こちらはにじさんじさん、当時のにじさんじseedsさんによる声劇『憂う少女のアルカディア』の非公式二次創作となります。二次創作が苦手な方、また理解の無い方の閲覧は御遠慮ください。
原作の登場人物はほぼ全員出ますが、登場人物及び世界観の設定に大幅な追加、改変がされております。そちらも合わせてご了承ください。
『憂う少女のアルカディア』のネタバレを含んでおります。
誹謗、中傷等には極力配慮していきたいと思いますが、私自身のライバーさんたちへの解釈が入っているのでご注意ください。
勝は自宅のベッドの上で仰向けになっていた。
家に帰るまで緑仙がつきっきり。
到着した後も「じゃあ、お前のことはちゃんと監視しているから。変な気は起こすなよ」とくぎを刺されてしまっているため部屋でじっとしていることしかできない。
部屋の窓から外をのぞくとチャイナ服の緑髪の姿がよく見えた。
勝に監視していると分からせるために、わざと姿を見せているのだ。
おかげで自分の家から出るに出られず、軟禁されているような気分だった。
勉強や掃除をして気を紛らわせようとしたけれど気が散って集中できない。
なので特にやることもなく、今はこうしてふて寝しているわけだ。
天井を見つめながら右手を前に突き出して拳をぐっと握り、ぱっと開くというのを繰り返す。
だがその手に何か掴めるという訳でもなく。
ただ空気を掴んでいるだけの行為に虚しさを感じて、力を抜いた右腕はベッドの上に落ちていった。
「はぁ……。どうすればいいんだろうな……」
今日一日で本当にいろんなことが起きた。
マフィアに襲われ、暗殺集団に出会い、霞が行方不明になってしまった。
そして不思議な少女とピエロに出会い、情報屋から情報を貰って……。
「コウは今どうしてるんだろ?」
コウとは教会で分かれてから一度もあってないし連絡も繋がらない。
スマホでさっきから呼びかけているのだが応答しない。
飛び出していってしまったが霞を探しに行ったのだろうか。
だとして、探す当てはあるのだろうか。
そういえばコウは何故飛び出していってしまったのか。
「ええっと確か……、緑仙に言われたんだよな……」
霞は自分の意志で飛び出していったと緑仙は説明した。
実際にそうなのかどうかは勝には分からない。
勝には現場検証の知識なんてないし、ましてや未来視なんて持っていない。
そんな勝だったが緑仙の説明は一応筋が通ったものだと感じている。
感じているとして理解できるものではなかったが。
「霞……どうしちゃったんだよ……」
霞がどうして飛び出してしまったのか。
今どこにいるのか。
それさえ分かれば万事解決だというのに。
答えに全く心当たりがない。
そもそも霞はこの状況を分かって作り出したのだろうか。
霞は未来視を持っている。
未来をあらかじめ知っている。
一人で飛び出してしまえば、俺も勝も心配してしまうのは未来視を持っていなくとも分かり切っていることだろうに。
「いや。それとも……分かってやったのか……?」
だが、それこそ何のために?
「うーん……」
ダメだ。
思考がまとまらない。
「俺、こんなところで何をやっているんだろ。……ん?」
枕元に置いていたスマホから軽快な音が鳴って、答えの出ないぐるぐるとした思考が現実に引き戻される。
何かメッセージを受信したらしい。
送信元の名前を見て勝はがばっと起き上がった。
「っ!コウ!?」
いきなり連絡が繋がったことに驚きながらもメッセージの内容を確認する。
「『今どこ?』だって……?それはこっちのセリフだよ……」
取りあえず自宅にいることを伝えて、コウ自身がどこにいるのかというのも聞いた。
そこには勝の家から一番近い公園の名前が記されていた。
そして急いで来て欲しいとも書かれていた。
「来て欲しいって言われても、こっちには見張りが……。あれ?緑仙がいない……?」
勝が再び窓をのぞくと先ほどまでずっと見張っていたはずの緑仙の姿が見えなかった。
どこに行ってしまったのだろう?
