つぐみ視点です
初めまして、私の名前は羽沢つぐみと言います
羽丘学園の一年生でこれでも生徒会に所属しています
好きなものはお母さんが焼いてくれたケーキ、苦手なものはブラックコーヒー
実家は街の商店街にある喫茶店で、放課後になると私も父と母と一緒にお店のお手伝いをしています
実は私は『Afterglow』という五人組バンドを組んでいて、私はキーボードを担当しています
メンバーは
一見冷たそうだけど仲間思いの美竹蘭ちゃん
大人っぽくてカッコイイ宇田川巴ちゃん
いつもゆったりマイペースの青葉モカちゃん
そして私たちの頼りになるリーダー上原ひまりちゃんです
みんな本当に上手で私は追いつくのが大変だけど毎日粉骨砕身して頑張って過ごしています!
そんな周りの友達に恵まれた私ですが最近一つ悩み事が出来ました
私の学校には『氷川日菜』という一つ年上の先輩がいます
氷川先輩はいわゆる『天才』と呼ばれる人なのだそうです
テストではいつも満点、運動神経も抜群で、学校は氷川先輩に賞状をいくつも手渡したそうです
私も氷川先輩に会ったことがあるのですが(会ったと言ってもこっちが勝手に見かけただけ)とても綺麗な人だと思ったのが第一印象でした
綺麗な薄青の髪、小さく整った顔立ち、背も高過ぎず低過ぎずスタイルの良い人
まるで神様から色々な
私は勝手に氷川先輩に苦手意識を持ってしまいました、
こればっかりは自分で自分のことを責めました、ただ才能がある
それだけなのに自分を見下されていると勝手に感じている自分に嫌気がさしました
逆に自分に凄く似ていると思う人もいました
それは同じクラスの隣の席の男の子、確か『ホクサイ』と呼ばれていてその時は葛飾北斎の事なのかと思いましたが名前を見ればただのあだ名なのだと気づきました
ホクサイくんはいつも休み時間になるとノートを広げて前の授業の復習をしていました、
隣になってからもそれは変わらず挨拶をしてみようとしても彼はいつも勉強していて、友達との会話からでも遊びに行ったりすることもないと言っていました
とても努力している人なのだと思い、私は勝手にホクサイくんを私と似ている人だと決めつけました
そしてひょんなことから話すようになり、一度お昼ご飯も一緒に食べました
私と彼は言葉数が少なくて基本的に聞き役に徹している所も自分と似ていると思いました
益々彼とは仲良くなれると思ってしまいました
ある雨の日、私は生徒会の仕事で部費の決算報告をまとめている最中に『天文部』の報告書がないことに気がつきました
確かに今日までの提出ではなかったのですが会長さんが回収に行ってほしいと言うので私は素直に天文部に向かいました
部室の扉をコンコンとノックしても返事がなく、今日は活動していないのかと思い引き返そうとしたところ、内側から何やらブツブツと声が聞こえてきたので中に入って見ることにしました
やっぱりそこにはホクサイくんが教科書を広げてノートに書き込みをしていました
反射的に頑張っているなぁと思いました
けど私が入ってきたことに気がついていないとも思ったので声を掛けてみました
彼は驚いて立ち上がると目線を忙しなくあっちこっちに動かして明らかに動揺しているようでした
事情を話すと彼は落ち着いて、提出物を探そうとしました
その時、窓の外で一際大きい音がしました
雷です
先程は言わなかったのですが私は雷が大の苦手です、そこが建物の中でも雷がなるとすくんで動けなくなってしまいます(恥ずかしいので他の人には言わないでください)
ホクサイくんは私がしゃがんでしまったのを見て慌てて駆け寄って来てくれました
とても嬉しかったです
その後また大きい雷鳴が轟いて学校全体が停電してしまいました
私は本当に参ってしまってホクサイくんの背中に抱きついてしまいました(後になって気がつきましたがとても恥ずかしかったです)
私は携帯電話でお父さんに連絡を入れ、迎えに来て貰いました
ホクサイくんは何も言いません、
恐らく私に抱きしめられて迷惑を感じているのだと思います
