「・・・ングぁ?」
目が覚めた
「あ!ホクサイ起きた?!良かったぁー」
「え?あ、ああ起きましたよ?・・・ん?」
え?
目が覚めた?
なんで、寝てたのか?いつ寝たんだ?てかここどこ?
なんだろう?胸のあたりがズキズキするな?
「ホクサイ大丈夫?」
「え?は、はい。大丈夫で」
何度かまばたきをしてから落ち着いて目を開いて見ると目の前にあったのは薄青の綺麗な瞳に整った容姿を持った
昔は似たような景色をよく見ていた
ってぇぇ!!
「ひ、ひ、日菜先輩!!」
ガツ!!ぽふっ
勢い良く上体を起こそうとしたら俺のおでこと日菜先輩のおでこがぶつかってまた寝そべり状態に戻った
おでこめっさ痛えぇ!でも後頭部は優しい感触
「ああ〜いったい〜」
ちょっと待て!ちょっと待て!なになになになに?!なんだこの状況?!今俺どんな体制?
「ホクサイいきなり何するのー」
うるさい、後だ
目をつぶって熟考しろ!
落ち着いて、冷静になれ
紗夜さんに言われた通り落ち着けばなんとかなる
その一、俺は今仰向けで寝そべってる
その二、日菜先輩の声がすぐ近くにある
その三、後頭部のこの柔らかい感触
以上の点から導かれる答えは!!
「日菜先輩」
「なぁに?」
少し涙声の日菜先輩
「あの・・・・・・・・・いま何してるんですか?」
「え?膝枕だけど?」
何を当たり前の事を、と言いたげな声音で日菜先輩は答える
・・・・・・・・・?
ひざまくら?
HIZAMAKURA?
あ!膝枕ね!
「・・・ち、ちょっと日菜先輩何してるんですか!!」
「ん?膝枕って言ってるじゃん」
そうじゃねぇよ!!そういうこと言ってるんじゃねぇよ!どうして膝枕してんのか聞いてんだよ!!なんでそんなに冷静な対応してくるんだよ!恥ずかしい恥ずかしいめっちゃくちゃ恥ずかしいわ!!まるでところ構わずイチャつくバカップルみたいだ!!
俺は日菜先輩から転がるように脱出もとい落下する。もう一度改めて目の前の日菜先輩を見てみると、あたりが広く薄暗い空間にあるベンチに座っていた
なんなんだよここ。映画館?
あれ?映画館?ここはもう出たんじゃないか?
「あ、あの日菜先輩?」
「あれ、どうしたのホクサイ?映画つまんなくて寝ちゃってからずっと夢見てたの?」
ゆ、夢?俺夢なんて見てたか?
あ、あれ?確かに家から出て、映画館に入ってからの記憶が曖昧だな、どうしたんだろう?
「面白かったよね恋愛映画!!」
れ、恋愛映画?!そんなの見てたっけ?確か日菜先輩がタイトルで選んだ任侠映画を・・・
「そうだよねホクサイ!!ワタシタチレンアイエイガミタヨネ!」
・・・・・・?レンアイエイガミタ?ミタヨネ?ミタナ、ミタネ!
「・・・・・・・・・・・・ソ、ソウデスネ。オモシロカッタデスネ」
ウンウン、ヒナセンパイガニンキョウエイガナンテミルワケナイナイ
「良かったぁ。それにしても催眠術って結構簡単だね、ネットで見ただけで出来ちゃったよ」
何やら日菜先輩がブツブツと呟いている。なんだあれ?ガッツポーズ?
なんか怖いな、何か大事な事を失ってるきがしてならない
「あ、あ、あれ〜?日菜じゃんどうしたの〜?」
日菜先輩に声をかけようとしたら後ろからどこか聞いた事のある声が聞こえてきた
本当に最近、数時間前に聞いたぐらいの感覚だ
「り、り、りさちー!奇遇だねぇ!」
日菜先輩の知り合いなのか。そこには服装も髪型も身につけるアクセサリーまでも派手な格好をしているとても大人っぽい人がいた
「もしかしてデートだった?邪魔してごめんねぇ」
「ち、違うよーそんなんじゃないよ〜」
まるで台本を読み合わせたかのように二人は言葉を交わし、あはははと苦笑いを浮かべている
あれ?この光景どこかで見たことあるな?デジャブってやつ?あれ?胸の痛みが強まったよ?危険信号を放っているみたいだ、なんでか足が震えてくるな?なんでだろう?別に怖い思いをする必要なんて全くないのに
あれ?俺ここにいない方がいい気がしてきたよ?
