狩人様が真っ赤なブローチを持って来た、これはお母さんのブローチだ、獣狩りの夜に帰りの遅いお父さんを心配して探しに行ったお母さんのブローチだ…。
お父さんは帰ってこない、お母さんも…。
私は独りぼっちになってしまった…。
悲しかった…。
寂しかった…。
大好きなお父さんに、優しいお母さんにもう会えないんだって思うと涙が出た。
お父さんは教会の神父で、町の皆に頼りにされていた。厳しい人で怒ると恐かったけど、私に愛をいっぱいくれた。
お母さんは料理上手だった、お母さんの焼いてくれるアップルパイが私は大好きだった、私が泣いているとそばで優しく慰めてくれるお母さんが大好きだった。
でも、私の大好きな二人はもう…。
どのくらい泣いていたのかわからない、いっぱい泣いた、一生分泣いたんじゃないかと思うくらいいっぱい泣いた…。お母さんは泣いている私を慰めるときにいつも「いっぱい泣きなさい、でもね…いっぱい泣いて、泣いた後はニッコリ笑うの悲しいことも悔しいことも吹き飛ばすみたいに」って言っていた。だから、私は泣いてっばっかりじゃダメなんだって思った。
お父さんもお母さんも居なくなって悲しくて寂しくて仕方ないけれど、私がそんな風に泣いてばっかりいたら、お父さんもお母さんも安心できないから。
私は家から出ることにした狩人様が言っていた安全な場所に避難するために。お父さんとお母さんを安心させるためにも、頑張らないといけない。泣いてばかりの弱い私じゃ駄目だ。
外は暗くて恐かった、でもお父さんが怒ったときの方が何倍も恐かった、だから大丈夫って思って歩いた。
下水道の辺りに差し掛かった時だった、低い唸り声が響いた、凶悪なおぞましい獣の声が…。
だから私は後ろに少しだけ下がった。目の前を巨大な豚が通りすぎて行き、しばらく走った後こちらに振り返った。
私はおもむろに自分がつけていたリボンをほどいた、お父さんとお母さんから誕生日に貰ったお気に入りのリボン…。
豚はもう一度私めがけて突進して来た、私はリボンを強く握り締めて…。
豚の突進を避け、その脇腹に拳を突き出した、内臓攻撃を、お父さんから教えて貰った必殺の一撃を叩き込むために…。そして豚の腹の中でリボンを放した、豚は倒れたまま動かない。
「そのリボンは貴方にあげる」
私は弱い自分をここに置いていくと決めた、弱い自分はここで死んだんだ、そこに転がっている豚に食われて。
私は獣狩りの夜を歩いた。
お目汚し失礼しました。