『私はあなたのことを異性として意識したことなんて一度もないわ』
まただ。またあの時のことを思い出した。
いつまでもなれないこの感覚、胸の中になんでも吸い込む穴が空いている感覚。俺の興味も、こだわりも、熱意も全てを飲み込んで、どんなことにも意識を向けられなくなるこのイヤな感覚。
はぁあ朝から強烈な騒音で目を覚ましたみたいな憂鬱な気分だ。
朝食を取って身支度を整えるそれから遅刻をしないギリギリを狙って家から出て道路を歩く。
少し風が強いけど暖かくていい天気だ。朝の不快感もこれで少しは楽になったな、いやー良かった良かった!流石にあんな気分で一日は乗り切れないからなぁ〜
ちょうど人も少ない時間帯だし、今日はこのまま不快感少なく行きたいもんだぜ!
「おおおぉいいい!!!ホオォォクゥゥゥサアアアイイイイ!!!!」
うるさい。
「よっ!おはよう!!ホクサイ!どうした?なんでそんなに朝から元気ないんだよ!ほらほらほらほら!!もっと元気出して行こうぜ!」
うるさい。
「なぁホクサイ!今日の五限までの英語の課題やったか?!やってたら見してくんない?今日提出するアレだよ俺まったく手をつけてなくてさぁ!ピンチなんだよ助けてくれ!」
うるさい。
「おい!さっきからなんで無視すんだよ!ホクサイ!ホクサーイ!ホークーサーイー!!!」
「うるさいなぁ!静かにしろよ!お前は朝から声がデカいんだよ!ハジメ!!あと、俺のことを大声でホクサイと呼ぶのをやめろ!俺の名前はホクサイじゃない!」
「お前の声も十分デカいと思うぜホクサイ!」
やかましい!って言おうと思ったけどやめておこう。(断じてこいつに言われたからじゃない)
こいつは
小学校高学年からの知り合いで今では俺が教室で会話をする唯一の友達だ。
見たらわかるほどの熱血野郎で運動馬鹿だが、この目鼻立ちが整った顔とその裏表のない性格から誰とでも仲良くなれるコミ力高い系男子であり
そして男子の少ない部活だがバドミントン部のレギュラー入りをしてもう次期部長に任命されそうな運動神経高い系男子でもある。
「つってもホクサイ、もうお前のことはみんな“ホクサイ”で認識してるんだし別に良くね?俺も今更呼び方変えられねぇよ!」
「良くないわ!そのあだ名のせいで俺の本名知らない奴が沢山いるんだぞ!担任の先生すら俺のことをホクサイって呼び出したんだからな!」
そう!俺の名前は“ホクサイ”では無い。本名は全くの別物だ。まあ確かに名前から一文字取れば
「まあそんなことより!「そんなこと!」英語の課題だよ、やったか?やったよな!お前ならやってると俺は信じてるぜ!」
「イヤな信用の仕方だな。英語の課題ね、確か昨日の放課後に部室で終わらせ・・・・・・・・・あっ」
「ん?どうした?」
「終わってない。」
「ウソだろ・・・・・・マジかよ??!お前が!!いつも暇して勉強しかしてないのに!何があったんだよ!」
「うるさい!いつも暇とか言うな!昨日は・・・・・・その色々あったんだよ」
「色々ってなんだ?」
「まあ、その・・・・・・・・・土下座とか?」
「土下座?!」
まあ、隣で頭を抱えながら「ああどうしよう!!」とつぶやいてるコイツのことはいいや。途中まで終わらせてあるから昼休みを使えば何とか終わるだろう。
真っ直ぐにハジメと歩いていくと学校が見えてくる。
“羽丘学園”
俺達が通ってる学校はここの高等部だ。ここは数年前までは女子高だったんだけど最近の少子化にともなって共学化した学校で全校生徒の約八割が女子生徒という少し特殊な学校だ。
「ってかハジメ、今日はバド部の朝練は休みなのか?」
「ん?ああ珍しく休みだ!だから今日は家でるギリギリまで寝てたぜ!今日は授業中に眠らなくてすみそうだぁ!」
気持ちが悪くなるほどいい笑顔でハジメは自分のズボラさを見せつけてきた。
やめろ、ニカ!って笑うな!マンガだとキラリ!って効果音が着きそうなその笑顔を引っ込めろ!思わずお前の顔と俺の握りしめた手でグータッチしたくなるから、マジで!
そんなアホすぎるやり取りを続けて俺達は教室に着いてドアをガラッと開ける。すると・・・・・
「あっ!ハジメくん!おっはよう!」「おっはー!待ってたよ辻!」
「おはよう、ハジメ。今日もいい天気ね。」
「お、お、お、おはようございます!辻くん!」
「ああ!みんなおはよう!」
コイツは勉強は出来ないんだが、それでもイケメンで運動もできる。そしてその底抜けの明るさと、誰にでも平等に接するその優しさのせいですごく女子にモテる。高校入学二週間で“これ”はもう一種の特殊能力だ。
そのモテっぷりは中学の時のバレンタインであいつの下駄箱とカバンに入り切らないほどのチョコレートを貰っていたのを隣で眺めるしか出来なかった俺がよく知っている。(少なくとも同学年の女子の四分の一から貰っていた)
まあそれだけなら別にいい、ただモテるだけな。
ただあいつは・・・・・・・・・めちゃくちゃ鈍い!!とにかく鈍い!!
あいつは人の好意ってものをまるで理解してない。
なんなんだこいつはどこの鈍感系主人公だよ!って感じだ。お前はキ●トかよ!それともあれか?●条●麻?!
ってツッコミを入れなかった俺は偉いと思う。あいつにとってはさっきの挨拶をした女子もアピールではなく本当にただの挨拶にしかとらないだろう。
頭が痛くなってきた、もうダメじゃん。全然不快感ゼロじゃないじゃん!
「はぁぁぁあ、じゃあなハジメ。」
「ん!おお!また昼休みにな!」
そう言ってあいつはあの女子共(みんな可愛い)に半分引っ張られながら連れていかれた。
さてと俺もさっさと席に着いて課題を・・・
そこで気づいた。俺の席の隣にいる人物。ノートと教科書を机に広げて姿勢正しく勉強をしている女の子。
肩ぐらいまで伸ばした茶色の髪を耳に掛け直して、一見したらリスのような印象の娘は、
「は、は、羽沢・・・さん?」
「え?ああ、ホクサイくん。珍しいね朝から声を掛けて来るなんて。おはよう!」
「あ、ああ・・・・・・お、おはよう。」
太陽と見間違えるような爽やかな笑顔で羽沢さんは俺に挨拶をしてくれた。
と、と、と、隣の席だったのかああああ!!!