じっとしていたら突っ張りが飛んできそうな感覚が俺の身を襲って来る
「あ、ホクサイ紹介するね!この娘は私と同じクラスの今井リサ。私はりさちーって呼んでるんだ!」
「は、はじめまして〜!今井リサです!」
「は、はぁ?はじめまして?」
あ〜れ〜?やっぱりおかしい。今井リサって聞いた事ある名前だぞ?
「それでりさちー!こっちはホクサイ!小さい頃から仲のいいんだ!」
「ど、どうもよろしくお願いします」
仲のいい?いやいや冗談でしょ?小さい頃はおもちゃでしたよ
まぁ細かいこと気にしても意味ないか
今日は今朝から紗夜さんに起こされたり、日菜先輩の料理に不安を覚えたり、日菜先輩に関節技かけられたり、日菜先輩に膝枕されたりしたからなぁ
黙って見過ごすのも処世術だな
そう言えば日菜先輩、何か悩んでいたんじゃないかな?家に帰りたくないみたいなこと言ってた気がする
「そう言えばりさちー、今日はどうしてここに居るの?」
日菜先輩が無理矢理話題を変えて今井さんに声をかける。まるでこれ以上この話を続けたくないみたいだ
「え?大した理由なんてないよ、せっかく休みなんだしどこか出かけようかなって」
うわぉ凄いな、休日に出かけるなんて俺からしたら活動的すぎるよ。今日とか普通に惰眠して過ごす予定だったし、全然そうはならなかったけどさ
「ロゼリアの練習は?スタジオで音合わせしないの?」
日菜先輩がニコニコしながら聞いたこともない単語を使って今井さんにさらに質問する
「今日は個人連でスタジオに集まる予定はないけど、なんで?」
今井さんが首を傾げて日菜先輩に答える
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうなんだ」
すると日菜先輩は一瞬泣きそうな顔をしてから俯いてそしてポツリと呟いた
なんだ?いきなり元気を無くして、声が小さい。今朝の意気揚々としたものから一変してテンションが酷く沈んでいる
この人がこんなふうになるのは恐らく・・・・・・
「あの今井さん、『ロゼリア』って言うのは?」
「あたしが所属しているバンドの名前なんだ、知ってる?」
し、知らない。身近にバンドをしている人がいるけど俺自身そこまで詳しいわけじゃないんだ
「い、今井さんバンドしてるんですね。いったいなんの楽器を弾いているんですか?」
「あははーその感じじゃ知らないなぁ〜よしこれからも頑張ろう!あ、あたしはねベースを担当してるよ!」
俺の胸を罪悪感が襲ってくるのですみませんと心の中で謝っておく
「えっとベースってギターに似ているあれ?」
「そうそう知ってるじゃん!ドラムと一緒にリズムを奏でてみんなの演奏全体を支えているんだよ!」
おお!よく分からないけど凄そうだ!本当によく分からない。確か上原さんもベースってやつだったかな?
「あ、ギターと言えば紗夜もメンバーなんだよ。これは知ってたかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、本当ですか?」
し、知らない。紗夜さんが別のバンドに入ったなんて全然知らなかった
また辞めたのか。いや
さっきから日菜先輩は俯いたまま黙っている。この人が大人しいと不安になると同時に心配になるんだよな
「え、なになに?」
今井さんはイマイチ理解していないようだけど
何度も言うが氷川日菜は天才だ
学習能力に関して言えば今更だけどその推理力もずば抜けている。必要最低限の情報で極めて真実に近い回答を出す。いやこの場合は出してしまうと言うべきだろう
日菜先輩に比べれば俺は凡庸の塊だがそんな俺でもこの双子に関わればわかる事がある
俺の記憶が正しければ紗夜さんは家を出る時、『バンドの練習』と言っていた
けどここに紗夜さんと同じバンドメンバーがいて集まりはないという
これはつまり
俺の尊敬する人
氷川紗夜は嘘をついたんだ