もう二度と勘違いしない   作:ホモ・サピエンス

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モテたい?なら早くその気持ちを捨てることだ!!

 

 

「・・・・・・・・・はぁ、結婚したい」

 

 

放課後に入ったと同時に唐突に俺たち生徒に呟かれたその発言に驚きと疑問を感じないなんてことはきっと無理だと思う

 

 

教壇の上に立つ我らが愛しき担任である大谷(おおたに)先生は見るからに落ち込んだ様子でホームルームを仕切り始めた

 

 

「結婚したい」

 

 

また同じセリフだ。つか聞いてないし

 

 

大谷先生は俺達の学校の美術教師でこの学校では比較的若い女性教諭だ。去年から日菜先輩に美術を教えていて、この人の指導の下、日菜先輩は美術部を押しのけて絵で賞を受賞したらしい。そして今の発言からわかる通り独身である。

 

 

「い、いきなりどうしたんですか先生?何かあったんですか?」

 

 

紺色のロングスカートにワイシャツ姿のさわやかさ満点の姿とは反対に物悲しげな雰囲気を纏う先生に俺の隣の羽沢さんが心配そうに声をかけた

 

 

「はぁ・・・実はね、先生この間お友達の結婚式に行ってきたの。その新郎新婦は昔からよく知っててね。久しぶりに懐かしい人に沢山会って、ご飯も美味しくてね。式では先生も軽くスピーチをさせてくれて、本当に楽しかったわ。けどね、その後独りで家に帰ると部屋がとても冷たくて寂しいの。パーティーがあったからかもしれないけど本当に寂しくて、すごく独りが怖くなったのよ。だからその時思ったの。結婚したいって!」

 

 

大谷先生は沈んでたオーラを吹き飛ばし俺たちに自分の気持ちをこれでもかと力説する

 

 

ぶっちゃけどうでもいいんだが。そもそも高校生に結婚の話題とかわかるわけないだろ!

 

 

「でね、先生は知り合いに連絡して素敵な殿方を紹介してもらおうとしたのよ。それでね気付いたの。私の知り合いほとんどが結婚してたってことに」

 

 

また不穏な雰囲気が漂ってきたぞ。もう聞きたくない。あ、ハジメのやつ寝てる。青葉さんも寝てるわ。俺も寝ようかな?

 

 

「私はいつの間にか結婚の話題で気を使われる人になってたみたい。先生のお姉ちゃんなんて高校生になる子供ほっといて旦那さんと海外旅行にいちゃったのよ。それにこの間なんて現国の田中先生は街でナンパされたって自慢されたし。なんでかな?なんで私にはそんな花のある話が出来ないのかしら?自慢じゃないけど先生これでも学生時代はモテたのよ。今でもスキンケアや髪のお手入れには気を使うし、毎日じゃないけどジムで運動だってしてるのよ。なのになんで私には結婚相手が見つからないのかしら?お付き合いしたらその人を永く愛する自身もあるのよ。なのに何でだろう?」

 

 

話が長いよ。早く帰らせてくれよ。先生がモテたかどうかなんて知りたくないし、それに教壇の上でいい歳した女性が泣きそうな声出してるのもちょっとどうかと思う。控えめに言って気まずい

 

 

「センセー!例えばどんなことを彼氏にしてあげるんですかぁー?」

 

 

上原さんが興味津々な顔を隠さずに挙手して先生に質問していく。周りの女子生徒もその声に同調し、先生の話を催促する。やっぱり女子高生としては恋バナには興味津々みたいだな。

 

 

「そうね、例えば・・・彼のために毎日お弁当を作るのは当たり前。事前に彼の好きなものを知っておくとメニューに困らないわね。それから休み時間は常に彼の事を見守ると同時に彼が普段どんなことをしているのかを調べるの。あとその人に気がありそうなライバルを見つけたりとか。あとは毎週必ずデートに行くとか!デートの時は相手にコースを調べて貰うのよ。だってデートの時は彼にエスコートして欲しいじゃない!その代わり私はめいいっぱいのオシャレをするの!そして待ち合わせ場所には二時間前から張り込むのよ。待ってちゃダメ!そこで彼が何分前から待ってくれて、そして何分まで待ってくれるのか見ておくの!そうするとその人がどれだけ優しい人か分かるのよ!それから・・・・・・」

 

 

うわぉ!めっちゃ喋るわこの人!つか怖い!そしてめっちゃ重い!めっちゃ怖い!質問した上原さんも困り顔だし。生徒の半分以上が引いてる。つかもう分かったじゃん。この人が結婚出来ない理由が分かったよ。怖い。ただそれだけじゃん!付き合ってた男たちに同情できる。

 

 

「きーつけーれーい」

 

 

「「「「「あざーしたー」」」」」

 

 

俺たちの願望を感じ取ったのか本日の日直が空気を読んで勝手に号令をかけて勝手にホームルームを終わらせてしまう。(先生は気が付いていない)

 

 

「ねえ。ホクサイくん」

 

 

「え?」

 

 

周りがガヤガヤと騒がしくなって俺が腰を上げて椅子から立ち上がろうとした時、隣の羽沢さんが話しかけてくる。

 

 

「な、何?羽沢さん」

 

 

「そ、そのホクサイくんは今日もこの後は部活に行くのかな?」

 

 

羽沢さんは俯きながら俺に聞いてきた。なんだか少し緊張している感じだ。

 

 

「あ、いや今日は部室に行かないよ。なんか最近日菜先輩が忙しいみたいで。なら俺も行かなくていいかなって思って」

 

 

日菜先輩は有名になってきたのかパスパレの仕事で放課後どころか学校にも来れる日が少ない。新しい番組がどうとか言ってた気がするけど詳しいことは分からない。よって俺の放課後は安寧を取り戻し平和になっているわけさ!

