月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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更新を早くしたいと思いながら投稿しました。
今回でクアルツ賞のモデル候補が二人決まりました。
どちらかを選べば、そのルートのフラグが手に入ります。

三角関数様、秋ウサギ様、笹ノ葉様、烏瑠様、誤字報告ありがとうございます!


六月上旬(遊星side)3

side遊星

 

「あら、小倉さ……じゃなくて小倉お嬢様」

 

「こんにちは八十島さん」

 

 地下通路を通って桜の園のエントランスにやってきてみると、仕事中だったのか八十島さんがいた。

 ……うぅ、こっちに来てからお世話になった恩人で、僕の正体を知っている人に、お嬢様呼びされるのは結構辛い。でも、桜の園からフィリア学院に通っている人達も居るから、親しい人でも従業員で他の家のメイドでもある八十島さんが他家のお嬢様である僕を親しく呼ぶわけにはいかない。

 だから仕方がない。仕方がないんだ。……ショックを感じるけれど。

 

「本日はアトレお嬢様に会いにいらっしゃったのですか?」

 

「はい。連絡はしましたから、これからカリンさんと一緒に行くつもりです」

 

「それは良かった。アトレお嬢様も小倉お嬢様がお訪ねになるのを本当に楽しみにしていましたから……とはいっても、まさかという考えもあるから複雑な面も……何せアトレお嬢様は……奥様の娘だから」

 

 ん? 八十島さんが複雑な顔をしている。

 何か心配事でもあるのかな?

 

「……それで本日はお泊りになるのですか?」

 

「い、いえ! ちゃんと帰ります!」

 

「あら、これは失礼を。実は、小倉お嬢様がクワルツ賞の衣装を制作するから何時でも泊まれるようにと、アトレお嬢様のお部屋に客室を用意なされて」

 

 ……アトレさん。気持ちは嬉しいけれど、流石に部屋に泊まるのは不味いので遠慮させて貰いたい。

 もしも寝ている時にアトレさんが添い寝を希望してきたら、正体がバレてしまう。

 瑞穂さんの時のような幸運が起きるとは限らないんだから。でも、クワルツ賞の衣装は制作する時はジャスティーヌさんの前でと言われているし……どんなに遅くなってもアトレさんの部屋に泊まるのだけは遠慮させて貰おう。

 

「それにしても今日小倉お嬢様が来てくれて良かったです」

 

「といいますと?」

 

「実は百武先輩と鍋島先輩が、夜に私を訪ねに来られるんです」

 

「わぁ~!」

 

 思わず喜びの声が出てしまった。

 百武さんと鍋島さんは、僕があっちの桜屋敷にメイドとして勤めていた頃にお世話になったメイドの先輩方だ。此方の方では、桜屋敷を辞めて他の仕事についたり家庭を持ったりしていると八十島さんから教えて貰った。

 此方に来てからも、時たま桜屋敷に八十島さんを訪ねに来ていたようだが、その頃の僕は誰かに会うのが怖かったので、来ていた時は部屋に閉じこもっていたり、或いは八十島さんが外で会うようにしてくれていた。

 先月八十島さんに会わないかと言われて、りそなとも相談した。相談の結果、取り敢えずは僕の事情だけなら話しても良いと言われた。ただし、学院の事情や才華様達の現状の説明は駄目だと言われている。

 あくまでも、話して良いのは僕の事だけだそうだ。後、話が終わった後にはルナ様への口止めは頼んでおかないと。

 あっ、でも……。

 

「鍋島さんと百武さんは才華様の事は知っているんですか?」

 

「いえ、先輩方は知りません。とはいっても、旦那様の事は先輩方もご存じだから、流石は親子だとは思うでしょうけど」

 

 はうっ!

 ……あんまり考えないようにしていたが、八十島さんの言った通り、親子二代で本当に何をやっているんだろうか?

