どうにも私は、イレギュラーが好きなようだ。
「まゆちゃんと×夏くんは本当に仲がいいわね」
そんな言葉を聞くと、何故か嬉しくなった。
親父から貰ったカメラを掲げて、子どもなりにプロの真似事。
佐久間は佐久間で、恥ずかしげながらも精一杯ポーズを取っていた。
ちらりと、佐久間がいつも着けているリボンが舞う。ピンク色の、彼女のような鮮やかで、儚げで、そして健気なリボン。
微笑んだ表情を写真に映す。垂れた目元に少しの陰が宿っている。いつも通りだと、俺は呆れたように笑った。
いつも一緒だったわけじゃない。俺には俺の付き合いがあって、あいつにはあいつのグループがあった。
幼稚園の頃はともかく、小学生に上がってからは照れもあってか付き合いは殆ど減った。中学に上がってからは隣同士の家でも話もしなかった。
一度、中学を卒業した直後に、家族ぐるみの付き合いで一緒に花見をする機会があって、桜の下で笑う彼女を見た。
反射的に、カメラを構える。無意識にピントを合わせ、一瞬が永遠にも感じられるほどに、その瞬間を待った。
まだだ。
まだなんだ。
もう少し。
あと少し。
息を止める。
心臓も止めたかった。
この機会を逃せば、きっともうその時は来ないだろうという直感に似た何かを覚えた。
俺がもしカメラマンを目指すのならば、この一枚だけは。
この一枚だけは何があってもーーーー!!
「佐久間」
「はぁい?」
佐久間が、俺の呼んだ声によってこっちを見る。
目線が、レンズ越しに合う。
少し驚いたように垂れた目が見開き、しかし、いつものように、いつも通りに。
佐久間が、微笑んだ。
ーーーーーーパシャリ
「いきなり向けたのに、さすが」
「驚きはしましたよぉ……良いの、撮れました?」
「…………
彼女を撮った最後の写真。
桜が舞う光景を。
俺は、死ぬまで、死んでも忘れはしないだろう。
第四話「桜前線異常ナシ」
346プロは何を血迷ったか、アイドル恋愛シミュレーションとかいうゲームを出したことがある。
小中学生組を除く、学校の同級生だったり、先輩だったり、会社の同僚だったり、なんだったら近所の知り合いからとかもあった。
ゲーム自体の出来はともかく、これがまぁ売れに売れ……まぁかく言う俺もこうして手元に持っていたりする。
「…………そういえば開けてなかったな」
一度も起動どころかパッケージさえ手をつけていない代物。
ネット評価じゃ色々とあったけれど、中でも見たのは演技の凄さ、だったか。
アイドルの演技のリアリティが話題に上がっていたのを思い出す。
「どれ……」
携帯機にゲームを入れ、いざ。
ヒロインは……
「…………いやいや」
そりゃもう、凛ちゃんを選択。推しでプレイするのは当たり前だ。
どうやら設定は同級生のようだった。
『ふーん、アンタが隣の席? まあ、悪くないかな』
『私、愛想ないから、あんまり伝わらないかもしれないけど……キミには感謝してるんだ』
『さてと、じゃあ、行こっか。みんなも、私たちを待ってると思うから。◯◯も…もちろん、来てくれるでしょ』
一通りプレイして、一息を吐く。
「……いい」
何これすごい(語彙貧弱)。
いや期待以上だった。ストーリーはシンプルだが、その分アイドルの演技に目を向けられる。
棒なところは多々あるけれど、しかし彼女のまっすぐな声音が心に響く。
続いて、トライアドプリムスのほか二人をプレイする。
どちらも系統が違う演技で、そしてどちらもその演技に迫真さがあった。
彼女たちがどのような思いでこれを収録したかはわからないが、しかし。
恐らくは、やはり恋をしているのだろう。
実際に恋をしているから、リアリティがあるのは当たり前だ。何事も体験が一番の経験に、そして技術へと発展していくのだから。
それからもどんどんと他のアイドルをプレイしていく。休日の今日を全て使い切って外が暗くなっていた。
そして感想は、皆が一様に真っ直ぐに、想いを込めていた。
特定の一人を思い浮かべていた、共通の恋。
最後の一人、俺はどうしても選ぶことができず電源を落とす。
ベッドに寝転がって、天井を見上げた。
子どもの頃、あいつと初めて出会った時、俺は真っ先に思った。
『この子を撮ったら、きっとそれはとても、良い写真になるんだろうな』
それは、確かに恋じゃない。事実、あの佐久間に恋心などというものは抱いたことなどない。それはあの性格がというよりも、それを知る以前から。
何故なら、最初から分かっていたからだ。
俺にはあいつを自分だけのものにするなんて、そんなことは、最初から諦めていたのだから。
「……あ“ー」
蓋をしていた黒歴史が、10年という糊を剥がして湧いて出る。
こっぱずかしい。消えて無くなりたい。どうして今頃連絡してきやがったんだ。
ベッドに寝そべったまま、机の方を見る。かろうじて視界の隅に映る、一つの写真立て。
おそらく、俺が人生で撮れる最高の一枚。
それが、俺の夢を現していた。
『運命の人に出会えたんです』
枕に顔を埋め、息を止める。
『ざっと百八十人は超えてますねぇ』
思考を無にし、暗闇を模索する。
『やっぱり、運命なんですよぉ』
そしてーー俺は答えを得た。
ナツ:佐久間、いま大丈夫か?
Mayu:はぁい?
Mayu:珍しいですね、夏くんからなんて
Mayu:どういう風の吹き回しですか?
ナツ:なに
ナツ:まぁ、凛ちゃんがスキャンダルでアイドル辞められても困るしな
ナツ:だったらと思い立ったんだ
Mayu:?
ナツ:俺が
ナツ:お前を勝ち上がらせる
Mayu:何にです?
ナツ:プロデューサー争奪戦だ
ナツ:180人を出し抜いてやる
ナツ
そして少年は幼馴染のために180人と敵対する。
Mayu
いきなり何言ってんだこの人って思った。
ワシじゃよ。
かぁー、何?こういう話だったのかって?
んなわけあるかい。
ネタが切れたからテコ入れしたんじゃよ。
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