こちらはにじさんじさん、当時のにじさんじseedsさんによる声劇『憂う少女のアルカディア』の非公式二次創作となります。二次創作が苦手な方、また理解の無い方の閲覧は御遠慮ください。
原作の登場人物はほぼ全員出ますが、登場人物及び世界観の設定に大幅な追加、改変がされております。そちらも合わせてご了承ください。
『憂う少女のアルカディア』のネタバレを含んでおります。
過激な描写が予定されていますがVliverさんたちは「生きて」いますので、誹謗、中傷等には極力配慮していきたいと思います。しかし私自身のライバーさんたちへの解釈が入っているのでご注意ください。
この作品は過激な描写を含みます。苦手な方はご注意ください。
「よーし、こんなものですかねぇ。はっはっはっは!」
少しだけ時間は戻り、警察署ではチャイカのバーへ電話をかけ終わった海夜叉神、轟京子、安土桃の三人が一息ついていた。
京子は手錠を手元で弄りながらご機嫌な様子で二人に語り掛ける。
「出雲霞と卯月コウ、二人の誘拐を依頼するだけでマフィア組と暗殺組、さらに卯月財閥が三つ巴の争いになって共倒れを狙うだなんて一石二鳥どころか、一石三鳥じゃん?」
「今まで関わりのなかったお三方ですが、それはそれぞれのパワーバランスが針の上に乗るような絶妙なバランスの上に成り立っていたものです。何かの弾みでそれぞれが関りを持つことがあれば状況はややこしいことになっていたかもしれません」
桃は一回給湯室に入ると三人分のお茶を用意して戻ってくる。
お茶請けのお菓子もばっちりだ。
ちなみに休憩時間というわけではないので三人そろってくつろいでいるのは警官としてあるまじき行為なのだが、咎める者がいないので皆仲良くまったりタイムを満喫し始めた。
「思ったんだけど海夜叉さん?全面戦争になったらこの街メチャクチャになっちゃうんじゃない?そうなったら、地域住民の避難勧告とか人命救助とかで私たちてんてこ舞いになちゃうかもって、ちょっと心配なんだけど」
「大丈夫ですよ桃さん。もし全面戦争になんてなったら誰がどう見たって私たち三人だけじゃどうにもならない状況になります。いっそ投げ出して、というかはっきり言ってしまえばサボってしまっても「想定以上の事態に上手く対処できなかった」とごめんなさいしておけば問題ありませんし責任を問われることもありません」
「わー、ただの悪党だー。たくさん人が死ぬかもなのに何とも思ってないー」
桃がそんな棒読みなセリフでジト目を向けると海夜叉は心外そうな顔を作る。
それが本心なのかそれとも嘘なのか、長い付き合いの二人でもその笑顔が本心ではない作り物の表情に見えてしまうのであった。
表情を作る、なんて表現をしたのは京子と桃が二人とも海夜叉の顔に何か裏を感じたためである。
「そんなことありませんよ。目の前で誰か死んでしまいそうになった人がいたらちゃんと助けますよ。特に鈴木勝君が危ない目に会いそうなら、すぐに保護しますからね」
「海夜叉さま、それが本音なんじゃ……」
「はっはっはっは!」
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ドーラと緑仙の二人はシスター・クレアから出雲霞が消えてしまったという話を聞き、すぐにその時の詳しい情報が欲しかったため卯月コウ、鈴木勝も交えて談話室に移動して話を聞くことにした。
部屋の真ん中に置かれた長方形の大きな机にコウと勝の二人と、対面にシスターを挟んで緑仙とドーラがそれぞれ座った。
コウと勝はいきなりの事態に混乱しきっている様子で、シスターも二人を落ち着かせようと冷静さを装っているが長い付き合いの緑仙とドーラにはその動揺は隠し通せていない。
緑仙はきっとここまで疲弊しているのは、シスターのことだから行方の分からない霞のことを心配しているのだろうと考えていた。
緑仙にはそんなシスターを元気づける言葉がとっさに思いつかない。
それより事態の解決に取り組んだ方が緑仙の得意分野だし早く安心させた方がクレアの為になる。