「とにかく、これは抜け出せるチャンスだよな」
勝はこっそり家を抜け出すことにした。
上着を羽織り、財布とスマホだけ持ってコウに指定された公園まで急いで駆けていく。
指定された公園は大して大きな公園ではない。
公園が見えてくるとベンチに座ったコウの姿もすぐに見つけることができた。
疲れているのか、肘を股の上に置いて顔が俯いているが、あの鮮やかな金髪は間違いなくコウだった。
「おーい!コウ!大丈夫か!?」
「ああ……。勝か……」
「っ!」
俯いている顔を上げたコウを見て勝は絶句した。
「コウ……どうしたんだ?」
コウの状態は疲れている、なんてもんじゃなかった。
疲弊し切ったコウの表情はとても老け込んでいて別人のような顔になっていた。
冷えた汗で汚れた顔は土色になっていて、目がくぼんでいるのにギラギラと光っている。
今にも倒れそうだが気力だけで何とか持ちこたえているようだ。
だがその気力は執念に近い何かを感じさせて勝はゾッとする。
「……走ってた」
「え?」
「出雲を探してた」
「今まで……ずっと?」
そういえばコウが着ている服は昼間と同じものだったのだが、その時よりかなり汚れが目立っているし所どころ擦り切れていた。
こんな時間までずっと探し回っていたというのか。
今の時間はもう夜の9時に近い。
「いや、あれから家に一回帰ってから家の護衛の人たちを連れ出したんだ。それから連絡先を知っている中から信用できる人を選んでそこにも応援を頼んだ」
「そうなんだ」
どうやらコウはコウなりに色々手を尽していたようだ。
「勝は?何かわかったか?」
「あ、俺の方は……」
勝はベンチの隣に座ると今までのことをコウに話した。
緑仙とドーラと一緒に街を探し回ったこと。
有栖と力一、そして神田と出会ったこと。
そしてドーラが神田から霞の情報を持ったということ。
そこまで聞いたコウは、がばっと俯いていた顔を上げる。
「本当か!情報があったのか!」
「うん。……でも情報を貰ったのはドーラだけなんだ。俺は何も聞かされずに家に帰された……」
勝は申し訳なく言った。
だがコウはそれを聞くとボロボロの状態なのに力強く立ち上がり勝の肩を掴む。
「いや、凄く助かったよ」
「……え?」
「たぶんその話だと出雲が目撃されたのってそう遠くはないんだよな?」
「……そう、かもしれない。もしかしたら電車とかを使って遠くへ行ったかもしれないけどドーラが向かったのは駅とは反対方向だったし」
その時の状況を思い出しながら勝が言うとコウは納得した様子でうなずいた。
「ああ。出雲が電車を使ったっていう線はないぜ。駅の方はもうとっくにマフィアの監視の手が回っているんだ。うちの連中が見つけた。出雲が捕まったっていうなら話は別だけどそういうわけじゃないだろうし出雲はまだこの街のどこかにいるはずだ」
「そうなのか……」
「だから出雲は俺が必ず見つけ出す。勝は待っていてくれ」
そういうとコウは公園の外へ歩きだろうとしていた。
それを見た勝は慌ててコウを止めようとする。
「ちょ、ちょっと待てよコウ!どこへ行くんだ?」
「多分出雲は勝たちがいたところの近くにいるんだろ?だったらそこを重点的に探すさ」
「もう倒れそうな状態じゃないか!」
「倒れる……?あー、確かにこのままだと倒れるかも」
汚れた自分の姿を見て乾いた笑みを浮かべる親友に勝は駆け寄った。
だがコウの手に突き放されてしまう。
「……コウ?」
「別にぶっ倒れたっていい。今は出雲を探さないと。アイツ本気でかくれんぼしたら絶対見つけらんないからな」
「……コウ」
「俺がぶっ倒れたらさ。その時は勝が出雲を探してやってくれよ。それまでは俺が必死こいて情報集めるから。だからそれまで勝はゆっくり休んでいてくれ」
「……なんか格好つけてない?」
「そりゃあ、格好つけてるからな」
コウは精一杯の笑顔を見せる。
疲れて力のない笑みだったが、その姿が今の勝には眩しい。
