相克の水平線   作:帝都造営

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Dr.ストーン。邪悪な白菜と聞いて以来、そうとしかみえなくなりました。


かいはつ。

「……艤装を使うな?」

「そ。艤装はなるべく使わない方がいい」

 

 そんな無茶な。先ほどまで飛龍はここが孤立していて、そして敵がしょっちゅうやって来ると言ったばかりではないか。艦娘(おれたち)の身体は見た目通りに細くて、とてもじゃないが艤装(そうび)の力を借りずに深海棲艦を倒せるとは思えない。

 それに何より、先ほどの探照灯。飛龍は探照灯という艤装(そうび)を使っていたではないか。

 

「あぁ。これ?」

「あっ……えぇ?」

 

 そう言いながら飛龍はしれっと探照灯を取り出す。いや、取り出すというよりは()()()()()()()()というべきか。なんだこのファンタジー。いや、まあ俺が瑞鶴(おんなのこ)になってる時点で十分ファンタジーではあるのだけれど。

 飛龍は探照灯を付けたり消したりしながら続ける。

 

「この程度で艦娘に近づいていく(なりはてる)んだったら私はとっくにパッパラパーよ。ある一定のやり方を使えば引き寄せられる量は最小限に抑えられるの」

 

 私は今日まで、そうして戦ってきた。飛龍の目には確かな自信が宿っていた。

 

「それ、教えて貰えるんですよね?」

「そんなに焦らなくても、ちゃんと教えてあげるって」

 

 いつの間にか迫ってしまっていたらしい。縮まった距離を離して、すみませんと頭を下げる。いいよいいよと笑う飛龍は、これでも50歳くらいの所帯持ち。世の中とは分からない。

 

 

 

 

「いきなりこういう質問で申し訳ないんだけれどさ。瑞鶴ちゃんって提督として(ほんとうところ)は社会人さんであってる?」

 

 案内されたのは瑞鶴(おれ)の目覚めた場所……工廠。そのだだっ広い部屋には、ただの廃墟とは思えないガラクタの山が積まれている。つまり無人の廃墟ではなく、不法投棄の常習犯がやってくるタイプの廃墟になっているのだ。

 そしてそんな工廠(ばしょ)で、恐らくは……いや、間違いなくポイ捨て常習犯である飛龍は俺にいきなり謎な質問をしてきた。俺が社会人かどうかだって? 少なくとも、今の見た目は艦娘(ずいかく)である俺にそんなことを聞いて何になるというのだろう。

 

「大事な質問だよ」

「……まぁ、一応勤め人(サラリーマン)ではありますね」

「そっか。学歴は?」

「学部卒です」

「文理どっちか聞いてもいい?」

 

 なんだろう。これはもしかして、出身大学でも聞こうとしているのだろうか。

 

「……あの、飛龍先輩。この質問に何の意味があるんですか?」

「どこから説明すればいいか、その前提を聞きたくてね」

「説明?」

 

 学歴が関係あるような説明をするのだろうか。見当がつかない俺を余所に、飛龍はなにやら白いモノを持ち出してくる。ボロボロで形の崩れたそれは……。

 

「……紙?」

「そうよ。ショートランド工廠跡お手製の紙よ!」

 

 うん。これがスゴイのは俺でも分かる。こんな廃墟の中、紙があるなんて凄いこと。まあ、紙と呼ぶには色々とボロ過ぎる感じはあるが……。

 

「で……こんなもの、なんのために?」

「さーて。ご開帳っと!」

 

 ぱらりと開かれたそこには、ずらりと並んだ線、線、線……。

 

「…………これは、ずいぶんと………………下手ですね」

「あーごめん。これは初期に作ったヤツだから、下手なことは見逃して?」

 

 下手と言うより、かすれていると表現した方が正しいのだろう。どうやらボロボロの紙に書くのが慣れていなかっただけのようで、飛龍が続々と広げる紙に描かれた図は次第に俺にも意味の分かる物へとなっていく。

 

「リバースエンジニアリングって知ってる?」

「え、えっと……」

 

 聞いたことはある。確かほら、他の国の製品を輸入して、技術をコピーする感じの……。俺の言葉を遮るように、飛龍は手をかざす。

 

「分からなかったら聞いて良いから。ここからは……貴女に全部理解して貰わないと意味がないの」

「それって」

 

 まさか。ここにある紙を理解しろっていうのか。俺の目の前に広げられた紙たちに描かれていたのは、艦載機の絵。それは正面に上と横、それぞれ別方向から描かれている。

 

「見ての通り、空母艦娘(わたしたち)が使う艦載機よ。それが零戦で、こっちが97艦攻……99艦爆は足が特徴的だし分かるわよね?」

 

 機械にあまり詳しくない俺でも、全体図を見れば分かる。これは艦載機の設計図だ。となれば他の飛行機の形をしていない絵は、エンジンやなんやらの細かな部品なのだろう。

 

「これ、全部飛龍先輩が書いたんですか?」

「ええ。この子達を分解して調べたの。寸法まで完璧って訳にはいかかったけれど、まあ、旋盤で削ろうって訳じゃないからね」

「旋盤?」

 

 俺の問いに、工作機械の一つよと答える飛龍。つまりアレか、この設計図で実際に零戦かなにかを作ろうとでもいうのか?