「取りあえず、何があったのかを順番に説明してくれ」
「はい緑仙。皆さんをこの部屋に案内してしばらくした後に、霞ちゃんが私にトイレに行きたいと言ったんです。なので私は教会のトイレに案内して……」
「トイレの中までは付いて行った?」
「いえ、中までは……。私はトイレの入り口前で霞ちゃんが出るのを待っていました。でもあまりにも遅かったので心配になって声を掛けたら返事がなくて。急いで扉を開けたんですけど、そうしたら霞ちゃんの姿がどこにもいなかったんです……!」
「本当にごめんなさい……」とうなだれたシスターの肩を緑仙が支える。
「シスターさんがその後俺たちの所に来て、こっちに霞が来ていないか聞いてきたんだ」
コウがシスターの代わりに説明を続けた。
「トイレの前にクレアさんがいたからすれ違ったなんてことはないはずだけど一応って。俺たちの方に出雲は来ていなかったし、その後俺たちは慌てて教会の中を探し回った。でも、どこにも出雲はいなかった。それであいつらに連れ去られたんじゃないかと思った俺と勝は外に探しに行こうと思ったんだけどクレアさんに止められちまって」
「そこで僕たちと合流したっていうわけか」
「……なあ、こんなことしてないで早く探しに行こうぜ」
「素人は黙ってろ。この状況で、ただの金持ちに何ができる」
「探すなら人出が多い方が良いだろ!」
「素人が何人増えたとこで役立たずが増えるだけだ」
「まあまあ、緑。ここで口げんかしても何にも始まらんじゃろ。それより早く現場を見た方が良いのではないか?」
「そうだね。早く取り掛かろう」
「お、おい!待てよ!」
コウは無視して緑仙は霞が入ったというトイレに向かった。
コウと勝も慌てて後を追いかけてくる。
「じゃあワシは一回クレアを連れていく。そっちはたのんだぞ」
「ああ、了解」
ドーラはシスターの肩を抱きながら一旦部屋に連れていくことにしたようだ。
緑仙も、シスターは一回落ち着いた方が良いと思ったのでドーラに任せることにした。
「よし。じゃあさっさと終わらせよう」
トイレに着いた緑仙はさっそく現場検証を始めることにした。
この教会にはいくつかトイレが設置されていて、いわゆる来客用と教会で勤めている人用の物とで分かれている。
霞が案内されていたのは教会に祈りを捧げに来た人たちが使う来客用のトイレで、公共施設に設置されているような公衆トイレと同じつくりになっていた。
公共のトイレと同じなので男性用と女性用と二つある。
さきほど霞が入ったのはもちろん女性用だ。
緑仙はさっさと入っていったが、コウと勝は女性用トイレに入るのに抵抗があるらしい。
「ここまでついてきたのに入らないの?」
「う、うるさい」
「だってそっちは女子トイレだし……」
「はいはい」
現場検証だし中には誰もいないのだからそんなことで恥ずかしがるなんてまだまだ初心だな、と緑仙は鼻で笑いつつトイレの扉を開けた。
中は緑仙がいつも見ている通りのトイレと同じだった。
一見異常があるようには見えなかった。
それが違和感だった。
ここのトイレはあまりにも同じだったのだ。
そしてトイレの窓から外を眺めて緑仙はこのトイレで何が起こったのかを確信した。
「おーい、何かわかったか?」
扉の向こうでコウが話しかけてくる。
緑仙はトイレから出て、二人を面白そうな顔で眺めた。
「とっても興味深いよ。もう一度君たちからは色々聞いておいた方がいいかも」
「ど、どういうこと?」
「出雲霞っていうやつについて、さ」
コウと勝が同時に首を傾げる。
「まず、出雲霞はマフィアに連れ去られた訳じゃない」
二人の反応は速かった。
「なっ!?何言ってんだ!?」
「じゃあ、霞はどうしていなくなっちゃったんだよ!?」
「そりゃ、自分でどっかに行っちまったのさ」
「……」
「……」
「「はぁ?」」
二人は訳が分からないといった顔をした。
だがそれは緑仙も同じだった。
緑仙にとっても訳が分からない。
「マフィアに連れ去られたわけじゃないのか?」
