「結論から言うと、日本
「さっき存在するかも分からないって言ってたじゃ無いですか」
まあね、と俺のツッコミをさらりと流して飛龍は進んでいく。鎮守府の廃墟は空襲でも想定しているのか、底へ底へと、何処までも続いている。
「さて、と」
その言葉と共に、ぺかりと点けられる懐中電灯……いや、あれは探照灯か。ん? 探照灯?
「飛龍先輩、それって探照灯ですか?」
「ん。あぁ、そうだよ。だって装備してるでしょ?」
「え……あぁ……あれ?」
いや、それは違う。航空母艦に探照灯は装備できないはずだ。そもそも、航空機や夜間要員などの補助機材を積むべき
「いや、艦これの話じゃなくてね? 航空母艦飛龍の話」
「あぁ、そちらの方ですか」
確かに、
「私たちは
「使わない方がいい?」
それに対して何も返さず、飛龍は廊下の突き当たりで立ち止まる。探照灯の反射光で形作られた背中がペコリと下げられた。
「瑞鶴ちゃん。失礼のないようにね」
飛龍の開いた扉の先は、何かの展示室のようだった。飛龍は手元から何かを取り出すと、それを何処かにかざして……途端に部屋がぼうっと照らされる。ランタンか何かに灯りを点けたらしい。
「これは……」
「ああいう敵から回収したモノ達」
そこには、床に壁に所狭しと並べられた物体の山であった。形に見覚えのあるモノもあれば、何に使うかさっぱり検討が見当が付かないような物まである。
そしてそれは、ランタンの光で見通せないほど遠くまで続いていた。
「これ、全部イ級とかのお腹から出てきたんですか……?」
「まあね。イ級だけではないけれど」
「というかこれ……」
どうみても、遺品ですよね? とは、流石に聞けなかった。
というか、どう考えてもそうではないだろうか。だってここ腕時計とかありますよ。まさか海の真ん中で腕時計がどんぶらこと流れてくるハズもなく。
『瑞鶴ちゃん。失礼のないようにね』
だから飛龍はあんなことを言ったのか。
「イ級が商船を襲い、その戦利品を飲み込む。私たちがイ級を殺して、腹の中から缶詰やら魚を回収する。私たちのやってることは、追い剥ぎと同じだからね」
そう言いながら誰にでもなく手を合わせる飛龍。そこには、これまでに積み上げられた時間と、喪われた
「感傷に浸ってる暇はないわよ。読み取れることが沢山あるの、ほら、これをみて」
そう言いながら飛龍が指差した先には、赤と白の救命浮輪。
「英語が書いてあるわよね。これが船名で、こっちが……」
そう解説していく飛龍は、冷静そのもの。どうして彼女はこんなに冷静に事実を並べられるのだろう。さも当然というように、1個1個の遺品を確認していく。
「……」
「なんて顔してんのよ。まあ、言いたいことは分かるけれども」
それなら、俺が黙っていた理由も分かるはずだ。別に遺品を漁ることに文句があるわけじゃない。生きる上でイ級の腹を開くのは当然のことだろうし、そこで回収した遺品にもきちんと配慮していることは分かる。
そして、そういった遺品を利用してでも生き抜こうとしていることも。
「……で、まあ。これらの情報を統合するとここはショートランド泊地、そして英国系の……まあ恐らく
「なるほど……」
となると、ここは日本から遠く離れた場所で、周辺で戦っているのは英語圏の軍隊だけということか。
「ああちなみに、今朝の
「あぁ…………まあ、そんな気はしました」
流石に、滅多に入っていないだろう缶詰のためにイ級を狩っているとは思わない。あの時の飛龍は冗談っぽく朝食などと言っていたが、要するに敵を倒し続けないと危険なのだ、この泊地も。
一体、この海はどうなっているのだろう。まあ艦これの「設定」は人類が制海権を失った世界と言っていたし、そのようなものだと言われてしまえばそうなのだろうけれど。
「……じゃあ、日本らしいものがあるっていうのは?」
「日本語が書かれたモノがいくつかあるのよ。そこまで多い訳じゃないけれど」
まあ、ここら辺は日本からの海流が流れてくるわけじゃないしね。そんなことを言いながら飛龍はランタンの光の向こう、闇に包まれた倉庫の奥果てを見据える。
「多分、日本近海を荒らした後にこっちにやって来たんだろうね。どういう関連性があるかは分からないけれど、少なくとも日本語は存在する」