 もしも僕に子供が出来た時は、絶対に女装して学院に通うなんて考えだけは浮かばないようにしないと! いや、普通は考えないんだけどね。そんな事を。

 

「そ、それじゃあ、お二人が訪ねてきた時にはメールを下さい」

 

「ご夕食の方はいかがなされるのですか?」

 

「今日は本当に遅くなるようなので、りそなさんから先に食べて良いと連絡が来てますから、アトレさんと相談して決めさせて頂きます」

 

「分かりました」

 

 八十島さんと別れて、僕とカリンさんはエレベーターに乗り、桜の園の最上階にあるアトレさんの部屋にやって来た。部屋の鍵は渡されているが、インターホンを押す。

 

「お待ちしていました、小倉お姉様!!」

 

 早っ! インターホンが鳴ったと同時に扉が開いたよ!

 えっ? もしかして扉の前で僕が来るのを待っていたの?

 

「こ、こんにちはアトレさん」

 

「どうぞ部屋にお上がり下さい」

 

「し、失礼します」

 

 戸惑いながらも、僕はアトレさんの部屋に上がった。

 この部屋に訪れるのはこれで三度目だ。相変わらず和風な部屋だなと思いながら、カリンさんと共に座らせて貰う。

 

「どうぞ、粗茶です」

 

「此方が私の作ったお菓子になります」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 な、何だか違和感を感じてしまう。

 こうして誰かにお茶を出されるのは、僕の中で数えられるぐらいしか経験がない事だ。逆にお茶を出したりするのは、数えきれない程にやったけれど。

 九千代さんに出されたお茶を飲み、アトレさんのお菓子を食べる。うん、先月よりも美味しい。

 

「アトレさん、腕を上げましたね。先月頂いたお菓子よりも美味しいです」

 

「ああ、そのお言葉を聞けただけで天に昇るような気持ちになります。以前はお兄様から頂けていた感謝の言葉が、私の何よりの励みになっていましたが、今は小倉お姉様の言葉が私にとって……」

 

「嬉しいのは分かりますが、近づき過ぎなのでは」

 

 冷静なカリンさんの言葉に、アトレさんは頬を赤くして床に座った。

 

「そ、そういえば、お昼ごろにお兄様から連絡があったと九千代から聞きました。メールでは銀条さん達の事で集まりたいと書かれていましたが、何かあったのでしょうか? あいにくと私と九千代は授業中で参加出来ませんでしたが、小倉お姉様は参加なされたのですよね」

 

「はい、実はですね」

 

 僕はアトレさんと九千代さんに、今日のお昼にあった事を話した。

 アトレさんと九千代さんは、危うくパル子さんとマルキューさんの映画の衣装の件が無かった事にされかけた事に驚いていた。

 

「お菓子パーティーの時には、相手からのオファーだと聞いていましたから、てっきりあの時点で契約は交わされているものだと思っていました」

 

「はい。でも、まさか契約も正式に交わさずに縫製まで進めてしまうなんて」

 

 アメリカでブランドを経営している、ルナ様と桜小路遊星様の娘とそのお方に仕えているメイドなだけに、マルキューさんが犯したミスの大きさが分かったようだ。

 

「この件に関してはマルキューさんにも責任はあります。だから、お父様は反省の意味も込めてOKを貰っていた10着のデザインを制作出来るようにしたようです」

 

 お父様のお力ならば、その気になれば最初にマルキューさんが話していた通りの映画会社との契約のままで話を進めることは出来た。でも、それをやってしまえばマルキューさんは今日のお昼の時よりも落ち込んでいただろうし、これからの仕事に自分は必要ないと更に思い込んでいただろう。

 だから、敢えてOKを貰っていたデザインの衣装を使って貰うまでにしたのだろう。

 

「滅法厳しい……これが伯父様の本当の厳しさなのですね」

 

「ええ……以前まではアトレさんと才華様の前ではお父様は優しかったそうですが、本当のお父様は厳しく、そして優しい人です。私はそんなお父様を尊敬しています」

 

 これは僕の心からの本心だ。

 確かに僕が知っているお兄様と、今のお父様は雰囲気は大きく違うけれど、それでもやっぱりあの人は僕が憧れ、ジャンと同じぐらいに尊敬している事に変わりはない。

 ……その想いを僕はお兄様に伝える事は出来なかった。だから、伝えることが出来た桜小路遊星様には悔しいという気持ちはある。

 ……僕はやっぱりあの方を超えたい。無理だとしても、超えたいという気持ちだけは捨てることが出来ない。

 この気持ちが今の僕の服飾を支える根幹なんだから。

 