やらなければならないと思っても霞を探す手立てを勝は持っていなかったしアイデアも浮かばなかった。
「……凄いな。俺は何もできなかった」
「そんなことないだろ。勝のおかげで俺も情報貰えたんだし無駄ではないって」
「俺にはそう思うことできないけど……」
「そうなんだって。じゃ、とにかく今は休んどけよ。俺はもう行くから」
今度はコウを止めることができなかった。
●
コウと別れた後、勝は一人夜道を歩いていた。
そういえば昼間から何も食べていないということを思い出したのである。
ずっと気を張っていたので食欲がなかったが、何かは食べておかないといけない気がしたのだ。
「こんな時間に食べ物を買おうとするなら、まあコンビニだよな」
というわけで今勝がいる位置から一番近いコンビニを目指して歩いていく。
軽くおにぎりでも買っていこうと思った矢先だった。
勝は疲れて注意力が散漫になっている状態だったのでコンビニの方しか見ていなかった。
そのため曲がり角で人が歩いてきたことに気づくことができなかった。
「いてっ!」
「あっ。すみません!よく見えてな……く、て……」
ぶつかってしまったことをとっさに謝った勝はぶつかった相手を見て凍りつく。
「うん……?」
勝がぶつかってしまったのはスーツ姿のいかにもガラの悪い男性。
「あ」
間違いなくマフィアの一員だ。
なんとなく……、とてもなんとなく舞元という名前が似合いそうな男だった。
「何だこのガキ?うーん、どっかで見たことあるような……?」
「あ、えっと……」
「おい、どうした?」
突然のことに思考が止まってしまって硬直していると、舞元っぽい男の後ろからラスボスとして出てきそうなくらい渋い声をした別の男がやってくる。
「二人とも、そんなところで立ち止まって何かあったのか?」
さらにもう一人。
前の二人に比べるとひょろ長い印象を受ける、もやしが好きそうな優しい声の男もやって来た。
この男だけ声が優しすぎて一瞬マフィアではないかと思ってしまうが、ちゃんとスーツを着ているし舞元っぽい人たちと知り合いという時点でマフィアの構成員だというのが分かる。
「いや。なんか見たことのある顔だなーって思ってさ」
「このボウズか?」
「っておい!こいつはリストにいたやつだ!出雲霞と御曹司の友人だよ!」
自分の正体を知られたところで勝ははっと我に返った。
よく分からないが、この状況はヤバい。
そう思ったら行動するのは速かった。
「あっ!こら!」
「逃げた!」
「待て!」
待てと言われて待つ馬鹿がどこにいる!
と言っている余裕はなかった。
脇目も振らず全力で駆け抜ける。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
自宅とは反対方向に走ってしまったことに走り出してから
だが長くは続かなかった。
さっきも言ったが昼間から何も食べていないのだ。
すぐに体力が尽きてしまった勝は走っている途中でつまづいて転んでしまった。
「こ、このガキがっ!俺らを走らせやがって……」
「はぁ、はぁ。ま、まあ逃げられなかったんだから良しとしようじゃない」
舞元っぽい人が勝を睨みつけた。
渋い声の人がそれをたしなめているところへ優しい声の人もやって来た。
少し息切れしているようだったが深呼吸して息を整えると倒れこんだ勝に駆け寄って声をかける。
「ふぅ。やっと追いついた。キミ、怖がらなくても良いからね。ただちょっと誘拐されて御曹司を引きずり出すためのエサに使うだけだから」
それのどこに怖がらない要素があるのだろうか。
どうやら優しいのは声だけでこの人も立派なマフィアということか。
だが走り通して息切れしきっている勝にはそんな文句を言える状態ではなく、大きく肩で息をするのが精いっぱいだった。
だが心だけは折れていないという意思表示に目だけは思いっきり睨んでやる。
「へえ。ガキのくせにいっちょ前に睨みつけてくれるじゃねえか?だが、睨んだところでどうにもならねえ。大人しく付いて来てもらおうか」
「ぐっ!」
