風呂から上がった俺達は(一緒にではなく別々に)ついでにということで夕飯も一緒に食べることになった
と言っても俺も日菜先輩も料理が得意って訳じゃないから炊飯器でお米を炊いてレトルトカレーを温めているだけだけど
俺はジャージ姿でキッチンに立ってカレー茹でて、日菜先輩は俺のTシャツと半ズボンを着てソファに寝転がりながらソファでテレビのチャンネルを動かしている
「うーん?」
リモコンをカチカチ操作して番組を切り替えてる
ピーピーピー
キッチンタイマーが鳴って時間を教えてくれる
お湯からカレーを取り出して袋を開ける
「あつ!あつ!あっつい!」
適当な二つの皿にご飯を盛って、その上にカレーをかける
夕食の完成だ
いやー素晴らしいね!温めるだけで絶品料理を楽しめるなんて便利だなぁ!
「日菜先輩!ご飯出来たよ!」
カレーとスプーンを両手に持ってテーブルに運ぶ、それからキッチンに戻って二つのグラスとやかんをまたテーブルに持っていく
「おお!今晩はカレーなんだ!」
日菜先輩はソファから立ち上がってテーブルに着く俺もならってその目の前に座る
サラダも福神漬けもない、完璧にカレーライスオンリーだ
俺達は同時に両手を合わせて、
「「いただきます」」
カチャ、パク、モグモグ、カチャ、パク、モグモグ
モグモグモグモグ
モグモグ
き、気まずい!
昔はよく一緒に食べたんだけど中学に上がってからはお互い接点なくなったからなぁ
マジで気まずい、何か喋ってくれ!
『さあ!今日も始まりました!ミュージックナイト!本日のテーマは・・・』
やけに大きい音で聞こえたテレビからは音楽番組が放送されていた
「あ!やっと始まった!」
日菜先輩が口を開いてテレビの方を向く
音楽番組なんて見るような人だったか?あんまり覚えてないけど、まあ好きな歌手でも出るのかな
俺もカレーを食べながら日菜先輩につられてテレビの方を向いてしまう
モグモグ
画面にはスーツ姿に蝶ネクタイの男がマイクを握って番組に出演する歌手を紹介していた
特に音楽マニアって訳でもない俺でも知っているような大物歌手が出ている
『さて!本日の一番バッター!新進気鋭で実力派のアイドルバンド!
へえアイドルバンド!ふーん
頭半分でテレビを見ていると一人一人画面に顔がアップして映し出される
『みなさーん!こんにちはー!まん丸お山に彩りを!パステルパレットのボーカル丸山彩でーす!』
『みなさんこんばんは。パステルパレットのベース担当白鷺千聖です。今日は精一杯頑張らせていただきます』
「ん、あれ?白鷺千聖だ。この人女優じゃなかったか?」
「あれ?ホクサイ千聖ちゃん知ってるの?」
「そりゃまあドラマ出たりとかして有名人だし」
千聖ちゃん?随分親しげに呼ぶな?もしかしてファンなのか?
『押忍!私はパステルパレットのキーボード担当!若宮イヴです!今宵はよろしくお願いします!』
『ふへへ、おっと。みなさんこんばんはえーと自分はドラム担当の大和麻弥です!よろしくっす!』
ふーんさっきのキーボード担当の人はもしかしてハーフかな?日本語に少しなまりがある、逆にドラム担当の人はすごく日本人ぽい
その後もカメラが動いて画面が切り替わる
そこに映っていたのはよく見た事ある薄青の髪をショートカットにした美少女
「あ?」
それこそ今日、朝から今現時刻まで迷惑をかけられ、今そこでカレー食ってる人にすごく似ている
『やっほーみんな!氷川日菜ちゃんでーす!よろしくねー!!』
コツン
手で持っていたスプーンが落ちてカレーの上に着地する
その音がやけにゆっくりと聞こえた
「はああああああああああああ!!!!!」
「うわ!何?!びっくりした!」
「こっちのセリフだ!はあ?!ちょっ!こ、こここ!これこれこれ!!」
「あはははホクサイおもしろーい!!こここってニワトリ見たーい!」
やかましいわ!
は!は!はあ!待て待て待て!状況が分からない!なんでこの人が今テレビに映っているんだ?!
『それでは早速歌って頂きましょう!パステルパレットでしゅわりん どりーみん!』
ポップな感じの曲が流れていくが残念なことに俺の耳には届かない
この目の前に起きている現象が信じられない
ま、ま、まままま、まさか!
「ああ〜やっぱり千聖ちゃんここ間違えてた〜今度教えてあげよ〜」
こいつ本物の芸能人になったのか?!!
