? それも違う。これは建造されて、そして俺が着任するのを待っていただけの存在だ。八つ当たりにもならない。

 

 じゃあ、この世界か。この世界に対してか? 俺が瑞鶴になってしまったのも、俺が()()()()()()()()()()()のも、世界のせいだと? 一時の感情であったなら世界を恨んだかもしれない。

 けれど現にこうして、俺は瑞鶴として存在している。紅白の衣装に身を包んだ俺のことを、一晩前までPC前で艦隊を指揮していた(ゲームをしていた)提督だとは誰も思わないだろう。もしくはこれが現実でいうところのコミケとかのサブカルな場所だったら、神コスプレとか言われてカメラに囲まれていたのかもしれないが……。

 

「俺に、どうしろって言うんですか」

「私は慣れろとしか言わないし、言えないわ」

 

 私だって、どうすればいいのか分からないのよと飛龍は言う。

 では、俺は一体どうしたいのだろう。そんなことを考える間にも俺は呼吸をしている。呼吸は瑞鶴(おれ)の小さな胸を上下させて、不慣れな俺が巻いたサラシを上下させる。膝よりも短いスカートはふとももを撫でる風すらも防いでくれず、急所だけを守るように股下にぴったりと張り付いた下着は嫌でも股間の喪失感を意識させる。

 

 それが、今の俺だ。瑞鶴となってしまった、今の俺。

 

 

「……『解体』してみる?」

 

 飛龍が、そんなことを言った。

 

「まだ試してない工廠の機能。装備の開発と廃棄はキチンと動いたわ。建造も、あなたが着任したことで曲がりなりにも成功した。それなら『解体』だって出来るんじゃない?」

「……なにを」

 

 いや、何を言ってるのかは分かっている。解体を、瑞鶴(おれ)を解体してみようと言っているのだ。

 

「ほら、『艦娘が解体されるとどうなるのか?』って艦これのサービス初期からずっと提督(わたしら)が疑問に思ってることじゃない」

「……確か、普通の女の子に戻るんでしたっけ?」

 

 もちろん、それでは何も解決しない。ところが飛龍さんは首をぶんぶんと振る。

 

「いやいやないない。それはないよ瑞鶴ちゃん。あれは運営のリップサービスってヤツでしょ。そもそも軍艦の処分方法って知ってる? 解体処分っていうのは、艦体を全部バラして屑鉄として再利用することなのよ?」

「じゃあなんですか。私に自死(しね)と?」

 

 それがどれほどの意味を持つのか、この飛龍は分かって言っているのだろうか。

 

「ええ、有り体に言えばそうよ。そうすればこの世界から()()()()()

「逃げられなかったら? 俺が単なる女の子になったとしたら?」

「それでもいいじゃない。あなたが『男だった』という意識を失えば、あなたが自分の肉体(そのカラダ)に違和感を抱くことはなくなるはずよね? それはあなたにとっての――――」

 

「ふざけないで下さい!」

 

 気付けば、俺は叫んでいた。叫んでから、なんで叫んでいるのか分からなくなった。

 

「俺は、俺は……」

「悪い選択じゃないと思うわよ? 解体装置の起動には提督がいないと出来ないから、私は今日まで試せたことがないけれど」

 

 そんなことは知ったことじゃない。俺に死ねと提案する、この人はなんなんだ。そしてこの人に抗議している俺はなんなんだ。

 

「それであなたは良いんですか? 折角着任した瑞鶴(くうぼ)なのに」

「戦力にならないならしょうがないじゃない。ほら二次創作でよくあるじゃない、役立たずの艦娘を処分する感じの話」

「それは、二次創作(ものがたり)の話でしょう?」

「でも、今の私たちはゲーム(ものがたり)の中だよ。作り物の、誰かが誰かのために作った登場人物(キャラクター)に押し込められている」

 

 飛龍の言うことは、間違ってはいない。俺は確かに瑞鶴で、目の前にいる飛龍は明らかに飛龍なのだ。それを否定することが出来ない時点で、ここはゲームに限りなく近い世界。

 だけれどそれが、ゲームと同じこと……解体を許容する理由になるとは思えない。

 

「無理することはないわよ。建造をして、瑞鶴が現れたとき、私も『どぉ~よっ!』って喜んだモノよ。でも、目覚めない時間がどんどん伸びていって、入渠ドックに押し込んでも何の反応も示さなくて。それでようやく、私が目覚めたときの状況に気付いたの」

 

 俺はなにも言わずに、飛龍の話に耳を傾けていた。飛龍は淡々と語る。

 

「私も同じような、誰も居ない廃墟で目覚めたんだって……要するに、私があなたの今の状況を作ってしまったって事実は、変わらないのよ。だから、私が責任をもって解体して(ころして)あげる」

「……なんで、そういう話になるんですか」

「そういう話にならざるを得ないじゃない。私はあなたに責任がある」

 

 飛龍の言わんとすることは、分からない訳ではない。だけれどそれは、先ほどの正当化とは真逆のこと。俺が言葉選びに悩んでいると、彼女は言った。

 

「認めなさい。自分は生きたいんだって。こんな状況になっても、自分を喪っても尚、生きていたんだ、って……それが嫌なら、私があなたを殺してあげる」

 

 それを、俺にここで認めろと。

 

「まるで脅迫ですね」

「じゃあ言い方を変えよっか? 『カワイイ女の子になって楽しい鎮守府ライフ! いまなら指南役として頼りになる先輩空母がついてくる!』」

「……頼りになる先輩空母って、もしかしてあなたですか?」

「あったり前じゃない! 若くてピチピチ! しかもモデル顔負けの美女飛龍ちゃんよ?」

「………………」

 

 なんだこれは。なんなんだこのVサインを片手にウザったい笑顔を浮かべる艦娘(おんな)は。これが俺の先輩?

 

「悪くないでしょ? どう?」

「………………」

「んー。じゃあ実力行使だね」

 

 押し黙った俺に、飛龍は手を伸ばす。そして俺の腕を掴むと……手のひらを胸に押し当てた。もちろん瑞鶴(おれ)のないに等しい胸ではなくて、飛龍の大きなお餅に。

 

「な……っ!」

「あれ~? 顔が真っ赤になってるねぇ?」

「あわ、あわわわわわわわわ……」

 

 そこには。まあなんというか。とてもふくよかな感触が広がっていた。よく胸をマシュマロかなにかに例えるのは聞いたことがあるけれど、布越しでも、こんなに凄いのか。

 

「ま。そゆことだよ」

「どーゆーことですかっ!!」

「生きてりゃまた胸が揉める」

「はぁっ!?!? 俺をエロ親父みたいに言うの止めて貰えます???!!!」

 

 慌てて腕を引っ込めると、飛龍はその胸を張って真面目な顔で言うのだ。

 

「でも世界の真理だよ? おっぱいは全てを解決する」

「しませんっ!」

「でも、もしここで私が『飛龍先輩って呼んでくれたらおっぱいを揉ませてあげる』って言ったら?」

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

 ………………。

 

 

 

 

「……飛龍、先輩」

 

「よし。じゃあ頑張って生きてこー! おー!」




次回更新は2/10です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。