「いいや、違う。このトイレには荒らされた形跡がない。トイレでで暴れたら外にいるクレアが気がつくはずだし、そもそもこの教会周辺にいたマフィアは僕とドーラが始末した。断言していい。この辺りで生きている人間は僕たちとお前らだけだ」
緑仙は自信を持ってそう言えた。
生きていない人もいるのはドーラが沢山殺してしまったからだが、殺すにしろ殺さないにしろ見逃した敵はいない。
「そして極めつけはトイレの窓の外。窓から一番近い地面は深く窪んでいた。これは窓から飛び降りた足跡だ。そして教会の外側へ向かって続いている1人分だけの足跡。どっちの足跡も同一人物、そして足跡の大きさは間違いなく少女の足の大きさだ。つまり」
いったん言葉を区切り、緑仙ははっきりと断言する。
「あの子は間違いなく自分の意志でこの教会を飛び出していったんだ」
「な……」
「ふざけんなよ!そんなわけあるかよ!」
勝は完全に絶句し、コウは激昂する。
「出雲が……出雲がそんなことする必要があるのかよ!」
「さあね。そこまでは知らないよ。でも自分一人でここから抜け出したのは間違いないから……」
「くそっ!」
コウは緑仙の説明に納得できなかったようで、一人で教会の外へ駆け出していった。
「あ、待てよコウ!」
勝が呼び止めたが、コウは止まらない。
そのまま飛び出していってしまったようだ。
「コウのやつ、行っちまった……」
「なんじゃなんじゃ、穏やかではないのぉ」
「あ、ドーラ」
後からやってきたドーラはちょうどコウとすれ違いになったらしい。
緑仙はこのトイレに来てから今までのことを順番に説明した。
説明をすべて聞き終わったドーラは参ったといった顔で頭をかく。
「なるほどー?大人しい顔してとんだじゃじゃ馬娘じゃったんだなぁ、あの霞という子は」
「僕も少し予想外だった」
緑仙も肩をすくめてみせる。
偵察のため潜伏していたマフィアを一人も逃がさなかった二人が出雲霞には見事に出し抜かれてしまった。
未来視の実力の一端を見せつけられ、緑仙は内心驚愕する。
一方の勝は心配そうな顔で二人に尋ねた。
「あのさ、まだ信じられないけど霞は逃げちゃったんだろ?この場合、依頼の方はどうなっちゃうんだ?」
護衛対象である霞は逃亡、依頼人であるコウもたった今飛び出していったためどうやら勝は今回の護衛は取り消しになってしまうのかもしれないと心配になったようだ。
「確かにめんどくさい状況だけど金はすでにたくさん貰ったからね」
「まあ護衛対象が逃げ出してしまうなんていうくらいのトラブルじゃったら、サービスで捜し出してやってもいいほどの金じゃったからのぉ。ま、あまりにも手間取るようじゃったら追加料金も貰うがのー。本気で逃げられたら未来予知の能力はちと手こずりそうじゃ」
「そうだね。現に今も出し抜かれてしまったわけだし」
緑仙が今考えている最大の焦点でもある。
出雲霞は間違いなく未来視を使ってこの教会から脱出した。
自分の意志で。
そしてそれは自分の意志で未来視を使い、それを完璧に使いこなしたことに他ならない。
どの程度かは不明だが、霞は未来視を自分のコントロール下においている。
会ったばかりの時も突然頭を抱えていたし、この類の能力は突発的でやや暴走気味になってしまうものだというイメージだったが、その認識は改める必要があるらしい。
(そもそも何で逃げ出す必要があったんだ)
街中をふらふら歩くよりはこの教会はずっと安全なはずだ。
わざわざ危険な所へ勝手に向かうだなんて正気ではない。
それに、霞が逃げ出したおかげで緑仙の彼女に対する警戒度はマックスにまで高まった。
(もし彼女と戦って僕は勝てるか……?見た感じは普通の高校生だから普通は負けない。だけどもし、あの未来視を使って戦うより前に僕にとって都合の悪い未来を呼び寄せることが出来るのだとしたら)
緑仙とドーラを出し抜いた未来視の実力は暗殺者二人と張り合えるのかもしれない。
出雲霞は緑仙にとって脅威となりえる。