 

「『艦これ』には『開発』ってのがあったわよね。覚えてる?」

「え、えぇ……そりゃ、まあ。それをやるんですか?」

「まあね。では瑞鶴ちゃん。欲しい装備を手に入れるときにすることは?」

 

 「開発」を行う、では答えにはならないだろう。開発に必要なのは開発資材と資源。それらのバランスで開発できる装備が代わり……そうだ、秘書艦の艦種によっても結果は変わるんだっけか。

 

「この世界は不思議なくらい『艦これ(ゲーム)』に準じている。だからどの艦娘が開発を行うかによって結果も変わる……ではその原因は? 私の仮説は、こうよ。艦娘は何らかの媒体を通じて艦艇の記録を引き出している。自身が搭載したことのある、する可能性のあった武器や装備の設計図みたいなものへ、何らかの手段でアクセスできる」

「……それなら、別に設計図を用意しなくてもいいんじゃ」

 

 そこまで言って、気付く。そうか。飛龍の言わんとすることがようやく分かった。

 

「設計図のない装備が動くためには『艦の魂』が必要なのよ。だから私たちはその供給をうけなくちゃいけない。そうね、ゲームとかで言うところのMP(マジックポイント)ってヤツよ。そしてその供給を受ける度に、私たちは人間性を喪っていく」

 

 あぁ、あくまでも仮説ね。そう前置きしながら、飛龍は続ける。

 

「私ら艦娘の身体は、恐らく器のようなモノなのよ。だから異世界の提督(わたしたち)の魂を受け入れる余地が……あぁ、魂っていうのは例え話ね。分かるでしょ?」

 

 その話をする飛龍は、心底嫌そうな顔で続ける。これだけの設計図を書いた彼女のことだ、きっと某邪悪な白菜が出てくるアニメみたいに科学とかそういうのが大好きで、魂とかそういうオカルト的な(スピリチュアルな)存在が嫌いなのだ。それでも仮説は仮説だと、彼女は話を進めていく。

 

「多分、普通の艦娘ならこれで問題ないんだろうね。器たる艦娘に『何か』を流し込むことでなんとなく装備が動かせる。で、恐らく『開発』も秘書艦がその『何か』を流すことでそれに従った装備が顕現する(あらわれる)。その時、きっと設計図を使ったりすることはないんだと思う」

 

 けれど私たちがやったらどうなると思う? 既に別の『ナニカ(ていとく)』で満たされている私たちがそれをやったら。飛龍の主張は、装備を使うほど自分を喪うというのは、そういう意味だったのだ。

 

「で、私はそれを回避する方法を見つけたわけ。仮にも私たちは()()なんでしょ? だったら『何か』の代わりに装備を顕現されることが出来るはず。それでこれを使った。あ、そうそう。さっきの探照灯もそれね。だから空母でも装備できる」

「あぁ……あれってそういう意味だったんですか。てっきり空母飛龍の魂とか、そういうアレから呼び出したんだと思いましたよ」

 

 俺がそう言えば苦笑する飛龍。そこに浮かんでいる笑顔は、どことなく暗い。

 

「まあ、とはいえ。本当にこれが安全かどうかは分からないんだよ? 『何か』に頼ることなく、私たち『提督』の力だけを使って装備を顕現させる(かいはつする)。発想は間違っていないと思うんだけれど……」

 

 せめて浸食度を測れる装置とかあれば良かったんだけれど。そんなことを言いながら飛龍さんは私を手招き。

 

「はい、ここに資源。そして秘書艦(わたし)

「もしかして、実演するんですか」

「まね。丁度今朝の出撃で何機か落ちちゃったし」

 

 単なる撃墜なら、ボーキで補充できるんじゃ……と思ったが、考えて見るとボーキをたったの5消費するだけで艦載機を補充できるのは()()()()()()。そうなれば「何か」が関わっているということになるわけで……。

 

「とりあえずまあ、これまでの開発結果から導き出された資源をセットして……」

 

 飛龍が集められた資源の上で手をかざす。それから何かを念じるように目を閉じると……あら不思議、資源が光り始めたではありませんか。

 

「設計図を全部思い浮かべる必要はないわ。ただこの開発に成功したとして完成した機体にどのような機能があって、各種の部品がどういう働きをするか。それを思い浮かべるの」

 

 光り輝く資源達は、重力から解き放たれたようにふわりと浮き上がる。そのまま空中で集まると、徐々に形を変えていく。そして――――。

 

「――――ど~よっ!」

「おぉ……なんかすごい」

 

 そこには、艦載機が鎮座していた。当然のようにそこにある97艦攻。

 

「まぁ、こんな具合ってわけよ」

 

 これをファンタジー……と呼んで良いのかは分からないが、とにかくファンタジーのような現象であった。ともかく、今はこれが俺の現実なのだ。

 

「それで、これを俺にも出来るようになれ。と」

「そ。大丈夫、模型飛行機を作るようなものよ」

 

 まさか。ここまで来て勉強をすることになるとは。しかも機械なんて全くの専門外。思わずため息をついてしまった俺を、どうして責められよう。とはいえ、飛龍の言うことが本当なら装備開発や運用をするたびに俺が俺でなくなるのだ。仕方あるまい。

 それにしても、一つ気になることがある。

 

「あの、飛龍先輩。艦娘(わたしたち)って『何か』にアクセス出来るんですよね」

「うん、そうだけど? もしかして触れてみたい?」

 

 好奇心旺盛だねぇと、飛龍は笑った。




次回更新は2/16です。
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