「ですが 今のお話は少し変ですね。全部ではありませんが、予定していた20着の内の半分衣装はOKを貰っていたのに、急に断るなんて……いえ、残りの10着のデザインを見ての判断なら分かりますけど、見ないで制作の話がなかった事になるというのは……」

 

「あっ、私も同じことを思いました」

 

 アトレさんも九千代さんも、パル子さんとマルキューさんに起きた件に違和感を覚えたようだ。

 

「もしやこの件に何かあるのではありませんか、小倉お姉様?」

 

「……すみません。その事に関してはお話する事は出来ません」

 

 この件に関しては少なからず学院が関わっている。幾ら身内が経営している学院だとは言え、外に漏れたら不利益になるような話をアトレさんと九千代さんに話すわけにはいかない。僕の今の立場は表向きは学生だが、裏では調査員。学院の不利益、ひいてはりそなの不利益になるような話は出来ない。

 二人なら外部に話したりはしないとは思うけど、それでも話せない事だ。

 何よりも映画の衣装の件に服飾部門の上級生からの妨害があったことは、パル子さんとマルキューさんも知らない。お父様もその件は話さなかったそうだから。

 この問題はかなり根深い問題だ。下手に波風を荒立てて、一般クラスと特別編成クラスの仲が悪化するのは危険だ。理事長のりそなが動いているんだから、そっちに任せた方が良い。

 

「どうやら根深い事情があるようですね。分かりました。深くは聞かない事にいたします」

 

「そうして貰えると助かります」

 

 ありがとうございます、アトレさん。

 

「ところで小倉お姉様。クワルツ賞に参加するそうですが、モデルになる方は決まったのですか?」

 

「うっ……実はまだ決まっていません。学院の芸能科やアイドル科、それに演劇科の生徒の方々も見に行ったんですけど、中々この人と思えるような人がいなくて」

 

 言いながら僕は鞄の中からジャスティーヌさんが描いたデザインを取り出した。

 興味深そうにアトレさんと九千代さんは、デザインを見る。

 

「これは……凄く綺麗ですね。ジャスティーヌさんのデザインを見るのは、初めてですけど、アメリカに居た頃のお兄様では勝てたかどうかは分からない程に素晴らしいデザインだと思います」

 

「はい。これならば確かに提出期限を過ぎていても、審査を突破出来て当然だと思えるほどの出来です」

 

 アトレさんと九千代さんも、ジャスティーヌさんのデザインの才能を認めたようだ。

 

「ですけど、此処までの完成度のデザインとなると、モデルとなる方も重要ですよね」

 

「はい……ジャスティーヌさんは才華様をイメージしてデザインを描いたそうなので」

 

「そ、それはモデルも探すのは大変そうです。若と同じ容姿の方はそう簡単にはいませんし、それに身長も」

 

「お兄様の身長は、女性としてはそれなりの高さですから。此方でも探すのは滅法大変です」

 

「ええ……一応ですが、一人だけいるにはいるんです。小倉朝陽としての才華様の体形に近い人が」

 

「それは誰でしょうか? 何でしたら、私もモデルとなってくれるように協力いたしますよ、小倉お姉様」

 

「……ルミネさんです」

 

 僕の力になれるかもしれない事に微笑んでいたアトレさんの顔が、暗くなって俯いた。

 

「そ、そう言えば……女装したお兄様の体形は身長が同じという事で、ルミねえ様を参考にしたのでしたっけ……でも、ルミねえ様は」

 

「はい、モデルになって貰うにしても、色々とありまして」

 

「……私も小倉お姉様と和解してからは、学院内でのルミねえ様の評判には気にかけていました。残念ながら、余り良い評判は聞けずにいます。それに加えて、去年のピアノ科のお話も九千代から聞きましたし」

 

 どうやらアトレさんも去年にあったピアノ科の騒動の件は知っているようだ。

 

「個人的な意見となりますが、桜小路才華様は先ず現在のフィリア学院の事を調べてから、入学するかしないか決めて頂きたかったと言わせて貰います。正直言いまして学院の状況は、かなり難儀ですので」