三人組が勝に近づこうと近づく。
だが手を出すことはできなかった。
「なっ!お前たちは……!」
舞元っぽい人は歩みを止めて勝よりも後ろの方を見て驚愕していた。
誰がいるのかと勝が後ろの方を振り向くと……。
「いやー、困りますねえ。勝くんを誘拐しようだなんて。海のように広い心の私でもそんなことをされてしまっては堪忍袋の緒が切れてしまうというものです」
「海夜叉……!」
そこに立っていたのは昼間に勝たちが駆け込んだ先の警察官の一人だった。
「ちょりーっす。私たちもいるよー」
「救いの天使登場ってねー」
二人の婦警も一緒のようだった。
マフィア三人組はそれぞれ疑心に満ちた顔をしている。
「おいおいどういうことだ?お前ら警察は俺らに不干渉の約束をしていたはずだが?」
「それはそれ、これはこれ。……あなたたちがやり過ぎたのがいけないのですよ。まさか勝くんに手を出そうだなんて、思わず怒り狂ってしまいそうになるじゃないですか。なんで貴方たちみたいな雑魚に私が怒りを覚えないといけないんですか」
「何だと……」
「と、いうわけで京子さんと桃さんはこの人たちのお相手をよろしくお願いしますね」
そう言って海夜叉は京子と桃の肩を叩いた。
「はいはーい。……って海夜叉さんは!?戦わないの!?」
返事をした後すぐにツッコミを入れた京子が驚いて海夜叉の方を振り向く。
海夜叉は悲しそうに首を振りながら嘆いた。
「こんなやつらに本気を出したくありません。それに私には勝くんを無事に家まで送り届けるという大事な使命がありますから」
「それズルくない……?」
「まあまあ京子ちゃん」
呆れる京子に桃が何かを取り出しながらたしなめた。
「京子ちゃん身体能力高いからあんなやつらでも余裕だと思うよ。私も銃でサポートするから。ちゃんと周りが騒ぎにならないようにサプレッサーも用意しておいたから」
「え?サプレッサー?」
サプレッサーとは銃口の先端に取り付けることのできるパーツの名前で、銃撃の音を大幅に軽減することができる。
完全に音を消すのは難しいがそれでも付けると付けないとでは雲泥の差だ。
サプレッサーの構造を簡単に説明すると銃口から漏れ出る火薬の音を押さえつけることで銃の発射音を抑えることができるのだ。
だが。
「桃が持ってるのってサプレッサーつけても音鳴るよ?」
「え……?」
日本の警察で正式に採用されている拳銃はリボルバー式の拳銃が多い。
桃が所持している『M38 エアウェイト』もリボルバー拳銃だ。
そしてリボルバーにサプレッサーを取り付けても音は鳴る。
サプレッサーは銃口から漏れ出る音しか消せないので、銃口から銃撃音のほとんどがでている構造になっていないとその効果を発揮することはできない。
そしてリボルバーはそのような構造になっていない。
銃口以外からも火薬の炸裂音が出てしまう個所が多すぎるのだ。
「そもそも、その銃サプレッサー取り付けるつくりになってないし。最初っから装備できないよ」
「えー」
「そしてこんな街中で銃を発砲するのは後の処理が大変になって私の仕事が増えてしまうので、止めておいてくださいね。桃さん」
二人に言われて口を尖らせる桃。
だが諦めて取り出しかけた銃をしまうと、何を思ったのか勝の方へ駆け寄って手を伸ばす。
いきなり手を差し出されて勝が困惑していると桃がじれったそうに言った。
「ほら。君、立てる?立てるんだったら一緒にこんな危ない所早く逃げ出しちゃおうよ!」
「え?……えぇ。はい……」
勝が手を伸ばすと桃が引き上げてくれた。
すると桃はそのまま勝の手を取ってこの場から逃げようとする。
それを見て慌てたのは海夜叉だ。
「ちょ!ちょっと桃さん!?勝くんとどこへ行こうとしてるんです!?」
「だって銃が使えないんじゃ桃はお役に立てませんから―?ここは戦闘力のあるお二人に任せますねー」
「ちょっと!待ってくださいよ!?京子さんも止めてやってください!」
「んー?」
海夜叉は京子に助けを求めたが京子はすぐに返事を返さなかった。
