「ひゃあぁぁ疲れたぁ。みんなぁ今日はもう帰ろうよー」
薄暗いスタジオの中で、練習に一区切り付けたひまりちゃんがくたびれた声を出して項垂れる。その声がマイクを通して部屋全体に響いてきた。
「そうだな、あんまり根を詰め過ぎて倒れたりしたら大変だしな!」
ドラムスティックを指で器用に回しながら私を見て返事をする巴ちゃん。
もう!私だってもう倒れたりしないよ。・・・たぶん
「はあーお腹空いたぁぁーパン食べたーい」
「モカはさっきの休憩で食べたばっかりじゃん」
「いくらでも食べていたいんだようーわかってないなぁ蘭はー」
モカちゃんと蘭ちゃんがギターを片付けながらそんなたわいもない会話をしている
みんなすごく楽しそうです!
そのまま受付をすませてスタジオを出る。私たちの目には真っ赤に染まった夕日の光が入ってきます。
すこし眩しいけど、安心する。そんな光景が目に入ります。
「すごーい夕日キレー!」
「練習あとはいつも見るけどすごいよなぁ」
そしていつものように綺麗な夕日を目指すように私たちは商店街の方向に歩いて帰路につく
これが私の楽しい日常です!
さっきの箱のようにせまいスタジオとは違って、広い空間に並んだテーブルと椅子、そして最近で有名になったミュージシャンの人気曲が流れます。それと同時に美味しそうな匂いが漂っている店内にみんなで集まります。
練習が終わった私たちの習慣。みんなの帰り道にあるファミレスで今日の練習の反省会をすることです。
「今日は巴、少し走り気味だったよ。気をつけてね」
「え、マジか!ごめん蘭」
「あははー巴が蘭に怒られてるー」
「ひーちゃんだって最初、間違えてたくせに〜」
「ば、ばれてる!上手く誤魔化せてると思ったのに!」
「モカはお腹鳴らしすぎ」
「それはモカちゃんには直せませ〜ん」
「「「あははははは」」」
と言っても軽くおしゃべりしながらご飯を食べるだけなんですけどね
みんなすごく楽しそう!
「つぐ、どうしたの?」
「え?な、何が?」
「こっち見てニヤニヤしてるから、どうしかしたのかと思って」
「え、私笑ってた?」
「うん、すごい嬉しそうだった」
うわあぁすごい恥ずかしい!!
「それで、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ。ただみんなが楽しそうなのを見てたから私も嬉しくなっちゃっただけ。あはは」
笑って誤魔化したけど、う〜やっぱり恥ずかしいよ〜
「何それ、つぐみらしいね」
「確かにつぐらしいな」
蘭ちゃんと巴ちゃんが微笑みながら私を見てそう言います
「そ、そうかな?」
「私らしい」のかな?自分だとよくわからないなぁ。でもなんだろう、みんなにそう言われると何だか嬉しいかも
「えぇーそうだったのー私てっきりホクサイくんのこと考えてたのかと思ったよー」
と、巴ちゃんの隣にいたひまりちゃんが私に向かって話しかけてきました。って、えぇ!!
「な、なんでホクサイくんが出てくるの?!」
本当になんで?どうして?!
「え?なんでってつぐはホクサイくんのことが好きなんでしょ?見てたら分かるよー」
「えぇ?!!」
SUKI? すき? 好き?
私が・・・ホクサイくんを・・・好き?
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・ほっひゃあああぁぁぁぁ!!!」
いきなり私の体の奥底から溢れる何かよく分からない感情が火山みたいに吹き出してきて、途端に心臓が激しく拍動して全身が熱くなってることが分かりました
「あ、やっぱり気づいてなかったんだ」
「予想どうりだったなーひまり」
「ひーちゃーん。なんで今言っちゃうのー」
「ホクサイ?あぁ。つぐを助けてくれたアイツか。」
ひまりちゃんと巴ちゃんはお互い顔を合わせてうんうんと頷きあって、モカちゃんはサラダとコーンスープとハンバーグとフランスパンを食べながらひまりちゃんに返事を返してます。蘭ちゃんは完全にホクサイくんのことを忘れてしまったという感じです。と言うかみんな冷静すぎだよ!
「いやいやいや違う違う違うよ!!私ホクサイくんのことなんて別に・・・」
別に・・・なんとも・・・思って・・・
あれ?どうして??あとの言葉が続かないよあれ?
あれ?あれぇぇぇぇぇぇぇ!!!???
!!!!!!!?????????!!!!!!!!!