あまりの気まずさに私は声を掛けてしまいました
「ホクサイくんは星が好きなの?」
彼が天文部に所属しているから星が好きなのだと思いその話題をふってみましたが・・・
「別に星が好きだから入った訳じゃないんだよ。ここに入ってる日菜先輩とは昔からの知り合いで一人しかいなかったから部費増量のために俺を入れたみたいなんだよ」
どうやら星が好きなのではなかったようでした
そしてもう一つ気になることが・・・
彼は今、『日菜先輩』と言った
日菜先輩とはつまり『天才』の氷川先輩の事だ、昔からの知り合いとも言っていた
ただそれだけ、昔から仲が良かっただけなのに何だか凄く裏切られたような気分になりました
私と同じような人だから彼も『天才』の彼女が苦手なのだと思っていたのです
本当に勝手な思いで私は勝手に不機嫌になっていたのです
自分が最低な人間だと思いました
そんなぐちゃぐちゃの頭のままなのか私はさらに酷いことを彼に聞いてしまいました
「ホクサイくんは氷川先輩のことが苦手なの?」
一瞬自分が何を言っているのか分からなかったけれどもう口から出てしまったものはもうどうにも出来ません
私は慌てて彼に考えるのを辞めて貰おうと思いましたが彼はもう黙って考え始めていました
私は本当に酷い人です、こんなことに今まで思ったことがないのに
それでもホクサイくんはこんな私のトンチンカンな質問にも真面目に答えてくれました
彼は氷川先輩がかわいそうだと言いました
天才であるあの人はその才能ゆえ一人きりで誰にも理解されないのだと彼は言いました
それでも私には理解出来ないことでした、私は自分が独りになる経験がほとんどなかったからです
私はさらに彼に問います、この世に才能はあるのかと
彼は答えます、あると
ほとんど間を取らずに答えます
とても前置きが長くなりましたが、私の悩みは『努力に意味はあるのか?』ということです
私は今まで努力すればきっと結果は着いてくると思っていました、事実努力したぶん結果は良いものになっていましたし、みんなもそんな私を褒めてくれました
それでも最近思うのです
私がたくさんのものを積み上げて初めてだ乗り越えられる壁を天才が簡単に乗り越える
しれじゃあ私の
そう思えて仕方ないのです
電気は復旧し、部屋にあかりが戻ります
携帯が制服の中で震えて、お父さんのメッセージをその画面に表示していました
「あ、お父さん学校に着いたみたい、ホクサイくん今日はゴメンね、本当にありがとう」
私はもう色々な感情で頭が混乱してとても笑って居られる状況ではありませんでした
悲しくなって、裏切られた気分になって、独りで勝手に落ち込んで、もう散々な日になりました
その時、涙を流さなかったのは奇跡だと思います
「は、羽沢さん!!!」
彼が私の名前を呼びました心臓が飛び出してしまうのではないかと錯覚しました
「どうかしたの、ホクサイくん?」
できるだけ自然に返答します
彼は真剣な眼差しでこちらを見つめてゆっくり口を開けて、
「羽沢さん、確かにどんなに努力しても本物の天才には勝てないのかもしれない。けど!それが俺達が努力を辞める理由にはならないと思う」
っと彼はそういった、
勝てなくても、誰かが簡単に乗り越えても、何度も自分を嫌になっても、
それでも!
努力を辞める理由にはならないのだと彼はそう言いました
私の悩みはそんなふうに解決されました。と言っても悩みと言うのもおこがましいと思いますが
その時はきっと分からない問題を解いたかのような顔をしていたと思います、もしくは道に迷ったけど帰り道が分かった瞬間のような顔
私は何だか今までの重たく苦しい気分が嘘のように軽く爽やかなものに変わり、廊下を走ってお父さんのところへ行きました
その時、お父さんが私に「笑っているけど何かいい事でもあったのかい?」と聞いてきました
もちろんそれは秘密です
私の耳には今でも彼の言葉が残り何度も何度も繰り返して聞こえました
そんな言葉を言える彼のことを私は少し『カッコイイな』と思いました