そして腕組みをしながらしばらく考えた後、何か納得したように頷く。
「なんか海夜叉さんにあの子を預けると、ロクなことにならないような気がする。手出しそうだだし。それだったら桃に頼んだ方がだいぶマシじゃない?」
「そんな!酷いですよ!」
そうこうしているうちに勝と桃は姿が見えなくなってしまっていた。
普段にこやかな海夜叉も頭をかきむしって悔しがる。
「……あー、もうまったく!」
「おい。そろそろこっちの話に戻っていいか?」
海夜叉がイラついているところへ舞元っぽい人も苛立った様子で問いかける。
状況に置いてけぼりにされていたことに向こうも腹が立っていたようだ。
「あのガキを逃がすわけにはいかねえんだよ。ここは力ずくで通らせてもらう、ぜっ!」
舞元っぽい人が海夜叉に殴りかかる。
それに対して海夜叉は一歩も動こうとはしなかった。
海夜叉が動かなければ舞元っぽい人に思いっきり殴られてしまっただろう。
だが海夜叉に舞元っぽい人の手は届かない。
「何!?」
舞元っぽい人が驚愕する。
舞元っぽい人の拳は止められていた。
轟京子によって。
腕を振り切る前、まだ拳に勢いが全く乗っていない状態の手に警棒の先端を当てることで動きを封殺していた。
慌てて拳を戻そうとするが、京子の警棒は舞元っぽい人の拳に吸い付くようにくっついていて離れることができない。
「くっ!この!」
「あんたみたいな力任せに暴れることしか頭にない人なんて私には余裕なんだから。痛い目見たくなかったら尻尾巻いて逃げた方が身のためだよ」
かなりの体格差だが京子は舞元っぽい人を完全に翻弄していた。
マフィア相手に有意な状態に立っている。
あくまで一対一の状況ならば。
「婦警さん。俺たち二人のことを忘れちゃいないだろうね?」
「こっちだって警察相手には必死にならないといけないから。卑怯なんて言わないよな」
渋い声と優しそうな声の二人が京子に詰め寄った。
「そんなの、言われなくたって最初から承知してるよ」
マフィアが警察を相手にするのだ。
堂々と戦うなんてはなから頭にはない。
よく理解している京子もそこで「卑怯だ」とは言わなかった。
京子だって一人が相手なら絶対に勝てるが、二人同時に相手にする時だと迷わず逃げる。
三人がかりでは絶対に逃げる。
だが京子は逃げる必要は微塵も感じていなかった。
京子だって一人ではないからだ。
京子の後ろに立っている神様は人間が何人同時にかかってこようがどうということはない。
おまけに今はとってもイラついている。
「マフィアさんたち。私は早く勝くんを追いかけないといけないんです。さっさと立ち去って下さい」
「おいおい。そりゃないぜ。俺たちだってあいつを追っているんだ。立ち去ってもらうのはあんたの方だよ」
「これ以上私をイライラさせるのは止めて下さい、渋すぎる声のあなた。いやー、このお話が文字で良かった。もし声がついていたら私がやられる流れですからね。そうじゃなくともキャラを完全に持っていかれましたよ」
「……何の話だ?」
「何でもありませんよ。ただのメタ発言です」
海夜叉は冗談めかしてにっこりと笑う。
だが目は全く笑っていなかった。
京子も舞元っぽい人の相手をしているため海夜叉の顔は見れない状態だったが、ビリビリとした空気を感じていた。
「それにしても!桃さん勝くんと手をつないでいて……。いいなあ!」
「うわー。ふざけている様に見えるけど、分かる。久々の本気モードだ」
背中に冷や汗が流れるのを感じると同時にマフィアの人たちを憐みの目で見つめた。
「ご愁傷様。私も、せめて生きて帰れることを願っているね」
「ど、どういうことだよ」
舞元っぽい人もヤバい空気を感じ取ったらしい。
慌てて京子に聞いてくるがもう遅い。
神様に目をつけられた時点でおしまいなのだ。
「まあ、じっくり教えることとしましょうか。風に吹かれて舞い飛ぶ塵の気分ってやつをね。……せいぜい楽しめよ。ザコが」
その日の夜、一人の鬼が現れた。