もう二度と勘違いしない   作:ホモ・サピエンス

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あなたが読んでる小説は全年齢対象です(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で俺達は地べたに座りながら耐久レースをしていた。

 

 

 

 

羽沢さんは雷の恐怖に耐えること、俺は理性で本能を押さえつけることに。

 

 

 

先程から電気の復旧が進まず廊下の蛍光灯もつかずこの教室も暗いまま、数分が過ぎた。

 

 

 

羽沢さんは携帯電話でご両親に連絡を入れて、迎えに来てもらうそうだ。

 

 

俺はそれまで待っていればいいらしい。

 

 

 

「ホクサイくぅん、本当にゴメンねぇ・・・ぅぅ」

 

 

だから喋らないで!マジでヤバいんだよ!この状況!女の子に抱きつかれるなんて初めてだ!ヤバい!心臓がとんでもないスピードで拍動してる!背中と手に滝のように汗が流れてる気がする!

 

 

羽沢さんの両手は相変わらず俺の胴を掴んで離さない。つかドンドン強くなってる気がする!

 

 

あああぁぁ削れる!俺の理性が削れていくぅぅ!!

 

 

 

こんなことになるなら勉強なんてしないで早く帰れば良かった!チックショウ!俺の高校生活はなんでこんなにハードモードなんだ!!

 

 

 

 

ああ、いかんいかん。やっぱり何か喋って気をまぎらわせる方がいいのかな?そうすれば雷の事も考えなくて良いし。

 

 

 

何か話題あるかな?・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんもない!!

 

 

 

本当に何も無い!くっそ頭が働かない!ああこうゆうときにハジメがいてくれたら自然と会話が始まるのに!

 

 

 

 

 

「そ、そのホクサイくん」

 

 

羽沢さんが声を掛けてくれた!よっしナイス!ありがとう!

 

 

「な、何?羽沢さん!」

 

 

「ホクサイくんは星が好きなの?」

 

 

え?いきなりなんで星?

 

 

 

「いや、別にそんなことないけど?なんでそう思うの?」

 

 

 

「え?だってここ天文部だよね?」

 

 

そう言えば俺は天文部員でしたね

 

 

「あ、ああそうだけど、別に星が好きだから入った訳じゃないんだよ。ここに入ってる日菜先輩とは昔からの知り合いで一人しかいなかったから部費増量のために俺を入れたみたいなんだよ」

 

 

 

「そ、そうなんだ。昔からの知り合いって辻くんが言ってた『ホクサイ』ってあだ名をつけた人が?」

 

 

 

「うん、そうそう日菜先輩だよ」

 

 

 

「そうなんだぁ氷川先輩が」

 

 

 

「うん、そうなんだぁ」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

会話が止まったァァー!!!

 

 

 

おい!さっきはいい感じに会話が流れてたじゃねぇか!もっと気を使って会話をのばしてやれよ!

 

 

 

あああぁぁどうしよう!どうする!何する!何がどうしてこうなったのか?!

 

 

 

「・・・・・・天才か・・・・・・・・・」

 

 

羽沢さんが、何か小声で呟いたけど雨音のせいで上手く聞こえない

 

 

「あ、いやその氷川先輩って有名だよね!生徒会でもたまに噂になるんだよ!」

 

 

 

「まぁだろうな、俺にはあの人が噂にならない事の方が信じられないよ。昔から()()だったから」

 

 

 

「・・・・・・そうなんだ。そのホクサイくんは氷川先輩のことが苦手なの?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「あ、あれ?!なんで?!ご、ごめんなさい!私いきなり何言ってんだろ?!アハハー」

 

 

 

笑って誤魔化しているけど俺は確かに聞いた。日菜先輩が苦手なのかと、普段の羽沢さんからはまず聞かない言葉だ。

 

 

 

でも一度聞かれたら考えずにはいられない

 

 

日菜先輩のことか・・・・・・「苦手なのか」か、そうだな。

 

 

 

「・・・・・・別に苦手じゃないかな、嫌いでもない。それは確かだ。そもそも嫌いだったら普通この部活に入ってないだろ」

 

 

 

「そ、それもそうだね!ゴメンねいきなり変なこと聞いて!」

 

 

 

羽沢さんはまたアハハと笑っている。

 

 

 

確かに苦手でも嫌いでも無い。けれど・・・・・・

 

 

 

 

 

「でも、たまに。本当にたまにだけど『かわいそう』と思ったことがある」

 

 

「え?かわいそう?ど、どうして?天才でなんでも出来るのにどうしてかわいそうなの?」

 

 

 

そうだよな、普通そう思うよな。これは優しい“あの人”も同意してくれなかった

 

 

 

「日菜先輩はね、天才だよ。万人に聞いたらほとんどの人があの人を天才だと言うよ、だからなのかあの人はいつも『独りきり』なんだ」

 

 

「・・・・・・・・・『独りきり』?」

 

 

 

「うん。誰にでも憧れる存在って言うのは誰も対等な人がいないって事なんだよ」

 

 

それに常に羨まれる訳じゃない、妬ましいと言われることも嫌なヤツだとも言われることも聞いたことがある。

 

 

「う、うん、確かにその通りだと思う」

 

 

 

「本人はその事を実感するたびに自分と他人が違うことを見せつけられるからとても寂しくなるんだって」

 

 

「・・・・・・そうなんだ、でも私には分からない・・・かな?」

 

 

 

「そうだよな。俺も日菜先輩から聞いただけで本当に理解はしてないんだと思う」

 

 

 

 