ドキドキしてる?あれ何だか顔が熱いかも?ぼーっとしてきちゃった
ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
「ぷぅぅーすぅぅー」
「う、うわああぁぁーつ、つぐが!!」
「こら、ひまり!つぐの頭がショートしてるぞ!!」
「つぐ顔真っ赤ー」
「モカ、適当すぎ」
夜
気温が下がり少し肌寒いが星空が美しく煌めくこの時間。火照った頭と体を冷やすにもちょうどいい気温になってきました
私達はうるさいとアルバイトの店員さんに怒られてファミレスから追い出されちゃったので歩いて家に帰っている最中です
「怒られちゃったね〜」
「みんなが騒がしくするからだよ。特にひまり」
「みんなごめーん!」
「あっはははは!!」
端的に言ってものすごく恥ずかしい!さっき蘭ちゃんに笑ってたと言われた時よりものすごく恥ずかしい。
「つぐもごめんねー、まさかあんな事になるとは思わなくてー!」
「う、うん。もう大丈夫だから。ひまりちゃんも気にしないで」
私も驚いちゃった。どうしてあんなことになったんだろう
「それで〜つぐはホクチンの事が好きなの〜?」
「ブフッ!」
私の隣を歩いていたモカちゃんが私の顔を覗きながらそうたずねてきます
も、もう流されたと思ったのに!流石モカちゃん。抜け目がない
「そうだよ、つぐ!正直に言っちゃいないよー!どうなのどうなの!?つぐはホクサイくんのことが好きなの?!」
「べ、べべ、べ、べべべべ、べ、べ、べ、べ、別に!!そのなことなな、な、な、なな、ないようおおお!!」
なんだか壊れたラジオみたいになっちゃった。最近ずっとこんな感じになってる気がする!
「え、大丈夫つぐ?」
「こわれ〜かけの〜つぐみ〜♪」
「モカ、ふざけないで」
モカちゃんが今の私で有名曲をアレンジソングにして歌ってくれました。語感があってて面白ちょっとおもしろいかも
「それでどうなのつぐみ?」
「べ、べつ、べべ、別にす、す、す、好きとかそんなのじゃなくて」
「じゃあホクサイくんのこと嫌いなの?」
「き、嫌いじゃない!・・・・・・けど」
「じゃあ好きなの?」
「ぅぅぅぅ〜・・・!!」
その二択はずるいよぉ〜ひまりちゃん
「ひまりもいい加減にしたら?つぐにはつぐのペースがあるんだし。」
「そうだぞひまり!あんまり周りが引っ掻き回してもいいことないぞ!私たちがそうだったみたいにな!」
反対側にいた蘭ちゃんとやけに力を込めて語ってくる巴ちゃんが声をかけてくれました。ちょっと安心したような残念なような少し複雑な気分です。
「でもさーホクチンは私たちとちょっと距離があるよねー」
そこでふとモカちゃんがポツリとみんなに聞こえるか聞こえないかぐらいの声量でつぶやきます。
「あぁー!それは私も思ったよ!なんかまだ打ち解けてないよねーなんでだろう?」
「なんと言うか一枚壁がある感じがするよな。いつも敬語が抜けないし」
そのことは私も実感していて、その態度がホクサイくんの素の顔だと思っていたけどそうではないみたいなんだよね
だってこの間ホクサイくんがうちでごはんを食べにきたときに偶然、日菜先輩と紗夜さんと同じテーブルで食事をする時の会話は私たちとは違っていて印象深くて覚えてしまった。そしてその瞬間私の胸の奥で鋭い痛みがきたことも。
「よし!これからホクサイくんと友達になれるように頑張ろう!!」
私が落ち込んでいる時、いきなりひまりちゃんが意気揚々とその右手を夜空に向かって掲げました。
「なんで?」
すぐさま蘭ちゃんがひまりちゃんに質問します
「そこに突っ込むの!別にいいじゃん!」
「私もひーちゃんにさんせーい」
「あたしもべつにいいな。せっかく知り合ったんだし、もっと仲良くしてもいいじゃん」
「別に私も嫌じゃないけど」
私を置いてみんながどんどん話を進めていきます。
「で、つぐは・・・どうするの?」
「わ、私?!・・・私は・・・」
私は・・・どうしよう・・・ホクサイくんとどうなりたいんだろう?・・・わからない・・・わからないけど・・・わからないなりに自分で考えないと!・・・ホクサイくんに言われた通り!ホクサイくんみたいに努力しないと!
「私ももっとホクサイくんと仲良くなりたい!」
「よーし!それじゃあみんなでー」
この瞬間ひまりちゃん以外の私たちは自然と目があって意思の疎通ができました
「えいえいおー!」
またひまりちゃんは意気揚々と右手を突き出しましたが、だれも同調したりしませんでした。
「えええぇぇぇー!!!なんでみんなやってくれないのぉー!!」
「「「「あっはははははは!!!!」」」」
この満点の星空の下ひまりちゃん以外の私たちの笑い声が響いていきました
これも私の楽しい日常です!