 

 調査員として他の科も調べているカリンさんの言葉だけに、重みがあった。

 

「伯父様も総裁殿も、ルミねえ様の件には介入しないようにしているんですよね?」

 

「はい。お父様は元々厳しい方ですが、りそなさんもこれ以上はルミネさんに力を貸すことは出来ません」

 

「それは分かっています。私も、もう伯父様や総裁殿のお力を借りられない身ですので。それに学院内で身内の力を借りる事の危険性は充分に分かりましたから……それで本当にルミねえ様にモデルを頼むのでしょうか?」

 

「……まだ、悩んでいます」

 

 明日までに決めないと製作に影響が出てしまう。

 それが分かっていても、この件はかなり悩む。クワルツ賞に出ることは決めている。それで最優秀賞を取れなかったら、学院を退学させられることも。

 ただルミネさんをモデルにするかどうかだけは悩んでいた。彼女をモデルにした場合は、僕だけじゃなくてお父様を巻き込んでしまう。だから、才華様を除いてモデルに一番近い人だとしてもルミネさんにモデルを頼むべきだろうか?

 

「それにしても本当に良いデザインですね。もしもこの衣装をお兄様が着たらと、思わず考えてしまう程に素晴らしいと思います。ただ、それで最優秀賞を取って雑誌に載ってしまったらと思うと怖いですけど」

 

「アメリカにいる旦那様と奥様は、日本から『クワルツ・ド・ロッシュ』を取り寄せていますから……其処に女装姿の若が載っていたら」

 

「その場でひっくり返ってしまうと思います」

 

 うん。間違いなくひっくり返る。

 そしてその後はどういう事だと才華様達だけじゃなくて、僕の方に連絡が来て問い詰められる光景が目に浮かぶぐらいに想像出来る。

 

「私も今は合わせる顔がありませんし……長期休暇の夏休みにアメリカの実家に帰ろうものなら、お父様はともかく、お母様から厳しいお言葉を間違いなく貰う事になると思います」

 

「や、やっぱりルナ様はお怒りになられたままですか?」

 

「はい……小倉お姉様と和解してから顛末のご報告をしましたが、『朝日と仲直りしたからと言って、私は考えを変えない。私が納得するだけの結果を見せろ』と言われてしまいました」

 

 厳しいお言葉だ。でも、その厳しさの中に優しさがあるのを僕は知っています。

 

「それに今年の夏は『コクラアサヒ倶楽部』の夏合宿もありますから」

 

 ……続いていたんだ、コクラアサヒ倶楽部。あんまり考えないようにしていたんだけどなあ。

 

「ホテルを一軒丸ごと借りることになりそうです。或いはペンションを借りて屋外で活動する事になりそうです」

 

 ……今、アトレさんは何と言ったのだろうか?

 ホテルを一軒丸ごと借りる? え? そんなに部員数が増えていたの?

 

「あっ、小倉お姉様には報告していませんでしたが、コクラアサヒ倶楽部の現在の部員数は昨日を以て800名を超えました」

 

 なにそれえぇぇぇぇぇぇーーー!?

 笑顔を浮かべながら僕は内心で絶叫した。

 は、800名を超えるぶ、部員? しかもその方々は僕と才華様を女性だと思っているんだよね?

 ……言葉が出ない。きっと今、僕の顔は笑顔で固まったままになっているに違いない。

 

「ああ、花咲くような小倉お姉様の笑顔。私達のコクラアサヒ倶楽部を祝福されているのですね」

 

 違います。笑顔のまま固まっているだけです。

 

「これは部員の皆に伝えなければなりません。部報に書かなければ!」

 

 止めて下さい、アトレさん。僕の精神が死んでしまいます。

 

「これがその部報ですか……流石はお嬢様が集まっているだけに、手が込んで作られているようですね」

 

 僕の隣に座っているカリンさんは、興味深そうにアトレさんから渡された部報を見ている。

 ……後でりそなに報告されるのかなあ? りそなが知ったらどんな反応するのかと、現実逃避気味に考えていると。

 

「それで結局のところモデルの件は、どうされるのでしょうか?」

 

 アレ? 何だか九千代さんが困ったような顔をしている。一体どうしたんだろうか?