 

 

「おーい、つぐー帰ろうー!」

 

 

さっきまでの憂鬱そうな雰囲気が消えている上原さんと眠そうな瞳をこすりながら青葉さんがこちらの方に歩いてきた。

 

 

「ひ、ひまりちゃん!?ちょ、ちょっと待って!」

 

 

「えーモカちゃんお腹すいたよーどうしたのつぐー?」

 

 

「そっか、ならそのちょっとお願いと言うか、その・・・」

 

 

チラチラとこちらを見てくる羽沢さん。それを見て赤面しながら瞳で「キャー!!」と叫んでいる上原さん。そして半分寝てる青葉さん。

 

 

「えっと何かな?」

 

 

何だろう?なんかすごいことを要求されそうな気がしてならない。早く帰りたい。オカンから買い物頼まれてるんだよなぁ。

 

 

「あ、あの!ホ、ホクサイくん!」

 

 

「な、何かな?!」

 

 

「れ、れ、れ、・・・」

 

 

顔を真っ赤に変えた羽沢さんが何か告げようと口を金魚のようにパクパクしている。けど一向に何も言おうとしないな。

 

 

つぐ頑張れ!!

 

 

「れ、れん、れ、れ、・・・れぇぇぇぇ!!!あぁぁぁぁ私今日お店の手伝いがあるんだった!!!ごめんね、ひまりちゃんモカちゃん私先に帰るね!!」

 

 

そう早口に喋ってぴゅーっと急ぎ足で廊下に出て、帰ってしまった。急いでも決して走らないのが羽沢さんらしい。

 

 

え、え?な、何?どうかしたの羽沢さん?俺に何か用があったんじゃないの!?

 

 

「あぁあぁ。つぐ帰っちゃったーもうちょっとだったのに!」

 

 

「まあまあひーちゃん。つぐも頑張ったと思うよー」

 

 

「ふ、二人は羽沢さんが何を言うかわかってたの?」

 

 

「ふふーんまあねー!」

 

 

上原さんのドヤ顔だ。自分から聞いといて何だがイラっとするな。

 

 

「あ、そうだ!ホクサイくん携帯持ってる?貸して!」

 

 

「え、まあありますけど?どうして?」

 

 

「うんっとねつぐの連絡先を教えてあげようかなっておもって!」

 

 

「なんで?」

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 

時間が止まったかのような雰囲気がここら周辺に漂ってくる。あれ、何だろう?上原さんと青葉さんが信じられないものを見るような目を向けてきたぞ?!

 

 

「え、つぐの連絡先いらないの!!?」

 

 

「いらないって言うか。別に知ってても意味ないと思うし。毎日学校で会ってるわけだし聞きたいこととか話したいことは直接聞けばいいんじゃない?」

 

 

「そうだけど!ホクサイくんだって夜にメッセージのやりとりとかしたいっておもうでしょ!」

 

 

「いや、別に。思わないですけど。」

 

 

つか「()()()」てなんだ!

 

 

「どうして!!」

 

 

「どうしてって言われてもな。そもそも携帯でメッセージのやり取りをするって言うのがよく分からないんですよ。俺、アドレスとか誰とも交換したことないからそんなこと一度もしたことないですし」

 

 

よく女子の会話である「なんで昨日返信しなっかたの?」とか「メッセがきたらすぐに返信しないと!」みたいな感覚が俺にはさっぱりわからない。中学の時でもそれなりに友人がメッセでやりとりをしていたのは知ってるけどわざわざ混ざろうとは思わなかった。言いたいことがあるなら直接会って話せばいいじゃないか。簡単に会えないならまだしも毎日学校で会っているんだから関係ないだろう。

 

 

「ホクちんがそうでもさーつぐは連絡先交換したいって思ってるかもよーちなみにモカちゃんはホクちんの連絡先ほしいでーす」

 

 

眠そうだった顔からいつもの真剣なのかふざけているのか判断がつかない顔でこちらを見つめてくる青葉さん

 

 

「はいはい!私も欲しいです!」

 

 

そして今だに元気な上原さんがピンク色のスマホを挙手してアピールしてくる

 

 

「あ、なんでは禁止ね。こういうのは理屈じゃなくて気持ちの問題だから!」

 

 

へえ、そうなのか。そういうもんなのか。

 

 

「わかった。別に連絡先がいらないわけじゃなくて、急な話だったから驚いただけだったんですよ。いまスマホ出すんでちょっと待ってください」

 

 

 

俺はカバンの口を開けてスマホを探す。その傍らで「やったね!」とか「いえーい」という声が聞こえるがあえて無視する。俺自身もクラスメイトの女の子との連絡先交換に少しテンションが上がっている。

 

 

てか、あれ?

 

 

 

あれあれあれあれあれ?

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・・・・・スマホがない」

 

 

「「え?」」

 

 

また俺たちの間に微妙な空気がなだれ込んだ。教壇の前の先生の自慢話がやけに響いて聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


















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