「……なる、ほど」
つまり、それはなんの意味のない情報ということか。日本語が書いてあるものなら日本でなくても存在するだろう。それで飛龍は「らしいもの」と表現を濁したのだ。
「ところでさ。瑞鶴ちゃん」
「なんです?」
「あなたのサーバーって何処だった? これがショートランド泊地だったら話は早いんだけれど」
「え、えーと……」
どうだっただろう。艦これには幾つかのサーバーがあって、それぞれの中で演習と呼ばれる艦隊戦や戦果の順位などを競うことが出来るようになっている。サーバーの名前は横須賀鎮守府に始まり国内基地から海外の泊地まで……とにかくあちらこちらの実在した基地をモデルとしているのだ。
とはいえ、実際に泊地を意識することはない。なにせゲームスタート画面で端に小さく出てくるだけだし、俺は別にランカーなどをやっていたわけではないし。
そして、この質問がどれほど重要なのかも分かっているつもりだ。つまり飛龍は、
「たぶん、ラバウルだと思います。ちょっと自信ないですけれど」
「そっか。なら、やっぱりサーバーは関係ないのかな」
まあ。そこら辺はあんまり重要じゃないとは思うけれど。そんなことを言いながら飛龍は考え込むように顎を撫でる。
その所作は、なんだか飛龍らしくない……いや、彼女も提督なのだ。そりゃ
そんな時、今さらな疑問が湧き上がった。
「飛龍先輩って、どのくらいやってる『提督』だったんですか?」
「ん? あー、全然やってないよ。遠征とか回しておいて、
懐かしむように話す飛龍。なんやかんやと見てくれは20前後の美少女である飛龍が「若さ」なんて言葉を使うので、面白くなって俺は噴き出してしまう。
「若さって、飛龍先輩って俺と同じくらいですよね? つまり、20前半くらいとか……」
「え?
「……え?」
「あーでも。あの子は
「え? えぇ???」
俺が固まっているのに気付いていないだろう。飛龍は「家内」と「娘」の話をしていく。俺の想像が及ばない話をする飛龍は、これまで見てきた――まだ丸一日も経っていないけれど――どんな表情よりも楽しそうで……嘘をついている様子はなかった。
「……飛龍、先輩って。もしかして俺が思ってるよりもお年を召されてる感じですか?」
「うん。だから『先輩』って呼んでね~って話だったんだけれど」
「いやいやいや! アレはそういうノリじゃなかったですよね??」
というかむしろ、俺に死ぬか胸を揉むかという究極の二択を突きつけた場面だったではないか。いやまあ、そりゃね? すごく良かったですけれど!
「まあいいじゃない。どうせ見た目は大学生くらいで通じそうな可愛い飛龍ちゃんなんだから」
「いやでも、それ結構重要な情報じゃないですか?!」
というか、これまで何となくだけれど敬語使ってきて良かったな? 飛龍が20くらいの娘を持つ人間――つまり、恐らく多分は50歳とかそのくらい――だとしたら、そんな相手にタメで話してくる若者とか絶対ウザいじゃないですか。危なかった。
「えー、別にいいじゃんそんなこと。どうせ人間見た目だし」
「いや、それは分かりますけれどね? いきなりサラッとバラされると……」
というか、あなた絶対楽しんでますよね飛龍先輩。そうして抗議の声を上げる俺に飛龍は。
「まあ。どうせ
あっさりと、そんなことを言い放ったのだった。
「……」
何も言えなくなった俺に、飛龍は静かに続ける。思えば、家族の話をしているときも飛龍はふざけているような顔はしていなかった。彼女はずっと真面目そのもので、そして同じ調子で、恐ろしいことをさらりと言ってのけるのである。
「別にね、脅してる訳じゃないんだよ。ただね、意外と
「……そ、そうみたいですね」
そうは言ったものの、何がどうヤバいのか俺は理解できていない。ただこれは相当に恐ろしいことなのだと、飛龍の真剣な双眼がそう語っていた。
「だからね瑞鶴ちゃん。これだけは覚えておいて、
そして飛龍は、とんでもない無茶ぶりを俺に言ったのだ。
それは、飛龍先輩が私に見せた深淵の正体だった。
――――艤装を使わないこと。そうしなければ、
次回更新は2/14です。