吾輩はホクサイである。名前はまだ無い。
「ホクサイくん、もう私本当に気にしてないから!だからそろそろ立って欲しいんだけど」
「・・・・・・・・・ごめんなさい」
俺は今、羽丘学園の部活棟の廊下で土下座をしている。
「あのね何度も言ってるけどそろそろ下校完了時刻だから急いで欲しくて、・・・・・・その私もそろそろ帰りたいし、」
「・・・・・・・・・・すみませんでした」
目の前のリスのような女の子、羽沢つぐみさんが俺に何か話しかけているようだけど全然聞こえない。
それは今真面目に、真剣に、熱烈に、土下座の最中だからだ。そう土下座、☆DOGEZA☆である。
土下座とは相手に
こと日本に置いては最強の謝罪の仕方である。※(俺調べによるものなので間違っている可能性は大きい)
「本当に申し訳ありませんでしたあぁぁ!!!」
「あ、あのねそんなに謝らなくてもいいんだよ!ほんとに気にしてないからそんなことよりそろそろ本当に時間が・・・・・・・・・」
「すみませんでしたああぁ!!!」
この繰り返しを数回行ってのち、様子を見に来た先生が止めに来てやっと俺達は下校を始めたのだった。
夜。
気温が下がり少し肌寒いが星空が美しく煌めくこの時間。俺は可愛らしい女の子と共に肩を並べて歩いていた。
外から見れば俺達は仲良さげの恋人同士に見えることだろう。
同じ制服を着た男女が仲睦まじく帰路につく、これぞ思春期男子なら一度は
テンショが上がって、ウキウキワクワク!そして緊張でドキドキするこの状況!
最高だぜ!!
っと以前の俺ならこんな馬鹿な事を考えただろう。ただ今の状況は酷く悪い。
一つ、俺は二週間前にフラれてる。そんなに直ぐに他の誰かなんて考えられない。
二つ、俺は先程から隣の娘に凄い迷惑をかけたばかりなので別の意味でドキドキしてる。
てか何!このすごく気まずい状況!さっきから羽沢さん一言も喋ってないんだけど!!
俺の愚行を止めてくれた先生に「今日はもう遅いから迷惑をかけたお礼に途中まで一緒に帰ってあげなさい!」と言われしぶしぶ一緒に帰ってる訳だがとてもとても気まずい。
まあ嬉しかったけども!そうだけども!こんなふうになるに決まってるだろ!!空気呼んでくれよ!!でもありがとぉう先生!!
ああ隣の娘も俺のことを迷惑に感じてるに違いない、ああごめんね俺で!ほんとにすんません!
「あ、あのホクサイくん。」
「は、はい!なんでせうか!」
「ん?・・・・・・・・・せうか?」
「あっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
か、か、噛んだ!なんだよ「せうか!」って!は、恥ずかしいいい!!埋まりたいいいい!!!うさぎになりたいいいい!!!
「ぷっあははははっ!!面白いねホクサイくん!教室にいる時とは全然違うよ!」
羽沢さんは口元に手を当ててくすくすと上品に笑った。良かった!笑い話になってくれて!マジ感謝だぜ羽沢さん!!
「あはははーそ、そう? それで一体どうしたの?」
「ああ、うん。私この道を右に曲がって真っ直ぐなんだけどホクサイくんは?」
あれ?いつの間にかこんな所まで来てたのか、もう家まで五分もかからない距離だな。ちょうど横断歩道が赤になって二人で立ち止まる。
「えっと俺はこのまま真っ直ぐ行くけど。」
ここから右に行くと確か商店街に入るんだったな。商店街、最後に行ったのはいくつの時だったかな?昔“あの人”達と一緒に行ったことがあったっけ?
「そっか!じゃあここでお別れだね。また明日ね!」
「えっ!ああ!ちょっとまって!・・・・・・・・・・・・・・って」
「えっ」
って何やってんだあああ!!!ちょっと待つのはお前のほうだろおおぉボケぇぇええ!!!
「え?えっと何かな?」
羽沢さんは小首を傾げて俺の方を見る。
うん、なんか言葉に出来ないけどこうゆうの可愛いな!
じゃなくて!困ってるよ!羽沢さん困ってる!何がしたかったんだ俺は!!引き止めて本当に一体何がしたかったんだ!!えっとえっと!!あああぁぁ!!パッニックだ!パニクって何も考えられないいい!!!ああぁぁぁぁー!!!!
『よく聞いて下さい
そうだ。
思い出した、商店街で“あの人に”言われた言葉。そう俺は慌てるとろくなことにならないんだ。
だから・・・・・・・・・
「スーーハーースーーハーー」
羽沢さんは信号が変わっても相変わらず俺のことを真っ直ぐ見つめて待っていてくれる。いきなり目の前で深呼吸し始めたら普通「何してるんだろ?この人変だな〜」とか思って逃げても誰も責めないのに。やっぱりいい人だなぁ。
よし、落ち着いた。
「あ、あのホクサイくん?」
「羽沢さん」
「は、はい!」
俺はゆっくりと頭を下げる、今度は土下座じゃなくて普通に“礼”をするように。
「今日は沢山迷惑を掛けて本当にごめん。名前を間違えただけでも十分失礼なのに、それに加えて廊下であんなことまでして、本当にすみませんでした。」
頭を下げ続ける。羽沢さんはどんな顔をしているのだろう。呆れているのか、冷めてるのか、それとも攻めてるのか、ここからだと見えない。
「顔を上げて、ホクサイくん。」
「は、はい!」
許しが出たので俺はゆっくりと頭を上げる。
目に入ったのはこれ以上ないほどの穏やかな顔持ちの羽沢さんだった。
白い光を出す街灯に満点とは言いづらいけどそれでも綺麗な星空をバックに羽沢つぐみさんは穏やかな顔で笑っていた。
なんつうかスゲー神秘的な絵だ、写真に撮って収めたいくらいに。
「大丈夫だよ。さっきも沢山謝ってくれたからもう反省してるって分かってるし、それに教室とは違うホクサイくんが見れて少し嬉しかったんだ、今までは何だか距離がある感じがしたから。」
「そ、そうかな?俺そんな感じだった?」
「うん、いつも同じ人としか喋らないから近づきずらくて、」
まあ、初日から周りの人間に無差別に呪いの言葉をつむいでいたなんて言えるわけないんですけどね!
「だからこれからもっと仲良くしてね。それじゃあまた明日ね。」
最後に彼女はこっちを向いて笑ってくれた、そして信号を走って渡りそのまま静かに歩いて商店街に入っていった。
逆に俺はその場で叫びたくなった。
ああああー!!!もっと仲良くしてねってなんだよあれぇぇええ!!!勘違いしちゃうだろおお!!
くっそーありもしない裏の言葉を探しちゃうだろおおおぉぉ!!
ああああああああぁぁぁ!!!!!
はあぁぁぁ 羽沢さんって天然なのかな?