「い、いい、いつからだ?いつからこのグループで活動してたんだ?!」
「え?えーと確か半年ぐらい前かなぁ?色々あって一回解散仕掛けたんだけどね〜」
今は全然大丈夫だよ!と日菜先輩は続けて言っている
だけど俺の頭の中は結構混乱気味だ
「も、もしかして部活に参加していないのは?・・・」
「うん、そうだよ!パスパレのレッスンに行ってるからなんだ〜練習は楽しいんだけどめんどくさいよね〜」
俺のお隣さんがいつの間にかアイドルに変身していたなんて!!
おう、頭痛がしてきた。まあ俺からしても確かに見てくれは美人と言っても差し支えないほど整っているけど性格に難アリって言うかむしろ性格以外完璧の癖にその欠点で全てを台無しにしかねない人だぞ。大丈夫なのだろうか?
「あははは〜彩ちゃん緊張して、声がツーンって感じだよ〜!あははは!」
こいつは人の気も知らないで同じメンバーの歌う姿をみて爆笑している
ヒデェ奴だ
ピーンポーン!!
ん?誰か来た?誰だ?もしかしてオカンか?旅行が中止になって帰って来たのか?
日菜先輩はテレビに夢中になっていて出てくれそうにない
いや、まあ自分の家だから当たり前なんだけどね
リビングから廊下に、そして玄関についてドアを開ける
ガチャ
そこに居たのはうちのオカンでも郵便局の人でも新聞屋の人でもなく全く想像もしなかった人物
薄青の髪を背中まで伸ばして、どこか張り詰めた糸のように背筋を正した人
目に見えて真面目、清楚、厳格、そんな言葉を体現する
そして
そうそうして
氷川日菜の双子の姉で俺の初恋で俺の一番の憧れの“あの人”
氷川紗夜
な、なんで、紗夜さんがここに
ドキドキドキドキ!!
やばい
さっきの事もあって頭が回らない
胸の中で動悸が治まらない
心臓がうるさい
「お久しぶりです斎くん元気にしていましたか?」
紗夜さんが俺に話しかけてる、不味い呼吸が荒くなる
上手く言葉が出ない
「斎くん?大丈夫ですかもしかして体調が優れないとか?」
心配そうな顔をしてくれている紗夜さんの綺麗な顔が少し近付いてくる
「た、た、だだ大丈夫大丈夫!!な、ななな、なんでもないよお!!」
やばいやばいやばい!!久しぶりの再開で頭が沸騰しそうな程熱くなってる!呂律が回らない!考えがまとまらない!!変なことは考えるな!やっぱり綺麗な顔だな、とか少しいい匂いがするな、とかそんなこと考えるな!!
「そうですか、それなら良かった」
「う、うん大丈夫です!あははは〜!」
それで一体紗夜さんはどんな用事でうちに来たのだろう?もしかして俺に用事?!用事はなくてもただ寄ってきたとか!!無性に家に帰りたく無くなったとか!!そういうのってアレだよな!ドラマとかでよくある家出みたいな!!そういうヤツかな!!
「それでは斎くん、ここに日菜はいるかしら?」
・・・・・・え?日菜先輩?
「え?い、いますけど」
「そうですか、なら呼んできて貰えませんか?そろそろ夕食が出来るので連れて来るように言われたので」
な、なるほど日菜先輩ならまずウチに来てると思ったのか。さすが紗夜さん頭がいいナア、アハハハハー
「は、はい分かりました呼んできます」
またリビングに戻ると日菜先輩はカレーを片手にテレビに夢中になって自分のお姉さんが来ていることに気がついてない
「日菜先輩!紗夜さんが来ましたよ!」
「ん?お姉ちゃん?どうして!」
「そりゃあ迎えに来てくれたんでしょ?」
「ああ!それじゃあホクサイ!ご馳走様!!」
カレーをペロリと完食してから日菜先輩は走って玄関に行った
「おねええちゃあああん!!!」
「日菜!飛びついて来ないでっていつも言ってるでしょ!」
日菜先輩が紗夜さんを抱きしめてクルクルと回ってる
「はあ、斎くん。お騒がせしました。お母様がいなくて大変でしょうけど困ったことがあればいつでもウチを頼って下さい。それではおやすみなさい」
「じゃあねぇ!ホクサイ!また明日ね!」
「あ、はい。おやすみなさい」
バッタン
扉が閉まる
ドキドキドキドキドキドキ
ここにもう紗夜さんは居ないのに胸の動悸はまだ治まらない
やっぱり好きだ
会った瞬間
話しかけられて
やっぱり思い出して
やっぱり最後に笑いかけられて
はぁぁぁぁぁぁ
やっぱりまだ俺は懲りてないのかな?淡い期待をして紗夜さんが俺に会いに来たなんてそんなことあるわけないのに
胸の動悸は治まってきた
だけど今夜は少し寝不足になりそうだ