であるなら目的が分からない以上緑仙は霞が敵なのか味方なのかの判断がつかなかった。
今はまだ護衛対象だが、これ以上妨害してくるようなら……。
「どうやら、思ったよりもややこしいことになりそうだね」
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「海夜叉様―?私たちも何か行動しなくて良いんですかー?」
「大丈夫ですよ京子さん。すでに手は打ちましたから、今は特に何をしなくても皆さんが勝手に動き出してくれますよ。そう、本当にたくさんの人が、ね。だから今のうちにのんびりしておいてタイミングを見計らって美味しいとこを持っていけば良いんです」
「そっか。海夜叉様って悪い人だねー」
「そんなことありませんよ。はっはっはっは!」
「あ、海夜叉さんにきょーこ先輩。誰か来たみたいだよ?」
「すみませーん!落とし物拾ったんですけど!」
「はいはーい。……って、十円玉?」
「さっきそこで拾ったんです!」
「へー、ちゃんと交番まで届けてくれたんだ。偉いねぇ。じゃあその十円はあなたが貰っても大丈夫だよ」
「ホンマですか!ありがとうございます!」
「あー!もう、だからそんくらいの金なら勝手に貰っても良いって言ったじゃん!」
「いいやんか!ちゃんと交番に届けるのが大事なの!」
「あらあら?そっちの男の子は彼氏クンかなー?」
「違いますって!俺たちはただの姉弟ですから!早く行こうよ姉さん!」
「あ、待ってよ―!?」
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「それじゃあ、お前を家に帰したら僕とドーラは出雲霞の捜索を始めるから」
「なあ、俺も霞を探すのを……」
「何度も言っただろ?素人がいても邪魔なだけだ」
日も暮れそうなのでひとまず緑仙とドーラは勝を家に帰すことにした。
教会で匿うことも検討したが本人の家族が心配するだろうと考えた結果、遠くから見張りをたてて家に帰すことにしたのだ。
勝はどうしても二人に付いて行きたい様子で先ほどのやり取りをもう何回も繰り返していた。
だが緑仙は自分の意見を変える気はない。
勝は一度家に帰すべきだ。
「まー、探すのに手こずったらその時は手を貸してもらうこともあるかもしれんのー?」
「本当か!?」
「ちょっとドーラ?」
「はいはい、分かっとるよ。そんなことは万が一も起きん。それにワシらが手こずるとなるとそれは相当やばい時じゃから、その時は霞の命が保証できんからの?」
「……そうか」
勝はかなり気落ちしたようだ。
緑仙から見た限り、勝は本当に出雲霞のことが心配なように見える。
友達とやら、だからなのだろうか。
だからといってそんなに本気になって落ち込むことができるものなのだろうか。
緑仙は自分には理解できない価値観に違和感を覚えるが、すぐに自分には関係ないことだと思考を中断した。
「……ん?」
道の反対側から一人の少女が歩いてくる姿が見えた。
だが霞ではない。
同じ女の子ではあるが、その女の子は綺麗な金髪だった。
それに青い目をしていた。
外国人、にしては顔立ちは少し日本人っぽいからハーフか何かだろうか。
頭に付けた大きなリボンがとても似合っていてまるでおとぎ話の世界からやってきたようだ、と考えたところで緑仙は内心笑ってしまう。
まさか自分が現実のものをおとぎ話のようだと形容してしまうとは。
だが緑仙が思わずそう思ってしまうくらいに目の前の少女は現実離れした美少女だった。
緑仙はそう考えながら、相手にはバレないように目の前の少女を観察していた。
一応、霞が変装した時の場合を考慮しての観察だったが、鍛えた緑仙の観察眼はその金髪碧眼が間違いなく本物だということを証明した。
出雲霞ではないのなら何も興味はない。
と緑仙がそのまま少女とすれ違おうとした時。
なんと金髪の少女の方から緑仙たちへ駆け寄ってきた。
「はーい!ぐっどいぶにんっ!おにーさん、おねーさんたちに聞きたいことがあるのだけれど良いかしら?」