 

 

でもそうなのだ。

 

 

 

氷川日菜と俺とでは見ている世界が違う。これは比喩ではないと思う。

 

 

 

ビデオカメラで撮影している時に日菜先輩には赤いフィルムをレンズの前に付けているようなものだ。

 

 

 

同じ物を写しても(見ても)、同じようには撮影(認識)しない。

 

 

 

同じものを見ていても()()()()()()()()()()()、同じものを聞いても()()()()()()()()()()()

 

 

 

だがら認識している世界が俺たちと日菜先輩では違うのだ。

 

 

 

 

 

「それでもやっぱり才能があるのは羨ましいよね、俺みたいに毎日勉強しなくてもテストで満点とるんだからさ」

 

 

 

「そうだよね、やっぱり才能がある方がいいよね。努力するって大変で辛いもんね」

 

 

 

羽沢さんの声音が落ちていくだんだん落ち込んでいくのが分かる。

 

 

努力は辛い。それはその通りだと思う。辛くない努力は無く、辛いからこその努力なんだとも思う。

 

 

でもいくら努力しても天才(氷川日菜)には届かない。俺がこの短い人生の中で学んだ一つのことにそれが含まれている。

 

 

絶対に勝てないのだ、魚が陸で生きていけないのと同じように、どんな分野でも彼女にはかなわない。だけど、

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

また会話が止まる。さっきまでのとは違って気まずさは感じない。

 

 

気がつけば雷の音はもう止んで、雨音も弱まっている。

 

羽沢さんはもう俺の胴に腕を回していない、さっきまでの抱きしめているという体制から寄りかかっているという形に変わっていた。

 

 

 

 

「ホクサイくんは『才能』ってあると思う?」

 

 

 

「あると思う」

 

 

 

ほとんど間を取らずに答えた。

 

 

 

「物心着いた時から日菜先輩を見ているからどうしても感じてるな、生まれ持った才能ってヤツを」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・そっかやっぱり努力しても意味なんてないのかな?

 

 

 

「でもさ・・・・・・」

 

 

 

パチン!

 

 

 

一瞬で目に大量の光が飛び込んできた、目が痛い

 

 

どうやら停電が復旧したらしい、学校に光が戻ってきた。

 

 

俺達はすぐにお互いの状態を理解して離れる。

 

 

雨の音は聞こえているけどさっきとは違ってとても弱々しく、穏やかな音だ。

 

 

ブブブーー!!!

 

 

羽沢さんの制服から振動音がする、携帯のバイブレーションだ。

 

 

「あ、お父さん学校に着いたみたい、ホクサイくん今日はゴメンね、本当にありがとう」

 

 

羽沢さんは俺に向かって頭を下げてからゆっくりと上げる。その顔は笑ってはいたけどでもどこか辛そうな顔だった。

 

 

 

それじゃ、と言って彼女は部室の扉に手をかけた、ドアノブを回す。ガチャと言って扉は開いてさっきまで暗かった廊下に出る。

 

 

 

咄嗟にこのままじゃあダメだと思った、このまま彼女を帰したら後悔するとそう誰かが俺に告げていた。

 

 

 

 

「は、羽沢さん!!!」

 

 

 

思わず大声で彼女の名前を叫んでしまう。

 

 

 

羽沢さんはピタリと動きを止めてゆっくりとこちらを振り返った。

 

 

 

「どうかしたの、ホクサイくん?」

 

 

 

やっぱり笑っているけど辛そうな顔だ、今にも泣きそうなそんな顔。

 

 

 

何を言えばいいのかまるで分からないけどでもとりあえずさっき言いかけた言葉を言っておきたかった。

 

 

 

「羽沢さん、確かにどんなに努力しても本物の天才には勝てないのかもしれない。けど!・・・」

 

 

だけど!

 

 

 

そうどんなに頑張っても頑張ってもそれを軽々と乗り越える天才が傍にいたとしても!

 

 

 

生涯ある時間を使っても本物の考えを一遍も理解出来ないとしても!!

 

 

 

 

「それでも!!」

 

 

 

 

 

そう、それでも俺達(凡才)が・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・俺達が努力を辞める理由にはならないと思う。」

 

 

 

「・・・・・・・・・っ!!!」

 

 

 

 

羽沢さんは泣きそうなその顔から一変して驚きの表情を見せた。まるで分からない問題を解いたかのような、迷路を攻略した探検家のような、そんな顔。

 

 

 

 

良かった、少なくとも悲しいって感じからは抜け出せたみたいだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

うわわわわわわわわわああああああああぁぁぁ!!!!!!

 

 

 

 

 

俺は一体なんてことを言ってるんだあああぁぁ!!!!

 

 

 

恥ずかしいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!

 

 

 

イタイイタイイタイイタイ!!もういっそ誰か殺してくれぇぇ!!ああああああああぁぁぁ!!!!!!

 

 

 

 

「あ、あ、あの?羽沢さん!その、つまりこれは!!」

 

 

 

「ホクサイくん!」

 

 

 

「は、はい!!なんでしょうか!」

 

 

 

思わず敬礼しちゃいそうになった。(なんでだよ)

 

 

 

「ありがとうね!少しスッキリしたよ、そうだよね!うん!うん!これからも頑張ろう!」

 

 

 

「お、おーう?」

 

 

 

「じゃあお父さん待ってるから私行くね!また明日ね!」

 

 

 

俺が返事をする前に羽沢さんは扉を勢いよく飛び出して走って帰ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・はぁ恥ずかし、帰って寝るか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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