 話を逸らす意味もあるが、気になったので質問してみよう。

 

「あの、どうされました、九千代さん?」

 

「あっ、いえ……実を言えば若もルミネお嬢様に文化祭で行なわれるピアノ科の演奏会で衣装を着て貰えるように頼んでいるんです」

 

「そうなんですか!?」

 

「はい。旦那様からのアドバイスで、ルミネお嬢様に子供の頃に若の前でピアノを弾いていた時の気持ちを取り戻して貰うためにデザインを考えているようでして」

 

 そうだったんだ。なるほど、ルナ様への衣装でお父様と和解出来た桜小路遊星様の意見なだけに説得力を感じる。

 うぅん。だとするとルミネさんをモデルにするのは不味いかなあ?

 

「はっ! 私、気がつきました。もう一人います。お兄様とルミねえ様と同じ身長の方がもう一人います。それでいてお二人に似ているお方を」

 

「えっ? 誰ですか!?」

 

 一体誰の事だろうと思っていると、アトレさんは微笑む。

 

「誰も何も小倉お姉様の事ですよ」

 

「無理です」

 

 即答した。僕がモデルをするなんてもっと無理だ。

 

「滅法残念です。このデザインの衣装を着た小倉お姉様を見てみたかったのですが」

 

 心の底からアトレさんは残念そうにしているが、幾ら望まれても無理なものは無理だ。

 ただでさえ先月の課題でトラウマになりかけたのに。第一、僕が『クワルツ・ド・ロッシュ』に綺麗な衣装を着て載ったりしたら、桜小路遊星様がひっくり返るだけじゃ済まない。間違いなく、その場で『クワルツ・ド・ロッシュ』を持ちながら頭を打ち付けてしまうに違いない。その後は寝込んでしまうに違いない。

 ルナ様も驚き、どういう事なのかと僕に質問してくるに違いない。アメリカに居た時は、何とか誤魔化せたが、本格的にルナ様に詰問されたら誤魔化し切れるとは思えない。あの方は僕の内心を読めるお方だから。

 ……今思えば、良くアメリカに居た時は誤魔化せたと思う。それだけ才華様がルミネさんに結婚を申し込もうとした話は衝撃的だったのだろう。

 

「ですが、正直申しましてルミねえ様をモデルにするのは止めて貰いたいと思います。いえ、小倉お姉様がルミねえ様を見出したのは、元はと言えば同じ身長という事でルミねえ様のスタイルを参考にお兄様の女装を完成させた私達にあるのですが……どうか今回は見送って欲しいと思います」

 

「……」

 

 頭を下げたアトレさんに、どうすべきなのか考える。

 まさか、才華様がルミネさんの為に衣装を製作しようとしていたなんて思ってもみなかった。個人的には応援したい。

 となるとジャスティーヌさんの衣装は、元々あったイメージを大幅に変える必要が出てしまう。でも、ルミネさんが駄目となると一体誰をモデルにしたら……ん?

 

「どうされました、小倉お姉様?」

 

 ……いた。もう一人、才華様と似た顔立ちの人が。

 僕の前に座っているアトレさんだ。才華様と違い日本人寄りの容姿をしているから、何とか出来るかも。でも、アトレさんをモデルにするとしたら、元々あったイメージが少なくなってしまう。

 身長も才華様と比べると22㎝も差がある。スタイルもかなり違うし。これらを踏まえて制作するとなると、本当にかなりのアレンジが必要になる。

 

「そ、そんなに真剣な眼差しで見つめられると……顔が熱く……」

 

 何故かアトレさんの顔が赤くなっているが、今は気にしていられない。

 

「あのアトレさん……もしもの話ですが、私がこの衣装のモデルになって下さいと頼んだら、モデルをして頂けますか?」

 

「えっ!? わ、私がモデルですか!?」

 

 心から驚いたというように、アトレさんは目を見開いている。

 

「あくまで確認です。製作は大変になりますが、この衣装を着たアトレさんを思い浮かべる事が出来ましたので」

 

「……私がモデルですか」

 

 思い悩むようにアトレさんは目を伏せた。

 アトレさんが服飾に興味を持てなかった事は聞いている。だけど、ジャスティーヌさんのデザインを見たアトレさんの目は興味を覚えている目をしていた。

 和ゴスに興味を持っているんだから、まるっきり服飾に興味がないわけじゃない。綺麗な衣装を着てみたいという気持ちはあるに違いない。

 

「……もしも小倉お姉様が私をモデルにというなら……少々不安な気持ちはありますが……やらせて頂きます」

 

「ありがとうございます、アトレさん。まだ、本決まりではありませんが、モデルをして貰う時は、どうか宜しくお願いします」

 

 アトレさんにモデルをして貰う為には、了承を貰わないといけない人がいる。

 その人が住んでいる階層と部屋の場所を教えて貰い、僕とカリンさんは訪ねに行った。

 

「別段良いよ」

 

 桜の園の11階にある一室。

 其処で暮らしているジャスティーヌさんを訪ねた僕は、事情を説明して本来のイメージとかなり変わってしまうかも知れないが、それでも大丈夫なのか確認してみた。

 その返答は今貰えた通りだ。

 

「元々白い子がモデルにならない時点で、あのデザインのイメージは変える必要があるのは分かってるから。私が見たいのは、貴女の型紙の実力。あのデザインのイメージをどれだけ残せて、それでモデルに合わせられるかを見たいの。だから、寧ろ元々のデザインのイメージと合わないモデルの子の方が良いかなあ」

 

 問題は無いようだ。

 

「まあ、頑張ってね。縫製になったらカトリーヌを貸すから」

 

「よ、宜しくお願いします」

 

「此方こそ宜しくお願いします、カトリーヌさん」

 

 隣の席に座っているから、カトリーヌさんの実力は分かっている。

 製作の時には頼りにさせて貰おう。

 

「でも、黒い子、フランス語上手いね。そっちの金髪の人はベルギー出身って聞いたから分かるけど、黒い子、日本人でしょう?」

 

「あっ、私は幼い頃から外国語を学ばせて貰っていたので」

 

 生まれがマンチェスターなのもあるが、欧州方面はお兄様の管轄だという事もあったのか、欧州方面の外国語は重点的に学ばされた。

 

「ふ~ん。まあ、良いんだけどね……クラスの連中と黒い子は比べものにならないよね」

 

「いえ、そんな事は……」

 

「あるよ。私、ちゃんと知ってるんだから」

 

 この様子……ジャスティーヌさんはカトリーヌさんが陰で呼ばれているあだ名を知っているんだろうか?

 そのあだ名に関しては僕も思うところがあるから、聞こえたら注意するようにしているけど、僕に注意されるからか、最近は余り聞かなくなった。

 でも、カリンさんが言うには陰ではやっぱり言っているらしい。この事も何とかしたいなあ。

 

「このデザインは黒い子に全部任せることに変わらないから、好きにして良いよ。それで私が気に入ったら、年末のショーにも力を借りるから」

 

「えっ? 年末のショーというと、フィリア・クリスマス・コレクションでもでしょうか?」

 

「うん、そう。だって黒い子。デザインほんと駄目だもん」

 

 グフッ! 自分でも分かってはいるけど……やっぱり他人に指摘されるのは……ほんとに辛い。

 

「でも、型紙は本当に才能があるよ。私が言うんだから、間違いない」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 褒めて貰えるのは嬉しい。

 でも……僕はコレクション系統に戻るのは、どうしても足踏みしてしまう。その先に待っているものを僕は知っているから。

 その後は軽くジャスティーヌさんとカトリーヌさんと談話した。僕とメリルさんが知り合いだと話したら、カトリーヌさんは心の底から驚いた顔をしてジャスティーヌさんに笑われていた。

 話が終わり、僕はカリンさんと一緒にエレベーターに乗る。アトレさんと一緒に夕食を作って食べる為だ。

 何を作ろうか考えながら、エレベーターが最上階に着くまで表示板を見つめていた。




因みにアトレをモデルにする場合、『???ルート』フラグゲットです。
次回は才華side! 才華の方でのパル子編での顛末になります。
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